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アメリカの大学院生だってパーティするっつーの! 【アメリカで Ph.D. を取る –Qualification Exam の巻 後編】

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前回の記事で、UC バークレー化学科の qual の試験内容とそれまでの過程についてお話ししました。試験当日の様子と試験を終えた後の気持ち、そしてアメリカの大学院生のパーティについてお話しします (!?)。

前置きは飛ばしてさっそく行きましょう。なお、qual のことなんかよりも、「アメリカの大学院生のパーティについて知りたいぜ!」という方は、どうぞ遠慮なく記事の前半をすっ飛ばしてください。

実際の試験はどのように進みましたか?

オンラインで行なったということもあり、自宅でリラックスした雰囲気で臨むことができました。私の qual の審査委員は、first year report をレビューしてくださったPolly Arnold 教授Thomas Maimone 教授にくわえて、アクチノイド化学をはじめとした基礎無機化学を研究されている John Arnold 教授、NMR を利用して MOF とゲストの相互作用や拡散について研究されている Jeffrey Reimer 教授でした。Qual の審査委員には、化学科以外の先生を一人選ぶ必要があり、化学工学科に所属する Jeff Reimer 教授に outside member の役割をしていただきました (といっても Rimer 研は Long 研ともよく共同研究しており、outside というにはかなり近い研究分野の先生ですが..)。

Qual の審査委員を務めてくださった先生方. (左上) Polly Arnold 教授. (右上) Thomas Maimone 教授. (左下) John Arnold 教授. (右下) Jeffrey Reimer 教授.

試験自体はおおよそリハーサル通り、スムーズに進行しました (リハーサルの様子については、前回の記事も参照)。リハーサルでは想定していなかった質問で言えば、「その反応はどんな風に行いましたか?」というレベルの自分で実験をして入れば必ず答えられるような簡単なものでした。自分自身の研究についておおよそ 1 時間半、そしてそのあと outside proposal についての試験がありました。

Outside proposal について不安だったことは、Polly Arnold 教授も John Arnold 教授も、私の outside proposal のテーマでる窒素固定に関する論文をいくつか出していることでした。いい加減な返答をしていると、簡単に突っ込まれてしまうので、その先生方の論文も事前にしっかりチェックしておきました。しかし、プロポーザルの参考文献にはその先生方の論文を引用していなかったので、文句を言われてしまいました苦笑。プロポーザル自体については、可もなく不可もないようなコメントをもらいながら、先行研究や研究の進め方について簡単な質問を受けました、試験は淡々と進み、outside proposal の部門は、およそ 30 分程度で終わってしまいました。

結果発表っー!

試験の結果は、試験の 5 分ほど後に口頭でお知らせされます。オンラインではない本来の qual ならば、教室を一旦退出したのちに、再度招かれて結果を発表するようなのですが、今回は、一旦 Zoom のブレークアウトルームに送還されたあと、数分後にメインルームに招待されて結果を告げられるシステムになりました。審査委員の先生方から同時に “Congratulations!!” という言葉をかけていただきました 。ただし、同時とは言っても、Zoom では二人以上同時に話せないので、実際に音声として届けられたのは座長である Polly Arnold 教授による言葉でした苦笑。

その後、座長以外の先生は退出され、Polly Arnold 教授からありがたいアドバイスをいくつもいただきました。私が一番に指摘されたことは、「今の世界で何が起こっているのかを知るために、もっとたくさん最新の論文を読みなさい。」ということでした。このような言葉をいただいたことには理由がありました。それは「あなたの研究分野でライバルに思っている相手はいますか?」という質問に対して、少し悩んで、一つの研究グループしか答えなかったからです。同じ分野を研究しているグループはいくつか知ってはいましたが、それぞれが独自のアプローチを取っていることも理解していたので、ライバルとは考えていなかったのかもしれません。あるいは、自分の分野と関連する論文は、どこか上から目線の評論家の気持ちで眺めてしまうようになっていた、というのが本音なのかもれません。世界の研究者と競争しているという気持ちをもっと持たねばならないことに気づかされました。

そのほかにもたくさんの細かなアドバイスをいただき、立派な PhD を取れるように精進しようと決意して私の qual は幕を閉じました。

Qual を終えてどんな気分ですか?

一安心、という気持ちもありますが、不安もあります。その不安とは、「次なる目標は、論文を書いて卒業することである」という現実に気付き始めたからです。Long 研では full paper を 3 本出すことが卒業の目安となっており、長い人だと 7 年ほどかかっています。Long 教授は我慢強く結果を出すまで待ってくださるものの、コツコツと論文を重ねてしっかり卒業することを考えなければなりません。今 2 年生の前半が終わったところなので、そこから卒業までの長期的な計画を立てて、研究に励んで行こうと思いました。

まとめ:  Ph.D Candidate に求められる能力は?

Qual に向けての試験勉強は、自分の研究と向き合い、基礎知識から最新知識を身につける良い機会となりました。Qual の中には、答えが簡単には導き出せないような質問も受けますが、それに応えられなかったからといって、試験に落ちることはありません。試験に求められるのはむしろ、答えが簡単には導きだけない質問に対して、知っている知識をフル動員しながら、論理的な “答え” を導き出そうとする姿勢だと感じました。なぜなら、試験監督は、答えに少し詰まった場合には、難しい質問の答えを誘導するような別の質問を投げかけるからです。

もう一点大事だと思ったことは Long 教授とのリハーサルでいただいたアドバイスです。それは “Be passionate about your research.” ということです。バークレーの先生も化学が大好きなので、自分自身の研究に対する熱意を示せば、合格させたくなるのが審査委員の心情だというのです。「なるほど、それも一理あるな」と思ったので、「Ph.D. candidate に求められる能力は?」という質問の私なりの答えは、「研究に対する熱意」ということにしておきます。

Qual のあとはパーティ!! …..

突然ですが、問題です。Qual と切っても切れない縁にあるものといえば何でしょうか? もう記事のタイトルにもなっているのでお分かりかと思います。

そうです。パーティです。Long 研究室は、学科内でも随一のパーティ大好き研究室として知られており、研究室のメンバーが qual に受かったならば、Long 研究室のある研究棟 (Lewis Hall) に響き渡るほどの大音量で音楽を鳴らし、研究室の居室にお菓子やお酒を用意して、新しい PhD candidate を祝福します。その陽気さは、棟を通りかかった別研究室の学生が、「お、Long 研の誰かが qual に受かったな!?」と騒ぎを聞きつけて、参加してくるほどです。

しかし、 COVID-19 が猛威を振るう 2020 年の冬では、飲食を交えたパーティを室内で行うことはご法度となっています。そのため、私が qual に合格した際には Long 研恒例のパーティは中止せざるを得ませんでした。代わりとして、キャンパスの近くの大きな公園で、飲み物持参の happy hours を開催して、メンバーから祝福してもらいました。実は、3 月にキャンパスが閉鎖されて以降、ずっとシフト制を敷いていたため、総勢 30-40 人ほどの研究室が集う機会は途絶えていました。今回のパーティは、シフト外のメンバーとも面会できるいい口実になったため、個人的には Long 研究室が集まったことはとっても嬉しかったです。

化学とは関係ありませんが、アメリカの大学院生の文化を伝えることも、この連載記事の重要な任務かと思うので、アメリカの大学院生のパーティに必須な遊びなどを紹介しようと思います。COVID-19 の騒ぎが落ち着いた暁には、紹介したゲームや遊びを日本の飲み会で実践して見てはどうかと思います。また、留学した際の予備知識として頭の片隅に置いていても損はないかと思います。(ただし、これらのゲームはローカルルールがあったり、全てのアメリカの研究室で行われているわけではないようです。)

とにかく飲みたいあなたにオススメ!Thunderstruck

いわゆる飲み会ゲームです。ルールはいたってシンプルです。参加者が輪になって、AC/DC というロックバンドのThunderstruck という曲に乗せてゲームが始まります。曲の中の Thunder! という掛け声とともに、参加者の誰かがお酒を飲み始めます。次の Thunder! という掛け声が聞こえると、さっきまで飲んでいた人は次に飲む人を指差します。指をさされた人は、次のThunder の掛け声まで飲み続け、次の人を指名します。これを、曲が終わるまで延々と繰り返します。ビールを飲む人は 1 人である必要はありません。2 人あるいは3 人同時にスタートすると、より一層盛り上がります。Thunderstruck の曲は YouTube や Spotify などで簡単に見つかるので、ぜひあなたの飲み会でも実装しましょう!

アウトドアの飲み会では必須のゲーム: Beer Pong

2人1組 のチーム 2 つに分かれて、プラスチックのコップ (紙コップでも OK) とピンポン球で行う遊びです。ルールはとっても簡単です。卓球台よりは一回り小さい程度の机の両端に、コップをピラミッド状に 10 個並べて、プレイヤーがコップをめがけてピンポン球を交互に投げます (例えば A チームの2人がそれぞれ1球ずつ投げた後、Bチームの2人がそれぞれ1球ずつ投げます)。ピンポン球がコップに入れば、そのボールは除外されます。一番最後に残ったカップは、チームの2人ともがカップインする必要があり、先に最後のコップにボールを入れることができたチームが勝利となります。そのほかにも細かいルールはありますが、最低限必要なルールはこれだけです (より詳細なルールはこちら: ビアポン公式ルールブック [日本ビアポン協会])。Long 研の居室には、ビアポン用のピンポン球が常備されており、qual のパーティの際には研究棟の廊下の Long 教授の居室の前で開催されることもあります。そして  Long 教授 もビアポンが大好きで、学生とタッグを組んで戦っています。こちらも、コップとピンポン球と適度な大きさのテーブルさえあれば実践できるゲームなので、屋外でのバーベキューやお花見の際にはぜひお試しください。

1年ほど前の qual のパーティで行なった bear pong の写真が奇跡的に見つかったので掲載. このときは Lewis hall ではなく, わけあって Tan 775 という部屋のバルコニーで bear pong を開催しました. 景色に写っている塔は Seither tower という大学のシンボルです.

Jägerbomb –イエーガーボム–

ヤバい T シャツ屋さんの「集まれパーティピーポー」という曲を知っている人ならば、「red bull でウォッカ割って…」という飲み物に聞き覚えがあるのではないかと思います。 ウォッカではなく、イェイガーマイスターと呼ばれる、なんともいえないハーブ感あるリキュールを red bull で割った飲み物の正体が、jäbarbomb です。コップにレッドブルを注いて、その上にイェイガーのショットを落として、一気に飲みます。ちなみに私は Jägerbom の味が大嫌いで、一度試しに飲んだときに、どうにもダウンしてしまったことを覚えています。でも、怖いもの見たさで、また飲みたくなってしまう不思議な飲み物です。そして私は qual の前日の夜にこれを飲む夢を見たので、私にとって qual のパーティの代名詞のように脳に刷り込まれているようです。

Jägerbomb. 図は wikipedia  より引用.

はじめて qual のパーティに参加した時は、一人こっそり別室に行ってソファでぐったりしていました。それを上級生に見つかったときに “Welcome to the Long group!!” と言われたことを今でも覚えています。そんな、Long 研究室の象徴とも言えるパーティを、自分自身の会として開くことができなかったのが残念だなぁ、と思うくらいには、私は Long 研のパーティーが好きです。

というわけでパーティの話が過ぎましたが、PhD candidate となりましたので、本シリーズもぼちぼちと更新していこうと思います。

Long 研からメンバーのプレゼント. Long 研では, Qual に合格するとお酒のボトルに寄せ書きをしてプレゼントする伝統があります. 私は, IPA と日本酒が好きですが, せっかくなので何か豪華そうなものにしようということで, シャンパンをリクエストしました. 冗談で, 「消毒液のボトルにもメッセージ書いてね!!」と Long 研のメンバーの皆さんに言ったところ消毒液のボトルにも溢れんばかりのメッセージを書いてくださいました. 

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