[スポンサーリンク]

一般的な話題

良質な論文との出会いを増やす「新着論文リコメンデーションシステム」

[スポンサーリンク]

時はデジタル全盛時代、論文は検索エンジンで探すかRSSリーダーでチェック、閲覧もPDFというのが普通になっています。ただこのやり方では、「予想外の良質論文との出会い」は減っているように思います。

しかし一方では異常なレベルの情報過多。発表論文数が多すぎるため、専門論文のチェックすらままならない毎日。優先度の低い領域までフォローして良い論文を探していくのは、並大抵ではありません。

そうはいっても、予想外の面白い研究論文に触れたい!出会いたい!自分では探し方分からないけど!時間ないから興味ない内容はなるべく見たくないけど!・・・そんな贅沢なニーズは有ることでしょう。

それを満たしてくれる(?)ツールが、今回紹介する「論文リコメンデーションシステム」です。これはその名の通り、読むべき論文リストを個別最適化しておすすめしてくれるサービスです。

多くは立ち上がったばかりでこれからという印象ですが、軽く使ってみたところ、なかなかに便利な印象を持ちました。特に化学系論文チェックに役立ちそうなものに絞って、比較レビューしてみたいと思います。

ReadCube 

使った中では一番のお薦めです。詳細はこちらのケムステ記事に別にまとめてありますので、ご覧ください。

ReadCubeは無料の文献管理ソフトですが、論文リコメンデーション機能が最初から実装されています。自前でインポートした論文ライブラリが基盤になるため、精度はかなり的確という印象です。RSSリーダーで見ると「おっ」と目を留める論文は、軒並みピックアップされている気がします。

また論文カテゴリ別におすすめしてくれる機能もあるので、少し離れた周辺領域のトピックや、これから取り組もうと考えるトピックを別にグループ化しておけば、それぞれにおすすめを拾ってくれます。専門外の分野を勉強しようとすると、どの論文を追えばいいのか途方に暮れることも多いのですが、このやり方だと地に足を付けながら知識拡張が行えるように感じます。

readcube_tips_16

最大の欠点はソフトが重いこと、頻繁にフリーズすることです・・・これは今後の改善を期待したいです。

Mendeley Suggest

文献管理ソフトMendeleyにも、論文リコメンデーション機能が実装されています。ReadCube同様、自前インポートした論文情報をベースにしているため、長く使っている方ほど便利に使える機能でしょう。

paper_recommendation_5

「popular/trending in your discipline」「based on what you added last」という項目は、他サービスにはないものです。時流を反映させたリコメンドや、非専門家が落としがちな分野の常識など、コミュニティ属性をもった論文のリコメンドを期待する人には良い機能だと思えます。

欠点は、1度にリコメンデーションされる数が少ない(各項目20未満)ことです。そのため、なんとなく偏りがある印象がぬぐえません。

また2016年8月現在、おすすめリストはWeb上でしか見られず、PCクライアントから見ることができません。この辺は既に完全パッケージ化されているReadCubeに軍配が上がります。しかしそのうち改善されるようですので、期待しておきましょう。

SciReader 

気になるキーワードを数個入れておいたり、ライブラリ情報(*.bib)をインポートしておけば、それをベースに読むべき論文をおすすめしてくれるWebシステムです。

paper_recommendation_4

分野ごとにライブラリを作っておけば、おすすめ論文のカラーを分けることも可能のようです。またジャーナルを登録しておけば、ASAPチェックもこれでできそうです。

医学・生物学分野での使用を想定しているようですが、化学系論文もちゃんと拾ってくれます。精度もなかなか良いです。独自機能として、メールでおすすめリストを定期配信してくれるのは魅力的です。

またAltmetricsやTwitterでの評判などが、横にパッと表示されるのもユニークな点だと思います。動作が軽いのも良いですね。

欠点はWeb版しか無いこと、UIがまだまだ洗練されていないせいか直感的な操作がしづらいこと、論文を手に入れるには毎回ジャーナルサイトに飛ばねばならず、ReadCubeより手間がかかること・・・などでしょうか。

まだまだ発展途上のサービスという印象です。

Google Scholar 

自分のpublication listを解析し、興味を持ちそうな新着論文をおすすめしてくれる機能が付いています。「マイ アップデート」というのがそれに相当します。

paper_recommendation_2

精度良いおすすめを得るためには、最初にGoogle Scholarにプロフィールを登録する必要があるようです。以前のケムステ記事を参考にやってみてください。

自分が既に成した仕事を情報源にしているため、かなりの特化リコメンデーションをしてくれます。

paper_recommendation_1

また、検索エンジンの雄だけあって、とにかく検索速度や動作が速いことも魅力です。関連論文や引用文献へのアクセスも素早くできます。これは他の追随を許さない圧倒的強みだと思います。

反面、専門家レベルではないが興味がある隣の分野、次なる一手に絡む横断分野も追っておきたい・・・といった、カテゴリ別おすすめ取得ニーズには向かないサービスだとも思えます。

おわりに

以上、代表的な「論文リコメンデーションシステム」をざっとご紹介しました。簡単に長短をまとめておきましょう。この中では、筆者は断然ReadCube推しです。メールで情報を定期配信してほしいなら、SciReaderもオススメです。


筆者自身も、リコメンデーションシステムを使っているうちに、探索から漏れていたキー論文や予想外の興味深い論文を見つけることができました。雑誌をパラパラめくることが少なくなった時代ですから、上手く使って良質な仕事との出会いを増やしておきたいですね。

こういったサービスは、使えば使うほど自分好みに最適化されていくのが良い点だと思います。是非ご自身で好みのサービスを使い倒してみてください。

おまけ:今回取りあげなかったサービス

類似サービスは他にもありますが、ほとんどは医学・生物系ジャーナルに特化したつくりになっています。以下にリストしてあるものは、化学論文を当たるにはイマイチかなー、もしくは発展途上すぎるかなー、と思えたものです。興味ある方は各自でお試しください。

いつの日か、ボランティア精神溢れるお歴々がレビューして頂けることでしょう・・・

Avatar photo

cosine

投稿者の記事一覧

博士(薬学)。Chem-Station副代表。国立大学教員→国研研究員にクラスチェンジ。専門は有機合成化学、触媒化学、医薬化学、ペプチド/タンパク質化学。
関心ある学問領域は三つ。すなわち、世界を創造する化学、世界を拡張させる情報科学、世界を世界たらしめる認知科学。
素晴らしければ何でも良い。どうでも良いことは心底どうでも良い。興味・趣味は様々だが、そのほとんどがメジャー地位を獲得してなさそうなのは仕様。

関連記事

  1. 第11回 慶應有機化学若手シンポジウム
  2. 太陽ホールディングスってどんな会社?
  3. alreadyの使い方
  4. 生きた細胞内でケイ素と炭素がはじめて結合!
  5. 化学素人の化学読本
  6. 光触媒水分解材料の水分解反応の活性・不活性点を可視化する新たな分…
  7. (−)-Salinosporamide Aの全合成
  8. 第96回日本化学会付設展示会ケムステキャンペーン!Part II…

注目情報

ピックアップ記事

  1. 三枝・伊藤酸化 Saegusa-Ito Oxidation
  2. 三菱化学、より自然光に近い白色LED用の材料開発
  3. ジャネット・M・ガルシア Jeannette M. Garcia
  4. サリンを検出可能な有機化合物
  5. アジリジンが拓く短工程有機合成
  6. 材料費格安、光触媒型の太陽電池 富大教授が開発、シリコン型から脱却
  7. 今度こそ目指せ!フェロモンでリア充生活
  8. 有機ナノチューブの新規合成法の開発
  9. AlphaFold3の登場!!再びブレイクスルーとなりうるのか~実際にβ版を使用してみた~
  10. 高温焼成&乾燥プロセスの課題を解決! マイクロ波がもたらす脱炭素化と品質向上

関連商品

ケムステYoutube

ケムステSlack

月別アーカイブ

2016年8月
1234567
891011121314
15161718192021
22232425262728
293031  

注目情報

最新記事

【JAICI Science Dictionary Pro (JSD Pro)】CAS SciFinder®と一緒に活用したいサイエンス辞書サービス

ケムステ読者の皆様には、CAS が提供する科学情報検索ツール CAS SciFind…

有機合成化学協会誌2025年5月号:特集号 有機合成化学の力量を活かした構造有機化学のフロンティア

有機合成化学協会が発行する有機合成化学協会誌、2025年5月号がオンラインで公開されています!…

ジョセップ・コルネラ Josep Cornella

ジョセップ・コルネラ(Josep Cornella、1985年2月2日–)はスペイン出身の有機・無機…

電気化学と数理モデルを活用して、複雑な酵素反応の解析に成功

第658回のスポットライトリサーチは、京都大学大学院 農学研究科(生体機能化学研究室)修士2年の市川…

ティム ニューハウス Timothy R. Newhouse

ティモシー・ニューハウス(Timothy R. Newhouse、19xx年xx月x日–)はアメリカ…

熊谷 直哉 Naoya Kumagai

熊谷 直哉 (くまがいなおや、1978年1月11日–)は日本の有機化学者である。慶應義塾大学教授…

マシンラーニングを用いて光スイッチング分子をデザイン!

第657 回のスポットライトリサーチは、北海道大学 化学反応創成研究拠点 (IC…

分子分光学の基礎

こんにちは、Spectol21です!分子分光学研究室出身の筆者としては今回の本を見逃…

ファンデルワールス力で分子を接着して三次元の構造体を組み上げる

第 656 回のスポットライトリサーチは、京都大学 物質-細胞統合システム拠点 (iCeMS) 古川…

第54回複素環化学討論会 @ 東京大学

開催概要第54回複素環化学討論会日時:2025年10月9日(木)~10月11日(土)会場…

実験器具・用品を試してみたシリーズ

スポットライトリサーチムービー

PAGE TOP