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化学者のつぶやき

C–S結合を切って芳香族を非芳香族へ

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ニッケル触媒を用いたベンゾチオフェン類のC–S結合の切断および環拡大を伴う脱芳香族化反応が開発された。ベンゾチエピン誘導体の新規合成法として期待される。

遷移金属触媒を用いたC–S結合切断

遷移金属錯体による含硫黄芳香族化合物のC–S結合の切断は、石油の水素化脱硫反応の機構解明を目的に広く研究されてきた。

水素化脱硫反応の重要中間体として、遷移金属錯体がベンゾチオフェン類などのC–S結合へ挿入する例が知られている(図1A)[1,2]。C–S結合切断を鍵とする遷移金属触媒反応は数多く知られているが、すべて硫黄部位が形式的に脱離基として作用するものである。

一方で、チオフェン類のC–S結合を切断する触媒反応はほとんど報告されておらず、グリニャール試薬とニッケル触媒を用いた含硫黄芳香族化合物の脱硫反応のみである(図1B)[3]

また、遷移金属触媒を用いたチオアニソール誘導体のC(sp2)–S結合へのアルキンの挿入反応が知られている。例えば、2012年にWellerらが報告した、ロジウム触媒とチオアニソール誘導体を用いた末端アルキンのカルボチオ化反応がある(図1C)[4]
今回京都大学の松原らは、ニッケル触媒存在下、ベンゾチオフェン誘導体に内部アルキンを反応させると付加環化反応が進行することを見出した(図1D)。

すなわち、ベンゾチオフェン誘導体のC–S結合がニッケル触媒に酸化的付加し、その後アルキンとの[5+2]付加環化反応により、環拡大を伴う脱芳香族化反応が進行する。本反応では、ベンゾチオフェン類のC–S結合にアルキンを挿入でき、合成中間体や有機材料に有用であるベンゾチエピン誘導体の合成が可能である。

図1 (A)C–S結合切断例、(B)チオフェン類の脱硫反応、(C)C–S結合へのアルキンの挿入反応、(D)今回の反応

 

Nickel-Catalyzed [5+2] Cycloaddition of 10π-Electron Aromatic Benzothiophenes with Alkynes To Form Thermally Metastable 12π- Electron Nonaromatic Benzothiepines
Inami, T.; Takahashi. T.; Kurahashi, T.; Matsubara, S.  J. Am. Chem. Soc. 2019, 141, 12541.
DOI:10.1021/jacs.9b07948

論文著者の紹介

研究者:松原 誠二郎
研究者の経歴:
1977–1981 B.Sc. Kyoto University (Prof. Hitoshi Nozaki)
1981–1986 Ph.D. Kyoto University (Prof. Hitoshi Nozaki)
1986–1995 Assistant Professor, Kyoto University (Prof. Kiitiro Utimoto)
1988–1989 Postdoctoral Fellow, Stanford University (Prof. Barry M. Trost)
1995–2006 Associate Professor, Kyoto University(Prof. Koichiro Oshima)
2006– Professor, Kyoto University
研究内容:有機多金属種の利用による分子構築反応、水熱条件による重水素化合物の合成、水を用いる遷移金属触媒反応、ナノ構造構築反応

論文の概要

本反応はトルエン溶媒中、遷移金属触媒にNi(cod)2を、配位子としてトリシクロヘキシルホスフィンを用いることが最適条件であった(図2A)。なお、ベンゾチオフェン環の2位の置換基の選択が重要であり、2位にメトキシ基またはフルオロ基を有するベンゾチオフェン誘導体1のみ反応が進行する。

2位をトリフルオロメチル基やメチル基、エステルで置換された1や、無置換では全く反応は進行しない。一方、5位の官能基許容性は高く、メチル基やメトキシ基、ハロゲンを有するベンゾチオフェン誘導体でも対応するベンゾチエピン誘導体(3a3f)が得られる(図2B)。また、アルキン2は、4-オクチンや6-ドデシンが適用でき、エーテルやシリルエーテルを含む2を用いた際にも中程度から高収率で対応する付加体(3g–3n)を与える。ナフトベンゾチオフェン誘導体も適用可能である(3f)。
また、本反応で生成したベンゾチエピン誘導体3aは、無触媒、高温条件下で、脱硫しナフタレン誘導体4aに変換できる(図2C)。

一方で、この脱硫反応は高温条件下で所望の反応と競合し副生成物を与えるのみならず、脱離した硫黄はニッケル触媒を被毒する。アルキンの挿入反応においては低温(30度)で反応させることで望まぬ脱硫反応を抑え、反応時間を伸ばすことで高収率で所望の化合物を得ることに成功した。温和な条件下で反応が進行するため、より熱的安定性の低い脱芳香族化体の合成が可能であった。

図2. (A)最適条件、(B)基質適用範囲、(C)脱硫反応

 

以上のように、含硫黄芳香族化合物のC–S結合切断および環拡大を伴う脱芳香族化反応が開発された。硫黄原子を含む環状骨格を有する天然物の合成や水素化脱硫反応への利用が期待される。

参考文献

  1. Vicic, D. A.; Jones, W. D. Deep Hydrodesulfurization in Homogeneous Solution: Access to a Transition-Metal Insertion Complex of 4,6- Dimethyldibenzothiophene. Organometallics1998, 17, 3411. DOI:1021/om9803568
  2. Vicic, D. A.; Jones, W. D. Modeling the Hydrodesulfurization Reaction at Nickel. Unusual Reactivity of Dibenzothiophenes Relative to Thiophene and Benzothiophene. J. Am. Chem. Soc.1999, 121, 7606. DOI:10.1021/ja9905997
  3. Tiecco, M.; Tingoli, M. Regiochemistry and Stereochemistry of Nickel- Promoted, Carbon-Carbon Bond-Forming Reactions of Cyclic Sulfur Compounds. J. Org. Chem.1985, 50, 3828. DOI: 10.1021/jo00220a029
  4. Hooper J. H.; Chaplin A. B.; Gonzaĺez-Rodríguez C;Thompson A. L.;Weller A. S.;Willis M. S. Aryl Methyl Sulfides as Substrates for Rhodium-Catalyzed Alkyne Carbothiolation: Arene Functionalization with Activating Group Recycling. J. Am. Chem. Soc. 2012, 134, 2906. DOI: 10.1021/ja2108992
山口 研究室

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