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スポットライトリサーチ

生体分子を活用した新しい人工光合成材料の開発

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第93回のスポットライトリサーチは、筑波大学大学院 数理物系物工学域山本 洋平研)出身の水垂司さん(コンチネンタル・オートモーティブ株式会社)にお願いしました。

山本研究室では、光と相互作用するπ共役系分子の開発・機能性の評価などが主な研究対象で、光エネルギーの有効活用を目指されています。(過去のスポットライトリサーチはこちら。1つの蛍光分子から4色の発光マイクロ球体をつくる

今回の研究成果は、人工光合成を可能にする新規物質の開発に関するものです。プレスリリースや論文として、その成果が報告されています。

Peptide Cross-linkers: Immobilization of Platinum Nanoparticles Highly Dispersed on Graphene Oxide Nanosheets with Enhanced Photocatalytic Activities

T. Mizutaru, G. Marzun, S. Kohsakowski, S. Barcikowski, D. Hong, H. Kotani, T. Kojima, T. Kondo, J. Nakamura, Y. Yamamoto

ACS Appl. Mater. Interfaces 2017, 9, 9996. DOI: 10.1021/acsami.6b16765

また、第一著者の水垂さんについて、山本先生からコメントをいただきました。

水垂 司君は、研究室配属時から人工光合成に関する研究がしたいという意思を持って本研究室に入りました。もともとこちらの研究室でもペプチドの集合化に関する研究は進めていましたが、人工光合成に関してどのように進めていくかは手探りでした。共同研究者にも恵まれました。本研究室に在籍した3年間で、様々な実験と議論を繰り返し、最終的に研究結果を論文発表できたことはとてもよかったと思います。

それでは、本研究成果に至るまでの物語をご覧ください!

Q1. 今回のプレス対象となったのはどんな研究ですか?簡単にご説明ください。

太陽光をエネルギー源として直接化学反応を起こす人工光合成は、環境・エネルギー問題の解決の解決に向けた注目されています。今回の研究は、生体分子の一つであるペプチドの二次構造であるβシート構造が側鎖をβシート面で分離できる点に着目し、シート状構造と広い光捕集特性をもつ酸化グラフェンの表面に、ペプチドを介することにより触媒効果や水素発生能をもつ白金ナノ粒子を効率的かつ高分散に固定化する手法を開発しました。作製した複合体に紫外光を照射することによって、高い色素退色効果が発現することを見出し、さらに可視光による水素発生を実現しました(T. Mizutaru et al., ACS Appl. Mater. Interfaces 2017, 9, 9996.)。

Q2. 本研究テーマについて、自分なりに工夫したところ、思い入れがあるところを教えてください。

私は高校生の頃から人工光合成に興味があり、光エネルギーを用いて化学エネルギー源である燃料になりうる化学物質を直接作れないかと考えていました。研究室配属の際に山本先生に相談したところ、ペプチドを用いた人工光合成に関する研究テーマを頂きました。一番の工夫点は、ペプチドβシートをクロスリンカーとして利用し、白金ナノ粒子と酸化グラフェンを効率的に連結した点です。もともと山本研究室では、Fmoc基で保護されたペプチドの形態制御の研究を進めていました。このペプチドは反平行βシート構造を取り、ペプチド側鎖の機能をシートの上下面に分離して集積できることから、酸化グラフェンと触媒をうまく連結して固定化できるのではないかと考えました。

 

Q3. 研究テーマの難しかったところはどこですか?またそれをどのように乗り越えましたか?

修士1年の時に、このペプチドβシートを凝集した金属ナノ粒子と複合した際に、金属ナノ粒子が再分散することに気づき、論文発表しました (T. Mizutaru et al., J. Mater. Chem. A, 2015, 3, 17612)。その後、酸化グラフェンとの複合化を進めましたが、光触媒に関する実験ノウハウや装置がなく、適切な手法が見つけられませんでした。そこで、金属ナノ粒子を提供していただいていたドイツDuisburg-Essen大学Stephan Barcikowski教授の研究室に2ヶ月間訪問して光退色実験などに関する実験技術を習得し、さらに筑波大化学科の小島隆彦教授のグループで水素発生の実験を行わせていただきました。

 

Q4. 将来は化学とどう関わっていきたいですか?

現在は自動車関連の企業に勤め始めたので、今後の配属部門にもよりますが、あまり研究として化学とは関わらなくなると思います。しかし、機会があれば科学館等での演示実験や教育活動等で化学の普及活動のボランティア活動で広く化学の楽しさを伝えていけたらいいなとは思います。

 

Q5. 最後に、読者の皆さんにメッセージをお願いします。

まずは自分がやりたいこと、目指したいもののビジョンを示して、それを実現するために何が必要なのか、今何ができるのかを考えることが重要だと思います。また、基礎や論文輪講での知識のフィードバックを疎かにしないことも大事だと思います。教科書に載っているような単純なことでも、その本質を見抜けば応用できることもあります。

最後に、この場を借りまして、筑波大学の山本洋平准教授、小島隆彦教授、小谷弘明助教、中村潤児教授、近藤剛弘准教授、ドイツDuisburg-Essen大学Barcikowski教授のグループに御礼申し上げます。

 

関連リンク

研究者のご略歴

水垂 司

筑波大学大学院・山本研究室

(現在はコンチネンタル・オートモーティブ株式会社入社)
2011年3月 北海道旭川東高等学校 卒業
2011年4月 筑波大学 理工学群 応用理工学類 入学
2014年3月 筑波大学 山本研究室に配属
2015年3月 筑波大学 理工学群 応用理工学類 卒業
2015年4月 筑波大学大学院 数理物質科学研究科 物性・分子工学専攻 前期博士課程 入学
2017年3月 筑波大学大学院 数理物質科学研究科 物性・分子工学専攻 前期博士課程 修了
2017年4月 コンチネンタル・オートモーティブ株式会社 入社
受賞
2016年11月10日 第31回高分子学会茨城地区若手交流会 優秀ポスター賞
2016年10月13日 AsiaNANO 2016 Pan Stanford Poster Award
在学時の研究テーマ
Fmocペプチドの自己組織化と金属複合による触媒機能

Orthogonene

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有機合成を専門にするシカゴ大学化学科PhD3年生です。
趣味はスポーツ(器械体操・筋トレ・ランニング)と読書です。
ゆくゆくはアメリカで教授になって活躍するため、日々精進中です。

http://donggroup-sites.uchicago.edu/

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