[スポンサーリンク]

スポットライトリサーチ

光照射によって結晶と液体を行き来する蓄熱分子

[スポンサーリンク]

第27回目となるスポットライトリサーチは、九州大学大学院工学府(君塚研究室)博士課程2年・ 石場 啓太さんにお願いしました。Pacifichem2015学生ポスター賞の受賞者の一人です。

君塚研究室では前回のアップコンバージョンMOFの記事でも紹介したとおり、「分子が組織化することで発現する高次機能」に興味をもち、研究を行っています。結晶や液体は、分子間力で化合物がゆるく集まった状態と捉えることができます。ならばその相互作用を光でコントロールしてやるとどうなるのだろうか?そんな興味と太陽光エネルギー活用という実用の両輪から派生したものが今回の成果といえそうです。

それではいつも通り、担当された石場さんに、現場のリアリティについて尋ねてみました。ご覧ください!

 

Q1. 今回の受賞対象となったのはどんな研究ですか?簡単にご説明ください。

光誘起イオン結晶-イオン液体相転移を示すアゾベンゼン誘導体の開発と光エネルギー貯蔵についての研究です [1]。

本研究では、温度を変えることなく光だけで融けたり固まったりするイオン性のアゾベンゼンを合成し、イオン伝導性などイオン液体の性質が相転移の前後で劇的に変化することを見出しました。また、光エネルギーを分子の構造変化として蓄える Solar Thermal Fuels にこの材料を応用しました。その結果、アゾベンゼンの transcis 光異性化と結晶-液体相転移の組み合わせにより、エネルギー貯蔵量を従来の約 2 倍に向上することができました (下図)。

sr_K_Ishiba_2

Q2. 本研究テーマについて、自分なりに工夫したところ、思い入れがあるところを教えてください。

光異性化と相転移によって蓄えられたエネルギーは熱として放出されるため、その熱を示差走査熱量測定 (DSC) により検出することで蓄えられたエネルギー量を求めることができます。その際、化合物が狙い通りの振る舞いをしているか見てみたいということになり、DSC 測定中の化合物をビデオカメラで撮影しようと試みました。試行錯誤の結果、DSC の挙動に対応した異性化や相転移を直接観察できた時はとても嬉しかったです。

 

Q3. 研究テーマの難しかったところはどこですか?またそれをどのように乗り越えましたか?

イオン性の分子ということもあり、吸湿性には悩まされました。晴れた日は調子が良いのに、雨が降ると可逆的な相転移を示さないことがあったため、水の吸着等温線を測ってみると、やはり湿度の影響を受けていることが判りました。そこで、対アニオンをより疎水的なものに変えて吸湿を抑制することにより、天候に関係なく可逆的な光誘起相転移を観測することができるようになりました。

 

Q4. 将来は化学とどう関わっていきたいですか?

一つの専門にとらわれず、新しいことや異なる分野にどんどん挑戦していきたいと考えています。様々な分野に広くアンテナを張り、多角的な視点やスケールを持つことで、他人と異なる自分オリジナルの分野を開拓したいです。

 

Q5. 最後に、読者の皆さんにメッセージをお願いします。

これまで研究が思うように進まず、よく心が折れていたので、君塚先生から「諦めるな!」と厳しめのお叱りを受けることがありました。しかし最近は精神面が強化されてきて、先日バス釣りに出かけた際には、寒くても諦めることなくルアーを投じ続けた結果、49 cm のデカバスを釣り上げることができました。研究ではまだ迷走していますが、諦めずにもがき続けています。ネバーギブアップ精神で一緒に頑張りましょう。

 

参考文献

  1. K. Ishiba, M-a. Morikawa, C. Chikara, T. Yamada, K. Iwase, M. Kawakita, N. Kimizuka, Angew. Chem. Int. Ed., 2015, 54, 1532–1536. DOI: 10.1002/anie.201410184

関連リンク

研究者の略歴

sr_K_Ishiba_1石場 啓太 (いしば けいた)

所属:九州大学大学院工学府 君塚研究室 博士課程2年

研究テーマ:光応答性分子システムの構築

略歴:1989年長崎県大村市生まれ。2012年3月九州大学工学部卒業後、2012年4月同大学院工学府修士課程進学、2014年4月博士課程進学。

 

Avatar photo

cosine

投稿者の記事一覧

博士(薬学)。Chem-Station副代表。国立大学教員→国研研究員にクラスチェンジ。専門は有機合成化学、触媒化学、医薬化学、ペプチド/タンパク質化学。
関心ある学問領域は三つ。すなわち、世界を創造する化学、世界を拡張させる情報科学、世界を世界たらしめる認知科学。
素晴らしければ何でも良い。どうでも良いことは心底どうでも良い。興味・趣味は様々だが、そのほとんどがメジャー地位を獲得してなさそうなのは仕様。

関連記事

  1. 第96回日本化学会付設展示会ケムステキャンペーン!Part II…
  2. ロータリーエバポレーターの回転方向で分子の右巻き、左巻きを制御!…
  3. 134回日本薬学会年会ケムステ付設展示会キャンペーン!
  4. 2022年度 第22回グリーン・サステイナブル ケミストリー賞 …
  5. 外部の分析機器を活用する方法
  6. 投票!2018年ノーベル化学賞は誰の手に!?
  7. ホウ酸団子のはなし
  8. マテリアルズ・インフォマティクスにおける分子生成の基礎と応用

注目情報

ピックアップ記事

  1. 有機合成化学協会誌2019年7月号:ジアステレオ選択的Joullié-Ugi三成分反応・(-)-L-755,807 の全合成・結晶中構造転移・酸素付加型反応・多孔性構造体
  2. 遷移金属を用いない脂肪族C-H結合のホウ素化
  3. 最少の実験回数で高い予測精度を与える汎用的AI技術を開発 ~材料開発のDX:NIMS、旭化成、三菱ケミカル、三井化学、住友化学の水平連携で実現~
  4. マンガでわかる かずのすけ式美肌化学のルール
  5. アルキンの環化三量化反応 Cyclotrimerization of Alkynes
  6. 「ハーバー・ボッシュ法を超えるアンモニア合成法への挑戦」を聴講してみた
  7. 企業における研究開発の多様な目的
  8. ベンジル保護基 Benzyl (Bn) Protective Group
  9. 【日産化学】新卒採用情報(2027卒)
  10. トビアス・リッター Tobias Ritter

関連商品

ケムステYoutube

ケムステSlack

月別アーカイブ

2016年3月
 123456
78910111213
14151617181920
21222324252627
28293031  

注目情報

最新記事

7th Compound Challengeが開催されます!【エントリー〆切:2026年03月02日】 集え、”腕に覚えあり”の合成化学者!!

メルク株式会社より全世界の合成化学者と競い合うイベント、7th Compound Challenge…

乙卯研究所【急募】 有機合成化学分野(研究テーマは自由)の研究員募集

乙卯研究所とは乙卯研究所は、1915年の設立以来、広く薬学の研究を行うことを主要事業とし、その研…

大森 建 Ken OHMORI

大森 建(おおもり けん, 1969年 02月 12日–)は、日本の有機合成化学者。東京科学大学(I…

西川俊夫 Toshio NISHIKAWA

西川俊夫(にしかわ としお、1962年6月1日-)は、日本の有機化学者である。名古屋大学大学院生命農…

市川聡 Satoshi ICHIKAWA

市川 聡(Satoshi Ichikawa, 1971年9月28日-)は、日本の有機化学者・創薬化学…

非侵襲で使えるpH計で水溶液中のpHを測ってみた!

今回は、知っているようで知らない、なんとなく分かっているようで実は測定が難しい pH計(pHセンサー…

有馬温泉で鉄イオン水溶液について学んできた【化学者が行く温泉巡りの旅】

有馬温泉の金泉は、塩化物濃度と鉄濃度が日本の温泉の中で最も高い温泉で、黄褐色を呈する温泉です。この記…

HPLCをPATツールに変換!オンラインHPLCシステム:DirectInject-LC

これまでの自動サンプリング技術多くの製薬・化学メーカーはその生産性向上のため、有…

MEDCHEM NEWS 34-4 号「新しいモダリティとして注目を浴びる分解創薬」

日本薬学会 医薬化学部会の部会誌 MEDCHEM NEWS より、新たにオープン…

圧力に依存して還元反応が進行!~シクロファン構造を活用した新機能~

第686回のスポットライトリサーチは、北海道大学大学院理学研究院化学部門 有機化学第一研究室(鈴木孝…

実験器具・用品を試してみたシリーズ

スポットライトリサーチムービー

PAGE TOP