[スポンサーリンク]

一般的な話題

その実験結果信用できますか?

[スポンサーリンク]

実験結果のばらつきや再現性のなさは誰もが経験をしたことがある”難題”。君たちの日々の実験に「品質保証」の基準を取り入れることで、解決できる可能性がある。これを知ってもらおうと奮闘している研究者がいる。

 

ネイチャー・パブリッシング・グループ(NPG)の出版している日本語の科学まとめ雑誌である「Natureダイジェスト」4月号から。

新年度が始まりました。本シリーズも7回目となりまして、Natureダイジェストから個人的に興味を持った記事をピックアップして紹介しています。過去の記事は関連記事を御覧ください。

 

品質保証ブームを巻き起こせ!

本記事の主役はミネソタ大学獣医学部の内分泌研究者Rebecca Davies。研究の傍ら科学研究の世界では聴き慣れない、「品質保証」に関するグループを率いています。

2016-04-09_00-58-05

Rebecca Davies

化学分野でもしばしば再現性に悩まされることがありますが、医学生物学分野はそれとは比較にならないほど悲惨な状況(関連記事:実験の再現性でお困りではありませんか?)。

70%が再現できない

と言われ、医学生物学論文分野の再現性、信頼性は近年問題視されています。記事ではこれらの問題は品質保証という考え方で改善できるといいいます。そもそも、確かに工業製品や医薬品には国際標準化機構(ISO)などの国際品質保証規格があるにも関わらず、科学研究にはないことが不思議です。本記事ではその品質保証の考え方と実施例について述べています。そのなかの1つ「実験ノートチェック」は以下のとおり。

  1. 指定日に、メンバー全員がくじ引きを引いて、誰がノートを監査するか決定
  2. 化学者たちは、自分に割り当てられたノートをみて、実験にあった対照検体が用いられているか、データの貯蔵場所が明記されているか、どの装置を使ってデータを生成したかチェック
  3. 前回のデータで指摘された問題点が適切に対処されているか確認

作業かかる時間は10分程度、実施は2,3週間に1回。企業などでは特許等の関係もあり、似たようなことをやっているのかもしれませんが、化学分野の研究者もやってみるといいのではないでしょうか。

それ以外にも科学の品質保証問題点および解決策や、品質保証を行うにあたる苦悩などが述べられています。

 

「マイクロプラスチック」がカキの生殖系に及ぼす影響

プラスチックの微粒子「マイクロプラスチック」を体内に取り込んだカキは、生殖能力が低下することが実証された。プラスチックによる海洋生態系の破壊について、懸念がますます高まる。

プラスチック片の廃棄物

プラスチック片の廃棄物

以前、ケムステでも取り上げた話題です。(関連記事:“マイクロプラスチック”が海をただよう その1  その2)。生活を変えた素材であり、いまでは私達の生活に欠かせないプラスチックですが、その小さな”かけら”(マイクロプラスチック*)が悪影響をもたらしています。海洋に漂うそのかけらの量は、

2050年ごろまでに、その量は重量比で魚類よりも多くなる

と驚愕な予想もされているほど。今回の記事はそれらマイクロプラスチックがカキの生殖系にも影響を及ぼしうることが指摘されています。

一方で、魚類や鳥類などの飲み込みによる物理的な悪影響は考えられますが、安定なプラスチックが化学的にどんな悪影響をおよぼすのか、疑問なところです。極論をいってしまえば、砂と同じようなものなので。我々の記事にも書きましたが、どうやら他のマイクロ物質に比べて、有害物質が吸着しやすいというのか答えなのでしょうか。何れにしても科学の問題なので科学で解決できるとよいですね。

*大きさが、5mmにみたないものをいう

 

遺伝子組換え作物の危険性を指摘する論文に不正疑惑

遺伝子組換え反対派のウェブサイトなどで広く引用されている論文数本に、不正な画像改変などが見つかる。そのうちの1本はすでに取り下げられた。

最近発覚した遺伝子組み換えならぬ、論文組み換え事件の詳細です。こういう話が多いのはちょっと暗くなりますね。多くの機関で科学倫理教育が必須になるだけでなく、多くの時間をさかなければならないようになってきています。大変重要なことですが、一部の輩のおかげで、貴重な時間を拘束されるのはあまりうれしくないです。科学には誠実さをもって対処しましょう。本記事は特別一般公開されているので、ウェブ上で無料で閲覧することができます。

 

その他の記事

その他にも、物理系の記事も豊富です。例えば、最近話題となったアインシュタインの予言である、「重力波を初めて直接検出した」、2万年かけて太陽のまわりを一周する巨大惑星に関する「太陽系に未知の巨大惑星発見」、有名なホーキング博士が直近で出版した論文に関する影響を語る「ホーキング博士の新論文に割れる物理学界」なども面白く読めました。

また、今回から「私」とNature というコーナーがつくられています。これは著者インタビューですが、科学的に重要な発見をした研究者に、歴史的な背景を加えて語ってもらうコーナーです。第一回目はカーボンナノチューブ発見者の飯島澄男氏(「その存在に気付いたのが、私だけだった理由」)。前編・後編にわけて、しっかりと背景をインタビューしているのでオススメです。

そして、今回の日本人著者へのインタビューは、名古屋大学の伊丹健一郎教授(ボトムアップ法が拓くナノカーボン科学の新局面)。半年前、筆者と一緒にインタビューされている(記事:「プログラム合成」で、究極の構造多様性を征服する)ため、今回で2回目。大変人気ですね。今回はナノグラフェン担当の伊藤講師、ナノリング担当の瀬川Erato伊丹ナノカーボンプロジェクトグループリーダーとともにインタビューに答えています。この記事も無料公開ですのでぜひ御覧ください。

2016-04-10_12-40-37

(出展:Natureダイジェスト)

 

より面白くなったNatureダイジェスト

今回は面白い記事がたくさんありすぎて、全部取り上げたいぐらいでした。しかし、今回ピップアップした記事は、科学の面白さに関する記事ではなく、科学の信頼性、危険性に関する記事。もちろん科学の素晴らしい結果をフォローしておくのも大事ですが、このような問題提起の記事を読むことも必要だと思います。

なぜなら、科学の性質上、問題提起があればそれを科学技術で解決できるから。良い意味で否定的に科学をみることを心がけたいですね。

 

関連記事

 

外部リンク

Avatar photo

webmaster

投稿者の記事一覧

Chem-Station代表。早稲田大学理工学術院教授。専門は有機化学。主に有機合成化学。分子レベルでモノを自由自在につくる、最小の構造物設計の匠となるため分子設計化学を確立したいと考えている。趣味は旅行(日本は全県制覇、海外はまだ20カ国ほど)、ドライブ、そしてすべての化学情報をインターネットで発信できるポータルサイトを作ること。

関連記事

  1. 不均一系触媒を電極として用いる電解フロー反応を実現
  2. 電池材料粒子内部の高精細な可視化に成功~測定とデータ科学の連携~…
  3. ロータリーエバポレーターの回転方向で分子の右巻き、左巻きを制御!…
  4. 三角形ラジカルを使って発光性2次元ハニカムスピン格子構造を組み立…
  5. SNS予想で盛り上がれ!2022年ノーベル化学賞は誰の手に?
  6. アンモニアを用いた環境調和型2級アミド合成
  7. 遺伝子の転写調節因子LmrRの疎水性ポケットを利用した有機触媒反…
  8. ビュッヒ・フラッシュクロマト用カートリッジもれなくプレゼント!

注目情報

ピックアップ記事

  1. アクリルアミド /acrylamide
  2. カテラニ反応 Catellani Reaction
  3. 真理を追求する –2017年度ロレアル-ユネスコ女性科学者日本奨励賞–
  4. 第22回 化学の複雑な世界の源を求めてーLee Cronin教授
  5. 福井鉄道と大研化学工業、11月に電池使い車両運行実験
  6. ケムステVシンポまとめ
  7. ダイヤモンドは砕けない
  8. ジョナス・ピータース Jonas C. Peters
  9. メカニカルスターラー
  10. CO2の資源利用を目指した新たなプラスチック合成法

関連商品

ケムステYoutube

ケムステSlack

月別アーカイブ

2016年4月
 123
45678910
11121314151617
18192021222324
252627282930  

注目情報

最新記事

MDSのはなし 骨髄異形成症候群とそのお薬の開発状況 その1

Tshozoです。今回はかなり限定した疾患とそれに対するお薬の開発の中身をまとめておこうと思いま…

第42回メディシナルケミストリーシンポジウム

テーマAI×創薬 無限能可能性!? ノーベル賞研究が拓く創薬の未来を探る…

山口 潤一郎 Junichiro Yamaguchi

山口潤一郎(やまぐちじゅんいちろう、1979年1月4日–)は日本の有機化学者である。早稲田大学教授 …

ナノグラフェンの高速水素化に成功!メカノケミカル法を用いた芳香環の水素化

第660回のスポットライトリサーチは、名古屋大学大学院理学研究科(有機化学研究室)博士後期課程3年の…

第32回光学活性化合物シンポジウム

第32回光学活性化合物シンポジウムのご案内光学活性化合物の合成および機能創出に関する研究で顕著な…

位置・立体選択的に糖を重水素化するフロー合成法を確立 ― Ru/C触媒カートリッジで150時間以上の連続運転を実証 ―

第 659回のスポットライトリサーチは、岐阜薬科大学大学院 アドバンストケミストリー…

【JAICI Science Dictionary Pro (JSD Pro)】CAS SciFinder®と一緒に活用したいサイエンス辞書サービス

ケムステ読者の皆様には、CAS が提供する科学情報検索ツール CAS SciFind…

有機合成化学協会誌2025年5月号:特集号 有機合成化学の力量を活かした構造有機化学のフロンティア

有機合成化学協会が発行する有機合成化学協会誌、2025年5月号がオンラインで公開されています!…

ジョセップ・コルネラ Josep Cornella

ジョセップ・コルネラ(Josep Cornella、1985年2月2日–)はスペイン出身の有機・無機…

電気化学と数理モデルを活用して、複雑な酵素反応の解析に成功

第658回のスポットライトリサーチは、京都大学大学院 農学研究科(生体機能化学研究室)修士2年の市川…

実験器具・用品を試してみたシリーズ

スポットライトリサーチムービー

PAGE TOP