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化学者のつぶやき

アルキルアミンをボロン酸エステルに変換する

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不活性C(sp3)–N結合をボリル化する初めての反応が開発された。入手容易なアルキルアミンから様々な含ホウ素化合物へ変換する手法として期待される。

アルキルボロン酸エステルへの変換方法

アルキルボロン酸エステルは多様な官能基への変換が可能なため合成中間体として有用である(1)。これらの化合物の古典的な例としては、アルケンのヒドロホウ素化や、有機金属試薬を用いてアルキルハライドをホウ素化する手法が知られる。近年ではより汎用な官能基や骨格をホウ素化する手法が注目されている(1)。例えば、アルカンC–H結合をRhReなどの金属触媒を用いたC–Hボリル化が報告されているが、位置選択性や基質一般性という面で課題が残る(1A)(2)。一方で、ごく最近カルボン酸類をRedox-activeNヒドロキシフタルイミドエステルへ変換し、脱炭酸型でボリル化する手法が報告された(1B)(3)。また、アルキルアミンをアンモニウムへ変換した後ボリル化する手法も報告はあるものの、基質がベンジル位など活性なC(sp3)–N結合を有するものに限られていた(1C)(4)

 今回Bristol大学のAggarwal教授らは、自身が開発した電荷移動錯体(EDA complex)を用いたアルキルカルボン酸エステルのボリル化をKatritzkyピリジニウム塩2(5)に応用し、広範なアルキルアミンのボリル化に成功した(図1D)

図1. (A)アルカンC–H結合のボリル化 (B)アルキルカルボン酸エステルのボリル化 (C)ベンジル位C(sp3)–N結合のボリル化 (D)本論文の反応

Photoinduced Deaminative Borylation of Alkylamines

Wu, J.; He, L.; Noble, A.; Aggarwal, V. K.  J. Am. Chem. Soc. 2018, 140, 10700. DOI:10.1021/jacs.8b07103

論文著者の紹介

研究者:Varinder Kumar Aggarwal

研究者の経歴:
1980-1983 B.A., University of Cambridge
1983-1986 Ph.D., University of Cambridge [Prof. Stuart Warren] 1986–1988 Post-doc, Columbia University [Prof. Gilbert Stork] 1988–1991 Lecturer in Chemistry, University of Bath
1991–1995 Lecturer in Chemistry, University of Sheffield
1995–1997 Reader in Chemistry, University of Sheffield
1997-2000 Professor in Chemistry, University of Sheffield
2000-           Professor in Synthetic Chemistry, University of Bristol

研究内容:クロスカップリング・ホウ素化学・全合成・光化学

論文の概要

本反応ではDMA溶媒中、Nアルキルピリジニウム2に対し1.5当量のB2cat2を加え青色LED照射下室温で反応させカテコールボロン酸エステル4を生じた後、4をピナコールと反応させることで安定なピナコールボロン酸エステル3が得られる(2A)。温和な反応条件から一級スルホンアミド3c、カルボン酸3d、二級アミド3e、シリルエーテル3f、アルキン3gなど高い官能基受容性を有する。本手法は一級または二級アルキルアミンに適用できるが、三級アルキルアミンは立体障害により対応する2の形成が困難であるため適用できない。

 本反応は以下のようなラジカル連鎖機構で進行することが提唱されている(2B)。まず、ラジカル開始段階として、1) 2B2cat2·DMAによるEDA錯体5の形成、2) 光励起により5SETを起こしラジカルイオン対6を発生、3) フラグメンテーションによりアルキルラジカル8の生成、という順で始まる。続いて、4) 8B2cat2へラジカル付加反応することで11が生成、5) DMA11とが錯体12を形成、6) フラグメンテーションによりカテコールボロン酸エステル410が生成、7) 210間のSETによる8の再生、となり、ラジカル連鎖反応が進行する。

 以上、初めて不活性C(sp3)–N結合のボリル化に成功した。官能基受容性が高いこの反応は、アルキルアミンからの含ホウ素化合物の調製に広く使われることが期待される。

図2. 基質適用範囲(A)と反応機構(B)

 

参考文献

  1. Sandford, C.; Aggarwal, V. K. Chem. Commun. 2017, 53, 5481. DOI:10.1039/c7cc01254c
  2. Mkhalid, I. A. I.; Barnard, J. H.; Marder, T. B.; Murphy, J. M.; Hartwig, J. F. Chem. Rev. 2010, 110, 890. DOI:10.1021/cr900206p
  3. (a) Fawcett, A.; Pradeilles, J.; Wang, Y.; Mutsuga, T.; Myers, E. L.; Aggarwal, V. K. Science 2017, 357, 283. DOI: 1126/science.aan3679(b)Li, C.; Wang, J.; Barton, L. M.; Yu, S.; Tian, M.; Peters, D. S.; Kumar, M.; Yu, A. W.; Johnson, K. A.; Chatterjee, A. K.; Yan, M.; Baran, P.S. Science 2017, 356, eaam7355. DOI:10.1126/science.aam7355
  4. Basch, C. H.; Cobb, K. M.; Watson, M. P. Org. Lett2016, 18, 136. DOI:10.1021/acs.orglett.5b03455
  5. (a)Basch, C. H.; Liao, J.; Xu, J.; Piane, J. J.; Watson, M. P. J. Am. Chem. Soc2017, 139, 5313. DOI: 10.1021/jacs.7b02389 (b)Klauck, F. J. R.; James, M. J.; Glorius, F.Angew. Chem., Int. Ed. 2017,56, 12336. DOI: 10.1002/anie.201706896

山口 研究室

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