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L-RAD:未活用の研究アイデアの有効利用に

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 未活用申請書や研究アイデアどうにかして使えないか?研究費を生み出せないか?「L-RAD」はそのような切なる要望を具現化するサービスとなる?

 

5月になりました。科研費を獲得した方は今年度の予算を使って研究に勤しんでいることと思います。

そういう筆者も今年度から独立した研究室を主宰することとなったため、研究費の獲得は必須でした。しかし、昨年度にがんばって提出した民間の助成金申請5件はなんとすべて「お祈りメール」。急遽申請したため分野違いや、申請書にかける時間がほとんどなかったもありますが、全部落ちるとは…ショックでした。なんとか科研費は獲得できたので、研究室はスタートできそうです。ただし、民間助成金の申請書は、ムダになってしまいました(頭の体操にはなりましたが)。

この時期残念ながら科研費の獲得がならず、予算的な問題で研究がスタートできなかった、大幅な研究計画の縮小をせざるを得ない研究者は多いでしょう。それだけではなく、せっかく書いた申請書どうなっていますか?適した分野の民間助成金がでたら、再度練りなおして提出するか、来年の科研費にもう一度チャレンジするか。何れにしてもタイミングがあわず、アイデアそのものが実現されず、闇に葬り去られることが往々にしてあります。そんな申請書を有効活用したいと思いませんか?

研究者のそんな切なる要望から最近登場したサービスL-RAD(エルラド)を本記事では紹介したいと思います。

 

L-RADとは?

簡単にいえば、不採択の申請書から研究費を生み出すオープンイノベーションプラットホームです。

もう少し具体的にいえば、各種競争的資金に採択されなかった申請書など、研究者がもつ「未活用アイデア」を集積し、産業視点で再評価することによって、研究資金提供や共同研究などの形によって研究者と企業側がWinWinになるWebソリューション(データベース)です。

で、結局どういうこと?という方は、下の図をみながらイメージしただければ分かりやすいと思います。

従来、研究者は、様々な科研費や民間などの競争的資金に各々独自のフォームで申請し、採択と不採択の2択を心待ちするという形が主流でした。

それに対して、研究者が研究の「未活用アイデア」をL-RADというデータベースに未検証の研究アイデアを登録し、参加している会員企業が興味のあるものを閲覧、アイデアに興味があれば、共同研究の申込や、研究費の供与などを行うといった全く新しい研究費獲得フローが今回紹介するシステムになります。

2016-05-01_17-09-19

 

とっても斬新なシステムですね。

では、そのシステムをどこが運営しているのか?ということから始め、さらに、言うは易し行うは難しでは困るため、私自身が人柱となり、実際に登録したところまでお話したいと思います。

 

L-RADは誰が運営しているのか?

そもそもL-RADのLってなんでしょう。RADはE-rad*と同じですよね。L-RADはリバネスー池田研究開発システムの略称で、Lはリバネスー池田になるんでしょうか。リバネス、池田理化、富士通ジー・サーチの3社で運営しているようです。→2021年現在は、リバネス社が単独で運営をしております。リバネス社の他の研究者向けサービスとあわせた形で、リバネスID内で運営する形式をとっております。(参考

2016-05-02_22-41-56

 

池田理化は実験系の化学関係者ならばご存知、理学機器の大手代理店ですね。ジー・サーチは以前紹介した研究助成情報サイト「コラボリー/Grants」や「コラボリー/Group」などを運営しているデータベース会社ですね。

では、リバネスはどうでしょう?実際、名前はインターネットでよく見るので知っていましたが、どんなことをやっている会社なのか皆目検討もつきませんでした。先日、リバネス社員の方と偶然お会いする機会があって、修士・博士が集まって運営している会社であり、科学研究をビジネスにしている会社であることを知りました(リバネスについては同社HP「リバネスとは」を参照)。

種明かしをすると、その際このL-RADについてもお聞きし、面白いと思ったため今回の紹介に至ったわけです。

*皆さんよく使われている科研費や学振などの競争的資金を提出するシステムが府省共通研究開発管理システム、通称E-rad(イーラド)Research and Development にElectronic(電子)のそれぞれ頭文字につけたもの。

 

実際にL-RAD使ってみよう

さて、話を元に戻して、では実際にL-RADを使ってみましょう。大きな流れとしては

  1. 会員登録をする(約1分)
  2. 研究費に関する情報を入力する(約5-10分)
  3. 自分のもっている申請書(研究アイデア)をアップロードする(約1分)

3つだけ。すでに申請書をもっていて素早くやれば会員登録から10分以内に終わります。のんびり、しっかりやっても1つの情報を入力するのに20-30分で終わると思います。簡単な使い方はこちらを参照 L-RAD(エルラド)の使い方

→2021年現在運営形式の変更に伴い、登録の仕方が変わっております。使い方詳細はこちら

会員登録は、上述したコラボリーを登録している方は、同一IDにて追加情報を入力するだけ登録できます。

会員登録が終わると、研究費に関する情報を入力。タイトルや、概要、関連分野、キーワード、希望する研究交渉期限、申請した研究費名、研究に関する論文のDOIなどを入力するだけです。

その後、申請書の研究アイデア部分を電子ファイルでアップロードするだけ。GUIもしっかりしているので、なんなく終わります。私は、とりあえず2件登録してみました。

 

研究アイデア登録後画面*タイトルは青で塗りつぶしています

研究アイデア登録後画面*タイトルは青で塗りつぶしています

あとは待つのみ。

 自身の研究に興味をもった企業が申請書を閲覧して、ちょっと話を聞いてみたいことがあれば、システムを経由して研究者にコンタクトをとります。ですので、興味がなければ、うんともすんともいわずこれで終わり。

逆に企業が興味があれば、企業側が概要閲覧や詳細情報の閲覧を行う際に、研究者側に連絡がくるそうです。システム上秘密保持契約も結んでいますし、システムがハックされないかぎり情報がもれることはありません。さらに、閲覧することによって連絡がくるため、そのアイデアを企業にそのまま盗用される心配も通常の申請書よりも少ないといったわけです。

さらに掲示板(公開と非公開がある)を使った交流も行え、最終的に共同研究や研究費供与に至れば、通常の産学連携の契約を結ぶだけ。

ちなみに運営会社が研究者からマージンをとるようなこともないそうです(提携企業からはいただくと思いますが)。

その他、利用前に生じる一般的な疑問についてはこちらに記載されています。L-RAD(エルラド) よくあるご質問と回答

L-RADってすごくない?

おお、このシステムは素晴らしい!と思いませんか?私は思ったのですが、1つだけ難点が。

なんと、提携企業が日本たばこ産業株式会社(JT)の1社しかない!!!

いやいや、これは意味が無いんじゃないの?そのとおりです。会員となる企業が多種多様でなければ自分の申請書をみてもらう確率も大幅に減っていくわけです。ましてや1社って。

と、思ったので担当者の方に聞いてみました。すると回答は、

「企業は大変興味をもっており、今後契約に至るだろう。しかし、ほとんどの企業は申請書がもう少し集まったらぜひ入りたいという」

ということでした。現在集まっている申請書は数百件だそうです。これが増えれば会員企業が増えるというわけです。

【追記(2016年7月26日): どうやら8月1日より新たに大手製薬会2社と自動車系1社の合計3社が参加が決定したとのことです。楽しみですね。】

【追記(2016年8月1日): なんと大塚製薬と、田辺三菱製薬のが参加が決定したとのことです! プレスリリース

→ 2021年現在は10社の会員企業が参画しているようです(参考)。また、7つの大学と連携協定を締結しており、登録研究者数、登録申請書数ともに2,000件を超えているようです(参考)。

全く新しい事業をはじめる際はこういうもんです。いきなり完璧なスタートということはありません。というより、申請書のほとんど無い状態で提携したJTってすごい!と思います。

L-RADの将来に期待

ただ、このシステム大変ユニークで面白いと思います。科研費の一部以外は通常研究費を申請する際はトップダウン型がほとんど。つまり、こんな研究や分野を募集してるから「関連する研究者は募集してみてね」といったもの。この場合、研究費提供機関の意向を踏まえながら申請書を作成しなければなりません。あまり合致していなければ、無理やりにでもそのキーワードに当てはめる必要があるわけです。

もっと言えば、合致していなければ研究費を申請しても獲得には至りません。もちろん、大きな目標に向けて、一丸となって研究を行うといった提供機関側の利点や、研究者が研究の角度を少しかえることで、異なる視点で研究を俯瞰できるといった利点はあるのですが、本当は面白い研究なのに、その機関の審査者や目標にからは評価できない、面白くないといったことがありえます。

さらに、正直言えば自分の研究をやりたいですよね。

「こんな研究があるから、誰かこの研究に支援してくれないか?」

といったボトムアップ型の申請を行う場所が欲しいわけです。最近クラウドファンディングサービスなどで、ウェブ上にも研究者が自身の研究をアピールして研究費を獲得するものは増加して、一般的にキャッチーな研究に限られてくるといった弱点もあります。

企業に対して、完全ボトムアップ型の研究を提案できる場として、個人的にこのL-RADの試みを応援させていただきたいと思います。

科研費だけでも、年間申請件数が約10万件、そのうち採択されるのは2万9千件で、残りの6万7000件は不採択になります。そんな「未使用研究アイデア」を皆さんもぜひL-RADに登録してみてはいかがでしょうか。

(2021年10月15日 加筆・修正)

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Chem-Station代表。早稲田大学理工学術院教授。専門は有機化学。主に有機合成化学。分子レベルでモノを自由自在につくる、最小の構造物設計の匠となるため分子設計化学を確立したいと考えている。趣味は旅行(日本は全県制覇、海外はまだ20カ国ほど)、ドライブ、そしてすべての化学情報をインターネットで発信できるポータルサイトを作ること。

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