[スポンサーリンク]

ケムステニュース

CETP阻害剤ピンチ!米イーライリリーも開発中止

[スポンサーリンク]

 米イーライリリーは、脂質異常症治療薬として開発してきたCETP(コレステロールエステル転送たん白)阻害剤「エバセトラピブ(一般名)」の開発を中止すると発表した。日本を含めグローバルで第3相臨床試験(P3試験)を行っていたが、第三者機関の中間解析で十分な有効性が見込めないと評価された。CETP阻害剤はスタチン製剤に続く脂質異常症治療薬のブロックバスター市場が期待できるとして大手各社が開発を競っているが、最終段階まで開発が進みながら断念する企業が続いている(引用:化学工業日報 2015年10月15日)。

 

コレステロールを運搬する役割をもつタンパク質はLDLとHDLの2種類あります。LDLはコレステロールを肝臓から運ぶ重要な役割を担っていますが、量が多すぎると動脈硬化などを引き起こします。そのため、「悪玉コレステロール」なんて呼ばれています。対して、HDLは余分なコレステロールを全身の組織から肝臓へ回収する働きがあり、「善玉コレステロール」と呼ばれているやつですね。CETP(Cholesteryl ester transfer protein:コレステリルエステル転送タンパク質)はHDLのレステロールエステル(コレステロールと脂肪酸)をLDLなどに運搬する役割をもっている糖タンパク質です。LDL過剰のヒトには、CETPを阻害してあげるような薬があれば、「HDLが増えて、LDLが減ってめでたしめでたし」、というのがCTEP阻害剤です(図1)。

 

CETP阻害剤

図1 . CETP阻害薬(画像の阻害薬はAnacetrapib, 出典:http://flipper.diff.org/)

 

そのため、CETP阻害薬の開発が大手製薬会社によって行われてきました。1990年代から開発をはじめたのは医薬最大手ファイザー。CETP阻害剤トルセトラピブリピトールの後釜と大いに期待されながらも2006年フェーズIIIにて死亡例が増加したという理由で開発中止。当時は大変話題になりました。続いてはロシュのダルセトラピブ。同じくフェーズIIIまで進みながら、ブラセボとの有用差を見出すことができず、2012年にサヨウナラ(図2)。

 

2015-10-15_16-58-12

図2過去に開発中止となったCETP阻害薬(トルセトラピブとダルセトラピブ)

 

そして、今回は初のCETP阻害薬上市が期待されていた、エバセトラピブの中止(図3)。同じくフェーズIIIの中止です。3社の製薬会社いずれもいわゆる”最終試験”での中止の為、多額を費やした研究開発費もパアです。

2015-10-15_17-02-02

図3. 今回開発中止となったエバセトラピブ

 

現在残っているのは、メルクのアナセトラピブ(図4)。同じくフェーズIII進行中です。三度目の正直ならぬ四度目の正直なるか。それとも…

 

2015-10-15_17-05-47

図4. 現在臨床試験進行中のアナセトラピブ

 

関連書籍

[amazonjs asin=”1905036140″ locale=”JP” title=”A New Therapeutic Target: Cholesteryl Ester Transfer Protein (CETP): Current Status and Future Directions”][amazonjs asin=”4897752671″ locale=”JP” title=”コレステロール -基礎から臨床へ-“]

 

外部リンク

Avatar photo

webmaster

投稿者の記事一覧

Chem-Station代表。早稲田大学理工学術院教授。専門は有機化学。主に有機合成化学。分子レベルでモノを自由自在につくる、最小の構造物設計の匠となるため分子設計化学を確立したいと考えている。趣味は旅行(日本は全県制覇、海外はまだ20カ国ほど)、ドライブ、そしてすべての化学情報をインターネットで発信できるポータルサイトを作ること。

関連記事

  1. クラリベイト・アナリティクスが「引用栄誉賞2018」を発表
  2. 阪大で2億7千万円超の研究費不正経理が発覚
  3. NHKアニメ『エレメントハンター』 2009年7月スタート!
  4. 産総研で加速する電子材料開発
  5. 保護により不斉を創る
  6. 富山化学 「YP-18 」の開発を開始
  7. ノバルティス、米カイロンを5000億円で完全子会社に
  8. 使い方次第で猛毒、薬に

注目情報

ピックアップ記事

  1. AI勉強会+若手セミナー@高知大学
  2. テトラキス[3,5-ビス(トリフルオロメチル)フェニル]ほう酸ナトリウム水和物 : Sodium Tetrakis[3,5-bis(trifluoromethyl)phenyl]borate Hydrate
  3. 化学Webギャラリー@Flickr 【Part4】
  4. スケールアップで失敗しないために 反応前の注意点
  5. 様々な化学分野におけるAIの活用
  6. なぜ青色LEDがノーベル賞なのか?ー雑記編
  7. 第57回「製薬会社でVTuber担当?化学者の意外な転身」前川 雄亮 博士
  8. 樹脂コンパウンド材料におけるマテリアルズ・インフォマティクスの活用とは?
  9. ポリ乳酸 Polylactic Acid
  10. フォルハルト・エルドマン環化 Volhard-Erdmann Cyclization

関連商品

ケムステYoutube

ケムステSlack

月別アーカイブ

2015年10月
 1234
567891011
12131415161718
19202122232425
262728293031  

注目情報

最新記事

有馬温泉で鉄イオン水溶液について学んできた【化学者が行く温泉巡りの旅】

有馬温泉の金泉は、塩化物濃度と鉄濃度が日本の温泉の中で最も高い温泉で、黄褐色を呈する温泉です。この記…

HPLCをPATツールに変換!オンラインHPLCシステム:DirectInject-LC

これまでの自動サンプリング技術多くの製薬・化学メーカーはその生産性向上のため、有…

MEDCHEM NEWS 34-4 号「新しいモダリティとして注目を浴びる分解創薬」

日本薬学会 医薬化学部会の部会誌 MEDCHEM NEWS より、新たにオープン…

圧力に依存して還元反応が進行!~シクロファン構造を活用した新機能~

第686回のスポットライトリサーチは、北海道大学大学院理学研究院化学部門 有機化学第一研究室(鈴木孝…

第58回Vシンポ「天然物フィロソフィ2」を開催します!

第58回ケムステVシンポジウムの開催告知をさせて頂きます!今回のVシンポは、コロナ蔓延の年202…

第76回「目指すは生涯現役!ロマンを追い求めて」櫛田 創 助教

第76回目の研究者インタビューは、第56回ケムステVシンポ「デバイスとともに進化する未来の化学」の講…

第75回「デジタル技術は化学研究を革新できるのか?」熊田佳菜子 主任研究員

第75回目の研究者インタビューは、第56回ケムステVシンポ「デバイスとともに進化する未来の化学」の講…

第74回「理想的な医薬品原薬の製造法を目指して」細谷 昌弘 サブグループ長

第74回目の研究者インタビューは、第56回ケムステVシンポ「デバイスとともに進化する未来の化学」の講…

第57回ケムステVシンポ「祝ノーベル化学賞!金属有機構造体–MOF」を開催します!

第57回ケムステVシンポは、北川 進 先生らの2025年ノーベル化学賞受賞を記念して…

櫛田 創 Soh Kushida

櫛田 創(くしだそう)は日本の化学者である。筑波大学 数理物質系 物質工学域・助教。専門は物理化学、…

実験器具・用品を試してみたシリーズ

スポットライトリサーチムービー

PAGE TOP