[スポンサーリンク]

一般的な話題

カンブリア爆発の謎に新展開

[スポンサーリンク]

 5億4千年前起きた生物の爆発的進化「カンブリア爆発」。進化論では説明できないこの事象解明の糸口が、最近の新たな発見によりつかめつつある。

 

ネイチャー・パブリッシング・グループ(NPG)の出版している日本語の科学まとめ雑誌である「Natureダイジェスト」5月号から。

本シリーズも8回目。アクセスをみているとなかなか人気が高いようです。Natureダイジェストから個人的に興味を持った記事をピックアップして紹介しています。過去の記事は関連記事を御覧ください。

 

カンブリア爆発の「火種」

エディアカラ紀のまでの生物は単純な生態系でした。5億4千年前に急激な生物進化により、今日の動物と同じ解剖学的特徴をもつ生態系が広がった。なぜ、その時点でそのような生態系が爆発的に生まれたのか、その「火種」はなんだろう?それが数十年間、生物学者の論争の的となっています。いまだ正確な原因はわかっていないが、最近の研究結果より酸素濃度の上昇が「火種」とする論争が再発している。記事では、その経緯と、単純に酸素濃度の上昇だけでは説明できない証拠の発見などについて詳細に説明しています。

2016-05-18_13-39-57

生命進化の加速と酸素濃度の関係

 

「生命の起源」と同じく、幾つも説があり、証拠をつかむことが困難な古代生物学。この記事を書いている今ちょうど「複雑な多細胞生物、従来説より10億年早く誕生か 化石研究」というニュースが報道されました(DOI:10.1038/ncomms11500)。

15億年以上前の多細胞生物の化石が発見されたそうです。真偽はわかりませんが、これが本当ならば上記の年表も覆ることとなります。答えを導き出すという意味では化学はなんとやりやすいことかと思います。

 

半合成マラリア治療薬が市場で大苦戦

ノーベル医学生理学賞も受賞したマラリアの特効薬アルテミシニンを半合成したは良いものの、供給過剰で売れない。

もう一つの記事は化学関連から。今年は、北里大学の大村先生に加えて、マラリアの特効薬アルテミシニンの発見者Youyou Tu氏にもノーベル医学生理学賞が与えられました(関連記事:【速報】2015年ノーベル生理学・医学賞ー医薬品につながる天然物化学研究へ)。アルテミシニンはマラリア治療薬としてなくてはならないものとなっています。その供給法はクソニンジン(Artemisia annua)という植物を栽培し、そこから抽出すること。

2016-05-18_18-47-27

Youyou Tu(左)、アルテミシニン(中央)とクソニンジン(右)

 

クソニンジンを栽培し過ぎるとアルテミシニンの供給過多になり、栽培農家が減少します。その結果、供給不足になると、またその栽培に注目しはじめるという繰り返し。つまり、安定供給に不安があります。そのため、フランスの大手製薬会社サノフィ社は、酵母発酵で生成したアルテミシニン前駆体(アルテミシニン酸)をアルテミシニンに化学的に変換する、「半合成アルテミシニン」の合成法を開発しました。

しかし、毎年60トン(世界で必要とされる量の30%近く)を生産する能力があるにも関わらず売れなかったのです。これは現在栽培によるアルテミシンの供給過剰にあるからだと言われています。記事では、そのマラリア治療薬に関する国際的な試みや、サノフィ−社の「半合成アルテミシニン」工場の行方と、今後について述べています。

 

その他の記事

その他にも、「アルツハイマー病マウスで記憶が回復」が特別公開記事として無料で読むことができます。

また、日本人研究者へのインタビューとして、九大の細川貴弘助教と、産業技術総合研究所の深津武馬主席研究員の研究に関する記事が紹介されています。昆虫の体内でしか生きていけず、昆虫にとっても欠くことできない共生細菌はなぜそのような関係になったのか?この謎に迫る研究成果を報告された両氏のインタビューも無料公開されていますのでぜひお読みください(「カメムシの腸内共生細菌は進化の途上」)

2016-05-18_17-34-19

細川貴弘氏(左)と深津武馬氏(右)

研究テーマの息抜きに

卒研生(4年生)は5月になり、新しく研究室に配属され、個別の研究テーマをもらったと思います。今後は自身の研究の周辺を徹底的に勉強し、世界でもっとも詳しくならないといけません。自分の研究分野だけでもフォローできないぐらいの先人たちの研究を勉強し、疲れたときにでも、最新の全く異なるサイエンスが山盛りのNature ダイジェストを読むことはよい気分転換になると思いますよ。

もちろんバリバリ最先端研究に勤しんでいる大学院生や、研究者の方もオススメです。

 

関連記事

 

外部リンク

Avatar photo

webmaster

投稿者の記事一覧

Chem-Station代表。早稲田大学理工学術院教授。専門は有機化学。主に有機合成化学。分子レベルでモノを自由自在につくる、最小の構造物設計の匠となるため分子設計化学を確立したいと考えている。趣味は旅行(日本は全県制覇、海外はまだ20カ国ほど)、ドライブ、そしてすべての化学情報をインターネットで発信できるポータルサイトを作ること。

関連記事

  1. 化学者のためのエレクトロニクス入門④ ~プリント基板業界で活躍す…
  2. 【速報】HGS 分子構造模型「 立体化学 学生用セット」販売再開…
  3. 「無機化学」とはなにか?
  4. 有機合成化学協会誌2021年1月号:コロナウイルス・脱ニトロ型カ…
  5. ゲルマベンゼニルアニオンを用いた単原子ゲルマニウム導入反応の開発…
  6. 標準物質ーChemical Times特集より
  7. 天然有機化合物のNMRデータベース「CH-NMR-NP」
  8. 有機化学実験基礎講座、絶賛公開中!

注目情報

ピックアップ記事

  1. 創薬・医療系ベンチャー支援プログラム”BlockbusterTOKYO”選抜プログラムへの参加チーム募集中!
  2. 背信の科学者たち 論文捏造はなぜ繰り返されるのか?
  3. 「先端触媒構造反応リアルタイム計測ビームライン」が竣工
  4. イミニウム励起触媒系による炭素ラジカルの不斉1,4-付加
  5. とある化学者の海外研究生活:イギリス編
  6. 1,2-還元と1,4-還元
  7. 分子びっくり箱
  8. 中村 真紀 Maki NAKAMURA
  9. 計算と実験の融合による新反応開発:対称及び非対称DPPEの簡便合成
  10. とある水銀化合物のはなし チメロサールとは

関連商品

ケムステYoutube

ケムステSlack

月別アーカイブ

2016年5月
 1
2345678
9101112131415
16171819202122
23242526272829
3031  

注目情報

最新記事

有馬温泉で鉄イオン水溶液について学んできた【化学者が行く温泉巡りの旅】

有馬温泉の金泉は、塩化物濃度と鉄濃度が日本の温泉の中で最も高い温泉で、黄褐色を呈する温泉です。この記…

HPLCをPATツールに変換!オンラインHPLCシステム:DirectInject-LC

これまでの自動サンプリング技術多くの製薬・化学メーカーはその生産性向上のため、有…

MEDCHEM NEWS 34-4 号「新しいモダリティとして注目を浴びる分解創薬」

日本薬学会 医薬化学部会の部会誌 MEDCHEM NEWS より、新たにオープン…

圧力に依存して還元反応が進行!~シクロファン構造を活用した新機能~

第686回のスポットライトリサーチは、北海道大学大学院理学研究院化学部門 有機化学第一研究室(鈴木孝…

第58回Vシンポ「天然物フィロソフィ2」を開催します!

第58回ケムステVシンポジウムの開催告知をさせて頂きます!今回のVシンポは、コロナ蔓延の年202…

第76回「目指すは生涯現役!ロマンを追い求めて」櫛田 創 助教

第76回目の研究者インタビューは、第56回ケムステVシンポ「デバイスとともに進化する未来の化学」の講…

第75回「デジタル技術は化学研究を革新できるのか?」熊田佳菜子 主任研究員

第75回目の研究者インタビューは、第56回ケムステVシンポ「デバイスとともに進化する未来の化学」の講…

第74回「理想的な医薬品原薬の製造法を目指して」細谷 昌弘 サブグループ長

第74回目の研究者インタビューは、第56回ケムステVシンポ「デバイスとともに進化する未来の化学」の講…

第57回ケムステVシンポ「祝ノーベル化学賞!金属有機構造体–MOF」を開催します!

第57回ケムステVシンポは、北川 進 先生らの2025年ノーベル化学賞受賞を記念して…

櫛田 創 Soh Kushida

櫛田 創(くしだそう)は日本の化学者である。筑波大学 数理物質系 物質工学域・助教。専門は物理化学、…

実験器具・用品を試してみたシリーズ

スポットライトリサーチムービー

PAGE TOP