[スポンサーリンク]

化学者のつぶやき

環サイズを選択できるジアミノ化

[スポンサーリンク]

Ir触媒による、二級アミンを用いたアルケニルアミドの分子間/分子内ジアミノ化が報告された。添加剤と溶媒を変更することで、得られるラクタムの環サイズ(γ-もしくはδ-ラクタム)を選択できる。

一方のアミンをアルケンに連結させたジアミノ化

含窒素化合物は、大半の医薬品分子に見られるため、簡便な窒素原子導入法の開発の意義は大きい。そのような手法の中で、アルケンのジアミノ化は、一度に二つの窒素原子の導入ができ、ビシナルジアミンの効率的な合成法として知られる(参照)。しかし、二種類の異なるアミノ基を導入する際、それぞれの反応性および位置選択性の制御をする必要があり、未だ挑戦的な課題である(1)

この課題に対する解決策の一つとして、一方のアミン部位をアルケンに連結し、分子間/分子内ジアミノ化を行った例がいくつか知られる。

Michaelらは、Pd触媒を用い、分子内のアミドとNFSIによるアルケンのジアミノ化を報告し、後年には不斉反応に展開している(図1A)(2)。本手法は初の分子間/分子内ジアミノ化の例であるが、分子間のアミノ化剤はNFSIに限られる。より一般的なアミノ基の導入を可能にした例としては、Wangらの、銅触媒存在下O-ベンゾイルヒドロキシアミンを分子間アミノ化剤に用いる手法が知られる(図1B)(3)。以上の例では5-exo体を与える一方で、Blakeyらは、超原子価ヨウ素とTf2NHを用いて、6-endo体を選択的に得ることに成功している (図1C)(4)

今回、Columbia大学のRovis教授らは、Ir触媒を用いたアルケンの分子間/分子内ジアミノ化を報告したので紹介する(図1D)。分子間アミンとして二級アミンを用いることができる点と、溶媒と添加剤の選択により5-exo体(γ-ラクタム)と6-endo体(δ-ラクタム)の選択性を制御できる点が特筆すべき点である。

図1. アルケンの分子間/分子内ジアミノ化

Regiodivergent Iridium(III)-Catalyzed Diamination of Alkenyl Amides with Secondary Amines: Complementary Access to γ– or δ‐Lactams

Conway, J. H. Jr.; Rovis, T. J. Am. Chem. Soc. 2018, 140, 135. DOI: 10.1021/jacs.7b11455

論文著者の紹介

研究者:Tomislav Rovis (URL: https://rovisresearch.wordpress.com)

研究者の経歴:
1990 B.S. University of Toronto, Ontario
1998 Ph.D, University of Toronto, Ontario (Prof. Mark Lautens)
1998 Posdoc, Harvard University, MA (Prof. David A. Evans)
2000 Assistant Professor at Colorado State University, CO
2005 Associate Professor at Colorado State University, CO
2008 Professor at Colorado State University, CO
2016 Professor at Columbia University, NY

研究内容:NHC不斉配位子, Rhを主とする有機金属, 光触媒

論文の概要

著者らは、[Cp*IrCl2]2触媒存在下、アルケニルアミド1と二級アミン2をHFIP溶媒中21度で撹拌することで、分子間/分子内ジアミノ化体としてγ-ラクタム3を得ることに成功した(図2A)。

興味深いことに、KHCO3を添加剤に加え、溶媒をTFE/H2Oに変更することで、exo/endo選択性が切り替わり、δ-ラクタム4が得られることを見出した。前者の反応においては、アミドのβ位がアルキル化された1でも反応は進行し、2としてはN-アルキルアニリン誘導体を用いることができる。一方、後者では幅広い二級アミンが2として適用可能である。また、触媒のCp配位子をより電子不足なもの(本論文参照)に変更することでα位が置換された1でも反応が進行する。

重水素ラベル実験などを行い、本反応の反応機構が考察されている(図2B)。

まず、Ir触媒I1のアルケンとアミドに配位しIIを生じる。ピバル酸の脱離に伴うナイトレノイドIIIの生成と続くアルケンへの転位挿入によりγ-ラクタムIVを形成する。IVに対するアミンの求核攻撃とプロトデメタレーションにより5-exo3が得られる。一方、δ-ラクタムの生成パスでは、IIに対してアミンが求核攻撃し、イリダサイクルVIを経由して6-endo4が得られる。

本論文の鍵となる5-exo/6-endoの選択性は、二つの反応条件におけるアミンの求核性の差異に依存することが示唆されている。すなわち、比較的酸性度の高いHFIPを溶媒として用いた場合、HFIPとアミンとの水素結合により、IIへの求核攻撃が抑制されてIIIを経由するパスが優先する。一方で塩基性条件である2 M KHCO3/TFE中では水素結合能が弱められるためにアミンの求核攻撃が進行してVIを与えると考えられている。

以上、添加剤と溶媒でexo/endo選択性を切り替え可能なアルケンの分子間/分子内ジアミノ化であった。Ir触媒が高価であるものの、温和な条件下で二級アミンを直接導入できる優れた反応である。

図2. A. 基質適用範囲 B. 推定反応機構

参考文献

  1. De Jong, S.; Nosal, D. G.; Wardrop, D. J. Tetrahedron 2012, 68, 4067. DOI: 1016/j.tet.2012.03.036
  2. Sibbald, P. A.; Michael, F. E. Org. Lett. 2009, 11, 1147. DOI: 10.1021/ol9000087 (b) Ingalls, E. L.; Sibbald, P. A.; Kaminsky, W.; Michael, F. E. J. Am. Chem. Soc. 2013, 135, 8854. DOI: 10.1021/ja4043406
  3. Shen, K.; Wang, Q. Chem Sci. 2015, 6, 4279. DOI: 10.1039/c5sc00897b
  4. Kong, A.; Blakey, S. B. Synthesis 2012, 44, 1190. DOI: 1055/s-0031-1290591

山口 研究室

投稿者の記事一覧

早稲田大学山口研究室の抄録会からピックアップした研究紹介記事。

関連記事

  1. 抗体を液滴に濃縮し細胞内へ高速輸送:液-液相分離を活用した抗体の…
  2. 高い専門性が求められるケミカル業界の専門職でステップアップ。 転…
  3. 【9月開催】第1回 マツモトファインケミカル技術セミナー 有機チ…
  4. 「人工知能時代」と人間の仕事
  5. もし新元素に命名することになったら
  6. かさ高い非天然α-アミノ酸の新規合成方法の開発とペプチドへの導入…
  7. 鬼は大学のどこにいるの?
  8. AI翻訳エンジンを化学系文章で比較してみた

コメント、感想はこちらへ

注目情報

ピックアップ記事

  1. AIで世界最高精度のNMR化学シフト予測を達成
  2. 製薬外資、日本へ攻勢 高齢化で膨らむ市場
  3. 新たな特殊ペプチド合成を切り拓く「コドンボックスの人工分割」
  4. 【ケムステSlackに訊いてみた②】化学者に数学は必要なのか?
  5. シリリウムカルボラン触媒を用いる脱フッ素水素化
  6. 有機分子触媒ーChemical Times特集より
  7. イグ・ノーベル賞の世界展に行ってきました
  8. エド・ボイデン Edward Boyden
  9. Greene’s Protective Groups in Organic Synthesis
  10. 有機反応の仕組みと考え方

関連商品

ケムステYoutube

ケムステSlack

月別アーカイブ

2018年2月
 1234
567891011
12131415161718
19202122232425
262728  

注目情報

最新記事

超塩基に匹敵する強塩基性をもつチタン酸バリウム酸窒化物の合成

第604回のスポットライトリサーチは、東京工業大学 元素戦略MDX研究センターの宮﨑 雅義(みやざぎ…

ニキビ治療薬の成分が発がん性物質に変化?検査会社が注意喚起

2024年3月7日、ブルームバーグ・ニュース及び Yahoo! ニュースに以下の…

ガラスのように透明で曲げられるエアロゲル ―高性能透明断熱材として期待―

第603回のスポットライトリサーチは、ティエムファクトリ株式会社の上岡 良太(うえおか りょうた)さ…

有機合成化学協会誌2024年3月号:遠隔位電子チューニング・含窒素芳香族化合物・ジベンゾクリセン・ロタキサン・近赤外光材料

有機合成化学協会が発行する有機合成化学協会誌、2024年3月号がオンライン公開されています。…

日本化学会 第104春季年会 付設展示会ケムステキャンペーン Part3

日本化学会年会の付設展示会に出展する企業とのコラボです。第一弾・第二弾につづいて…

ペロブスカイト太陽電池の学理と技術: カーボンニュートラルを担う国産グリーンテクノロジー (CSJカレントレビュー: 48)

(さらに…)…

日本化学会 第104春季年会 付設展示会ケムステキャンペーン Part2

前回の第一弾に続いて第二弾。日本化学会年会の付設展示会に出展する企業との…

CIPイノベーション共創プログラム「世界に躍進する創薬・バイオベンチャーの新たな戦略」

日本化学会第104春季年会(2024)で開催されるシンポジウムの一つに、CIPセッション「世界に躍進…

日本化学会 第104春季年会 付設展示会ケムステキャンペーン Part1

今年も始まりました日本化学会春季年会。対面で復活して2年めですね。今年は…

マテリアルズ・インフォマティクスの推進成功事例 -なぜあの企業は最短でMI推進を成功させたのか?-

開催日:2024/03/21 申込みはこちら■開催概要近年、少子高齢化、働き手の不足の影…

実験器具・用品を試してみたシリーズ

スポットライトリサーチムービー

PAGE TOP