[スポンサーリンク]

日本人化学者インタビュー

第31回「植物生物活性天然物のケミカルバイオロジー」 上田 実 教授

 

第31回目は第21回の深瀬浩一先生によるご推薦を受け、上田 実 先生 (東北大学 大学院理学研究科 化学専攻)にインタビューを頂きました。

上田先生はかねてよりオジギソウやハエトリソウなどの「動きのある植物」の生命現象解明研究に取り組まれてきておられます。今はそれを拡張する形で、動植物の様々な生命現象を標的に、天然物化学・ケミカルバイオロジーの立場から切り込んでいく研究スタイルを確立しておられます。

 

そんな上田先生は、どういう思いで日々研究されているのでしょうか。いつもどおり「化学者になった理由」からインタビューをはじめてみたいと思います。ご覧ください!

 

Q1. あなたが化学者になった理由は?

大学に入学した頃から、ぼんやりと将来は化学者になりたいと思っていました。はっきりと意識しだしたのは、大学2回生のとき、中西香爾コロンビア大教授の講演を聴いたのが切っ掛けです。それまでは、将来は有機反応の理論的な研究をしたいと思っていましたが、中西先生の「生物学者には手に負えない難しい問題も、化学者が入れば簡単にできちゃうんだ!」という力強い言葉と(実際にはそれほど簡単ではありませんが・・・)、ロマン溢れる生物現象を化学物質で研究するという初めて聞く講演内容は衝撃的でした。図書館にこもって、月刊「化学」と「現代化学」、「化学の領域」のバックナンバーを全て調べて(ネットのない当時、日本の化学研究の流れを調べるには便利な方法でした)、有機化学の中で天然物化学が重要な位置を占めることを知って、その思いが一層強まりました。中西先生が平田一門の所属であることを知り、「動的天然物化学」を標榜する同門の後藤俊夫教授(名大農)の門を叩いて今日に至ります。

 

Q2. もし化学者でなかったら、何になりたいですか?またその理由は?

30歳を過ぎてから、小説を読む楽しさに目覚めて、一時期は年間300冊近く読んでいました。文筆業も楽しいかも知れませんね。その意味では、故カール・ジェラシー先生(スタンフォード大、小説も出版)に憧れます。

 

Q3. 現在、どんな研究をされていますか?また、どのように展開していきたいですか?

現在の研究は、「植物生物活性天然物のケミカルバイオロジー」といった内容かと思います。生物活性天然物をつかって、植物の生物現象を解明・制御することを目指しています。植物と動物は全く異なる生き物と言っても過言ではありません。特に、モデル植物以外の植物が示すユニークな生物現象には、まだまだ新発見の種が眠っていると思っています。化合物からスタートすることで、驚くような未知の分子機構を見つけられたら最高だろうと思います。

また現在、食糧増産が全人類的課題となっています。植物科学では、これまでの基礎研究成果の実用化による「夢」の実現、例えば、厳しい環境下でも栽培可能な植物の開発や病害耐性の強化などが期待されています。しかし、モデル植物と異なり、作物などの実用植物を含む大部分の植物では遺伝子改変が事実上不可能に近いため、これまでの遺伝学研究成果の実用化は難しい局面を迎えています。しかし、モデル植物の遺伝学的研究成果から、例えば受容体の機能を制御するアゴニストやアンタゴニストなどの「化合物」を開発することができれば、非モデル植物にも「効く」植物生長調節剤を開発でき、上記のような夢も実現可能になるはずです。

ほ乳類の研究では、医薬品という大きな利益を持つ応用があるため、遺伝学的研究にリードされて化合物を使う化学的研究も協奏的に発展した側面があります。一方で植物では、遺伝学的研究が圧倒的に先行しており、化学的側面の研究は著しく遅れています。化学者にとって、植物科学は未踏のフロンティアでもあると思っています。

zu

 

Q4. あなたがもし歴史上の人物と夕食を共にすることができたら誰と?またその理由は?

なんといってもチャールズ・ダーウィンでしょう。130年以上経っても未だに頻繁に引用される論文(当時は著書の形式で出版)を書き、人々のイマジネーションを刺激する成果には圧倒的なオリジナリティーがあります。彼の観察眼と思考能力の秘密の一端でも知ることができれば、今更ながら人生が変わるかも知れません。

あとは、ご存命のうちに田伏岩夫先生(京大工)とお話ししてみたかったです。

Charles Darwin

Charles Darwin

 

Q5. あなたが最後に研究室で実験を行ったのはいつですか?また、その内容は?

実験ノートによると、33歳頃に、ネムノキの就眠物質ジャスモン酸グルコシドを単離構造決定したのが最後の実験です。分離初期の吸着クロマト(オープンカラム)では、ジャーッと流して、モノの前、モノ画分、モノの後ろ、と3フラクションだけに分離するという粗い実験をしてスピードを稼ぎました。大量の雑務と授業をこなしつつ実験をしたためですが、学生さんには真似させられないですね。あのころは楽しかったです。

 

Q6. もしあなたが砂漠の島に取り残されたら、どんな本や音楽が必要ですか?1つだけ答えてください。

本は直ぐに読み終わっちゃうので、音楽が良いかも知れません。70−80年代の懐メロのような、心にしみる良い歌詞の「歌謡曲」が入った全集が良いです。日本語をキレイに聞かせる歌詞と心を乗せて歌う歌手の組み合わせが最高に良いです。

 

Q7. 次にインタビューをして欲しい人を紹介してください。

ほぼ同世代で面白そうなのは、上杉志成先生(京大)、西川俊夫先生(名大)、菊地和也先生(阪大)、東原和成先生(東大)、井上将行先生(東大)、などでしょうか。

 

上田実教授の経歴

Minoru_Ueda

東北大学大学院理学系研究科 教授。専門は有機合成化学、天然物化学、ケミカルバイオロジー。

1989年甲南大学理学部卒業後、名古屋大学大学院農学研究科に進学。1995年に博士(農学)取得、のち慶應義塾大学理工学部助手に着任。2001年同大学理工学部助教授にて独立講座を主宰。2004年より現職。新学術領域研究「天然物ケミカルバイオロジー:分子標的と活性制御」領域代表者(2011年-2014年)を兼務。日本化学会若い世代の特別講演会表彰(1998年)、日本化学会進歩賞(2000年)、読売テクノフォーラム・ゴールドメダル賞(2003年)、植物化学調節学会賞(2013年)を受賞。

 

The following two tabs change content below.
cosine

cosine

博士(薬学)。Chem-Station副代表。現在国立大学教員として勤務中。専門は有機合成化学、主に触媒開発研究。 関心ある学問領域は三つ。すなわち、世界を創造する化学、世界を拡張させる情報科学、世界を世界たらしめる認知科学。 素晴らしければ何でも良い。どうでも良いことは心底どうでも良い。興味・趣味は様々だが、そのほとんどがメジャー地位を獲得してなさそうなのは仕様。

関連記事

  1. インタビューリンクー住化廣瀬社長、旭化成藤原社長
  2. 第33回「セレンディピティを計画的に創出する」合田圭介 教授
  3. 第九回 均一系触媒で石油化学に変革を目指すー山下誠講師
  4. 第四回 期待したいものを創りだすー村橋哲郎教授
  5. 第27回 「有機化学と光化学で人工光合成に挑戦」今堀 博 教授
  6. 第16回 教科書が変わる心躍る研究を目指すー野崎京子教授
  7. 第37回 糖・タンパク質の化学から生物学まで―Ben Davis…
  8. 第21回 バイオインフォ-マティクスによる創薬 – …

コメント、感想はこちらへ

注目情報

ピックアップ記事

  1. トリメチルロック trimethyl lock
  2. ステッター反応 Stetter reaction
  3. PACIFICHEM2010に参加してきました!④
  4. ヨアヒム・ザウアー Joachim Sauer
  5. スコット・ミラー Scott J. Miller
  6. ベンジジン転位 Benzidine Rearrangement
  7. 米ファイザーの第2・四半期は特別利益で純利益が増加、売上高は+1%
  8. ミドリムシでインフルエンザ症状を緩和?
  9. SDFって何?~化合物の表記法~
  10. トラウベ プリン合成 Traube Purin Synthesis

関連商品

注目情報

注目情報

最新記事

NMRの基礎知識【測定・解析編】

本シリーズでは、NMRの原理から実例までをできるだけ分かりやすくご紹介したいと思います。前回の【原理…

「人工知能時代」と人間の仕事

デジタル技術の進歩は著しく、特に、人工知能(AI)と呼ばれる機械学習システムの進歩は、世界の労働者の…

特定の刺激でタンパク質放出速度を制御できるスマート超分子ヒドロゲルの開発

第134回のスポットライトリサーチは、京都大学大学院 工学研究科 合成·生物化学専攻 浜地研究室の重…

有機合成化学協会誌2018年1月号:光学活性イミダゾリジン含有ピンサー金属錯体・直截カルコゲン化・インジウム触媒・曲面π構造・タンパク質チオエステル合成

有機合成化学協会が発行する有機合成化学協会誌、2018年1月号が昨日オンライン公開されました。…

アミン化合物をワンポットで簡便に合成 -新規還元的アミノ化触媒-:関東化学

アミン化合物は医薬品、農薬などの生理活性物質をはじめ、ポリマーなどの工業材料に至るまで様々な化学物質…

独自の有機不斉触媒反応を用いた (—)-himalensine Aの全合成

近年単離されたアルカロイド(—)-himalensine Aの全合成に初めて成功した。独自開発した二…

Chem-Station Twitter

PAGE TOP