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一般的な話題

工程フローからみた「どんな会社が?」~OLED関連

Tshozoです。こないだの続き、早速まいります。

今回はOLED、つまり有機EL(Organic Light Emission Diode)の工程フローに関わる国内化学系企業のリストアップが中心です。調べていくとシリコン基板などに比べ工程がまだ流動的なのですが、今後伸びていくであろう企業を紹介する未来予想図と考え書いてみました。お付き合いを。なお以前ケムステニュースでこういう有機ELに関する記事や、スポットライトリサーチでは世界のOLED研究界をリードする安達千波矢教授を紹介するこうした記事(こちらこちら)が出ていますが、今回はそのすみっこを補強する位置付けのものです。

OLED使用の一例 極めて美しい発光と、曲げたりできる形状自由度が特長
ドイツ発光材料の雄CYNORA社の発表資料より引用 リンクこちら

歴史と現状と

有機ELの発光メカニズムは一言で言うならば「発光部が有機物でできた電子からくりパチンコ」なのですが、詳細は以前青色ダイオードに関する記事で書いたので今回は割愛。このイメージを持っていただきつつ、有機EL研究の歴史を超絶ダイジェストで記載します。ソウル国立大学のChanghee Lee教授の資料[文献1]とドイツPforzheim大学のBlankenbach教授の資料[文献2]を中心に諸々編集しました。

有機ELの研究と製品の歴史 1990~2012の間で若干飛躍があるようにみえるが
実際には様々なメーカが製品化に向けて取り組んでいた

上の図で見直してみますと基本電極構成は実は60年くらい前から変わっていないのに、工業化への展開はGaN系などの無機LEDの無双っぷりと比べ若干遅れています。この理由としては、特に(照明以外の)ディスプレイ用途には色チューニングはもちろん「ナマモノ」である有機物発光体の耐久性を維持して製品に仕上げていくのになかなか目途が立たなかったためかと思われます。現時点では各社が必死に改良(焼付き、加水分解、酸化劣化、熱劣化などによる輝度低下と黒点発生の対策がメイン)して念願の製品として萌芽しつつある、という段階でしょうか。これに加え下図のように発光素子設計の工夫を通じ、製法歩留りと解像度とを天秤にかけながら各社工夫をしてきているとのことです(下図はボトム発光タイプ・Pentileというタイプは図示していません)。

小型OLEDディスプレイ用発光部 基本イメージ[文献3,4] 積層型は色フィルタ・液晶と組合せて大型パネルに使うのがメイン
発光部で効率よく電子と正孔をジャンジャンバリバリ反応させるかがカギ

蛇足ながら安達教授による最近の成果をはじめとした超高効率発光反応系(つまりTADF系)はその発光機構がこれまでのトレンドを覆すもので、このTADF系材料は漫画の賭博黙示録カイジで例えるなら「ビルを傾けて電子-正孔フィーバーを100%以上起こさせてる」くらいのインパクトがあることから早くもノーベル賞の候補者に名前が挙がっているという噂まで耳にするくらいで、一技術者としては注目せずにおられません。

完成品のキープレイヤーと工程と

ということで本件のメイン。小型タブレットまでのサイズに分野を絞ると、最終製品の製造は今のところSamsungとLGがメインを占めており推定で完成パネル出荷量の8割をSamsungが、残りをLGが、という感じ。昨年末に日本のJOLEDが印刷方式の製品出荷を開始しましたが、残念ながら分量はまだまだな状況。一方中国のBOEが生産量と新設設備への投資とでトップを狙いそうな勢いです。これ以外にも台湾AUO、米国Universal Display(ファブレス)と、プレーヤは各所に居るのですが当面は地力とスピードに勝るSamsung、LGを中心に業界が回ると考えてよいでしょう。もちろん日本のシャープやJOLEDには頑張ってもらいたいですが物量作戦で殴り合いすると総合力で負ける可能性が高いため、何らかの論理を外れた戦略が必要になる気がします。

OLEDを用いた製品群の一例 
4K有機ELも最近じゃ結構なサイズのものが~数十万円で買える

で、これらのOLED部にはどのようなメーカが関わっているか。基材(ガラス)や電極、駆動回路、保護フィルムなどは従来のパネル製造プロセスがだいたい共通して当て嵌められますが(たとえば富士電機殿が出している技報が極めてわかりやすい>>リンク)、キーになるのはやはり発光部前後の部材。工程フローの前に回答を出してしまいますが、要約すると下記のようになります。

有機EL全体の実装イメージと供給メーカ一覧[文献5] 上で示したOLED素子部分(電極~電極)に加え
全体を保持したり保護したり、光を上手く通す役割の素材もあるが今回は割愛
上記構造はボトム型という、低コストで作りやすいと言われるタイプのもの

一連の会社ロゴ 各社HPより引用

出光興産東ソー保土谷化学新日鉄住金化学東レ旭硝子JNC(旧チッソ)日本電気硝子、と、どの要素材にも日本企業が入ってて頼もしい限りで、その中でも昔から有機ELの研究開発を進めていた出光興産殿のプレゼンスが非常に大きいですね。もっとも国外だとDupontやDowが、あと意外なところでMerckが参入をして結構なシェアを取っていますし、韓国のLG Chemical、DS neoluxやDoosanなども活発にシェアを伸ばしていますから予断を許さない状況です。特に劣化とのバランスを取るのが最も難しい青色発光材料は今後の主戦場になると見込まれます。

また有機ELで大きな課題になるのが加水分解防止。発光に関わる反応(電子と正孔とのジャンバリ反応)を2.0~3.0V以上の電位で進めているということからもわかるように、そこに水が介在してもらっては困る。非常に困る。リチウムイオン電池なら設計上若干の水分が許されるケースはありますが(許されるとは言っていない)発光素子は異常がそれこそ一目でわかってしまうので、OLED素子本体への水分透過量を従来の最高レベルからさらに1/1000にしなければならないのです。ポテチが湿気るのを防ぐというレベルじゃないのはおわかりでしょう。

有機ELに求められる湿度透過レベル[文献5]

実際にはこれを防ぐために両面にガスバリア性の高いガラスが使われていますがそれでもマイクロクラックや不純物でガンガン性能が下がりますし、パネルの不備はちょっとしたレベルでも精密な人間の目でわかっちゃいますし、さてどうしよう、というところに技術開発のタネがあるわけで、各社諸々取り組んでるもよう。透湿防止という一見地味なテーマですけど先端科学分野にもつながることを改めて認識できます。というか、産業に繋がるテーマ自体が往々にしてそんなもんで、過去に捨てたり見放したものの再構築だったりしてますよね。

で、順序は逆になってしまいますがその発光部周辺の製造方法。今回はとりあえず蒸着法に注目してみていきましょう。

上記の発光部をつくる蒸着成膜法のフローと蒸着プロセス(図 右下)のイメージ[文献6] 参考にしたキャノントッキ社による説明が極めてわかりやすい(→リンク/上記の順序と若干異なります)

これが装置のイメージ[文献6] 基本的に全部真空槽

上の図のようにゲートバルブを多用しながら槽間を運搬して基材(ガラスまたはフィルム)上に材料を積層していくわけです。もちろん初期投資はかなり高く(1ブロックあたりン億円するケースもあるとか)なりますがGaNなどと共通の設備も多くこれまでの技術を応用しやすいため、現状の有機EL製造プロセスにも使用されています。これはいわゆる精密CVDパターニングに近い工程で、GaNの成膜装置で大きな存在感を発揮しているAixtronやVeeco、そしてキャノントッキなどがメインプレーヤになります。具体的には有機EL材料をガス化・又はキャリアガスと混在させてシャワーヘッドなどから基板(substrate)へ吹き付け、マスクなどを利用しパターニングしていくのですが、ナノレベルの膜厚管理も可能なことがキーポイントなのですが、蒸気圧の高い低分子材料しか使用できないことになり、歩留りは一般的にあまりよくない傾向にあります。

一方印刷法は上記のような真空設備が不要で低コスト化出来るであろう、ということで数々のメーカが開発を続けています。加えてインクを極微量塗布するのが工程の基本ですから、歩留りが比較的高いうえ、低分子材料だけでなく高分子材料も使用できることで材料の幅も広げられる特徴があります。

印刷法のイメージ[文献7] JOLEDはこちらの製法を完成させたらしい
低分子から高分子までカバーできるのが特長
厳密な真空装置が要らないのも特長だが不活性雰囲気は必要

ただこの印刷法は課題が蒸着法に比べて多いのも事実なようで、発光材料インクの表面張力によるちょっとした端部せり上がり次第で輝度状態が変わったり欲しい発光状態が得られなくなったりするため、インクの乾燥条件を厳密に管理しなければならないもよう。また1ピクセルを極めて精密に印刷しなければならないので位置決めをどう制御するのかなど、雑な産業分野に居る筆者には到底想像も及ばない技術が必要になるわけで。というか総じて品質の制御が難しそうだなぁというのが第一印象です。

一時期ディスプレイ分野で某社が喧伝されていた電界発光(SED)タイプがもてはやされた時期がありましたが、結局作りにくいことが災いし市場から退場してしまったように、製造法の選択は事業化の最後の門番たるべきケースがあるわけです。そこに集中して果たしてこれらの問題を解決し得るのか。量産化技術はどんなに精密な分野でも「雑」な要素を持っていなければ市場に出ていけないというのが筆者の持論ですが・・・とはいえそうした障壁を乗り越えれば多くの応用先が待っているのは事実ですので、ここは技術者各位のガンバリを期待しましょう。

今後の課題と動向と

上記のように材料分野は欧州勢と日本勢を含むアジア勢の殴り合いが始まっています。特に液晶パネルで後塵を拝した欧州勢は有機ELの根幹材料をおさえて価格交渉権をコントロールしたいのでしょう。しかし現実では2017年時点ではアジア勢が大きなプレゼンスを持っており、こうした精密アセンブリ産業はプライベートや生活を無視したモーレツ系開発部隊&品質管理部隊がより多く準備出来てしまう文化に基づいてしか支配できないのかもしれません。

こうした中での台風の目は、九州大学発のベンチャー”Kyulux”(コチラ)。発足後わずか1年弱ですが、長瀬産業などが合計で20億円ぶっこむというお化けベンチャーで、大学発では製薬のペプチドリーム以来の大型案件かもしれません。こうした衆目を集めるプレーヤがまだまだ出てくる可能性があり、最終的には今回挙げたメーカ模様は益々混乱しつつ発展をしていくものと思われます。その材料の根っこを押さえられるかどうかが化学系企業の生死を分けるのですから、各社の取組には凄みがあります。ドイツのCENORAも、今後の課題となるであろう青色TADF材料に集中した開発を進めていることを発表していますし。LEDで日亜化学がメインプレーヤになったような産業モデルは果たして成り立つのでしょうか。

ただ、こうした結果材料の供給元になれたとしてもムチャな値下げ要求とムチャな品質要求が相次ぎ、その結果工場や技術者がひたすらシバかれて現場が疲弊するという、液晶とかプラズマで発生した光景がもう一回繰り返されることになってしまわないかなぁと危惧しています。誤解を恐れずに書くとこうしたガジェット製品は「あったら便利だがなくても死なない」製品であり、過剰なコスト競争に巻き込まれるのが予想されてしまうわけで、もう少しこう人間のサガに合った発展の仕方というのは無いもんかなぁと・・・。科学技術が発展した末に人間が機械化するというのはドイツの古典映画「メトロポリス」でも既に予言されていましたが、それを地で行くようなことにはなってほしくないと切に願う次第です。というかもうとっくの昔からそうかもしれんですけどね。

一方、個人的にはOLEDに対し以前は「綺麗で画面が曲がるのの何が嬉しいの?」という狭い思考で見ていたのですが、やはり実際に家電量販店でディスプレイを見てみるとその画像は予想以上に美しく、「どこまで画質が綺麗なものが要求されるのか」というニーズに限りは無いのだと実感しました。モノを観ないで自分のように薄っぺらな思考でその影響力を見積もるのはやはり早計であり、思いもかけない部分で新ニーズが発掘されることも有り得るのを期待した方がよさそうですね。

それでは今回はこんなところで。次回は「タイヤ」を採り上げることにしてみましょう。

参考文献

[1] “Organic Semiconductor”, Soeul National Univ. Prof. Changhee Lee リンク
[2] “Organic Light Emitting Diodes”, Pforzheim University, Prof. Karlheinz Blankenbach リンク
[3]”The rise of OLED displays”, ACS(C&EN)の特集記事(もともとはUniversal Displayの資料とのこと) リンク
[4]”Vertically-stacked polychromatic OLED and three-dimensionally integrated organic electronics enabled by the technology”,
コニカミノルタ社 辻村隆俊殿, IDW 2017発表資料,  リンク
[5]”OLED AND THIN-FILM ENCAPSULATION TECHNOLOGIES FOR MICRODISPLAYS”, Tony Maindron, CEA, PFEC, February, 2017 リンク
[6] “AMOLED device history and materials market analysis and development trends”, IHS Markit, 2016 リンク
[7] “Advanced Inkjet Printing: Enabling the OLED Revolution”, NCCAVS Thin Film Users Group (TFUG) Meeting,
September 28, 2017, Kateeva社によるプレゼンテーション, リンク

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Tshozo

Tshozo

メーカ開発経験者(電気)。56歳。コンピュータを電算機と呼ぶ程度の老人。クラウジウスの論文から化学の世界に入る。ショーペンハウアーが嫌い。

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