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スポットライトリサーチ

世界初の有機蓄光

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第128回のスポットライトリサーチは、九州大学 最先端有機光エレクトロニクス研究センター(OPERA)の嘉部量太(かべ りょうた)助教にお願いしました。

嘉部先生の所属する最先端有機光エレクトロニクス研究センターは有機半導体デバイスの分野で世界を牽引している研究室の一つで、現在も強力に研究を推進されています。

近年様々な応用展開が進められている有機半導体デバイスですが、中でも長時間の励起状態の安定化が必須である“蓄光デバイス”は実現が難しいと考えられるデバイスの一つでした。今回紹介していただける内容は、そんな有機蓄光デバイスを極めてシンプルな系で達成した報告です。有機電子材料の可能性の新たな一ページを開いた素晴らしい成果で、Nature本誌に掲載されています。九州大学JST日経新聞と複数のメディアからのプレスリリースもされています。

“Organic long persistent luminescence”
Ryota Kabe & Chihaya Adachi
Nature, 2017, 550, 384−387. DOI: 10.1038/nature24010

筆者(spectol21)はタイトルの短い論文に憧れを持っています。なぜならそれだけシンプルに新しさを言える独創的な成果であることを示しているからです。その意味でも、今回の論文は目にした瞬間に感激しました!

安達千波矢教授からは嘉部先生と本研究成果について以下のようにコメントをいただいています。

嘉部量太さんの研究のバックグランドは“錯体化学”ですが、大学院の時から有機光エレクトロニクスの研究分野にも強い興味を持ち、これまでに、デバイスプロセスから光・電子物性解析まで幅広い知見と経験を身につけてきました。まさに、化学と物理の融合分野を開拓できる新進気鋭の研究者です。有機長寿命発光デバイスは、平田修造さん(現在、東工大助教)の強固な固体マトリックス中における熱失活抑制型(第一世代)からスタートし、今回、嘉部さんが中心となって開拓した電荷分離型(第二世代)へと進展してきました。OPERAでの異なる視点の研究者の集積と嘉部さんの蓄光デバイスへの熱い情熱が今回のデバイスを可能にしたと思います。今後、更なる研究展開も期待でき、多くの若い研究者がこの分野に参入して頂くことを期待しています!

それでは、嘉部先生からの熱いメッセージをご覧ください!

Q1. 今回のプレスリリース対象となったのはどのような研究ですか?

有機物の長寿命電荷分離状態を利用することで、室温で1時間に渡る長時間発光を有機分子のみで実現した研究です。

蓄光材料は光エネルギーを蓄積し、徐々に発光するという特性から、電源を必要としない光源として、非常誘導灯や時計の文字盤などに利用されています。これまでに実用化されている蓄光材料は全て無機材料で構成されており、特に高性能な蓄光材料にはレアメタルを添加する必要があります。また、1000度を超える温度での焼成なことや、焼成後は溶けなくなるため、微細化・分散化といった工程が必要となります。

一方、我々が見出した有機蓄光は単純な2つ有機化合物を混合するだけで実現できるため、上記のような問題点を解決できます。この有機蓄光システムは、1%の電子ドナー分子TMBと99%の電子アクセプター分子PPTで構成されています。この有機蓄光システムに光を当てると、励起状態で電子ドナーから電子アクセプターへの電荷移動が生じます。電荷移動によってアクセプター上に形成されたラジカルアニオンは、近接したアクセプター分子へと移動していくことで、電荷分離状態が形成されます。このように光を吸収し、ドナー・アクセプター界面で電荷分離が生じるメカニズムは有機太陽電池で報告されているメカニズムと同様です。

しかし、有機蓄光システムが有機太陽電池と異なるのは、電荷が行き着く電極が無いだけでなく、この電荷分離状態がアクセプター分子によって非常に安定化されている点です。この電荷分離状態は室温でも安定に存在でき、拡散の過程で再びドナー・アクセプター界面へと戻り、再結合によって励起状態が再び形成されます。このドナー・アクセプター2分子で形成される励起状態は励起状態錯体(エキサイプレックス)と呼ばれ、ドナー分子、アクセプター分子自体に比べて長波長の発光を示すことが知られています。このように電荷再結合によって発光する過程は有機ELに類似しています。実際、エキサイプレックスの発光は熱活性型遅延蛍光(Thermally Assisted Delayed Fluorescence:TADF)を示し、有機EL中で電荷再結合によって生成した三重項励起子を効率的に発光へと変換できることも我々の研究室で報告しています [1]。

このように光エネルギーを一度、電荷分離状態に変換して蓄積、その後再結合により励起状態に戻すことで、長時間発光を実現しています。この場合、電荷の再結合過程が律速となるため、有機蓄光の発光減衰は指数関数的減少を示さず、発光強度と時間を両対数グラフにプロットした時に傾きが約−1となるような減衰を示します。蓄光という分かりやすい現象だけでなく、室温で安定な電荷分離状態を簡単に実現できたことが本研究において重要な点です。

図:有機蓄光の発光メカニズムと発光の時間減衰

Q2. 本研究テーマについて、自分なりに工夫したところ、思い入れがあるところを教えてください。

電荷分離状態にエネルギーを蓄積して発光時間を長くするというアイディア自体はERATOのプロジェクトがスタートした3年前からあったのですが、それをどうやって実現するかの具体的な戦略はありませんでした。

ですが、最終的には励起状態から発光することは間違いないので、まずは励起状態からの非放射失活を低減する手法について取り組みました。こういった非放射失活低減に関する研究は、古くは高分子材料であるポリメタクリル酸メチルを用いて、近年ではステロイド誘導体などを用いた報告がなされています。特に、平田修造先生(東京工業大学)によって多くのユニークな特性が報告されているほか、非常に詳しく解説されています [2]。

しかし、既存のこういった非放射失活低減可能な媒体は電気的に絶縁体であり、有機ELや有機太陽電池など三重項励起子が生成する有機半導体デバイスでは利用できませんでした。そこで我々は有機半導体材料についても、こういった考えを拡張できないかと研究を進めてきました。その過程で現在、社会人博士課程の能塚直人くんが、有機半導体材料においてもホスト媒体への熱的なエネルギー移動パスを遮断すれば、同様に非放射失活が抑制可能であることを見出してくれました [3]。

ここに電荷分離・再結合機構を組み込むことができれば励起状態では実現不可能な長時間発光が実現できると考え、電荷分離可能な分子を組み込んだり、複数の分子を添加した系を構築したりと、複雑な系を色々試したのですが、全く成果が得られませんでした。最終的にはセレンディピティや、徳丸克己先生とのディスカッション、山本雅英先生・大北英生先生ら(京都大学)の先駆的なポリマー中における2光子イオン化の研究論文 [4] に助けられ、今回の発表のような非常にシンプルな2分子系に行き着きました(セレンディピティの内容についてはまだ論文化出来ていない内容のため、ここでは割愛させてください)。

Q3. 研究テーマの難しかったところはどこですか?またそれをどのように乗り越えましたか?

通常、励起状態や発光過程は指数関数的減少を示すため、寿命(強度が1/eになるまでの時間)で論議されるのですが、今回の有機蓄光システムは電荷分離状態からの再結合過程が律速であるため、指数関数的減少を示しません。このため単純に発光寿命のような分かりやすい指標で比較することが出来ず、現在も蓄光を評価するのに適した指標を模索している段階です。

また、分光分析装置や過渡発光評価装置は市販されているものも多くありますが、励起光を蓄積し長時間発光する(励起強度だけでなく、励起時間によって発光が変化する)といった現象を考慮していないため、今回のような有機蓄光システムでは利用できず、評価系を構築することから始める必要がありました。

Q4. 将来は化学とどう関わっていきたいですか?

常に0から1にチャレンジする研究に取り組んでいきたいと考えています。

Q5. 最後に、読者の皆さんにメッセージをお願いします。

本研究では有機物の新しい発光メカニズムを提唱しましたが、実際に行ったことは、単純な既知化合物2つを混ぜて、発光を観測しただけです。その発光メカニズムも、わかってしまえば誰でも想像できた範囲であると思います。

当初は複雑な系ばかりを考えていましたが、最終的には電子ドナーと電子アクセプターを混ぜるという非常にシンプル・古典的な系に行き着きました。有機強誘電体(クロコン酸)[5] や有機超弾性体(テレフタラミド)[6] などシンプルな分子がユニークな機能を示す例もたくさん報告されていますし、我々が見落としているだけで、少し観点を変えてみるだけでも身近に新しい発見があるのではないでしょうか

最後になりますが、素晴らしい研究環境とご指導を頂いている安達千波矢教授、多大なご助言を頂いたERATOアドバイザーの徳丸克己先生、小谷正博先生、雀部博之先生にこの場を借りて感謝申し上げます。

参考文献

  1. Goushi, K. Yoshida, K. Sato, C. Adachi, Nat. Photonics 2012, 6, 253. DOI: 10.1038/nphoton.2012.31
  2. S. Hirata, Adv. Opt. Mater. 2017, 5, 1700116. DOI: 10.1002/adom.201700116
  3. N. Notsuka, R. Kabe, K. Goushi, C. Adachi, Adv. Funct. Mater. 2017, 27, 1703902. DOI: 10.1002/adfm.201703902
  4.  H. Ohkita, W. Sakai, A. Tsuchida, M. Yamamoto, Macromolecules 1997, 30, 5376. DOI: 10.1021/ma970585q
  5.  S. Horiuchi, Y. Tokunaga, G. Giovannetti, S. Picozzi, H. Itoh, R. Shimano, R. Kumai, Y. Tokura, Nature 2010, 463, 789. DOI: 10.1038/nature08731
  6.  S. Takamizawa, Y. Miyamoto, Angew. Chem., Int. Ed. 2014, 53, 6970. DOI: 10.1002/ange.201311014

関連リンク

研究者の略歴

嘉部 量太(かべ りょうた)

所属:九州大学 最先端有機光エレクトロニクス研究センター(OPERA)

略歴:
2005/03 関西大学 卒業(山内脩教授)
2007/03 大阪大学 博士前期課程修了(福住俊一 教授・小江誠司 助教授)
2008/04 – 2010/03 日本学術振興会特別研究員(DC2)
2009/08 – 2009/11 University of Southern California 客員研究員(Prof. M. E. Thompson)
2010/03 九州大学 博士後期課修了(小江誠司 教授・安達千波矢 教授)
2010/04 – 2011/03 Bowling Green State University 博士研究員(Prof. P. Anzenbacher Jr.)
2011/04 – 2014/01 日本学術振興会特別研究員(PD)
2011/04 – 2012/08 Max Planck Institute for Polymer Research 客員研究員(Prof. K. Müllen)
2014/02 – 現在 九州大学 最先端有機光エレクトロニクス研究センター 助教
JST ERATO 安達分子エキシトン工学プロジェクト グループリーダー

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ニューヨークでポスドクやってました。今は旧帝大JK。専門は超高速レーザー分光で、分子集合体の電子ダイナミクスや、有機固体と無機固体の境界、化学反応の実時間観測に特に興味を持っています。

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