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化学者のつぶやき

「有機合成と生化学を組み合わせた統合的研究」スイス連邦工科大学チューリヒ校・Bode研より

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「ケムステ海外研究記」の第6回目は、志村聡美さんにお願いしました。志村さんは現在、スイス連邦工科大学チューリヒ校・Bode研でポスドクとしてご活躍されています。今回、共通の知り合いの方の紹介を通じて、海外研究記を書いていただくことになりました。このように、本記事を通じてだんだんと若手研究者のコミュニティの輪を広げていきたいものです。

さて、それでは今回も留学研究記をお楽しみください。

Q1. 現在、どんな研究をしていますか?

Bode group では有機合成化学を中心に、新規反応開発、有機化合物・タンパク質・タンパク質複合体の化学合成、ケミカルバイオロジー研究等が行われております。

私の研究テーマは SUMO タンパク質プローブの合成と、それを用いた SUMO タンパク質の新たな標的同定です。 SUMO (small ubiquitin-related modifier) は翻訳後修飾に関与するタンパク質です。SUMO 化修飾はタンパク質の安定化や分解、転写、 DNA 修復等、様々な細胞制御機構を調節し、その制御破綻は癌や神経疾患等、多様な疾患の原因となります。SUMO 化修飾は細胞増殖やストレス等によって変化することが明らかとなっており、SUMO による翻訳後修飾機構の解明は将来の疾患治療に貢献することが期待されます。

当研究室ではこれまでに、SUMO タンパク質プローブの化学合成を行いました。SUMO タンパク質を 3 つのセグメントに分割し、それぞれを固相合成法により合成します。プローブとしての機能を付加するため、 N 末端にはビオチンと蛍光色素を導入しました。合成したセグメントを Bode group で開発された KAHA ligation により縮合し、SUMO タンパク質プローブを合成しました。現在、SUMO プローブを培養細胞に作用させ、ビオチンアフィニティー精製を行い、プロテオミクス解析により SUMO プローブが結合したタンパク質の同定を行っております。今後、紫外線照射やウイルス感染等のストレスを細胞に与え、特定のストレス条件下で SUMO 化修飾を受けるタンパク質を同定する予定です。SUMO による翻訳後修飾機構の一端を解明し、細胞機能制御の理解に貢献したいと思っております。

志村聡美fig1

Bode group で開発されたライゲーション反応

志村聡美fig2

SUMO3 probe の化学合成

Q2. なぜ日本ではなく、海外で研究を行う(続ける)選択をしたのですか? 

現在所属する Bode group なら、自分の目指す研究を行うことができるのではないかと思い、ポスドクとして応募しました。学生の頃から環状ペプチド化合物の全合成や活性評価、その標的探索等、ペプチド性化合物に関する研究に携わってきました。私の研究目標は、自らデザイン、合成した化合物を用いて生命現象の一端を解明することです。そのためには、有機合成化学的研究と分子生物学的研究を同時に行う必要があります。初めて Jeff に会った時、「タンパク質の全合成とその後のケミカルバイオロジー研究をしたい」と掛け合ったところ、面接を受けることになり、晴れてポスドクとして受け入れて頂くことになりました。最初は何かと苦労しましたが、実際に今は有機合成と生物実験の両方を行い、プロジェクトを進めております。とても恵まれた環境にいると思うので、この機会を無駄にせず良い研究成果を発表できるよう尽力したいと思います。

Jefferey Bode教授

Jeffrey Bode教授

Q3. 研究留学経験を通じて、良かったこと・悪かったことをそれぞれ教えてください。

留学して良かったと思うのは、様々な国籍の友人ができたことです。母国語を共有せずとも、一緒に余暇を楽しんだり、リラックスしたり、悩みを打ち明けたり相談したりと、信頼できる大切な友人ができました。多様なバックグラウンドを持つ友人と過ごすことで、新たな視点や価値観を学ぶことができました。世界中どこにいても、ずっと友人でいたいと思える人に出会えたことは私の貴重な財産です。

留学して悪かったことですが、日本語の表現力が低下したことです。何かを伝えようとする時、単語によっては英語が先に出てきます。それを日本語に変換しようとすると、適切な単語に辿り着くまで時間がかかるようになりました。

BBQ party の際の写真

BBQ party の際の写真

Q4. 現地の人々や、所属研究室の雰囲気はどうですか?

研究室の雰囲気は日本の研究室に共通するものがあります。他の分野はわかりませんが、有機合成の研究室は国が違っても同じような空気を大なり小なり持っているのではないかと思います。ただ、私が所属する研究室は 8 割以上の人がスイス国外から来ており、外国で暮らす苦労を理解できるのでお互いをより気遣っている気がします。

現地の人々は基本的に親切です。ヨーロッパの他の国と比べるとスイス人はドライとか、冷たいと言われますが、日本人から見ると普通です。時間に正確で、規則を遵守する厳格な気風も感じます。

Q5. 渡航前に念入りに準備したこと、現地で困ったことを教えてください。

渡航前に念入りに準備したことは特にありません。ただ、現地の言葉 (チューリッヒはドイツ語) をもう少し勉強しておけば良かったかもしれないと思いました。現地で困るのは、やはり言葉が通じない時です。チューリッヒの中心部や ETH の中では基本的に英語が通じますが、少し郊外に出ると英語が全く通じないことも多々あります。些細なことですが、スーパー等での買い物や、ちょっと道を聞く時など、ドイツ語を話せればもっとスムーズに生活できるかな、と思います。こちらに来てからドイツ語の勉強を始めましたが、英語で事足りることが多いので、なかなか上達しません。

Q6. 海外経験を、将来どのように活かしていきたいですか?

母国語でない言葉で会話していると、どうしても自分の伝えたいことをうまく表現できないことがあります。生まれ育った環境が異なる人と接していれば、些細なことで摩擦が生じたり、譲れないことが出てきたりします。それでも、真摯な態度で物事に取り組むことで、お互いの主張を理解し合い、助け合いながら物事を進められるようになりました。口論をするほど意見を交わした相手とは、それを乗り越えて良い友人になれました。当たり前のことかもしれませんが、人と協力して物事を進めていく上で重要なことを、海外生活で再認識できた気がします。これからも多くの人と協力関係を築き、面白い研究に携わっていきたいと思います。

仲の良い友人とは喧嘩する日もありますが、週末ハイキングに出かける日もあります。

志村聡美fig4

Q7. 最後に、日本の読者の方々にメッセージをお願いします。

 ETH に来て実感したのは、研究設備が整っていること、スケールが大きいことです。その分、日本の繊細さはありませんが、この恵まれた環境でしか実現できない研究を行っているグループがたくさんあります。興味深い研究に接すると好奇心が刺激され、自分ももっと面白い研究をしたくなります。

海外生活はもちろん苦労しますし、日本が恋しくなることもありますが、それも含めて良い経験だと思います。海外生活を経験しないと学べないことがたくさんありますし、それによって得られるものは非常に大きいと思います。

何でもいいからとにかく留学するべきとは思いません。ただ、もし魅力的な海外の研究室を発見して、自分もそこに参加したいと思えたら、留学を検討してみてはいかがでしょうか。成長できるというか、少なくとも逞しくなる気がします。

参考資料

研究者の略歴

志村聡美fig5名前:志村聡美

所属:ETH Zürich, Departments Chemie und Angewandte Biowissenschaften, Laboratorium für Organische Chemie, Bode Research group

研究テーマ:SUMO タンパク質の化学合成とその新規標的タンパク質の同定

海外留学歴:1年 4 ヶ月

Orthogonene

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有機合成を専門にするシカゴ大学化学科PhD3年生です。
趣味はスポーツ(器械体操・筋トレ・ランニング)と読書です。
ゆくゆくはアメリカで教授になって活躍するため、日々精進中です。

http://donggroup-sites.uchicago.edu/

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