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スポットライトリサーチ

水素製造に太陽光エネルギーを活用 -エタノールから水素を獲得し水素ガスを発生する有機化合物を開発-

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第297回のスポットライトリサーチは、京都大学大学院 工学研究科(村上研究室)・釜江 祥希さんにお願いしました。

水素は次世代のクリーンエネルギーとして注目を集めており、太陽光エネルギーから水素へと転換・貯蔵するための技術は魅力の大きな技術です。今回取り上げる研究では、よく知られたベンゾフェノン型有機光触媒を用い、エタノールを水素キャリアとして用いる光化学系の開発に成功しました。J. Am. Chem. Soc.誌 原著論文、同誌Spotlightプレスリリースとして公開されています。

“Sustainable System for Hydrogenation Exploiting Energy Derived from Solar Light”
Ishida, N.; Kamae, Y.; Ishizu, K.; Kamino, Y.; Naruse, H.; Murakami, M. J. Am. Chem. Soc. 2021, 143, 2217–2220. doi:10.1021/jacs.0c13332

現場で研究を指揮されました石田直樹 講師から、釜江さんについて以下のコメントを頂いています。今回も現場のリアリティをお楽しみください!

釜江くんは常に冷静で、合理的な判断ができる人物です。目標を決めると、そこに向かって効率よく結果を積み上げて、着実に研究を進めてくれます。困難なことがあっても、さらりと解決してくれるので、もはや、教員(指導者)と学生というよりは、対等な研究者のように感じます。来年度からは化学企業に籍を移しますが、そこでも活躍することを確信しています。

Q1. 今回プレスリリースとなったのはどんな研究ですか?簡単にご説明ください。

水素(H2)はクリーンな次世代のエネルギー源として期待されているほか、医薬品や香料の合成にも用いられています。市販されている水素の90%以上は化石資源を原料として合成されていますが、持続可能性の観点から、再生可能な資源を利用する技術へと置き換えることが求められています。例えば、エタノールはバイオマスの発酵によって作られる再生可能な資源です。今回の研究では、水素キャリアとして働く有機化合物(1,2-ジオール)を開発しました。この水素キャリアは、太陽光のエネルギーを駆動力として、エタノールを水素源として利用して合成・再生できます。この水素キャリアを用いることにより、水素を製造したり、有機化合物を水素化したりできます。

図1. 太陽光を利用するエタノールからの水素取り込み反応

図2. 1,2-ジオールを利用したアルケンの水素化反応

Q2. 本研究テーマについて、自分なりに工夫したところ、思い入れがあるところを教えてください。

以前の研究では、エルレンマイヤーフラスコと集光装置を用いて1,2-ジオールの合成を行っていましたが、反応効率と利便性を向上するためビニール袋を反応容器として利用することを試みました。当初は反応が完全に進行しないなどの問題がありましたが、食品の保存に用いられるハイバリア性のビニール袋を使用したり、脱気手法を改善したりと試行錯誤を重ねた結果、再現性のある実験手順を確立することができ、そのときの達成感は格別でした。


図3. 実験の様子(上)エルレンマイヤーフラスコを用いた場合(下)ビニール袋を用いた場合

Q3. 研究テーマの難しかったところはどこですか?またそれをどのように乗り越えましたか?

生成物の単離です。水素化反応の終了後、水素化生成物と副生する大量のケトンを分離する必要があります。最初はケトンとしてキサントンを用い、生成物をカラムクロマトグラフィーによって単離していたのですが、基質によってはこの方法が困難であることが判明しました。そこで、ケトンをアザキサントンに変更し、酸抽出によって分離できるようにしました。これにより、カラムで単離できなかった基質も単離できるようになっただけでなく、他の基質においてもカラムの必要がなくなり、反応がより簡便になりました。

図4. 水素化生成物の単離とアザキサントンの回収及び再利用

Q4. 将来は化学とどう関わっていきたいですか?

大学での研究も魅力的でしたが、画期的な製品や素材を開発して世界中の人に使ってもらいたいという夢があり、化学メーカーに就職することを決めました。研究室で培った知識と経験を活かして、人々の生活を豊かにするような仕事をしたいです。

Q5. 最後に、読者の皆さんにメッセージをお願いします。

日頃から楽しく拝読していたChem-Stationに、まさか自分に寄稿の機会を頂けるとは考えておりませんでした。貴重な経験を頂き感謝申し上げます。
今回の研究成果は、ラボのメンバーを始め、多くの方の支えによって実現したものです。実験が上手く行かない理由がわからないときや、悩んでも次の手が思いつかないとき、先生やラボのメンバーに相談すると思いがけない解決策を提示してくださることが多々ありました。一人で抱え込まず相談することの大切さを学ぶとともに、私自身も相談してくれた人によい助言ができる頼もしい存在になろうと強く思いました。
最後にこの場をお借りして日頃よりご指導くださった村上先生、石田先生をはじめとする研究室メンバーの皆様に深く感謝申し上げます。

研究者の略歴

名前:釜江 祥希(かまえ よしき)
所属:京都大学大学院 工学研究科 合成・生物化学専攻 村上研究室 修士課程
研究テーマ:光エネルギーを利用する水素化反応の開発

cosine

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博士(薬学)。Chem-Station副代表。現在国立大学教員として勤務中。専門は有機合成化学、主に触媒開発研究。
関心ある学問領域は三つ。すなわち、世界を創造する化学、世界を拡張させる情報科学、世界を世界たらしめる認知科学。
素晴らしければ何でも良い。どうでも良いことは心底どうでも良い。興味・趣味は様々だが、そのほとんどがメジャー地位を獲得してなさそうなのは仕様。

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