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一般的な話題

鉄触媒反応へのお誘い ~クロスカップリング反応を中心に~

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はじめに

パラジウムなどのレアメタルを触媒としたカップリング反応は、有機EL材料、医農薬、半導体材料など、私たちの生活に重要な多くの素材の製造に利用されています。しかし、レアメタルは地政学的な状況から、安定供給や価格安定性の課題があります。弊社、株式会社TSKは、鉄を触媒とする反応を京都大学化学研究所中村研究室とともに活用し、独自の材料開発を進めている京都大学発スタートアップです。鉄は、地球上の金属資源として極めて豊富にあるため枯渇のリスクがなく、安価(パラジウム比 104,000分の1)な資源です。

このような金属資源としてのメリットに加え、鉄触媒ならではの、鉄触媒が得意な反応も存在します。本記事では、鉄触媒反応の実施例を交えながら、どのように確立に至ったのか、どのようなメリットや用途があるのかをご紹介します。
鉄触媒によるクロスカップリング反応は、1970年頃に初めて報告されましたが、選択性と収率が悪く「鉄触媒は反応制御が困難」とされてきました。一方、ニッケルまたはパラジウムを触媒としたクロスカップリング反応は研究開発が急速に進展し、すでに広く実用化されています。
弊社取締役CTOの中村正治教授(京都大学・化学研究所)は、鉄触媒反応のカギとなる「電子・スピン状態の制御」を確立することにより、従来は制御が困難とされてきた鉄触媒反応の実用化に向けた道を拓きました。2000年、鉄触媒による不斉カルボメタル化反応に端を発して、C-Nカップリング、C-Hアミノ化などの反応を実現しています。

反応事例紹介

No. 1 Iron-Catalyzed Buchwald-Hartwig Amination
ジアリールアミン類の合成にも応用可能であり、非対称型のトリアリールアミン類が簡便に合成できます。

No. 2  Iron-Catalyzed Chemoselective Amination

No. 3  Iron-Catalyzed Coupling for Asymmetric Bis(1,2-diarylamino)benzene
従前困難であった異なるアリール基を位置選択的に導入した非対称オルトフェニレンジアミン類が簡便に合成できます。

No.4 Iron-Catalyzed C-H Amination for 5,10-Diaryl-5,10-dihydrophenazine
分子内C-Hアミノ化反応による環化反応を起こし、正孔注入材料となるジヒドロフェナジン化合物を単純なアニリン誘導体から短工程で合成できます。

No. 5 Iron-Catalyzed C-F Arylation for 5,10-Diaryl-5,10-dihydrophenazine 

No.6 Iron-Catalyzed Kumada-Tamao-Corriu Coupling
従前の鉄触媒ではホモカップリング反応が競合しますが、フッ化物イオンとNHC配位子を組み合わせて用いることにより、高いクロスカップリング選択性が発現します。

No.7 Iron-Bisphosphine Complex-Catalyzed Cross Coupling of Alkyl Halides

FeCl2(SciOPP)錯体は、アリールGrignard反応剤と種々のハロゲン化アルキルとのクロスカップリング反応の良い触媒となります。

No.8 Iron-Catalyzed Enantioselective Carbometalation Reaction

光学活性ビスホスフィン配位子(BINAP)とアキラルなキレートジアミン(TMEDA)の混合配位子系により、鉄触媒による不斉カルボメタル化反応を実現できます。

No.9 Iron-Catalyzed Alkyl Halide Coupling Reaction

キレートジアミン配位子(TMEDA)を過剰量反応系に添加することにより、鉄触媒の存在下、種々の芳香族Grignard反応剤と第一級および第二級ハロゲン化アルキルとのクロスカップリング反応が効率よく進行します。

No.10 Industrial Application to Gemilukast Synthesis

小野薬品工業株式会社で実施された大スケール合成では、200 kg以上のハロゲン化アルキル原料を用いて鉄触媒クロスカップリング反応が行われました。一方、本カップリング反応は、第一級sp3炭素―塩素結合は全く反応せず、炭素―臭素結合で選択的に進行します。

No.11 Iron-Bisphosphine Complex-Catalyzed Kumada-Tamao-Corriu Coupling

今本氏らによって開発されたBenzP*配位子を用いることにより、ラセミ体のαクロロプロピオン酸エステルと様々な芳香族Grignard反応剤とのカップリング反応が、鉄触媒の存在下、エナンチオ選択的に進行します。

No.12 Iron-Catalyzed Suzuki-Miyaura Coupling (sp2-sp3 Coupling) 

No.13 Iron-Catalyzed Aryl-C-Glycosylation for SGLT2 inhibitor

有機亜鉛化合物を求核剤とし、嵩高いTMS-SciOPP配位子をもつ鉄ビスホスフィン錯体を用いることにより、アリール-C-グリコシドが収率良く合成できます。

No.14 Iron-Catalyzed Alkyl Halide Coupling with Organozinc Reagent Negishi Coupling
官能基共存性の高い亜鉛反応剤を用いる鉄触媒クロスカップリング反応です。共触媒としてLewis酸性の高いマグネシウム塩を添加することにより、トランスメタル化を加速させます。

No.15 Iron-Catalyzed Stereospecific Coupling of Alkenylzinc Reagent Negishi Coupling
アルケニル亜鉛反応剤を用いた場合も、添加剤であるTMEDAを大過剰用いることにより、効率良くカップリング反応が進行します。

No.16 Iron-Catalyzed Cross Coupling of Alkyl Tosylate with Arylzinc Reagent Negishi Coupling
反応系中にヨウ化物イオンを共存させておくことにより、in situでヨウ化アルキルが生成し、鉄触媒クロスカップリング反応が進行します。

No.17 Iron-Catalyzed Suzuki-Miyaura Coupling (sp3-sp3 Coupling)

No.18 Iron-Bisphosphine Complex-Catalyzed Sonogashira Coupling
アルキニル金属反応剤と求電子剤とのカップリング反応では、反応温度とGrignard反応剤の添加速度がカギとなります。

No.19 Iron-Catalyzed Sonogashira Coupling with Alkynylborate

最後に

本記事でご紹介してきたように、鉄触媒は幅広い反応・用途への応用が可能であることが分かり、ようやく化学産業での活用の道が見えてきました。ぜひ、鉄触媒反応による商業生産に一緒にトライしませんか。

お問い合わせ先

会社名 株式会社TSK
メール info@tsk.kyoto
ウェブサイト https://www.tsk.kyoto

本記事は株式会社TSK様による寄稿記事です。

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Chem-Station代表。早稲田大学理工学術院教授。専門は有機化学。主に有機合成化学。分子レベルでモノを自由自在につくる、最小の構造物設計の匠となるため分子設計化学を確立したいと考えている。趣味は旅行(日本は全県制覇、海外はまだ20カ国ほど)、ドライブ、そしてすべての化学情報をインターネットで発信できるポータルサイトを作ること。

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