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スポットライトリサーチ

グアニジニウム/次亜ヨウ素酸塩触媒によるオキシインドール類の立体選択的な酸化的カップリング反応

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第492回のスポットライトリサーチは、東京農工大学院 工学府生命工学専攻 生命有機化学講座(長澤・寺研究室)の森 偉央(もり いお)さんにお願いしました。

長澤・寺研究室では、”海産グアニジン系天然物”、特に、[1]多環性グアニジン系天然物、[2]サキシトキシン、[3]ピロール·イミダゾールアルカロイドをターゲットとした全合成研究を行っています。本プレスリリースの研究内容は、次亜ヨウ素酸と有機分子触媒を用いた反応についてで、ヨウ素とクメンヒドロペルオキサイドに、独自に開発した有機分子触媒を組み合わせることでキラルグアニジニウム/次亜ヨウ素酸塩触媒を開発し、これがオキシインドール類同士の炭素―炭素結合を介した立体選択的酸化的カップリング反応に有効であることを見出しました。

この研究成果は、「ACS Catalysis」誌に掲載され、プレスリリースにも成果の概要が公開されています。

Enantioselective Oxidative Enolate Coupling of Oxindoles Catalyzed by Chiral Guanidinium Hypoiodite

Minami Odagi, Io Mori, Kota Sugimoto, Kazuo Nagasawa

ACS Catal. 2023, 13, 4, 2295–2301

DOI: doi.org/10.1021/acscatal.2c05677

研究室を主宰されている長澤和夫 教授と指導教員の小田木陽 助教より森さんについてコメントを頂戴いたしました!

長澤和夫 教授

森 偉央さんは、有機合成化学はもちろん、様々な科学に興味を持ち自分で勉強を重ねてきた、科学総合力に長けた学生です。今回の、極めて困難な研究課題を、森さんの科学総合力で見事に乗り越え、素晴らしい研究成果にまとめてくれました。有機触媒の可能性がさらに大きく広がり、新たな研究展開が楽しみになります。修士で卒業されるのが少し残念ですが、また新たな環境で大きく成長されながら、科学を基盤に社会貢献されると思います。これからの活躍も大いに期待しています。

小田木陽 助教

森さんは、東京理科大学から学外研究生として4年生時に長澤・寺研究室に加わってくれました。研究室では、その几帳面な性格と面倒見の良さから先輩や後輩からも厚く信頼されており、大変活躍してくれました。そんな彼に託した本研究ですが、当初は全く異なる構造の触媒を用いて私が初期検討を行っており、引き継ぐ時には50% eeと大変微妙な結果でした。森さんが同様の触媒骨格で粘り強く検討を行ってくれたのですが、なかなか満足のいく選択性を得ることができず、1年以上を費やしたと記憶しています。そんな中、当研究室で開発していたグアニジン-ウレア触媒を用いて高い選択性が出ることを見出したときには、森さんの研究に対する真摯な姿勢や粘り強さに私自身感嘆しました。現在も本成果をさらに発展させた面白い反応を見つけてくれており、卒業ギリギリまで検討を頑張ってくれています。4月から活躍の場が会社に移りますが、研究室生活で培ってきた科学的思考や人間力で、さらに活躍してくれることを確信しています!

Q1. 今回プレスリリースとなったのはどんな研究ですか?簡単にご説明ください。

次亜ヨウ素酸を用いた初の立体選択的炭素炭素結合形成反応を開発することに成功しました。

次亜ヨウ素酸(IOH)は、ヨウ化物イオンと過酸化水素やアルコール由来の温和な酸化剤から反応系中にて、容易に調製可能な活性種として知られています。当該活性種は、カルボニル基α位のような求核位置を酸化的に活性化することで、脱水素型の結合形成反応を可能にします。これまで、光学活性な第四級アンモニウムを対カチオンに有するキラルアンモニウム/次亜ヨウ素酸塩触媒を用いた脱水素型カップリング反応が報告されてきました。しかしながら、いずれも反応性の高い酸素や窒素求核剤を用いた炭素-酸素、炭素-窒素結合形成反応に限定されており、立体選択的な炭素-炭素結合形成反応の例はありませんでした。

本研究では、次亜ヨウ素酸のキラルな対カチオンに着目し、当研究室でこれまで開発してきた二官能性鎖状グアニジン-ウレア触媒を用いることで、水素結合により反応基質由来のエノラートを活性化し、これまで報告例のなかった次亜ヨウ素酸を用いた立体選択的な炭素-炭素結合形成反応の開発に成功しました。

Q2. 本研究テーマについて、自分なりに工夫したところ、思い入れがあるところを教えてください。

当研究室で開発してきた二官能性鎖状有機分子触媒であるグアニジン-ウレア触媒を用いることで所望のエノラートカップリング反応が定量的に進行し、なおかつ、高い立体選択制で生成物が得られることを発見したところです。当初、オキシインドール誘導体α位の水酸化反応との競合が懸念されましたが、実際に反応を仕込んでみると綺麗にエノラートカップリング反応が進行して安堵しました。さらに、触媒構造の最適化で95% eeが出た時には喜びのあまり他の実験室で実験をしていた同期に報告しに行ってたのを覚えています。有機化学のいいところの1つだと思っているやってみないとわからないを実際に体験したような気持ちでした。また、自身の所属する研究室で開発してきた触媒でこのような結果を出せたことを光栄に思います。

Q3. 研究テーマの難しかったところはどこですか?またそれをどのように乗り越えましたか?

速度論解析実験です。各反応時間における溶液のサンプリングをした際に、速やかにクエンチをする必要があったため、還元剤の選定に苦労を要しました。飽和チオ硫酸ナトリウム水溶液などを用いた場合においては、クエンチよりも先に触媒反応が進行してしまい、何度試しても思うようなプロットが得られませんでした。最終的にPPh3を用いることで酸化剤の迅速なクエンチができることを見出し、律速段階について知見を得ることができました。

Q4. 将来は化学とどう関わっていきたいですか?

四月から社会人となり、有機合成化学とは少し離れた分野でモノ作りに取り組む運びとなりました。元々、有機合成だけでなく化学全般に興味を抱いていたので、これからも自分の思うように勉強・研究をし、様々な知識や技術を身につけ、モノ作りという観点から社会に貢献できたらと思います。

Q5. 最後に、読者の皆さんにメッセージをお願いします。

最後まで読んでいただきありがとうございます。修士まで三年間の研究室生活を通して、限られた時間をどのように過ごすか日頃から考えることが大事だと感じました。時間は唯一(?)平等に与えられるものであり、過ごす時間は同じでもどのように使うかによって得られるものが当然変わってきます。実験に行き詰ったときなど、今後に向けて”いま”何をすべきか、”今後”何が必要となってくるのか、一度立ち止まってじっくり考える日があってもいいのかもしれません。

最後になりましたが、本研究を遂行するにあたりご指導、様々なご助言を賜りました長澤和夫教授、小田木陽助教をはじめ、同じ実験室で切磋琢磨し日々実験を行ってきたメンバーに深く感謝申し上げます。

また、このような貴重な機会をくださいましたChem-Stationのスタッフの皆様に感謝申し上げます。

研究者の略歴

森 偉央(もり いお)

所属:東京農工大学院 工学府 生命工学専攻 修士課程2年 (長澤・寺研究室)

テーマ:キラルグアニジウム/次亜ヨウ素酸塩触媒を用いた立体選択的炭素-炭素結合形成反応の開発

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ただの会社員です。某企業で化学製品の商品開発に携わっています。社内でのデータサイエンスの普及とDX促進が個人的な野望です。

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