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スポットライトリサーチ

FLPとなる2種類の触媒を用いたアミド・エステルの触媒的α-重水素化反応

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第 689回のスポットライトリサーチは、九州大学大学院薬学府 環境調和創薬化学分野 (大嶋研究室) 博士課程3年の 古賀 祐之介 (こが ゆうのすけ) さんにお願いしました!

大嶋研究室では、グリーンケミストリーを基盤に、グリーン創薬への貢献とともに、SDGs、グリーン・リカバリー (持続可能な復興) の達成に向けて取り組んでおられます。

今回、古賀さんらの研究グループでは、その特殊な性質から創薬や材料科学などの分野で注目されている重水素に着目し、アミドやエステルなど重要な化合物群のα-選択的重水素化反応を可能とする触媒反応を見出しました。メタルフリーかつ比較的ありふれた有機分子の組み合わせにより達成された本反応の有用性は高く評価され、Nature Catalysis 誌に掲載されるとともに、九州大学ほかよりプレスリリースもされています。

Silicon frustrated Lewis pairs catalyse α-deuteration of amides and esters

Y. Koga, I. Fukumoto, K. Masui, T. Tanaka, Y. Naganawa, M. Hayashi, T. Ohshima, R. Yazaki

研究を現場で指導された、九州大学高等研究院・大学院薬学研究院分子合成薬学講座 准教授の 矢崎 亮 先生より、古賀さんについてのコメントを頂戴しました!

古賀くんをひとことであらわすと、探究心にあふれ、かつスマートです。今回の反応以外にもいろいろな反応に挑戦してくれています。今回の成果も、膨大な知識と長時間にわたる検討の積み重ねによって得られたものだと思います。また、後輩からの人望も厚く、研究グループを牽引してくれています(古賀くんがいれば私はあまりいらないような気がします)。残りの期間での新しいケミストリーを楽しみにしていると同時に、古賀イズムを後輩にしっかり残し、会社でもオリジナルの新薬開発を楽しみにしています。

それでは、インタビューをお楽しみください!

Q1. 今回プレスリリースとなったのはどんな研究ですか?簡単にご説明ください。

今回の研究では、ルイス酸の TIPSOTf、塩基の DABCO という2種類の触媒と、重水素源として重アセトニトリルを用いることにより、アミド・エステルの触媒的α-重水素化反応の開発に成功しました (図 1)。

図1  アミド・エステルの重水素化反応と推定反応機構

重水素化合物は、重水素化医薬品をはじめとして創薬研究や有機合成化学などの分野で注目を集めています。しかし、重水素を分子の特定の位置に選択的に導入することは、極めて困難な課題となっていました。今回着目したアミドやエステルは、天然物や医薬品、さらにはペプチドやポリマーに幅広く含まれる構造です。これらのα-水素の酸性度は低いため、エノラート化には化学量論量以上の強塩基が必要とされてきました。本研究では入手容易な TIPSOTf と DABCO を用いることにより、反応性に乏しいアミド・エステルの触媒的なエノラート化を達成し、重水素化反応へと応用しました。この反応は温和な条件下で進行し、複雑な構造を有する天然物や医薬品に対しても適用可能です。さらに、反応機構解析から、ルイス酸と塩基が複合体を形成することなく互いに独立し、“FLP (Frustrated Lewis Pairs)” として高い反応性を保ったまま機能していることが明らかになりました。

また、今回開発した手法をポリエステルの重水素化反応に応用しました  (図 2)。重水素化ポリマーは、通常、あらかじめ重水素化されたモノマーの重合によって合成されます。一方、このような合成法では、重合時の重水素化率の低下や、重合に及ぼす同位体効果が問題となります。本手法は、ポリエステルの直接的な重水素化を可能とし、従来法の潜在的な問題を解決します。

図2  ポリマーの直接的重水素化への応用

Q2. 本研究テーマについて、自分なりに工夫したところ、思い入れがあるところを教えてください。

オプティマイズ段階に思い入れがあります。まず、アミド・エステルの重水素化を達成するにあたり、重水素源としてこれらと酸性度の近いアセトニトリルに着目しました。この重水素源は比較的早期に選定しましたが、基質と重水素源を同時に活性化可能な触媒の探索には多くの時間を費やしました。従来、カルボニル化合物の活性化に対して使われているホウ素と第三級アミンを組み合わせた条件を用いたところ、重水素化反応は全く進行しませんでした。他にも、基質と重水素源をそれぞれ異なるルイス酸で活性化する手法も試してみましたが、最終的にはケイ素トリフラートと第三級アミンの組み合わせで両者を効率的に活性化可能であることを見出しました。

また、当初は DBU を最適塩基として実験を進めていましたが、基質一般性がほとんど広がらないという状況に陥りました。文献調査を行った結果、TIPSOTf とDBU は CLA (Classical Lewis Adducts) を形成し、時間と共に活性が低下してしまっているということが分かりました。そこで、TIPSOTf と FLP になる塩基を用いることにより、効率的に反応が進行するのではないかと考えました。嵩高い第三級アミンを中心的に検討しましたが、DIPEA では 0% D、その他の塩基でも中程度の重水素化率となっていました。ある日、偶然にキヌクリジンを用いた実験をしている夢を見て、まさかと思い検討したところ、定量的に重水素化反応が進行しました (図3)。最終的には、より安価な DABCO を最適塩基としています。これまで、FLP は嵩高いルイス酸と嵩高い塩基から形成されるという思い込みがあったため、先入観にとらわれないことの重要性を改めて実感しました。

図3. 塩基の最適化

Q3. 研究テーマの難しかったところはどこですか?またそれをどのように乗り越えましたか?

今回の触媒系が FLP となって機能していることの証明に苦労しました。この証明にあたり、まずは CLA を形成しないことを示そうと考え、29Si-NMR の測定を行いました (図4)。もし、CLA を形成していた場合、29Si-NMR のピークは高磁場にシフトします。一方、FLP であれば錯体を形成せず、このようなピークシフトは起こらないと考えました。

そこで、TIPSOTfに今回用いたルイス塩基を添加して 29Si-NMR を測定したところ、TIPSOTf と CLA を形成する DBU では顕著な高磁場シフトが確認されたのに対し、DABCO ではピークシフトが確認されませんでした。さらに、DFT 計算やアミンボラン錯体のヘテロリティック開裂実験により、FLP として機能することを裏付けました。

図4  29Si-NMR の測定

Q4. 将来は化学とどう関わっていきたいですか?

卒業後は製薬会社の研究職に就く予定です。これまでに培ってきた有機合成化学の知識やスキルを基盤としながらも、何事も果敢に挑戦し、一人前のケミストとして活躍できるように日々研鑽を積んでいく所存です。卒業までの期間もわずかとなりましたが、残りの研究生活を楽しみながら、悔いがないように研究に励みたいと思います!

Q5. 最後に、読者の皆さんにメッセージをお願いします!

ここまで読んでいただきありがとうございます。本研究では、これまで当研究室が長年にわたり開発してきた触媒的エノラート化反応を応用し、アミド・エステルの触媒的重水素化反応に発展させことができました。特に、私が修士1年生の時に面倒を見てくださった先輩である田中津久志博士が開発した「カルボン酸の触媒的α-重水素化反応」がなければ、今回の研究はなかったと思います。この研究を通じ、私が後輩の皆様に伝えたいことは「まずやってみろ」ということです。時間は思っているよりもあっという間に過ぎていってしまいます。ぜひ、今しかできないことに積極的にチャレンジしてほしいです。

最後になりましたが、日頃より懇切丁寧なご指導をいただいております大嶋孝志先生、矢崎亮先生、共同研究でお世話になりました永縄友規先生、林幹大先生に深く感謝申し上げます。また、幾度となく議論を重ね、本論文を共に完成に導いてくれた福元良空くん、舛井顕丞くん、そして個性豊かな新棟のメンバーをはじめとする大嶋研究室の皆様に感謝いたします。さらに、日頃から多くの化学者に親しまれるこの場で研究を発信する貴重な機会をくださった Chem-Station スタッフの皆様に御礼申し上げます。

研究者の略歴

名前:古賀 祐之介 (こが ゆうのすけ)
所属:九州大学大学院薬学府 環境調和創薬化学分野 (大嶋研究室)
略歴:
2017年3月 福岡高等学校卒業
2021年3月 九州大学薬学部創薬科学科卒業
2023年3月 九州大学大学院薬学府創薬科学専攻 博士前期課程 修了
2023年4月 九州大学大学院薬学府創薬科学専攻 博士後期課程
2024年4月 日本学術振興会特別研究員 DC2

 

古賀さん、矢崎先生、インタビューにご協力いただき、誠にありがとうございました!
それでは、次回のスポットライトリサーチもお楽しみに!

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創薬化学者と薬局薬剤師の二足の草鞋を履きこなす、四年制薬学科の生き残り。
薬を「創る」と「使う」の双方からサイエンスに向き合っています。
しかし趣味は魏志倭人伝の解釈と北方民族の古代史という、あからさまな文系人間。
どこへ向かうかはfurther research is needed.

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