[スポンサーリンク]

chemglossary

重水素 (Deuterium)

[スポンサーリンク]

重水素(deuterium)とは、質量数 2 の水素の安定同位体。Dあるいは2Hと表記される。化学では反応機構研究や分光学的研究に用いられる[1]。1931年に Harold C. Urey ら (当時 Columbia University) によって発見された[2]

構造

自然界に存在するほとんどの水素原子は、陽子1つと電子1つからなる軽水素 (プロチウム、protium, 1H) である(存在比 99.98%、図1 左)。安定同位体であり、放射性はない。質量は1.01 u。

これに対して、重水素(デューテリウム、deuterium, 2H)は陽子1つと中性子1つ、電子1つから構成される(図1 中央)。天然に存在する水素のうち、約 0.02% は重水素である。重水素も安定同位体であり、放射性はない。質量は2.01 u。

なお、三重水素(トリチウム、tritium, 3H)は陽子1つと中性子2つ、電子1つから構成される(図1 右)。天然にはごくわずかしか存在しない(存在比は 0.000000000000000001%)。三重水素は放射性があり、半減期は約12年である。質量は3.02 u。

 

2. 化学における性質と用途

重水素は軽水素と比べて質量が約二倍ある。また、核スピンの磁気回転比も大きく異なる[3]。軽水素核は I = 1/2 の核スピン量子数をもつのに対して、重水素核の核スピン量子数は I = 1 である。これらの性質を反映して、重水素化された物質(重水素化物質、重水素標識化合物)では、結合解離エネルギーや密度、沸点、融点といった物性や、赤外分光や Raman 分光、NMR、質量分析、中性子散乱、化学反応性、燐光寿命などで差がでる。重水素化物質には、反応機構研究や分光学的研究、機器測定溶媒、トレーサー、プローブ、光ファイバー、医薬品など幅広い用途が存在する。

参考文献

  1. 標準化学用語辞典(第二版、日本化学会編纂、丸善)
  2. Ferdinand G. Brickwedde, Harold Urey and the discovery of deuterium. Physics Today 1982, 35, 34.DOI: 10.1063/1.2915259
  3. 化学便覧基礎編(改訂6版、日本化学会編纂、丸善)

関連リンク

Avatar photo

Naka Research Group

投稿者の記事一覧

研究グループで話題となった内容を紹介します

関連記事

  1. 色素増感型太陽電池 / Dye-sensitized Solar…
  2. 抗体-薬物複合体 Antibody-Drug Conjugate…
  3. レドックスフロー電池 Redox-Flow Battery, R…
  4. 並行人工膜透過性試験 parallel artificial m…
  5. 極性表面積 polar surface area
  6. シュレンクフラスコ(Schlenk flask)
  7. 溶媒の同位体効果 solvent isotope effect
  8. メビウス芳香族性 Mobius aromacity

注目情報

ピックアップ記事

  1. 分析技術ーChemical Times特集より
  2. 全合成 total synthesis
  3. ケムステ10年回顧録― 副代表版
  4. 熱や力で真っ二つ!キラルセルフソーティングで構築されるクロミック二核錯体
  5. 可視光光触媒でツルツルのベンゼン環をアミノ化する
  6. 光/熱で酸化特性のオン/オフ制御が可能な分子スイッチの創出に成功
  7. 第42回―「ナノスケールの自己集積化学」David K. Smith教授
  8. 求核剤担持型脱離基 Nucleophile-Assisting Leaving Groups (NALGs)
  9. 第41回―「クロム錯体のユニークな触媒活性と反応性を解明する」Klaus Theopold教授
  10. 信越化学、塩化ビニル樹脂を値上げ

関連商品

ケムステYoutube

ケムステSlack

月別アーカイブ

2022年3月
 123456
78910111213
14151617181920
21222324252627
28293031  

注目情報

最新記事

OIST Science Challenge 2025 に参加しました

2025年3月15日から22日にかけて沖縄科学技術大学院大学 (OIST) にて開催された Scie…

ペーパークラフトで MOFをつくる

第650回のスポットライトリサーチには、化学コミュニケーション賞2024を受賞された、岡山理科大学 …

月岡温泉で硫黄泉の pH の影響について考えてみた 【化学者が行く温泉巡りの旅】

臭い温泉に入りたい! というわけで、硫黄系温泉を巡る旅の後編です。前回の記事では群馬県草津温泉をご紹…

二酸化マンガンの極小ナノサイズ化で次世代電池や触媒の性能を底上げ!

第649回のスポットライトリサーチは、東北大学大学院環境科学研究科(本間研究室)博士課程後期2年の飯…

日本薬学会第145年会 に参加しよう!

3月27日~29日、福岡国際会議場にて 「日本薬学会第145年会」 が開催されま…

TLC分析がもっと楽に、正確に! ~TLC分析がアナログからデジタルに

薄層クロマトグラフィーは分離手法の一つとして、お金をかけず、安価な方法として現在…

先端の質量分析:GC-MSおよびLC-MSデータ処理における機械学習の応用

キャラクタライゼーションの機械学習応用は、マテリアルズ・インフォマティクス(MI)およびラボオートメ…

原子半径・電気陰性度・中間体の安定性に起因する課題を打破〜担持Niナノ粒子触媒の協奏的触媒作用〜

第648回のスポットライトリサーチは、東京大学大学院工学系研究科(山口研究室)博士課程後期2年の松山…

リビングラジカル重合ガイドブック -材料設計のための反応制御-

概要高機能高分子材料の合成法として必須となったリビングラジカル重合を、ラジカル重合の基礎から、各…

高硬度なのに高速に生分解する超分子バイオプラスチックのはなし

Tshozoです。これまでプラスチックの選別の話やマイクロプラスチックの話、およびナノプラスチッ…

実験器具・用品を試してみたシリーズ

スポットライトリサーチムービー

PAGE TOP