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スポットライトリサーチ

分子の自己集合プロセスを多段階で制御することに成功 ―分子を集めて数百ナノメートルの高次構造を精密合成―

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第543回のスポットライトリサーチは、物質・材料研究機構 機能性材料研究拠点 分子機能化学グループに在籍されていて、現在鳥取大学大学院工学研究科 野上有機合成化学研究室に所属している佐々木 紀彦 (ささき のりひこ)助教にお願いしました。

本プレスリリースの研究内容は分子の自己集合についてです。本研究グループでは、分子の自己集合プロセスを速度論的に制御する手法を開拓してきました。例えば、2014 年には精密高分子合成のように分子集合体を作り出す新手法『リビング超分子重合法』を開発しています(Nature Chem., 2014, 6, 188)。また2017年には、2次元のリビング超分子重合を達成しています(Nature Chem., 2017, 9, 493)。そして今回、分子の自己集合を多段階で制御することに成功し、化学反応のように分子集合体の成⾧や分解にも位置選択性があることを見出しました。

この研究成果は、「Nature Chemistry」誌に掲載され、またプレスリリースにも成果の概要が公開されています。

Multistep, site-selective noncovalent synthesis of two-dimensional block supramolecular polymers

Norihiko Sasaki, Jun Kikkawa, Yoshiki Ishii, Takayuki Uchihashi, Hitomi Imamura, Masayuki Takeuchi & Kazunori Sugiyasu

Nat. Chem. 15, 922–929 (2023)

DOI:doi.org/10.1038/s41557-023-01216-y

指導教員であった京都大学大学院 工学研究科 高分子化学専攻 高分子合成講座 機能高分子合成分野の杉安和憲 教授より佐々木 助教についてコメントを頂戴いたしました!

先輩がすごいと後輩は大変です。

佐々木君の先輩は、大城君と福井君です。大城君は、世界で初めてリビング超分子重合を実現しました。福井君は、1次元にも2次元にもリビング超分子重合できる系を発見しました。佐々木君のプレッシャーたるや・・・(僕からプレッシャーをかけたことはないと思いますけど)。

さて、博士課程の1年目で佐々木君は非常におもしろい分子集合体を見つけました。そのAFM画像のインパクトは強烈で、どうやって論文にまとめれば良いのか迷走したこともありましたが、コツコツと研究を進めて、博士課程4年目にNature Commun. に見事論文がアクセプトされました。かなりの大作でした。その後、無事に学位を取得し、同じ所属のまま1年間の博士研究員を経て、現在は鳥取大学の野上研究室で助教として頑張っています。

今回の成果は、博士課程3年目の冬ごろから始めて、博士研究員の間にまとめた研究です。アイデアは面白かったのですが、実験はあまりうまくいっていないようでしたので、少しは妥協するように、と僕からはコメントしていました。

にもかかわらず、佐々木君はいつのまにか当初のアイデア通りの2次元ブロック超分子ポリマーを合成できるようになっていました。どうやってできるようになったのかを詳しく聞きました。佐々木君のアプローチはシンプルで、考え得る全ての条件で失敗と微調整を繰り返すというものでした。やればできるんですね、すごいです。

佐々木君のキャラクターは先輩達とは全然違います。でも、細かいところまで考え抜いて、できることは全部やる、という実験に対する姿勢は似ていたなぁと思います。諦めないことの大切さを、僕の方が教えてもらいました。

佐々木君、これからは背中を見られる立場です。がんばってください。

Q1. 今回プレスリリースとなったのはどんな研究ですか?簡単にご説明ください。

本研究では、物質・材料研究機構の吉川純 主幹研究員、名古屋大学の内橋貴之 教授の研究グループと共同で、分子の自己集合を多段階で制御することで、分子集合体内部における分子の配列や組成を変え、複雑な高次構造を創出できることを示しました。

今回用いたポルフィリン分子は、中心に金属イオン(亜鉛、銅、ニッケル)を有しています(図1a)。以前の研究で 1Znが同心円状に自己集合することを発見していました(図1b)1。今回、1Znと相互作用する試薬(DMAP) を添加すると、同心円構造の内側から選択的に分解し、中央の穴が大きくなることを見出しました(図1c : step 2)。得られた穴の大きな同心円構造に対して、1Cuや1Niを加えたところ、穴の内側で選択的に1Cuや1Niの同心円構造が成長することを発見しました(図1c : step 3および4)。これらの選択性は同心円構造のユニークなトポロジーを反映したものと考えられます。化学反応のように、分子集合体の成長や分解にも位置選択性があることを見出しました。この位置選択的な自己集合プロセスを利用し、分子集合体内部における分子の配列や組成を変え、複雑な高次構造を創出することに成功しました (図1c右下のTEM画像)。

図1. (a) 本研究で用いたポルフィリン分子の構造。骨格の中心に金属イオン(亜鉛,銅,ニッケル)を有する。(b) 1Znが自己集合によって同心円状の構造を形成することを以前の研究で見出していた。(c) 本研究で達成した多段階自己集合のスキーム。AFM像とTEM像(元素マッピング)のスケールバーは200 nm。

Q2. 本研究テーマについて、自分なりに工夫したところ、思い入れがあるところを教えてください。

2019年に共同研究で京都を訪れた際1、お土産で購入した「京バウム」2の二層構造に感化されたのがきっかけで、ブロック構造を有する同心円構造を作り始めました。実験を始めたばかりの頃は、ブロック構造が本当に構築されているのかも不確かな状況でした。ブロック構造を可視化するために、共同研究者である吉川純 主幹研究員にSTEM-EDSによる元素マッピングを行っていただきました。TEM観察で使用するグリッドを検討し、「京バウム」のようなブロック構造が観察できた時はとても嬉しく、感動しました(図1c右下のTEM画像)。 本研究のスタート地点に立った思い入れのある瞬間です。

Q3. 研究テーマの難しかったところはどこですか?またそれをどのように乗り越えましたか?

本研究の鍵となる同心円構造を内側から選択的に分解する方法を見出す点が難しかったです。研究当初のアプローチでは、1Znと1Cuからなるブロック構造を構築後、DMAPを作用させることで、同心円構造の1Znの部分のみを分解する方法の確立を目指していました。後に判明したことですが、このアプローチだと同心円構造の内側がDMAPで分解しない1Cuの層に覆われており、結果的に同心円構造の分解が進行しませんでした。この問題を乗り越えるきっかけとなったのは、比較実験での挙動の追跡を丁寧に行ったことでした。1Znのみからなる同心円構造はDMAPを作用させると、分解することはすでに分かっていました。しかし、その際に「同心円構造のどの箇所から分解が始まるのか?」という疑問が生まれました。その疑問に答えを出すべく、作用させるDMAPの量や溶媒条件の検討を重ねた結果、同心円構造の内側から選択的に分解する方法を見出すに至りました。

Q4. 将来は化学とどう関わっていきたいですか?

昨年度から鳥取大学 野上研究室の助教に着任させていただき、現在もアカデミアの研究者として化学と関わっています。私は博士課程から大きく研究分野を転換したのですが、今後も今の研究背景に捉われず、新しいことに挑戦していきたいと考えています。本研究は、有機合成化学的な考え方で分子の自己集合プロセスを制御できることを実証しました。しかし、超分子集合体の合成化学のさらなる発展には、有機・高分子化学、またはそれよりも幅広く他の分野のエッセンスを取り入れる必要性があると考えられます3。超分子集合体の合成化学の発展はマテリアルサイエンスの分野で有用な物質を生み出す鍵になると思いますので、本研究のような手法の発展を目指した研究を進めていきたいと思います。

Q5. 最後に、読者の皆さんにメッセージをお願いします。

みなさんもそうかもしれませんが、正直なことを述べると、研究生活は私自身にとって苦労が絶えない日々でした。周りの人と自分を比べると出来ないことがあまりにも多くて、そんな自分が受け入れられなくて、何も手につかなくなっていた時期が長くありました。私が博士課程の学生の時、恩師の杉安先生から『君にぴったりな言葉があるよ。 「Fake it till you make it.」 って知っている? 』と自分にはない考え方を教えてもらいました。自分に自信を持つと言うのは、私にはかなり難しいことでした。自分がどんな状態(ネガティブ)でも、目の前にある状況は変わらず、日々時間が過ぎていくだけで、何も進展しません。そういう時に無理にポジティブになるのではなくて、今の自分にできることに没頭し、なりたい自分の振りをしつづけていると、周りの人に助けてもらいながら、いつの間にか自分が変わっていっていることに気づきました。シンプルですが、無我夢中に一つのことに全力で取り組むことが大切だと思います。

最後に、本研究を進めるにあたり、僕という人間と向き合い、研究者としての生き方をご指導いただいた杉安和憲 教授、共同研究者である吉川純 主幹研究員、内橋貴之 教授、石井義記さん、貴重なアドバイス、サポートをいただいた竹内正之 教授、今村澄さん、研究室のみなさんをはじめ、支えてくださった皆さん、そしてこのような貴重な機会を与えていただいたChem-Stationのスタッフの方々に、この場をお借りして深く感謝致します。

参考文献・関連リンク

  1. N. Sasaki, M. F. J. Mabessone, J. Kikkawa, T. Fukui, N. Shioya, T. Shimoaka, T. Hasegawa, H. Takagi, R. Haruki, N. Shimizu, S. Adachi, E. W. Meijer, M. Takeuchi, and K. Sugiyasu, Nat. Commun. 2020, 11, 3578.
  2. 京バウム公式サイト : https://kyobaum.shop
  3. G. Vantomme, Nat. Chem. 2023, 15, 894.

研究者の略歴

名前 : 佐々木 紀彦 (ささき のりひこ)

所属 (当時) : 物質・材料研究機構 機能性材料研究拠点 分子機能化学グループ

所属 (現在) : 鳥取大学大学院工学研究科 野上有機合成化学研究室

研究テーマ : 超分子集合体の精密合成

略歴 :

2017年3月 鳥取大学大学院工学研究科化学・生物応用工学専攻 博士前期課程修了 (伊藤敏幸・野上敏材研究室)

2017年4月-2021年3月 物質・材料研究機構 機能性材料研究拠点 分子機能化学グループNIMSジュニア研究員 (竹内正之・杉安和憲研究室)

2021年3月 九州大学大学院工学府材料物性工学専攻 博士後期課程修了 (指導教官 : 杉安和憲)

2021年4月-2022年3月 物質・材料研究機構 機能性材料研究拠点 分子機能化学グループNIMSポスドク研究員

2022年4月-2022年5月 鳥取大学工学部 野上研究室 プロジェクト研究員

2022年6月-現在 鳥取大学大学院持続性社会創生科学研究科 工学専攻 助教 (野上有機合成化学研究室)

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ただの会社員です。某企業で化学製品の商品開発に携わっています。社内でのデータサイエンスの普及とDX促進が個人的な野望です。

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