[スポンサーリンク]

化学者のつぶやき

(-)-Calycanthine, (+)-Chimonanthine,(+)-Folicanthineの全合成

[スポンサーリンク]

“Concise Total Synthesis of (-)-Calycanthine, (+)-Chimonanthine, and (+)-Folicanthine.” Movassaghi, M.; Schmidt, M. A.Angew. Chem. Int. Ed. 2007,46, 3725.  DOI:10.1002/anie.200700705

 この間紹介したMovassaghiらによる(-)-Calycanthine類の全合成。これらは見てのとおり、インドール誘導体が二量化した構造を有しています。そのため、生合成経路はトリプトファンから誘導されたhexahydropyrroloindoleの酸化的な二量化反応が想定されていました。

 すでにこの関連の化合物はU.C.アーバインのOvermanらによって全合成が達成されています。OvermanらはダブルHeck反応によりこれらの化合物の4級炭素を合成しました。

 それに対して彼らは生合成経路を視野にいれた合成戦略を考えました。つまり、トリプトファン誘導体から、hexahydropyrroloindole誘導体を構築した後、直接的に二量化反応を行うというわけです。

 この二量化反応をいかにしてフラスコ内で再現できるか?ということがこの合成のキーポイントになります。

   彼らは以下のようなブロモ体を合成し、様々な条件で還元的な二量化反応を試みることにしました。(それまでにおそらく相当な数の試みをしているはずですが。)その結果、[Mn2(CO)10](0.5当量)を用いた場合、トリプトファン由来の不斉を損なわず、わずか14%ながら二量化反応を進行させることができました。さらに、1当量に増やすと32%で目的の二量体を合成することができました。

 しかし、それ以上は収率が向上せず、さらにブロミドを活性化するよい試薬を探索しました。[CoCl(PhP3)3]を用いたところ、34%まで収率が向上しました。さらに、溶媒をDCMからAcetoneに変えると、最終的に60%の単離収率で二量体を合成することに成功しました。

calycanthine3.gif

  エステル基が余分ですので、エステル基を酸クロリドに導いた後、以下の条件で還元して、そこから2段階で(-)-Calycanthineの全合成を達成しました。

calycanthine.gif

ちなみに脱カルボキシル化反応はBarton脱カルボキシル化反応が有名ですが、それがうまくいかなかっため、このような条件で彼らは目的の化合物を合成しました。この反応機構は以下のようになります。この反応時にアシルラジカルに対して還元がいく場合があり、アルデヒドが副生成物としてとれます。

calycanthine2.gif

関連文献

  • Overman, L. E.; Paone, D. V.; Stearns, B. A. J. Am. Chem. Soc. 1999,121,7702. DOI:10.1021/ja991714g

関連リンク

Avatar photo

webmaster

投稿者の記事一覧

Chem-Station代表。早稲田大学理工学術院教授。専門は有機化学。主に有機合成化学。分子レベルでモノを自由自在につくる、最小の構造物設計の匠となるため分子設計化学を確立したいと考えている。趣味は旅行(日本は全県制覇、海外はまだ20カ国ほど)、ドライブ、そしてすべての化学情報をインターネットで発信できるポータルサイトを作ること。

関連記事

  1. 「触媒的オリゴマー化」によるポリピロロインドリン類の全合成
  2. MEDCHEM NEWS 34-1 号「創薬を支える計測・検出技…
  3. 鉄触媒を用いたテトラゾロピリジンのC(sp3)–Hアミノ化反応
  4. 鉄錯体による触媒的窒素固定のおはなし-1
  5. リアル『ドライ・ライト』? ナノチューブを用いた新しい蓄熱分子の…
  6. 【書籍】「喜嶋先生の静かな世界」
  7. 酵素触媒によるアルケンのアンチマルコフニコフ酸化
  8. 自動車の電動化による素材・化学業界へのインパクト

注目情報

ピックアップ記事

  1. タミフルをどう作る?~インフルエンザ治療薬の合成~
  2. 外部の大学院に進学するメリット3選
  3. 米デュポン、原料高騰で製品値上げ
  4. 発想の逆転で糖鎖合成
  5. 潤滑剤なしで抜群の滑りを実現する「自己潤滑性XXドーム」が開発されている
  6. 千葉 俊介 Shunsuke Chiba
  7. 英会話イメージリンク習得法―英会話教室に行く前に身につけておきたいネイティブ発想
  8. 【書籍】英文ライティングの基本原則をおさらい:『The Element of Style』
  9. ニューマン・クワート転位 Newman-Kwart Rearrangement
  10. アレーン類の直接的クロスカップリング

関連商品

ケムステYoutube

ケムステSlack

月別アーカイブ

2007年6月
 123
45678910
11121314151617
18192021222324
252627282930  

注目情報

最新記事

Host-Guest相互作用を利用した世界初の自己修復材料”WIZARDシリーズ”

昨今、脱炭素社会への実現に向け、石油原料を主に使用している樹脂に対し、メンテナンス性の軽減や材料の長…

有機合成化学協会誌2025年4月号:リングサイズ発散・プベルル酸・イナミド・第5族遷移金属アルキリデン錯体・強発光性白金錯体

有機合成化学協会が発行する有機合成化学協会誌、2025年4月号がオンラインで公開されています!…

第57回若手ペプチド夏の勉強会

日時2025年8月3日(日)~8月5日(火) 合宿型勉強会会場三…

人工光合成の方法で有機合成反応を実現

第653回のスポットライトリサーチは、名古屋大学 学際統合物質科学研究機構 野依特別研究室 (斎藤研…

乙卯研究所 2025年度下期 研究員募集

乙卯研究所とは乙卯研究所は、1915年の設立以来、広く薬学の研究を行うことを主要事業とし、その研…

次世代の二次元物質 遷移金属ダイカルコゲナイド

ムーアの法則の限界と二次元半導体現代の半導体デバイス産業では、作製時の低コスト化や動作速度向上、…

日本化学連合シンポジウム 「海」- 化学はどこに向かうのか –

日本化学連合では、継続性のあるシリーズ型のシンポジウムの開催を企画していくことに…

【スポットライトリサーチ】汎用金属粉を使ってアンモニアが合成できたはなし

Tshozoです。 今回はおなじみ、東京大学大学院 西林研究室からの研究成果紹介(第652回スポ…

第11回 野依フォーラム若手育成塾

野依フォーラム若手育成塾について野依フォーラム若手育成塾では、国際企業に通用するリーダー…

第12回慶應有機化学若手シンポジウム

概要主催:慶應有機化学若手シンポジウム実行委員会共催:慶應義塾大学理工学部・…

実験器具・用品を試してみたシリーズ

スポットライトリサーチムービー

PAGE TOP