[スポンサーリンク]

ケムステニュース

トムソン:2006年ノーベル賞の有力候補者を発表

[スポンサーリンク]

世界最大級の特許および学術文献情報データベースを提供しているトムソンISI社から2005年のノーベル賞最有力候補者が発表されました。去年も書きましたが、この時期になると発表されるあくまでも受賞予想ですので、この中から決まるというわけではありません。2002年からの的中率は7分の1だそうです。おそらく、各分野の研究をしている人のほうがもっと的中率は高いんじゃないでしょうか。

 

化学賞で見ると、2001年ノーベル化学賞の野依良治氏は挙げられていましたが、2000年の白川さん、2002年の田中さんなどはまったくのノーマークでした。2004年のユビキチンもはずしました。というわけで2004年まで3年間はずし続けて、その候補者も変わっていませんでしたが2005年のメタセシス触媒を開発したグラブスらの受賞をようやく当てました。

 

そして今回、今までの候補者を一新した最有力候補者が発表されました。簡単に解説してみましょう。

 

DNA、RNA、たんぱく質などよりも小さな低分子を用いて細胞回路と信号の伝達経路を解明、修正し、新しい重要な生化学分野の推進力となった先駆的な研究に対して

Gerald.R.Crabtree

Gerald R. CrabtreeProfessor of Pathology and Developmental Biology
Stanford University School of Medicine
Stanford, CA, USA
Howard Hughes Medical Investigato (米国)

 

Stuart.L.Schreiber

 

Stuart L. Schreiber
Morris Loeb Professor and Chair of the Department of Chemistry and Chemical Biology
Harvard University
Cambridge, MA, USA
Howard Hughes Institute Investigator (米国)

ケミカルバイオロジーの先駆けの二人です。スタンフォード大の生化学者であったクラブトリー教授と天然物有機合成化学者であったハーバード大シュライバー教授がFK506(タクロリムス)という免疫抑制剤の作用機序において、化学の側からそれを解明することに成功しています。

 

有機金属化学および触媒に関する多くの影響力のある研究と、驚くべき電気的・機械的・界面的・光子的特徴を持つ新しい物質の研究に対して

 

Tobin.Marks

Tobin J. Marks

Vladimir N. Ipatieff Professor of Catalytic Chemistry and Professor of Material Science and Engineering, Department of Chemistry
Northwestern University
Evanston, IL, USA (米国)

オレフィン重合用新規助触媒開発の第一人者です。4族メタロセン型触媒(Kaminsky触媒)を使って、エチレンやプロピレンの重合を行う際、助触媒としてメチルアルミノキサン(MAO)を入れると活性が大幅に向上します。マークス教授らは[BPh4]-などの非配位性の陰イオンを助触媒として入れることによってMAO同様な効果が得られることを見つけました。そのほかに、ランタノイドを用いたメタロセン型触媒も開発しています。確かに予想としてはありえる分野ですが、Kaminskyやポストメタロセン触媒のBrookhart教授でもよい気がします。

 

広範囲にわたる有機合成化学への貢献、特に商業的にも人間の健康にも影響を及ぼす重要な天然生成物の合成に対して

 

David.A.Evans

David A. Evans

Abbott and James Lawrence Professor of Chemistry
Department of Chemistry and Chemical Biology
Harvard University
Cambridge, MA, USA (米国)

 

Steven_V_Ley

 

Steven V. Ley,CBE, FRS
BP [1702] Professor of Organic Chemistry
University of Cambridge
Cambridge, UK, and Fellow of Trinity College (米国)

エバンスはアメリカの有機化学分野でCoreyと並んで、大ボスです。Mislow-Evans転位や非常に有名なEvansアルドール反応の開発者です。レイは、イギリス化学会の大物でTPAP酸化(TPAP Oxidation)というアルコールの酸化反応に加え、数多くの生物活性を有する天然物を合成しています。二人とも非常にすばらしい結果を残しており大物ですが、ノーベル賞を与える分野をつくったかといわれればそうでもない気がします。有機化学の分野は今年はないのではないでしょうか?あるとするならば、パラジウムかカップリングの化学で辻次郎先生、Heck教授、鈴木章先生あたりでしょうか。

どちらにしても発表が楽しみですね。

 

関連書籍

[amazonjs asin=”4582856063″ locale=”JP” title=”知っていそうで知らないノーベル賞の話 (平凡社新書)”][amazonjs asin=”4490108435″ locale=”JP” title=”ノーベル賞の事典”][amazonjs asin=”4121916336″ locale=”JP” title=”ノーベル賞の100年―自然科学三賞でたどる科学史 (中公新書)”]
Avatar photo

webmaster

投稿者の記事一覧

Chem-Station代表。早稲田大学理工学術院教授。専門は有機化学。主に有機合成化学。分子レベルでモノを自由自在につくる、最小の構造物設計の匠となるため分子設計化学を確立したいと考えている。趣味は旅行(日本は全県制覇、海外はまだ20カ国ほど)、ドライブ、そしてすべての化学情報をインターネットで発信できるポータルサイトを作ること。

関連記事

  1. 分子の動きを電子顕微鏡で観察
  2. 秋の褒章2011-化学
  3. 化学オリンピック:日本は金2銀2
  4. 脂肪燃やすアミノ酸に効果 「カルニチン」にお墨付き
  5. 材料研究分野で挑戦、“ゆりかごから墓場まで”データフル活用の効果…
  6. 有機化学美術館へようこそ ~分子の世界の造形とドラマ
  7. 「ペプチドリーム」東証マザーズ上場
  8. 大阪近海のアサリから麻痺性貝毒が検出される

注目情報

ピックアップ記事

  1. ピレスロイド系殺虫剤のはなし~追加トピック~
  2. アメリカ大学院留学:研究室選びの流れ
  3. DMFを選択的に検出するセンサー:アミド分子と二次元半導体の特異な相互作用による検出原理を発見
  4. ヴィクター・スニーカス Victor A. Snieckus
  5. 製薬各社 2010年度 第3四半期決算を発表
  6. ヘム鉄を配位するシステイン残基を持たないシトクロムP450!?中には21番目のアミノ酸として知られるセレノシステインへと変異されているP450も発見!
  7. 砂糖水からモルヒネ?
  8. パッセリーニ反応 Passerini Reaction
  9. α-トコフェロールの立体選択的合成
  10. 4-tert-ブチル-2,6-ジメチルフェニルサルファートリフルオリド:4-tert-Butyl-2,6-dimethylphenylsulfur Trifluoride

関連商品

ケムステYoutube

ケムステSlack

月別アーカイブ

2006年9月
 123
45678910
11121314151617
18192021222324
252627282930  

注目情報

最新記事

有馬温泉で鉄イオン水溶液について学んできた【化学者が行く温泉巡りの旅】

有馬温泉の金泉は、塩化物濃度と鉄濃度が日本の温泉の中で最も高い温泉で、黄褐色を呈する温泉です。この記…

HPLCをPATツールに変換!オンラインHPLCシステム:DirectInject-LC

これまでの自動サンプリング技術多くの製薬・化学メーカーはその生産性向上のため、有…

MEDCHEM NEWS 34-4 号「新しいモダリティとして注目を浴びる分解創薬」

日本薬学会 医薬化学部会の部会誌 MEDCHEM NEWS より、新たにオープン…

圧力に依存して還元反応が進行!~シクロファン構造を活用した新機能~

第686回のスポットライトリサーチは、北海道大学大学院理学研究院化学部門 有機化学第一研究室(鈴木孝…

第58回Vシンポ「天然物フィロソフィ2」を開催します!

第58回ケムステVシンポジウムの開催告知をさせて頂きます!今回のVシンポは、コロナ蔓延の年202…

第76回「目指すは生涯現役!ロマンを追い求めて」櫛田 創 助教

第76回目の研究者インタビューは、第56回ケムステVシンポ「デバイスとともに進化する未来の化学」の講…

第75回「デジタル技術は化学研究を革新できるのか?」熊田佳菜子 主任研究員

第75回目の研究者インタビューは、第56回ケムステVシンポ「デバイスとともに進化する未来の化学」の講…

第74回「理想的な医薬品原薬の製造法を目指して」細谷 昌弘 サブグループ長

第74回目の研究者インタビューは、第56回ケムステVシンポ「デバイスとともに進化する未来の化学」の講…

第57回ケムステVシンポ「祝ノーベル化学賞!金属有機構造体–MOF」を開催します!

第57回ケムステVシンポは、北川 進 先生らの2025年ノーベル化学賞受賞を記念して…

櫛田 創 Soh Kushida

櫛田 創(くしだそう)は日本の化学者である。筑波大学 数理物質系 物質工学域・助教。専門は物理化学、…

実験器具・用品を試してみたシリーズ

スポットライトリサーチムービー

PAGE TOP