[スポンサーリンク]

化学者のつぶやき

文献管理のキラーアプリとなるか? 「ReadCube」

[スポンサーリンク]

 

かつてケムステで文献管理ソフトをまとめて紹介したところ、大変な反響をいただきました。増え続けるPDFの管理作業は、分野を問わず研究者の悩みの種ということがよく分かります。【過去記事:Evernoteで論文PDFを一元管理! 最強の文献管理ソフトはコレだ!

今や文献管理ソフトは無料有料問わずいくつもの種類が存在しており、半ば戦国時代の様相を呈しているほど。

このたびそこにニューフェースが参上しました。その名もReadCube。ハーバード大学の卒業生が開発し、今年10月に公開されたばかりの無料文献管理ソフトです。

できて間もないながら大変完成度が高く、また他にない優れた機能が搭載されており、キラーアプリたる潜在的力量が見え隠れしています。

ふとしたことからこのアプリを知った、新しもの好きの筆者。 早速使ってみましたのでご紹介します。

(おそらく)日本語圏初のReadCubeレビューです!

ReadCubeの特徴

初心者にも分かりやすい、すっきりとしたインターフェース

下のキャプチャ画像はWindows7での基本画面ですが、インターフェースはMacに類似しており、シンプルなものになっていることがお分かりでしょう。そのおかげでほとんど直観的に操作できてしまいます。充実したチュートリアル・TIPSも付属しており、この点はかなりポイント高しです。

readcube_2.jpg
強力なインポート機能

インストールすると、早速ハードディスク(もしくは指定フォルダ内)の全検索がなされ、論文PDFが全て洗い出されます。PDFが論文フォーマットに該当するかどうかも自動で判定され、タイトル・ジャーナル・著者名などを抽出したインデックスが即座に生成されてきます。このプロセスは速く、しかも割と正確です。このCitation情報をEndNoteへエクスポートする機能もついています。

Mendeleyにも類似機能はありますが、ReadCubeはインストール直後にガイドしてくれるので、その点は素晴らしい。もちろんあとから手動で追加することも可能です。

readcube_3.jpg

PDFへのハイライト・コメント付与機能・全文検索機能

全文検索があれば分類キーワードを指定しなくてよいので、管理がとても楽になります。内蔵PDFリーダーで閲覧でき、いちいち別窓で開く必要はありません。複数PDFの切り替えはタブ形式で行え、コメント・ハイライトをつけることができます。このあたりは昨今の文献管理ソフトなら、当たり前に搭載される機能になりつつありますね。

readcube_4.jpgRecommendation機能

おそらくはユーザがインポートした論文情報から推測して、必要としているだろう論文をサジェストしてくれる機能です。
確度はともかく、これはなかなかに面白い機能だと思えます。使い込むほど便利になっていきそうですし、個人では限界のある「新しい着眼を得るための窓口」の一つになってくれるかもしれません。

readcube_5.jpg素早い文献検索機能

Google ScholarとPubMedを介した文献検索が行えます。わざわざブラウザを開かずとも良く、また検索結果一覧が簡潔にまとめられてくるので、もともとのサービスを使うよりもずっと見やすく感じます。Related Articlesのハイパーリンクをクリックすれば、関連論文も即座に持ってこれます。

readcube_6.jpgワンクリックで文献をダウンロード!

Recommended論文・検索された論文は、所属機関が購読していればなんとワンクリックでダウンロード可能です。
ソフト側で認証などを自動対応してくれてるようで、面倒くさい設定は全く不要。これはかなりの親切設計です!

 

Natureと提携!ReadCubeウェブリーダー

上述のデスクトップアプリもよくできていますが、筆者個人が凄いと思ったのはむしろこのReadCubeウェブリーダーのほうです。なにしろこのビューワー、研究者が「あったらいいな、こういうの欲しいな」と思うような機能が、ピンポイントに搭載されているのですから。現状ローカルアプリとは独立して公開されていますが、いずれは統合される予定と見うけられます。

Nature Publishing Group(NPG)との提携がもたれ、11月2日よりReadCubeがNPGの半公式ビューワーとして組み込まれています。NPGジャーナルの論文ページに飛んで、PDF optionのリンクから“view interactive pdf”を選んでみると、ReadCubeウェブリーダーを介して論文閲覧ができるようになっていることが分かります。最近実装されたばかりなので、ご存じない人も多いのではないでしょうか。

readcube_7.jpg
ともあれオープンアクセス論文にアクセスして、ご自分で体験してみるのが一番でしょう。ワンクリックでSupporting Informationや対応するNews & Viewsを参照できたり、サイドバーにハイパーリンク付きのReference、Authorが一覧表示され、そこから1クリックで検索できたり・・・本当に便利な機能ばかりで、現場の研究者にとっては感動モノですよこれ。

readcube_8.jpg

(クリックで画像を拡大)

文献管理ソフトとしては後発であるReadCubeですが、何とかしてシェアを上げるべく採った戦略がこれというわけです。確かに他のソフト提供元が全く目をつけてないやり方でもあり、それでいてプロモーション効果は絶大(筆者もこれを通じてReadCubeを知ったのですから!)。これほどスマートな切り込み方があるのか!とまったく感嘆するばかりでした。

これで一挙に知名度が上がって市民権を確保し、ACSやRSCなど他のジャーナル出版元が追随せざるを得なくなったら、凄いことではないでしょうか。

 

 

まとめ

現段階でも完成度は高く、シンプルながら必要十分な機能はあるという印象です。
とはいえMendeleyに既に実装されているプロフィール機能やクラウド・SNSサービスとの連携など、あって欲しいなと思える機能は、まだ実装されていません。EvernoteとMendeleyをメインに活用している身としては、乗り換えにはもう少し待つのが吉かな?というのが偽らざる感想ですね。

しかしReadCubeのRecommendation機能、何でもかんでも1クリックの手軽さなどは、他をもって代えがたいほどの強みを感じます。久々に将来性を感じさせるサービスであることは間違いないでしょう。期待大ですね!

 

追記

  • Natureを要するマクミラン社が無料でNature論文が過去の論文も含めてフルテキストで閲覧できるようにすると発表しました。「ReadCube」のビューワー機能を使ってオンライン上で可能になる予定。ただし、学術論文はReadCubeビューワーで閲覧はできますが、印刷したりダウンロードしたりすることはできません。デスクトップ版ReadCubeでは手元にPDFを保存することもできるらしい(2014年12月3日)。
  • Wiley Online LibraryがReadCube社のPDFビューア ReadCube Connect を全面的に採用しました (2015年2月19日)。

 

関連動画

 

 

関連商品

[amazonjs asin=”4771904227″ locale=”JP” title=”最新EndNote活用ガイド デジタル文献整理術”][amazonjs asin=”B00F4NXYBU” locale=”JP” title=”EndNote X7 for Windows/Mac 英語版【並行輸入品】”]
Avatar photo

cosine

投稿者の記事一覧

博士(薬学)。Chem-Station副代表。国立大学教員→国研研究員にクラスチェンジ。専門は有機合成化学、触媒化学、医薬化学、ペプチド/タンパク質化学。
関心ある学問領域は三つ。すなわち、世界を創造する化学、世界を拡張させる情報科学、世界を世界たらしめる認知科学。
素晴らしければ何でも良い。どうでも良いことは心底どうでも良い。興味・趣味は様々だが、そのほとんどがメジャー地位を獲得してなさそうなのは仕様。

関連記事

  1. 創薬化学における「フッ素のダークサイド」
  2. “click”の先に
  3. Carl Boschの人生 その2
  4. 信頼度の高い合成反応を学ぶ:Science of Synthes…
  5. 化学工業で活躍する有機電解合成
  6. 陶磁器釉の構造入門-ケイ酸、アルカリ金属に注目-
  7. 投票!2018年ノーベル化学賞は誰の手に!?
  8. E-mail Alertを活用しよう!

注目情報

ピックアップ記事

  1. 反応開発における顕著な功績を表彰する「鈴木章賞」が創設 ―北海道大学化学反応創成研究拠点(ICReDD)―
  2. サンギ、バイオマス由来のエタノールを原料にガソリン代替燃料
  3. ネッド・シーマン Nadrian C. Seeman
  4. アルバート・コットン Frank Albert Cotton
  5. 条件最適化向けマテリアルズ・インフォマティクスSaaS : miHubのアップデートのご紹介
  6. 第15回 有機合成化学者からNature誌編集者へ − Andrew Mitchinson博士
  7. 生体組織を人工ラベル化する「AGOX Chemistry」
  8. 第89回―「タンパク質間相互作用阻害や自己集積を生み出す低分子」Andrew Wilson教授
  9. 塩野義製薬/米クレストール訴訟、控訴審でも勝訴
  10. 第八回ケムステVシンポジウム「有機無機ハイブリッド」を開催します!

関連商品

ケムステYoutube

ケムステSlack

月別アーカイブ

2011年11月
 123456
78910111213
14151617181920
21222324252627
282930  

注目情報

最新記事

アクリルアミド類のanti-Michael型付加反応の開発ーPd触媒による反応中間体の安定性が鍵―

第622回のスポットライトリサーチは、東京理科大学大学院理学研究科(松田研究室)修士2年の茂呂 諒太…

エントロピーを表す記号はなぜSなのか

Tshozoです。エントロピーの後日談が8年経っても一向に進んでないのは私が熱力学に向いてないことの…

AI解析プラットフォーム Multi-Sigmaとは?

Multi-Sigmaは少ないデータからAIによる予測、要因分析、最適化まで解析可能なプラットフォー…

【11/20~22】第41回メディシナルケミストリーシンポジウム@京都

概要メディシナルケミストリーシンポジウムは、日本の創薬力の向上或いは関連研究分野…

有機電解合成のはなし ~アンモニア常温常圧合成のキー技術~

(出典:燃料アンモニアサプライチェーンの構築 | NEDO グリーンイノベーション基金)Ts…

光触媒でエステルを多電子還元する

第621回のスポットライトリサーチは、分子科学研究所 生命・錯体分子科学研究領域(魚住グループ)にて…

ケムステSlackが開設5周年を迎えました!

日本初の化学専用オープンコミュニティとして発足した「ケムステSlack」が、めで…

人事・DX推進のご担当者の方へ〜研究開発でDXを進めるには

開催日:2024/07/24 申込みはこちら■開催概要新たな技術が生まれ続けるVUCAな…

酵素を照らす新たな光!アミノ酸の酸化的クロスカップリング

酵素と可視光レドックス触媒を協働させる、アミノ酸の酸化的クロスカップリング反応が開発された。多様な非…

二元貴金属酸化物触媒によるC–H活性化: 分子状酸素を酸化剤とするアレーンとカルボン酸の酸化的カップリング

第620回のスポットライトリサーチは、横浜国立大学大学院工学研究院(本倉研究室)の長谷川 慎吾 助教…

実験器具・用品を試してみたシリーズ

スポットライトリサーチムービー

PAGE TOP