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スポットライトリサーチ

多様なペプチド化合物群を簡便につくるー創薬研究の新技術ー

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第95回のスポットライトリサーチは、東京大学大学院農学生命科学研究科・尾仲宏康研究室山下湖奈さんと尾﨑太郎助教の研究に焦点を当てました。

尾仲研究室は、微生物の隠れた有用性を見つけ出し、人類に役立つような技術へ応用することを研究の一大目標とされています。同研究室、東京大学大学院理学系研究科・菅裕明研究室、北里大学北里生命科学研究所・池田治生先生のグループは、人工遺伝子を用いることによって、土壌中の放線菌が生産するペプチド系天然物ゴードスポリンや、その類縁体を効率的に合成できる新しい技術を確立しました。本成果はプレスリリースおよび論文として報告されています。

Dissection of goadsporin biosynthesis by in vitro reconstitution leading to designer analogues expressed in vivo

T. Ozaki, K. Yamashita, Y. Goto, M. Shimomura, S. Hayashi, S. Asamizu, Y. Sugai, H. Ikeda, H. Suga, H. Onaka

Nat. Commun. 2017, 8, 14207. DOI: 10.1038/ncomms14207

また、指導教員の尾仲先生より尾崎助教・山下湖奈さんについてコメントをいただきました。

私たちのラボは教員も含めて全7名のこぢんまりとした研究室なのですが、そんな中で尾﨑助教と山下さんはそれこそ二人三脚でこの研究に2年間没頭していました。尾﨑助教の指導のもと、あきらめずに何度も実験を繰り返している山下さんの姿が印象的でした。

それでは、今回の研究の裏側に迫っていきましょう!

Q1. 今回のプレス対象となったのはどんな研究ですか?簡単にご説明ください。

研究対象としたのは、放線菌が生産するゴードスポリンというペプチド系天然物です。放線菌の形態分化や二次代謝を促進するという特徴的な生物活性を持つ分子なのですが、ペプチドの骨格が複数のアゾール等で高度に修飾を受けた特徴的な骨格を持つことから、生合成研究の分野でも着目されていました。これまでに、リボソームで作られた前駆体ペプチドが翻訳後修飾を受けることで生合成されることはわかっていましたが、各修飾酵素がどのような特異性をもって作用するかは解明されていませんでした。

従来は50残基近い長さを持つ前駆体ペプチドの調製が研究の律速となり、各酵素の機能を解析するための前駆体やその類縁体を用意するのが困難でした。本研究では、無細胞翻訳系を用いて前駆体ペプチドを調製することで問題を解決し、ゴードスポリンを試験管内で合成することに成功しました。この合成系を利用して修飾酵素の基質特異性を解析することで、アゾール形成酵素の基質認識に重要なモチーフ配列を提唱し、新たなゴードスポリン類縁体を合理的に設計することが可能となりました。また、得られた知見が放線菌を宿主とした物質生産へと応用可能であることも示し、新たなゴードスポリン類縁体の生産にも成功しました。

図1 ゴードスポリン合成系の概要 鋳型DNAを出発として、転写・翻訳反応、組換え蛋白質による翻訳後修飾反応によってゴードスポリンを試験管内で合成することが可能になりました。

Q2. 本研究テーマについて、自分なりに工夫したところ、思い入れがあるところを教えてください。

(山下)デヒドロアラニン(図中緑色の部分構造)の形成に関わる酵素の一つが、活性型蛋白質として得られなかったことです。蛋白質の精製法や発現の宿主の変更など、思いつく方法を数ヶ月間ひたすら検討しましたが、どうしてもうまくいきませんでした。最終的には別の放線菌が持つ類縁酵素が機能を補完できることがわかり、研究を進めることができました。

 

(尾﨑)試験管内でデザインしたペプチドを放線菌で生産する、という点にはこだわりました。いかにユニークな化合物であっても修飾酵素の基質特異性を解析しただけでは、特色がないと考えていました。もともと尾仲教授のグループでは放線菌を宿主とするゴードスポリン類縁体の生産系を構築していましたので、その生産系に適用可能な知見を得ることを意識しながら研究を進めました。最終的に尾仲教授のグループで作り上げてきたゴードスポリン生産系に、菅教授らの特殊ペプチドの翻訳合成技術がうまく組み合わさることで、特色ある研究になったと考えています。

Q3. 研究テーマの難しかったところはどこですか?またそれをどのように乗り越えましたか?

(山下)翻訳後修飾酵素の基質特異性を調べるに当たり、基質変異体のデザインに一番悩みました。基質の配列によっては予想とは異なる修飾が起き、結果の解釈が難しかったのですが、多くの方々と議論することで修飾の規則性を明らかにすることができました

 

(尾崎)アゾール形成酵素の基質特異性を解析するための類縁体の配列のデザインには苦労しました。無細胞翻訳系を利用することで前駆体ペプチドの調製は容易になりましたが、それでもゴードスポリンの配列に網羅的に変異を導入するためには、数百種以上のペプチドが必要となります。最終的には、アゾール形成酵素が鎖長の短いペプチドでも修飾可能だと分かったことがきっかけとなり、解析する変異体を絞り込むことができました。40種程度の変異体の解析に落とし込むことができたので、効率よく進められたと考えています。

Q4. 将来は化学とどう関わっていきたいですか?

(山下)現在は食品メーカーでの研究に従事しています。分野を問わず最新の情報にアンテナを張りながら研究に取り組み、おいしさと機能性を兼ね備えた食品を世の中に届けたいと思います。

 

(尾崎)酵素が触媒する多彩な反応に魅せられて、現在の分野を志しました。天然物の生合成研究を通じて、これまでに知られていない機能を持つ新たな酵素を発見したいと考えています。微生物・酵素をキーワードとして研究を進めていますが、酵素反応に化学の視点からの考察を加えられるように心がけています。

Q5. 最後に、読者の皆さんにメッセージをお願いします。

(山下)私は放線菌が作る有用物質を創薬に繋げたいという想いで研究を進めてきました。その中で尾崎助教、尾仲教授および研究室メンバーのサポートに恵まれたこと、さらに特殊ペプチドを用いた創薬研究を行う後藤准教授、菅教授と出会えたことは私にとってとても貴重な経験となりました。様々なバックグラウンドを持った方々との出会いを大切にして研究に取り組むと将来のチャンスが広がるのではないかと思います。

 

(尾崎)尾仲教授と研究室のメンバー、菅教授をはじめとする共同研究者など、多くの方々に支えられて研究を形にすることができたと感じています。研究を進める中で様々な方の考えに触れることができたのは、かけがえのない経験となりました。学際的な研究がますます求められると思いますので、専門分野以外にも興味を持つようにすると、研究が一層進展するのではないかと思います。

関連リンク

東京大学大学院農学生命科学研究科・尾仲宏康研究室

東京大学大学院理学系研究科・菅裕明研究室

天然ペプチド骨格の合理的な設計手法の開発~天然物資源からの創薬研究がより簡便にスピーディーに~

研究者のご略歴

名前:山下湖奈

所属:東京大学大学院農学生命科学研究科 微生物潜在機能探索寄付講座(当時)

略歴:

2014年3月 福井県立大学生物資源学部生物資源学科卒業
2016年3月 東京大学大学院農学生命科学研究科修士課程修了
名前: 尾﨑太郎

所属 東京大学大学院農学生命科学研究科 微生物潜在機能探索寄付講座(当時)
研究テーマ:生物活性天然物の生合成研究

略歴:
2013年3月 東京大学大学院農学生命科学研究科博士後期課程修了
2013年3月 博士(農学)、東京大学
2010年4月—2013年3月 日本学術振興会特別研究員(DC1)
2013年4月—2016年3月 東京大学大学院農学生命科学研究科 微生物潜在機能探索寄付講座 特任助教
2016年4月より 北海道大学大学院理学研究院 化学部門 助教

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有機合成を専門にするシカゴ大学化学科PhD3年生です。
趣味はスポーツ(器械体操・筋トレ・ランニング)と読書です。
ゆくゆくはアメリカで教授になって活躍するため、日々精進中です。

http://donggroup-sites.uchicago.edu/

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