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最新の産学コラボ研究論文

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東京工業大学 科学技術創成研究院 未来産業技術研究所の西村涼特任教授と市林拓特任准教授らの研究チームは、ENEOS株式会社と共同で、静電アクチュエーターの出力を従来比1,000倍にできる有機強誘電材料を開発した。(引用:11月17日東工大プレスリリース)

国立研究開発法人 産業技術総合研究所 化学プロセス研究部門 河野 雄樹 主任研究員、金久保 光央 研究部門付、牧野 貴至 研究グループ長は、株式会社ダイセルと共同で、大気中CO2のような希薄なCO2を高選択に分離回収する膜を開発しました。(引用:11月11日産総研プレスリリース)

理化学研究所(理研)生命機能科学研究センター先端NMR開発・応用研究チーム、東京工業大学、住友ゴム工業株式会社の共同研究グループは、超高磁場核磁気共鳴(NMR)装置を使用し、加硫天然ゴム(加硫NR)の特性を決定すると考えられる硫黄を含む構造の精密な解析に成功しました。(引用:10月26日理化学研究所プレスリリース)

ここ最近、産学共同研究チームの論文発表がプレスリリースにて続々と報告されており、いくつかを簡単に紹介させていただきます。

一件目は、ENEOSと東工大の有機強誘電材料の共同開発についてです。研究背景として人工筋肉の需要があり、加齢によって歩行や運動の困難な状況になった時のサポートは、人間の長寿命化によって重要な研究テーマとなっています。その人工筋肉で使用される材料は、人間の動作をサポートする目的のため、出力、柔軟性、軽量であることが求められており、静電アクチュエーターが一つの有望な候補となっています。しかしながら、既存の静電アクチュエーターは数キロボルトから数十キロボルトの高電圧を必要とするため、人体に使用すると感電の危険性が懸念されていました。

人工筋肉の静電アクチュエーターには、大きな自発分極と柔軟性を兼ね備えている材料が適しており、チタン酸バリウムのような無機材料の強誘電体は、硬くて変形量が小さく向いていません。一方、有機材料は、強誘電性を示すことはほとんどありませんでしたが、最近、棒状液晶のネマチック相の強誘電性が示すことが報告されています。そこで本研究では、強誘電ネマチック液晶に注目し、静電アクチュエーターの媒体として利用することを試みました。

液晶分子のスクリーニングでは、先行研究で報告されている分子、DIOの誘導体を探索し、室温で液晶を示す構造DIO-CNを発見しました。しかしながら、DIO-CNは強誘電体ではなかったことから50:50 の比率で DIO と DIO-CNを混合し、物性の測定を行いました。

DIOとその誘導体の相転移温度(出典:原著論文

まず、測定装置を自作し印加電圧、サンプルを流れる電流、電極間の距離、および発生した力を同時に測定しました。すると、0.5 MV/mの印加電界条件で1.3 Nの静電力が得られました。誘電率10程度の一般的な常誘電体では、同条件で約1 mN程度の静電力しか得られないことから、従来の常誘電体材料の約 1200 倍の力を生成することが分かりました。

常誘電体と強誘電体の時の得られた力の違い(出典:原著論文

次にこの材料の実際の静電アクチュエーターでのパフォーマンスを調べるために3Dプリンターでダブルヘリカルコイルの電極装置を製作しました。すると、200Vの電圧を印加すると素子長が32.6 mmから26.3 mmに減少し19.3%収縮することが確認されました。

静電アクチュエーターの試作手順と200V印加した時の縮み具合(出典:原著論文

このように強誘電性を示す液晶材料の開発に成功し低電圧でも高出力の静電アクチュエーターとなることが示されました。今後は、実用化のための固定化技術の発展や、運動エネルギーを電気エネルギーに逆変換する展開も検討しているようです。

 

二件目は、ダイセルと産総研の二酸化炭素分離膜の共同開発についてです。近年ではカーボンニュートラルの実現に向けて、CO2を分離回収し、化学品の原料として再利用する技術が注目されています。発電所や工場など、高濃度のCO2を回収する技術は研究が進んでいますが、その量は全体の排出量の1/3から1/2に過ぎず、直接大気中からCO2を回収する技術の開発が必要になっています。

促進輸送膜を使ったCO2の回収では、膜内の担体によるCO2との錯体形成と放出を繰り返すことでCO2が回収されます。この時にCO2/N2選択性を維持しながらCO2の透過性を高めることが課題となります。一方、イオン液体は構造設計によりCO2に対する親和性を制御することができ、高いCO2/N2選択性とCO2の透過性示すイオン液体が報告されています。本研究グループでは、カルボン酸のイオン液体とエーテル基を持つアニオンを使って100 ℃以下でCO2を回収できるイオン液体を開発しました。今回はこの技術を発展させ、熱エネルギー消費量の削減を目指して、複数のイオン液体を多孔質材に含浸させたCO2分離膜の開発に取り組みました。

二酸化炭素との反応(出典:原著論文

まず実験では、イオン液体のCO2吸収率を確認しました。すると、混合物の方がそれぞれの単体よりも高い吸収率を示すことが確認されました。

イオン液体別の二酸化炭素吸収量の違い 黒: [AEEA][Tf2N]; 青: [emim][AcO]; 赤: [AEEA][Tf2N]/[emim][AcO] (10/90 mol %)(出典:原著論文

次に、イオン液体とCO2の錯体の構造を調べるためにNMRを測定しました。これによりイオン液体にCO2を加えるとCO2–[AEEA]+が生成し、双性イオン/カルバミン酸が [AcO] との水素結合によって安定化されていることが示唆されました。

a) 13CO2を[AEEA][Tf2N]/[emim][AcO]の異なるモル比で吸収させたときの13C NMR b) 13CO2を[AEEA][Tf2N]/[emim][AcO] (10/90 mol %) に吸収させたときのC–H COSY(出典:原著論文

最後にこのイオン液体を多孔質材に含浸させることで、イオン液体膜を作製しました。

多孔質材に含浸させたときの実験方法(出典:産総研プレスリリース

結果、混合イオン液体膜の性能は、従来高分子膜の性能上限を大きく超え、大気中CO2と同程度の0.04%のCO2を用いた試験で、CO2/N2選択率は従来膜の約200倍に達しました。

(a) 多孔質材に含浸させた [AEEA][Tf2N]/[emim][AcO] のCO2/N2透過性 (b) CO2/N2選択性 黒:[AEEA][Tf2N], 青:[emim][AcO], 赤:[AEEA]X/[emim][AcO](出典:原著論文

従来よりも非常に高いCO2/N2選択率を示す材料が開発されたことで、今後この技術の実用化を目指しイオン液体膜の製造技術とモジュール化技術について研究を進めていくそうです。さらに、この複数のイオン液体を混合するアプローチでは、CO2吸収機構を制御することでイオン液体膜を高性能化する点に特徴があり、イオン液体の組成を適切に選択することで排出対象に応じて最適化する発展も見込まれるとしています。

 

最後は、住友ゴムと理研、東工大の加硫天然ゴム中の未知構造が明らかにした研究です。天然ゴムはタイヤをはじめとしたさまざまなゴム製品に使われていますが、優れた機械的・物理的特性を製品に付与するために硫黄加硫と呼ばれるゴム高分子鎖を硫黄原子を介して架橋されるプロセスが行われています。この加硫天然ゴムの原子構造が耐衝撃や耐摩耗性に影響を及ぼしていると考えられていますが、その詳細は分かっていませんでした。最近になって加硫天然ゴムの自己修復性が化学構造と関係していることが示されましたが、依然としてスルフィド構造の詳細と自己修復性の関連は不明です。また、近年の持続可能性に対する社会的な意識の高まりから加硫ゴムの廃棄物化を再利用して新たな製品を作り出すことが求められていますが、他のポリマーとは異なり硫黄加硫構造が複雑であるため、ゴム廃棄物の加硫物からゴムを大規模に再生する方法は限られています。

次にNMRを使った加硫天然ゴムに目を向けると、30年以上研究させていますが、加硫したスルフィド構造の解析は、含有量の少なさからとても困難な研究テーマとなっています。近年でも、さまざまな方法のNMRを使った解析が行われていますが、製品に使われる天然加硫ゴムの構造には不明なことが多い状況です。そこで本研究では、700 MHzの高磁場固体NMRで サンプルを22 kHzの高速回転しスルフィド構造の解析を行いました。また、加硫前の天然ゴムを溶媒に溶解した後で、さらに硫黄などを添加して加熱反応させたゾル状のサンプルも調製し、クライオプローブ付き600 MHzと900 MHzの溶液NMRにおいても構造の解析を行いました。

タイヤ製造における天然ゴムの加硫と、本実験の流れの比較(出典:理研プレスリリース

まずそれぞれの13C-NMRを測定すると、硫黄の添加・加熱で生じた化学反応によって構造が変化していることが確認されました。

13C-NMRの1次元スペクトル(出典:理研プレスリリース

次に溶液のINADEQUATEをはじめとした二次元NMR測定により、ゾル状NRの精密な構造解析を行いました。すると、これまでは知られていなかった環状スルフィド構造やビニリデン基などを持つ架橋構造の存在が明らかになりました。

高磁場溶液NMRにより明らかになった、加硫されたゾル状NRの部分構造(出典:理研プレスリリース

さらに固体NMR(HETCOR (DEPT135) )と溶液NMR(MWET-edited-HSQC)を比べることで上記の構造は、固体中にも存在していることが示唆されました。環状構造と架橋構造について、架橋構造は比較的少ない種類に絞られる可能性があるものの、環状構造は硫黄を含む主要な部分構造を形成している可能性が示されました。

固体試料(a)と溶液試料(b)で比較した硫黄結合点のメチン基の2次元NMR(出典:理研プレスリリース

このように、加硫天然ゴムの分子構造を高性能NMRによって解析されました。結果、環状構造が硫黄を含む主要な部分構造の可能性があるという予想外の結果が得られ、この環状構造がゴムの機械的特性にどのような影響があるか調べる必要が出てきたそうです。この知見は、ゴム製品の高性能化やリサイクル・生合成による代替品の検討に役立つものだとしています。さらに測定に関しては、1 GHzを超えるような超高磁場NMRを使うことで解析力が向上するとしています。

 

企業との共同研究の場合、発表した論文の内容に対して、特許取得や製品化がどうなっているか気になるところです。ただし、一件目と二件目については、既存技術が確立されていない分野であり、すぐにこれらの研究が反映された製品が出るとは考えにくいです。三件目は、製品開発というよりかは基礎技術に関する内容であり、この構造解析結果を活かした開発が各分野で進むのではないかと思います。共同研究の規模や体制はプロジェクトによって異なりますが、産学協力の成果が論文で出てくるのは、どのテーマでも興味深いものであり、これからも産学連携を続けてほしいと思います。

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ただの会社員です。某企業で化学製品の商品開発に携わっています。社内でのデータサイエンスの普及とDX促進が個人的な野望です。

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