[スポンサーリンク]

ケムステニュース

ハワイ州で日焼け止め成分に規制

[スポンサーリンク]

(CNN) 米ハワイ州のデービッド・イゲ知事は3日、サンゴ礁への有害性が指摘される成分を含んだ日焼け止めを禁止する法案に署名して成立させた。2021年1月1日から施行する。こうした法律が米国で制定されるのは初めて。

法案は5月にハワイ州議会を通過していた。施行後は、紫外線カット成分のオキシベンゾンとオクチノキサートが含まれる市販の日焼け止めの販売や流通が禁止される

法案の起草にかかわった非営利の学術団体は、オキシベンゾンやオクチノキサートについて、海水浴客の肌から流れ落ちたり排水処理施設を通じて海水に流れ込んだりして、サンゴの白化現象や遺伝子の損傷を引き起こす原因となり、やがてサンゴを死滅させるという調査結果を発表していた。

以下略 (太字は筆者による)

CNN.co.jp 2018.7.4

珊瑚の白化は世界中で問題となっておりますが、その原因についてははっきりとしていません。ある研究者はヒトが使用している日焼け止めクリームの成分を疑っています。[1]こういった意見を踏まえ、ハワイ州が動き出したようです。一度破壊された珊瑚礁は元に戻るのに長い年月を要しますので、科学的な根拠があるのであれば、このような規制はある程度やむを得ないのかもしれません。

化学に携わる者としては、禁止される成分がどんなものなのか気になるところです。この機会にオキシベンゾンオクチノキサートについて勉強しておきましょう。

オキシベンゾンは270-350 nmの光を吸収できますので、紫外線のUVBおよびUVAを吸収できます。また、オクチノキサートも280-320 nmの光を吸収できるため、主にUVAを吸収できます。構造も比較的単純ですので、合成もそんなに難しくなさそうです。よって幅広く日焼け止めの成分として使用されてきたのでしょう。しかしこれらがサンゴ白化の容疑者として上がっているようです。事の真偽はともかく、このような法案が通ってしまった以上は、ハワイでの日焼け止め対策について対策を練る必要があります。

それでは国内で販売されている日焼け止めクリームの成分を見てみましょう。筆者が(妻が買ってくるので)愛用している某王手化粧品会社の商品の裏を見ると、

ジメチコン, 水, 酸化亜鉛, エタノール, メトキシケイヒ酸エチルヘキシル, タルク, ミリスチン酸イソプロピル, メタクリル酸メチルクロスポリマー, シクロペンタシロキサン, イソドデカン, オクトクリレン, 酸化チタン, PEG-9ポリジメチルシロキシエチルジメチコン, ジエチルアミノヒドロキシベンゾイル安息香酸ヘキシル, グリセリン, セバシン酸ジイソプロピル, (ビニルジメチコン/メチコンシルセスキオキサン)クロスポリマー, シリカ, パルミチン酸デキストリン, キシリトール, トリメチルシロキシケイ酸, ビスエチルヘキシルオキシフェノールメトキシフェニルトリアジン, PEG/PPG-14/7ジメチルエーテル, 塩化Na, チャエキス, サクラ葉エキス, カニナバラ果実エキス, アセチルヒアルロン酸Na, トルメンチラ根エキス, アロエベラ葉エキス, 水溶性コラーゲン, PPG-17, トリエトキシカプリリルシラン, イソステアリン酸, ジステアリルジモニウムクロリド, ジステアルジモニウムヘクトライト, 水酸化AI, ステアリン酸, EDTA-3Na, BHT, トコフェロール, イソプロパノール, BG, ピロ亜硫酸Na, フェノキシエタノール, 香料

となっていました。この商品は50%がスキンケア成分と謳っていますので、多くは今回の件に無関係です。この中で紫外線を吸収する化合物を拾ってみると、4つが該当しそうです。やれやれ、オキシベンゾンもオクチノキサートもはいっていないから、ハワイでも問題無く使えるなと一瞬思いました。

紫外線吸収に関わる4つの成分

が、構造式を描いてみると・・あれあれメトキシケイ皮酸エチルヘキシルって、オクチノキサートじゃないですか!しかも成分表の最初の方に出てくるので、結構メインを張ってますね。あぁ残念ながらこの商品は、2021年以降はハワイで使えないということになります(禁止されたのは販売、流通ですので、日本からの持ち込みはできるかもしれません)。さて、どうしたものですかね・・・

次のPacifichem2020年12月ですのでギリギリセーフですが、まあ無理して使うこともないですかね。そう言えばPacifichemの講演は屋内だし、夜近くまで講演もあるから、真面目に講演を聴く皆さんでしたら日焼けを気にしなくてもいいですよね?

いずれにしても、サンゴを守る活動には少しでも協力したいところです。サンゴにダメージを与えない日焼け止め成分の開発を加速させる必要があるかもしれません。

 

参考文献

    1. C. A. Downs, C. A.; Kramarsky-Winter, E.; Segal, R.; Fauth, J.; Knutson, S.; Bronstein, O.; Ciner, F. R.; Jeger, R.; Lichtenfeld, Y.; Woodley, C. M.; Pennington, P. Cadenas, K.; Kushmaro, A.; Loya, Y. Arch. Environ. Contam. Toxicol. 70, 265 (2016). DOI: 10.1007/s00244-015-0227-7

関連書籍

[amazonjs asin=”4057505636″ locale=”JP” title=”紫外線を調べよう (自由研究おたすけキット)”] [amazonjs asin=”4533125077″ locale=”JP” title=”ハワイ完全版2019 (JTBのムック)”] [amazonjs asin=”4074315793″ locale=”JP” title=”白川みきプロデュースUVカット加工アームカバーつき 紫外線からお肌を徹底ガード! UV&美白ケアBOOK (主婦の友ヒットシリーズ)”]
Avatar photo

ペリプラノン

投稿者の記事一覧

有機合成化学が専門。主に天然物化学、ケミカルバイオロジーについて書いていきたいと思います。

関連記事

  1. クラレが防湿フィルム開発の米ベンチャー企業と戦略的パートナーシッ…
  2. 化学産業のサプライチェーンをサポートする新しい動き
  3. サリドマイド、がん治療薬に
  4. ヘリウム不足いつまで続く?
  5. 阪大と理研ビタミン、透明な生分解性フィルムを開発
  6. 2009アジアサイエンスキャンプ・参加者募集中!
  7. 日本化学会第86春季年会(2006)
  8. 「田中さん惜しかった」--分解酵素「プロテアソーム」を精製

注目情報

ピックアップ記事

  1. デイヴィット・ベイカー David Baker
  2. 立体選択的なスピロ環の合成
  3. “防護服の知恵.com”を運営するアゼアス(株)と記事の利用許諾契約を結びました
  4. 小松紘一 Koichi Komatsu
  5. Dead Endを回避せよ!「全合成・極限からの一手」⑤(解答編)
  6. 分子の自己集合プロセスを多段階で制御することに成功 ―分子を集めて数百ナノメートルの高次構造を精密合成―
  7. アイディア創出のインセンティブ~KAKENデータベースの利用法
  8. 書いたのは機械。テキストの自動生成による初の学術文献が出版
  9. ワサビ辛み成分受容体を活性化する新規化合物
  10. 化学のブレークスルー【有機化学編】

関連商品

ケムステYoutube

ケムステSlack

月別アーカイブ

2018年7月
 1
2345678
9101112131415
16171819202122
23242526272829
3031  

注目情報

最新記事

第42回メディシナルケミストリーシンポジウム

テーマAI×創薬 無限能可能性!? ノーベル賞研究が拓く創薬の未来を探る…

山口 潤一郎 Junichiro Yamaguchi

山口潤一郎(やまぐちじゅんいちろう、1979年1月4日–)は日本の有機化学者である。早稲田大学教授 …

ナノグラフェンの高速水素化に成功!メカノケミカル法を用いた芳香環の水素化

第660回のスポットライトリサーチは、名古屋大学大学院理学研究科(有機化学研究室)博士後期課程3年の…

第32回光学活性化合物シンポジウム

第32回光学活性化合物シンポジウムのご案内光学活性化合物の合成および機能創出に関する研究で顕著な…

位置・立体選択的に糖を重水素化するフロー合成法を確立 ― Ru/C触媒カートリッジで150時間以上の連続運転を実証 ―

第 659回のスポットライトリサーチは、岐阜薬科大学大学院 アドバンストケミストリー…

【JAICI Science Dictionary Pro (JSD Pro)】CAS SciFinder®と一緒に活用したいサイエンス辞書サービス

ケムステ読者の皆様には、CAS が提供する科学情報検索ツール CAS SciFind…

有機合成化学協会誌2025年5月号:特集号 有機合成化学の力量を活かした構造有機化学のフロンティア

有機合成化学協会が発行する有機合成化学協会誌、2025年5月号がオンラインで公開されています!…

ジョセップ・コルネラ Josep Cornella

ジョセップ・コルネラ(Josep Cornella、1985年2月2日–)はスペイン出身の有機・無機…

電気化学と数理モデルを活用して、複雑な酵素反応の解析に成功

第658回のスポットライトリサーチは、京都大学大学院 農学研究科(生体機能化学研究室)修士2年の市川…

ティム ニューハウス Timothy R. Newhouse

ティモシー・ニューハウス(Timothy R. Newhouse、19xx年xx月x日–)はアメリカ…

実験器具・用品を試してみたシリーズ

スポットライトリサーチムービー

PAGE TOP