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虫歯とフッ素のお話② ~歯磨き粉のフッ素~

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以前の記事(虫歯とフッ素のお話①)では、歯磨き粉 (歯磨剤) にフッ化物が用いられるようになった歴史的背景から、フッ素(フッ化物)フッ化物が虫歯(う蝕)予防に働きかけるメカニズムについてご紹介させて頂きました。
今回の記事では、実際に歯磨剤にはどんなフッ化物が使われているのか?またそれらの特徴について見ていきたいと思います。

歯磨剤に使用される主なフッ化物

日本ではフッ化物配合歯磨剤は医薬部外品として位置づけられており、配合フッ化物として、フッ化ナトリウム(NaF)、フッ化第一スズ(SnF2)、モノフルオロリン酸ナトリウム(Na2PO3F; MFP)の3種類の使用が承認されております。[1]

Fig. 1. 歯磨剤に使用される主なフッ素化合物.

これまではフッ化物の配合濃度はフッ化物イオン濃度として1,000 ppmを上限とされておりましたが、2017年3月厚生労働省より1,500 ppm以下と緩和された上限にて認可されました。[2]
  *高濃度フッ化物含有歯磨剤に関しては年齢による使用注意の表示が義務づけられています。

国内の歯磨剤において多く使われるフッ化物はNaFやMFP、もしくはその混合物になります。
ではその2物質の作用機構の違いについて見てみることにしましょう。

NaFとMFPの作用機構の違い

NaFとMFPはそれぞれ異なる結合様式でフッ素と結合しており、それゆえ歯に対する作用機構が異なります。[3-8]

NaFは口腔内にてフッ化物イオン (F–) を遊離させ、ヒドロキシアパタイト [Ca10(PO4)6(OH)2] 構造中のOH–をF–で置換し、酸に対して抵抗性の高いフルオロアパタイト [Ca10(PO4)6F2] および部分フッ素化体を形成します。加えて、ヒドロキシアパタイトとの複分解反応によってエナメル質表面にフッ化カルシウム (CaF2) およびその様沈着物を生成沈着させます (弱結合性フッ化物と言われる)。この生成した弱結合性フッ化物がppmオーダーのF–を徐々に遊離させるリザーバーとしての役割を果たすとされています。
一方で、MFPは解離しPO3F2-として存在しますが、口腔内のリン酸加水分解酵素あるいはヒドロキシアパタイト表面との相互作用によりF–へと分解されてから先のNaFと同様の作用を示すことに加え、PO3F2-自体がカルシウム欠損ヒドロキシアパタイト中のHPO42-と置換するとされています。

この違いは、Tanizawa, Y.らによってESCA (Electron Spectroscopy for Chemical Analysis) の表面分析からも示されています (Fig. 2)。[5,6]

Fig. 2. フッ化物処理における結合エネルギーとオージェ電子の運動エネルギー値からなる二次元化学状態プロット. (a) 参照化合物とNaFで処理した (b) MFPで処理したヒドロキシアパタイト. (出典: [6])
 *上図は中性条件下での試験結果。酸性条件ではNaFの処理においてCaF2の生成が確認されている。

また、2物質から形成されるフルオロアパタイトの耐酸性も違ってくるとされています。

Ingram, G.S.はカルシウム欠損ヒドロキシアパタイトのモデル化合物を用いて、NaFとMFP 処理したものの耐酸性を評価しており、酸性条件下にてMFPの方が高い耐酸性を有する (Fig. 3)とともに、ヒドロキシアパタイトの溶解によるリン酸イオンの放出も抑制すると報告しています。[7]

Fig. 3. 各濃度ごとのフッ化物で処理したヒドロキシアパタイトの酸性中での溶解の関係. (出典: [7])

また、Yamagishi, A.らはフッ素配合歯磨剤を用いたセルフケアを想定したう蝕リスクの高い箇所を想定した試験系において、NaFは即効性が高く表層近傍に高い耐酸性を付与するものの深部までその効果は至らないのに対し、MFPは表層近傍の耐酸性はNaFに劣るものの深部まで浸透し厚く均一な耐酸性層を形成するとX線マイクロラジオグラフ (XRM) を用いた層情報の解析結果 (Fig. 4) をもとにフッ化物に依存した耐酸性の違いを報告しております。[8]

Fig. 4. (a) NaFおよびMFPで処理したエナメル質試料のXMR像の経時変化と (b) 脱灰6日目のミネラルプロファイルの経時変化. (出典: [8] 一部改編)

なお、歯に対するフッ素のとり込み機構やフッ素の化学状態の詳細については明確でない点が多いとされています。
実際の口腔内での現象はその環境により複雑化するため、それぞれの物質における予防性能の特異性についても諸説あります。たとえば、う蝕の進行ステージや使用時の口腔環境、pH、歯磨剤濃度、頻度、組成、添加剤、実施様態など種々のパラメタ違い等です。状況によって獲得できるう蝕耐性にも違いが生じることから専門家間でも多様な意見に分かれるところであり、[3-10] 今回示した特性の違いはあくまで特定条件下で生じる現象の一例と認識し、状況を見極め適切な歯磨剤を用いることが望まれております。

おわりに。

日本国内には、企業研究者による貢献も大きく、今回示したようなフッ化物配合歯磨剤の試験報告などのオーラルケアに関する多くの研究報告がある一方で、世界に比べてオーラルケアに関する消費者認識は低いと言われております。

身近なところでは市販品には歯磨剤に含まれるフッ化物の種類や組成などが次の様に明記されていたり (Fig. 5)、また、口腔衛生学会雑誌などのオープンアクセスな雑誌も多くありますので、
オーラルケアに関してご興味ある方は、まずは身近なところから得られる情報から調べてみても良いかもしれないですね。

Fig. 5. 歯磨剤の成分表示の一例. (出典: 公益財団法人 ライオン歯科衛生研究所HP [11] 一部改編)

 

参考文献

[1] 國分信英ら, フッ素の化学 裳華房
[2] 厚生労働省HP 生活習慣病予防のための健康情報サイト https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/teeth/h-02-007.html
[3]
押野一志ら, 口腔衛生学会雑誌, 2004, 54, 2-8. DOI: 10.5834/jdh.54.1_2
[4] 福田 康ら, 口腔衛生学会雑誌, 1997, 47, 266-273. DOI: doi.org/10.5834/jdh.47.3_266
[5] Tanizawa, Y., et al., J. Chem. Soc. Faraday Trans., 1991, 87, 2235. DOI: 10.1039/FT9918702235
[6] 谷沢善明ら, 無機マテリアル, 1996, 3, 485-491. DOI 10.11451/mukimate1994.3.485
[7] Ingram, G.S., Caries Res., 1972, 6, 1-15. DOI: 10.1159/000259766
[8] 山岸 敦ら, 口腔衛生学会雑誌, 2007, 57, 13-21. DOI: 10.5834/jdh.57.1_13
[9] Paepegaey, AM., et al., J. Clin. Dent., 2013, 24, 73.
[10] 西田晃子ら, 口腔衛生学会雑誌, 1992, 42, 668-674. DOI: doi.org/10.5834/jdh.42.668
[11] 公益財団法人 ライオン歯科衛生研究所HP https://www.lion-dent-health.or.jp/labo/article/tool/02.htm

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関連リンク

〇ケムステ過去記事:虫歯とフッ素のお話① ~どうして歯磨きにフッ素が使われるの??~ https://www.chem-station.com/molecule/2021/05/f1.html
〇公益財団法人 ライオン歯科衛生研究所 HP https://www.lion-dent-health.or.jp/labo/article/tool/02.htm
〇KAO
株式会社 HP https://www.kao.co.jp/clearclean/
〇サンスター株式会社 HP https://jp.sunstar.com/oralcare/

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世の中の課題に対して分子レベルにおけるモノづくりから解決を夢見る有機材料屋さん。Ph.D.
興味の対象は物性構造相関と機能発現メカニズム。
よろしくお願いします。

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