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ご注文は海外大学院ですか?〜準備編〜

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学振の締め切りが迫る季節となりましたがいかがお過ごしでしょうか?新年度で新しいメンバーの加わった研究室も多いことかと思います.

しかしこの出会いの季節は次の学校,研究室を見据え,準備を意識し始めるべき時期でもあります.この記事では,次の活動場所として海外の大学院はどうでしょう?ということで,特に学部卒からのアメリカ大学院留学について書きます.この記事を読み,次のラボ選びの選択肢に海外大学院も候補の1つにあがれば幸いです.少々長くなりますが興味のある方は是非お付き合いください.

 

必要なものを揃えよう

前置きが長くなりましたが実務的な話に移っていきます.一般的なアメリカの大学院の入試に必要なものは以下のようです.

• 推薦状 (最低3通)

• エッセイ (Statement of purpose, Statement of objectives, Personal statementなど呼び方は色々)

• *奨学金の受領証明証

• GRE Chemistry

• GRE General

• 成績証明書

• TOEFL (IELTSでもOK,イギリスはTOEFL不可でIELTSのみ)

• CV (履歴書)

• *Personal history statement (UC系など一部の大学で提出義務あり)

• *何か自分をアピールできるもの(勉強以外の実績など.多分なんでもアリ)

 

大学のカラー,財政状況,志願者の様子などに左右されますが.上に書いてあるものほどウェイトが高い傾向があります.

成績証明書,TOEFLを下位に書いたのはこれらが足切り材料に使われるからです.足切りラインに達していないと問答無用でサヨウナラ,そもそも出願できない,などということが起こるので注意しましょう.この辺の情報は各大学のHPへ行き,Graduate Program, Admission, Requirementなどと書いてるところを辿っていけば見つけられます.

*マークは提出必須ではないものです.

 

推薦状

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すべての書類の中で最も大切です.どんなに素晴らしいエッセイを書いても,成績が良くても,テストの点数が良くても,推薦状が良くないと合格する可能性は格段に下がります.というのも学部卒や修士卒の学生では論文数があまりなく,推薦状が学生を評価する唯一の手段となり得るからです.

それに加え、然るべき人に推薦状を書いてもらうことが大切です.3通のうち,1通は必ず自分のボス(自分の研究室の主宰教授)に書いてもらいましょう.研究者としてのあなたのことを一番よく知っているはずです.

問題は残りの2通で,特に学部生だとあまりコネクションを持っていない人がほとんどです.推薦状を書いてもらいたい人の条件は

海外で名前が売れてる人 > 自分のことをよく知ってる人 > きれいな英語が書ける人

の順で大切になってきます.いくら自分のことを知っている教授でも,海外で「誰こいつ?」ではあなたへの推薦文も信憑性が出ません.また,海外でPh.Dを取っていたり,指導経験がある人に書いてもらえるとなお良いです.これから研究室選びをする人はこれを見越して有名研究室にいくというのも手です.

そして問題はこんな条件をみたす方々とお知り合いになるかです.方法としては以下のようなものが考えられらます.

a) Research Internに参加する(大学のサマープログラム)

b) 研究室訪問(後述)で自分を売り込み,認めてもらえれば推薦状を書いてもえらえないか頼む

c) 2,3年生のうちに別な研究室に入れてもらい,修行しておく.

d) 授業をとったことのある先生に頼む.

 

上のものほど有力であると思います.特にa), b) は自分の希望する研究室にもぐりこめればしめたものです.

また,筆者はResearch Internの存在すら知らなかったのですが,他の合格者の話を聞いてみるとかなり多くの学生がこれに参加していました.日本ではまだあまりメジャーではないのかもしれませんが,推薦状,研究経験,海外の化学友達などなど,得られるものは盛りだくさんなので是非調べてみてください.

b), d) は個人的に連絡を取る必要があります.その際は自分のボスに事情を話し,先にメールで根回ししておいてもらうと話がスムーズに進むことがあります.使えるコネは全部使いましょう.

しかし大抵の人はd)を取ることになると思います.この場合問題になるのは毎年100人単位の生徒を教える教授が自分のことをどれほど覚えてくれているか,授業に出席していることと成績が良いことだけで推薦状を1枚書くというのは非常に大変だということです.自分を売り込むために先生に事情を話し,教授室にお邪魔して自分の研究をプレゼンするというのも手です.

 

エッセイ

 

2015-04-28_07-56-13

 

次に大切なのがエッセイです.大学によって文字数制限(ないところもある)にばらつきがありますが,だいたいA4一枚半から二枚程度です.何を書いても自由ですが,収まりのいい書き方は

1. 過去の研究経験、勉強したこと

2. 現在

3. 未来

4. 奨学金持ってますよアッピール,課外活動やって人間性すごいですよアッピール

 

3. ではその大学に所属する2, 3人のFacultyの名前を出して,彼らの研究のこういうことがしたいです,と少し内容的に突っ込んだことを書きましょう.多くの名前をあげすぎると話をまとめられないうえに,この子は結局何をやりたいんだ?という悪印象を与えてしまいます.逆に1人しか名前をあげないと,この子はもしこの研究室に行けなかったらやる気ないのかな?と同様に悪印象です.人気の研究室だと他に優秀な出願者がいてもう席が埋まっていたり,”謎のルート”によってどの学生を取るかもう決まっていることもあるそうです.

4. は書かなくてもいいですし,書いても100 wordsくらい.あくまで1,2,3に集中して書きます.

いろいろと指南書が売っているので1冊買って読んでみてもいいかもしれません(例: 留学入試エッセー 理系編 (留学応援シリーズ)).

書き終わったら必ず,化学がわかる人 X 1,英語がわか る人(できればネイティブ)X 2に見てもらいましょう.もちろん化学も英語もわかる人がいればそれにこしたことはありません.筆者は直属のボス(日本人),留学生の友達(非ネイティブ,英語堪能),ALT(ネイティブ)に見てもらいました.日本に来ている留学生はここに書いてあるような一連の入試をくぐり抜けてきた人たちなので,パワフルなエッセイの書き方など有益なアドバイスがたくさんもらえました.

しかしここで驚いたことは,留学生の友達に添削してもらったエッセイをALTに見せたところ,エッセイが真っ赤になって帰って来ました.やはり微妙な言い回しなどはネイティブにしかわからないようです.

身近にそのような人がいない場合は有料添削サービスを利用する手もあります.こういった会社はたくさんあるので調べてみてもいいかもしれません.(例: essay edge

 

奨学金受領証

奨学金があるかないかでは採用のされやすさが大きく変わります.その理由は.奨学生に採択されることが一つのステータスであるというのもありますが,もう一つ大きな理由があります.それは海外の大学院では,大学院生は教授に雇われていることになることです. 給料は当然教授の研究費の一部なので.奨学金を持っていくと万が一研究室が財政難に陥った時にその学生には奨学金で食いつないでいってもらえるという,研究室側の利点があります.

日本には大学院留学生用の奨学金を提供している財団がたくさんあるので,(自分の大学に限らず)大学の事務を取っ掛かりにして探してみましょう.参考に東大のものを載せておきます.財団によっては分野に制限をかけているので注意してください.また,早いところは4月末に応募を締め切っていますので一通りチェックしておきましょう(逆に締め切りが早いところは他の人がチェックしていないので狙い目です).

また,締め切りが早いところは結果が出る時期も早いという利点があり,受かった場合は証明証を作ってもらえます.もちろんこれを大学に提出しないと,上に書いた利点を享受できません.

 

GRE Chemistry

ETSという組織が提供している日本のセンター試験のようなものです.ChemistryはGRE subjectテストの1つで,subjectテストはペーパーベースで行われます.日本では年2, 3回程度,多くの場合福岡や沖縄で開催され,出願に間にあわせるには春か秋の回を受ける必要があります.座席数は多くないので,今の内にETSでテスト予約受付がいつから始まるのかチェックし,予約開始後即席を抑えましょう.予約し損ねると次の最寄り会場が韓国の田舎になります.

ちなみに筆者は2014年の秋に受けたのですが,例年福岡会場があるのでそこで受けようと思ったところ,いつまでたっても沖縄会場しか表示されず,しょうがないので沖縄会場を予約,結局福岡会場は出ませんでした.あえて沖縄会場を予約し,延泊することで最後のバカンスを楽しむのも手です.

大学によってスコアの提出を義務化しているところとそうでないところがありますが,必ず受験して提出してください.テストの中ではウェイトが一番重いとされています.難易度は学部2,3年生レベルですが,範囲が膨大(地球化学やら大気化学まで!)なので,復習と形式慣れは必須です.また,簡単なので求められる点数も高く,800/990以上は欲しいところです.学習用テキストはいろいろなものがありますが,筆者はCracking the GRE Chemistry Test, 3rd Edition (Graduate School Test Preparation)を使いました.先述の通り,新しい知識はあまり得られませんでしたが,化学英語ボキャブラリーの補強は図れます.また,最後に模擬問題がついているので重宝しました.過去問や模擬問題はネットにも転がっているらしいので検索してみてはいかがでしょう.

 

GRE General

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同じくETSの統一テストです.3セクションから成り

• Verbal Reasoning–ガチムズボキャブラリーで殴られます.もれなく無理ゲーです.ネイティブにこれの単語帳を見せると「これは聖書か?」と言われるほど古くて難しいボキャブラリーなので,はっきり言って勉強するだけ無駄です(アメリカ人用に作られた英語のテストなので当然と言えば当然.向こうの先生も日本人は英語が苦手だとわかっているので,このセクションで点数が取れないことは承知済み.気持ちよく玉砕しましょう.

• Quantitative Reasoning–中学校の算数.算数のボキャブラリーさえわかれば得点は容易いです.こちらは打って変わって9,10割の点数が要求されます.

• Analytical Writing–お題を読んでそれについて論理的な回答を書くというものです.テンプレートがネットに転がっていますので参考にして練習して臨みましょう.このセクションは唯一勉強のしがいがあるセクションです.目標スコアは6.0点中4.0点以上です.

 

成績証明書

大学の事務でもらえます.GPAはトップスクールだと3.8以上が望ましいです.webでスキャンのPDFを提出しますが,一部の大学は郵送でも要求してきます.日本からアメリカへ郵送するのにEMS(国際スピード便)で2-3日と言われていますが,最悪郵便物がロストしたりするので油断は禁物です(小包をEMSで送って2ヶ月後にこちらに帰ってきたという事故を見ました…).

 

TOEFL 

知っている方が多いと思うので説明は割愛します.一般的にアメリカへの留学には100点以上が望ましいです(ちなみに筆者は最終的に100点いけませんでした…).

TAが義務付けられている大学では総得点の足切りに加え,Speakingの点数にも足切りがある場合があります.Speakingは日本人が最も苦手とするセクションでもあるので入念に準備しましょう.大学生の方なら留学生との交流会に参加したり,研究室の留学生と話したりするだけでも十分いいトレーニングになります.

また,Writingの点数が高いと取ってもらえやすい(論文が書けるから)という噂もあります.ネットにテンプレートがいくらでも落ちているので,練習して望めば高得点が期待できます.

 

CV

履歴書です.Publication list, 発表業績の他に,アルバイトやボランティアの経験も書きましょう.

 

Personal history statement

筆者は,さあ出願するぞ!というときになるまでこんな物があると知りませんでした.なので正直言って半分くらいどんな物なのかよくわからないまま書いて提出しました.Personal historyということだったので自分が化学を志すに至った話から,最後に少しだけ将来どのような研究をして世界と化学にどのようなインパクトを与えたいか,などを書きました.

 

長くなってしまいましたが持ち物はこんな感じです.次回に続きます.

 

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