[スポンサーリンク]

化学者のつぶやき

最近の金事情

[スポンサーリンク]

Moneyではなく、Goldの方です。

 

rk000.gifカップリング反応に使う金属、と言えば皆さんどの金属が思い浮かびますか?パラジウムやニッケル、亜鉛、銅などが一般的なところでしょうか。

ところがここ数年、JACSやAngewに「金」触媒を用いた反応を頻繁に見かけるようになっています。
なにゆえ今「金」なのでしょうか???

そこで今回、金触媒を用いた様々な有機合成に関する最近の論文をいくつか紹介したいと思います。

まず、ごく最近、チューリッヒ大学有機化学研究所C.NevadoらによってJACSに報告された反応。

Teresa de Haro, Cristina Nevado, J. Am. Chem. Soc (ASAP) DOI: 10.1021/ja909726h

電子密度の高い芳香環と末端アセチレンを、触媒量(5mol%)のPh3PAuClと1.5当量の酸化剤PhI(OAc)2存在下で加熱すると、そこそこの収率でエチニル化した芳香環生成物が得られるというもの(下図・一例)。

rk1000.gif

 
 
論文中に提案されている反応機構は、以下の2通り。
まずAu(I)と末端アセチレンからAu(I)アセチリドが形成され、
① PhI(OAc)2によってAu(I)からAu(III)へと酸化された後(錯体)、電子豊富なArが求電子置換を受けて錯体となる。最終的に還元的脱離により目的物が形成されると同時にAu(I)が再生する。

もしくは

②1とPhI(OAc)2からヨードアセチレン錯体が形成された後、活性化した三重結合へArが付加してビニル型錯体となる。
最終的にAuとヨウ素がベータ脱離することで生成物を与える。

rk2000.gif

これら二つの反応機構の大きな違いは、三価の金を経由するか(①)しないか(②)です。

さてもう一つの論文は、カリフォルニア大学サンタバーバラ校のL. Zhangらによって、こちらもJACSに報告された反応。

G.Zhang, L. Cui, Y. Wang, L. Zhang, J. Am. Chem. Soc.(ASAP) DOI: 10.1021/ja909555d

 

ヘテロ基を持つ末端アルケンとボロン酸を、触媒量(5mol%)のPh3PAuClと2当量の酸化剤Selectfluor存在下で加熱すると、程良い収率でヘテロ環が得られるというもの(下図・一例)。

rk3000.gif

論文中に提案されている反応機構は、以下の2通り。

①一価のAuがSelectfluorによって酸化されてAu(III)錯体が形成し、続いてPhB(OH)2とのトランスメタル化によってAu(III)錯体となる。

もしくは

②先にトランスメタル化によってLAuPhが発生した後に、Selectfluorによって酸化されてAu(III)錯体が形成される。
上記いずれかにより錯体が形成された後に、アルケンの付加が起こり錯体となり、さらにヘテロ基によるアンチ付加によって(ここでヘテロ基上で脱プロトン化が起こっている)錯体が形成される。
最終的にAu(III)錯体からの還元的脱離によって生成物が形成されると共にAu(I)が再生する。

rk4.gif

 

この論文では、末端アルケン部位を=CHDと重水素ラベルした実験により、生成物の立体から反応機構中にAu(III)が含まれていることを強く支持する結果が得られています

同じくL. Zhangらによって、金触媒によるアルキンのクロスカップリング反応(下図・一例)が昨年Angewに報告されています。

G.Zhang, Y. Peng, L. Cui, L. Zhang, Angew. Chem. Int. Ed., 2009, 48, 3112-3115, DOI: 10.1002/anie.200900585

 

rk5.gif

反応機構の詳細は省きますが、ここでもAu(I)からスタートしてAu(III)を経由する触媒機構が提案されています。

これまで、一価の金がAu(I)のまま基質を活性化させる反応、三価の金がAu(III)のまま基質を活性化させる反応はいくつも報告されていましたが、上述のように、「系中で金触媒がAu(I)/Au(III)とサイクルしながら反応が進行している」可能性が極めて高い事例が報告され始めているのです。

細かい反応機構は異なれど、まさにこれはPd(0)/Pd(II)やNi(0)/Ni(II)触媒系のようなポテンシャルを金が秘めていることを意味します。

いくつか論文を読んだのですが、筆者自身、Au(I)/Au(III)の触媒サイクルをかなり支持しています。
とはいっても、値段や汎用性の視点からは、Pdや最近注目のFe触媒を越える力があるのか現時点ではわかりません。しかし、PdやCuでは進行しない(もしくは極めて収率が低い)のに、金を使うとうまくいく反応例も報告され初めていることから、近い将来、金触媒でしか達成できない有効な反応が開発されることと思います。

余談ですが、筆者は上述のSelectflourなるものを最近知りました。
有名なようですが、使わないと全く未知な化合物って結構ありますよね。
皆さん、Selectflourがどんな構造をしているか解りますか?
答えはトップ画像中に!

 

  • 関連書籍

関連記事

  1. 簡単に扱えるボロン酸誘導体の開発 ~小さな構造変化が大きな違いを…
  2. 二重可変領域を修飾先とする均質抗体―薬物複合体製造法
  3. 【第14回Vシンポ特別企画】講師紹介:宮島 大吾 先生
  4. BO triple bond
  5. 【書籍】10分間ミステリー
  6. フッ素をホウ素に変換する触媒 :簡便なPETプローブ合成への応用…
  7. 東大、京大入試の化学を調べてみた(有機編)
  8. 多孔質ガス貯蔵のジレンマを打ち破った MOF –質量でもよし、体…

コメント、感想はこちらへ

注目情報

ピックアップ記事

  1. 私立武蔵高 の川崎さんが「銀」 国際化学オリンピック
  2. 山口健太郎 Kentaro Yamaguchi
  3. 虫歯とフッ素のお話② ~歯磨き粉のフッ素~
  4. デヴィッド・ミルステイン David Milstein
  5. ウィリアム・ロウシュ William R. Roush
  6. 有機反応を俯瞰する ーヘテロ環合成: C—C 結合で切る
  7. 固体なのに動くシャトリング分子
  8. 2005年6月分の気になる化学関連ニュース投票結果
  9. ロバート・コリュー R. J .P. Corriu
  10. 長井長義 Nagayoshi Nagai

関連商品

ケムステYoutube

ケムステSlack

月別アーカイブ

2010年1月
 123
45678910
11121314151617
18192021222324
25262728293031

注目情報

注目情報

最新記事

有機合成化学協会誌2023年3月号:Cynaropicri・DPAGT1阻害薬・トリフルオロメチル基・イソキサゾール・触媒的イソシアノ化反応

有機合成化学協会が発行する有機合成化学協会誌、2023年3月号がオンライン公開されました。早…

日本薬学会  第143年会 付設展示会ケムステキャンペーン Part 1

さて、日本化学会春季年会の付設展示会ケムステキャンペーンを3回にわたり紹介しましたが、ほぼ同時期に行…

推進者・企画者のためのマテリアルズ・インフォマティクスの組織推進の進め方 -組織で利活用するための実施例を紹介-

開催日:2023/03/22 申し込みはこちら■開催概要近年、少子高齢化、働き手の不足の…

日本化学会 第103春季年会 付設展示会ケムステキャンペーン Part3

Part 1・Part2に引き続き第三弾。日本化学会年会の付設展示会に出展する企業とのコラボです。…

第2回「Matlantis User Conference」

株式会社Preferred Computational Chemistryは、4月21日(金)に第2…

日本化学会 第103春季年会 付設展示会ケムステキャンペーン Part2

前回のPart 1に引き続き第二弾。日本化学会年会の付設展示会に出展する企業とのコラボです。…

マテリアルズ・インフォマティクスにおける従来の実験計画法とベイズ最適化の比較

開催日:2023/03/29 申し込みはこちら■開催概要近年、少子高齢化、働き手の不足の…

日本化学会 第103春季年会 付設展示会ケムステキャンペーン Part1

待ちに待った対面での日本化学会春季年会。なんと4年ぶりなんですね。今年は…

グアニジニウム/次亜ヨウ素酸塩触媒によるオキシインドール類の立体選択的な酸化的カップリング反応

第493回のスポットライトリサーチは、東京農工大学院 工学府生命工学専攻 生命有機化学講座(長澤・寺…

カーボンニュートラルへの化学工学: CO₂分離回収,資源化からエネルギーシステム構築まで

概要いま我々は,カーボンニュートラルの実現のために,最も合理的なエネルギー供給と利用の選…

Chem-Station Twitter

実験器具・用品を試してみたシリーズ

スポットライトリサーチムービー

PAGE TOP