[スポンサーリンク]

一般的な話題

Illustrated Guide to Home Chemistry Experiments

[スポンサーリンク]

[amazonjs asin=”0596514921″ locale=”JP” title=”Illustrated Guide to Home Chemistry Experiments: All Lab, No Lecture (Diy Science)”][amazonjs asin=”1449334512″ locale=”JP” title=”Illustrated Guide to Home Forensic Science Experiments: All Lab, No Lecture (Diy Science)”]

 Illustrated Guide to Home Chemistry Experiments: All Lab, No Lecture (図解・家庭でできる化学実験)という書籍があります。

これは、コンピュータ系出版社として名高いオライリー社から2008年に出版された、化学実験手引書です

「なぜコンピュータ出版社が化学実験の本を?」と、疑問に思われる方、いらっしゃるかも知れません。

 

実はこれ、季刊誌“MAKE”から派生してきた書籍なのです。

2005年に創刊された”MAKE”は、「自分で手作りしつつ理解する楽しみを、DIY・電子工作・サイエンス・アート分野でも味わってもらおう」というコンセプトの雑誌です。日本でいうところの「大人の科学」シリーズみたいなものですね。

 

「Illustrated~」は”MAKE”の思想がベースにあるため、本格的な化学実験をDo It Yourself取り組んでみたい人 (学生はもちろん、化学実験を趣味的にやってみたい大人も含む)が対象読者とされています。つまり、研究者向けの実験手引書ではなく、一般人に化学をもっと知ってもらう目的で書かれた本のひとつです。

 

Slashdot.jpの記事にまとめられていた概要をご紹介します。

 この本の著者は、一般市場向けの化学実験用品が減り、科学教育の質も低下している現状に一石投じるべくこの本をまとめるに至ったとのことで、掲載されている実験は銅の精錬やアルコールの精製、レーヨンの合成から、潜在指紋の採り方や血液の検知法など多岐に渡ります。

WIREDのレビューによると、序盤は研究室ノートの作り方、安全、器材や材料の揃え方などにしっかりとページを割き、安全かつ正しく実験が行えるように計測・ろ過・分離などの実験技術について書かれた章が続き、その後やっと各実験に関する章に入るとのこと。また、この本を書くにあたって著者は自身及び実験者の安全や法的責任を守るため、爆発物や塩酸メタンフェタミン(覚醒剤)の精製など、違法にあたる内容が入らないよう細心の注意を払ったそうです。

著者のRobert  Bruce Thompsonは、12歳の頃から自宅地下室に実験室をもち、様々な化学実験を行う子供時代を過ごしてきました。また大学でも化学を専攻していました。しかし、そういう原体験を経てきた彼にとっては、

 

『現代の子供向け化学キットは”火・ガラス・化学薬品”を必要としないことを誇らしげにしており、”牙を抜かれた”ように魅力がなくなっている。”化学”はそれ自体魅力たっぷりなもので、子供達にとっては魔法そのものにしか見えないのだが、その魅力を伝える力を持つアイテムが、あまりに少ない』

―という失望を抱くに十分な現状だったらしく、これが「Illustrated~」を執筆するモチベーションとなったのだそうです。

 筆者もこの話に興味を持って本書を購入し、ざっと目を通してみました。
“Home Chemistry Experiments”と銘打ってはいますが、洗面器やコップなどではなく、ビーカー・フラスコ・メスシリンダーなどの、ちゃんとした実験器具の使用を前提しています。このため相当に本格的なつくりとなっています。しかし化学のレベルは中高生でも理解可能な範疇であり、また手に入りやすい薬品で実施可能な実験を厳選してもいます。理論的背景・実験手順・安全面での注意・考察事項なども含めてかなり詳しい記述があり、その分量はなんと400ページ以上にわたります。まさに圧巻の内容です。

 科学クラブや理科実験の教材としては、この上なく優れた書籍のひとつでしょう。他に類を見ない良書であるのは間違いありませんが、唯一の難点は英語で書かれていること。日本人にとってやはり敷居の高い書物と言わざるを得ません。広く普及させるには、和訳版の発行こそが必要不可欠となるでしょう。 しかし発行から一年以上がたつ現在においても、和訳版が発行される気配がありません。おそらくは日米の化学物質規制の違いのために、本書の思想を損なわず翻訳するのが難しい、という現実があるのかもしれません。その辺りをどうやって処理するか―これこそが訳者と編集者の腕の見せ所といえるでしょう。

 世界的に見ても”化学”のイメージは良くないようで、日本でも理科離れの進行が嘆かれている現状です。そのような中、本書のような書物が出版されてくるというのは一つの朗報ではないでしょうか。今後もこのような意欲的試みが現れて来ることを願ってやみません。

【2010.9.12 加筆修正】

関連書籍

[amazonjs asin=”441027385X” locale=”JP” title=”フォトサイエンス化学図録―視覚でとらえる”][amazonjs asin=”4056100543″ locale=”JP” title=”大人の科学マガジン 新型ピンホール式プラネタリウム (学研ムック 大人の科学マガジンシリーズ)”][amazonjs asin=”4873114578″ locale=”JP” title=”Make: Technology on Your Time Volume 10″][amazonjs asin=”4873114578″ locale=”JP” title=”Make: Technology on Your Time Volume 10″]

 

関連リンク

Avatar photo

cosine

投稿者の記事一覧

博士(薬学)。Chem-Station副代表。国立大学教員→国研研究員にクラスチェンジ。専門は有機合成化学、触媒化学、医薬化学、ペプチド/タンパク質化学。
関心ある学問領域は三つ。すなわち、世界を創造する化学、世界を拡張させる情報科学、世界を世界たらしめる認知科学。
素晴らしければ何でも良い。どうでも良いことは心底どうでも良い。興味・趣味は様々だが、そのほとんどがメジャー地位を獲得してなさそうなのは仕様。

関連記事

  1. 10種類のスパチュラを試してみた
  2. 会社説明会で鋭い質問をしよう
  3. 金属内包フラーレンを使った分子レーダーの創製
  4. がん細胞をマルチカラーに光らせる
  5. 高分解能顕微鏡の進展:化学結合・電子軌道の観測から、元素種の特定…
  6. エーテル分子はすみっこがお好き?-電場・磁場・光でナノ空間におけ…
  7. 含フッ素遷移金属エノラート種の合成と応用
  8. 材料開発の変革をリードするスタートアップのプロダクト開発ポジショ…

注目情報

ピックアップ記事

  1. テッベ試薬 Tebbe Reagent
  2. マテリアルズ・インフォマティクスに欠かせないデータ整理の進め方とは?
  3. 第161回―「C-H官能基化と脱芳香族化を鍵反応とする天然物合成」Shu-Li You教授
  4. 化学者がMidjourneyで遊んでみた
  5. 第76回―「化学を広める雑誌編集者として」Neil Withers博士
  6. Classics in Total Synthesis
  7. 有機合成化学協会誌2022年5月号:特集号 金属錯体が拓く有機合成
  8. 複雑な化合物を効率よく生成 名大チーム開発
  9. ミッドランド還元 Midland Reduction
  10. 地球温暖化-世界の科学者の総意は?

関連商品

ケムステYoutube

ケムステSlack

月別アーカイブ

2009年3月
 1
2345678
9101112131415
16171819202122
23242526272829
3031  

注目情報

最新記事

MDSのはなし 骨髄異形成症候群とそのお薬の開発状況 その1

Tshozoです。今回はかなり限定した疾患とそれに対するお薬の開発の中身をまとめておこうと思いま…

第42回メディシナルケミストリーシンポジウム

テーマAI×創薬 無限能可能性!? ノーベル賞研究が拓く創薬の未来を探る…

山口 潤一郎 Junichiro Yamaguchi

山口潤一郎(やまぐちじゅんいちろう、1979年1月4日–)は日本の有機化学者である。早稲田大学教授 …

ナノグラフェンの高速水素化に成功!メカノケミカル法を用いた芳香環の水素化

第660回のスポットライトリサーチは、名古屋大学大学院理学研究科(有機化学研究室)博士後期課程3年の…

第32回光学活性化合物シンポジウム

第32回光学活性化合物シンポジウムのご案内光学活性化合物の合成および機能創出に関する研究で顕著な…

位置・立体選択的に糖を重水素化するフロー合成法を確立 ― Ru/C触媒カートリッジで150時間以上の連続運転を実証 ―

第 659回のスポットライトリサーチは、岐阜薬科大学大学院 アドバンストケミストリー…

【JAICI Science Dictionary Pro (JSD Pro)】CAS SciFinder®と一緒に活用したいサイエンス辞書サービス

ケムステ読者の皆様には、CAS が提供する科学情報検索ツール CAS SciFind…

有機合成化学協会誌2025年5月号:特集号 有機合成化学の力量を活かした構造有機化学のフロンティア

有機合成化学協会が発行する有機合成化学協会誌、2025年5月号がオンラインで公開されています!…

ジョセップ・コルネラ Josep Cornella

ジョセップ・コルネラ(Josep Cornella、1985年2月2日–)はスペイン出身の有機・無機…

電気化学と数理モデルを活用して、複雑な酵素反応の解析に成功

第658回のスポットライトリサーチは、京都大学大学院 農学研究科(生体機能化学研究室)修士2年の市川…

実験器具・用品を試してみたシリーズ

スポットライトリサーチムービー

PAGE TOP