[スポンサーリンク]

化学者のつぶやき

ヒスチジン近傍選択的なタンパク質主鎖修飾法

[スポンサーリンク]

ライス大学・Zachary T. Ballらは、Cu(II)を利用したアリール/アルケニルボロン酸との酸化的カップリングによって、中性条件下・室温という穏和な条件下でのポリペプチド主鎖N-H結合の修飾に成功した。この反応はヒスチジン残基近傍のアミドN-H結合選択的に進行し、タンパク質に対しても位置選択的な修飾を行うことができる。

“Histidine-Directed Arylation/Alkenylation of backbone N-H Bonds Mediated by Copper(II)”

Ohata, J.; Minus, M. B.; Abernathy, M. B.; Ball, Z. T.* J. Am. Chem. Soc. 2016, 138, 7472. DOI: 10.1021/jacs.6b03390

問題設定と解決した点

 ポリペプチドN-アルキル誘導体の作成は困難な課題である。従来は非天然アミノ酸担持tRNAを利用する方法[1]や固相合成法[2]などで合成されてきたが、反応の遅さなどが問題でそもそも合成できない場合もある。ポリペプチド主鎖に反応を行い直接誘導体化する手法はほとんど報告例がない。タンパク質修飾反応のほとんどはペプチド側鎖を標的としている。

 本論文で報告される条件は冒頭図の様に、ヒスチジン(His)残基近傍のポリペプチド主鎖に対して修飾を施せることが最大の特徴となる。水素結合に関わるN-H結合を修飾することで、タンパク構造に与える影響が大きくなる。ゆえに通常のペプチドとは異なるフォールディング・安定性・機能を持つ新規ペプチドライブラリ構築に繋げうる。また、タンパク活性部位に存在するHis近傍を修飾すれば活性部位が潰れ、機能の変化を観察することも期待できる。

技術と手法の肝

Chan-Lam-Evansカップリング条件下にてボロン酸をアミドN-H結合に対して反応させる例に着目し、これを水中・中性条件下、ポリペプチド鎖に対しても適用可能な条件に改良している。反応はHisのN末方向に隣接するアミドN-H結合を標的として進行する。この選択性はATCUN(amino-terminal Cu and Ni-binding) モチーフ[3]に類する中間体からの還元的脱離に由来すると考察されている。

主張の有効性検証

tyrotropin-releasing hormone (TRH, Glp-His-Pro-NH2)を基質に条件検討。銅(II)非存在下では反応は進行しない。ピログルタミン酸(Glp)が反応箇所であることは精製後生成物のNOESY・COSY・MS/MS測定にて決定。ボロン酸はアリールボロン酸、アルケニルボロン酸を広く活用可能。

本条件はタンパク質に対しても適用可能であり、リゾチーム(一次配列にHisは1つだけ含まれる)に対しては有機トリフルオロボレートを用いることで一修飾体を得ることが可能。ケミカルバイオロジー研究に有用なアジド、アルキン、デスチオビオチンなどを導入できる。

議論すべき点

  • 基質に対してボロン酸試薬は過剰量必要になる(ペプチドの場合は5~10当量、リゾチームの場合は50当量)。それでも反応に時間がかかる(overnight)。
  • 標的アミノ酸の種類に反応性は大きく依存しているように見える。とくに反応点が内部にある場合は遅そう。複数のヒスチジンに対し選択性を出せる可能性と捉えることもできそう。

  • ヒスチジンはタンパク質の活性部位にあることも多く、タンパク機能を保持しつつ化学修飾を行う手法として見ると、適用しにくいケースも少なからずあるように思われる。

次に読むべき論文は?

  • おそらく本反応の開発過程で見いだされたであろう、銅(II)+ボロン酸を利用したペプチド鎖N末端修飾反応の続報[4]
  • タンパク質の位置選択的修飾を目指している研究例[5]

参考文献

  1. Liu, C. C.; Schultz, P. G. Annu. Rev. Biochem. 2010, 79, 413. doi: 10.1146/annurev.biochem.052308.105824
  2. Chatterjee, J.; Laufer, B.; Kessler, H. Nat. Protoc. 2012, 7, 432. doi:10.1038/nprot.2011.450
  3. Harford, K.; Sarkar, B. Acc. Chem. Res. 1997, 30, 123. DOI: 10.1021/ar9501535
  4. Ball, Z. T. et al. Chem. Commun. 2017, 53, 1622. DOI: 10.1039/C6CC09955F
  5. (a) Davis, B. G. et al. J. Am. Chem. Soc. 2016, 138, 8678. DOI: 10.1021/jacs.6b04043 (b) Pentelute, B. L. et al. Nat. Chem. 2016, 8, 120. doi:10.1038/nchem.2413

関連記事

Avatar photo

cosine

投稿者の記事一覧

博士(薬学)。Chem-Station副代表。国立大学教員→国研研究員にクラスチェンジ。専門は有機合成化学、触媒化学、医薬化学、ペプチド/タンパク質化学。
関心ある学問領域は三つ。すなわち、世界を創造する化学、世界を拡張させる情報科学、世界を世界たらしめる認知科学。
素晴らしければ何でも良い。どうでも良いことは心底どうでも良い。興味・趣味は様々だが、そのほとんどがメジャー地位を獲得してなさそうなのは仕様。

関連記事

  1. 第17回日本化学連合シンポジウム「防災と化学」
  2. 【マイクロ波化学(株) 石油化学/プラスチック業界向けウェビナー…
  3. 光励起で芳香族性を獲得する分子の構造ダイナミクスを解明!
  4. 【ケムステSlackに訊いてみた①】有機合成を学ぶオススメ参考書…
  5. 合成とノーベル化学賞
  6. 二酸化炭素をメタノールに変換する有機分子触媒
  7. 機械学習用のデータがない?計算機上で集めませんか。データ駆動型イ…
  8. 化学産業における規格の意義

注目情報

ピックアップ記事

  1. 2007年文化勲章・文化功労者決定
  2. ベリリウム Beryllium -エメラルドの成分、宇宙望遠鏡にも利用
  3. 伊藤 幸裕 Yukihiro Itoh
  4. 炭素をつなげる王道反応:アルドール反応 (5/最終回)
  5. 製薬産業の最前線バイオベンチャーを訪ねてみよう! ?シリコンバレーバイオ合宿?
  6. 【追悼企画】水銀そして甘み、ガンへー合成化学、創薬化学への展開ー
  7. 水素移動を制御する精密な分子設計によるNHC触媒の高活性化
  8. イグ・ノーベル賞の世界展に行ってきました
  9. 今年の名古屋メダルセミナーはアツイぞ!
  10. オートファジー特異的阻害剤としての新規Atg4B阻害剤の開発

関連商品

ケムステYoutube

ケムステSlack

月別アーカイブ

2017年4月
月 火 水 木 金 土 日
 12
3456789
10111213141516
17181920212223
24252627282930

注目情報

最新記事

KISTEC教育講座 ~物質の付着はコントロールできる~中間水を活かした材料・表面・デバイス設計

開講期間令和8年12月1日(火)、2日(水)、3日(木)*12月1日、2日は1日単位の選…

2026年ノーベル化学賞ケムステ予想当選者発表!

2026年のノーベル化学賞は、「不斉有機合成における非線形効果および自己触媒作用の発…

第64回ケムステVシンポ「データとともに進化する未来の化学」を開催します!

第64回ケムステVシンポの会告を致します。産業技術総合研究所主催の化学シンポジウムシリーズ(…

品質工学とマテリアルズ・インフォマティクス ― 両技術の概要と連携事例

開催概要材料開発やものづくりの現場では、探索すべき組成やプロセス条件が増えるほど組み合わせが爆発…

大学院留学してよかったこと, 悪かったこと【英語, 経済面, オーバードクターに関するお話】

海外の大学で、その大学に籍を置く大学 (院) 生として留学することは「学位留学」と呼ばれたりします。…

光前駆体法の活用によって、ヘプタセンで初の一重項分裂を観測!

第725回のスポットライトリサーチは、京都大学大学院 理学研究科化学専攻 有機元素化学研究室(山田研…

【スタッフ・寄稿募集】Chem-Stationで、化学を「伝える側」になりませんか?

Chem-Station(ケムステ)は2000年に開設された国内最大の化学ポータルサイトです。大学・…

第17回大津会議―とある参加者の記録―

2026年9月28日~29日に開催された第17回大津会議についての、とある参加者の記録です。この記事…

第17回大津会議 -Otsu Conference- 2026 開催報告 ~新体制で紡ぐ「有機合成の夢」~

第17回大津会議が2026年9月28日(月)〜9月29日(火)びわ湖大津プリンスホテルにて開催されま…

有機合成化学協会誌2026年10月号:医薬品プロセス開発・σ芳香族性・含窒素複素環・メロテルペノイド二量体・高歪み化合物

有機合成化学協会が発行する「有機合成化学協会誌」2026年10月号がオンラインで公開されています。…

実験器具・用品を試してみたシリーズ

スポットライトリサーチムービー

PAGE TOP