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スポットライトリサーチ

タンパク質リン酸化による液-液相分離制御のしくみを解明 -細胞内非膜型オルガネラの構築原理の解明へ-

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第 390 回のスポットライトリサーチは、東京大学大学院 理学系研究科 助教の 山崎 啓也 (やまざき・ひろや) 先生にお願いしました。

山崎先生が学生時代に所属されていた京都大学大学院生命科学研究科 吉村研 では、さまざまな機器や計算化学などを用いてマクロな細胞とミクロな分子の「ふるまい」を結びつける研究をされています。
山崎先生らのグループは、タンパク質の天然変性領域 (特定の高次構造を形成しない領域) におけるリン酸化が、近年注目が集まっている生命現象の「液-液相分離」を制御することを証明し、Nature Cell Biology 誌に研究成果を発表されました

Cell cycle-specific phase separation regulated by protein charge blockiness
Hiroya Yamazaki, Masatoshi Takagi, Hidetaka Kosako, Tatsuya Hirano & Shige H. Yoshimura
Nature Cell Biology, 2022, 24, 625–632, DOI: 10.1038/s41556-022-00903-1.

Dynamic morphological changes of intracellular organelles are often regulated by protein phosphorylation or dephosphorylation. Phosphorylation modulates stereospecific interactions among structured proteins, but how it controls molecular interactions among unstructured proteins and regulates their macroscopic behaviours remains unknown. Here we determined the cell cycle-specific behaviour of Ki-67, which localizes to the nucleoli during interphase and relocates to the chromosome periphery during mitosis. Mitotic hyperphosphorylation of disordered repeat domains of Ki-67 generates alternating charge blocks in these domains and increases their propensity for liquid–liquid phase separation (LLPS). A phosphomimetic sequence and the sequences with enhanced charge blockiness underwent strong LLPS in vitro and induced chromosome periphery formation in vivo. Conversely, mitotic hyperphosphorylation of NPM1 diminished a charge block and suppressed LLPS, resulting in nucleolar dissolution. Cell cycle-specific phase separation can be modulated via phosphorylation by enhancing or reducing the charge blockiness of disordered regions, rather than by attaching phosphate groups to specific sites.

 

京都⼤学⼤学院⽣命科学研究科 吉村成弘 准教授、⼭﨑啓也 同博⼠課程学⽣ (研究当時、現:東京⼤学⼤学院助教)、理化学研究所 平野達也 主任研究員、⾼⽊昌俊 同専任研究員、徳島⼤学先端酵素学研究所 ⼩迫英尊教授らは、タンパク質の翻訳後修飾であるリン酸化が、核⼩体などの細胞内⾮膜型オルガネラの構造形成および機能発現で重要な役割を果たす「液-液相分離」を制御する新たな仕組みを解明しました。

(中略)

本成果は、2022 年 5 ⽉ 5 ⽇に英国の国際学術誌「Nature Cell Biology」に掲載されました。

日本の研究.com より

液-液相分離は、膜を持たないオルガネラ (細胞小器官) を形成する現象として盛んに研究されていますが、翻訳語修飾による制御メカニズムは不明な点が多くありました。天然変性領域のリン酸化による液-液相分離の制御メカニズムの発見・解明は、基礎・応用を含めた幅広い生化学・創薬研究に多大な影響をもたらすと期待されます。

研究を指揮された、京都大学大学院生命科学研究科 分子情報解析学分野 准教授の 吉村成弘 先生より、山崎先生の研究姿勢についてのコメントを頂戴しました!

山﨑君は、ウェットとドライの両方をこなす、まさに”二刀流”の研究者です。博士課程の頃から二本の刀をうまく使いこなし、独創的な研究を行ってきました。今回の研究成果は、その二刀流が遺憾なく発揮されて到達した高みであると思います。今後の活動が楽しみです。

それでは、インタビューをお楽しみください!

Q1. 今回プレスリリースとなったのはどんな研究ですか?簡単にご説明ください。

タンパク質リン酸化は主要な翻訳後修飾であり、タンパク質の機能や局在などを変化させる働きを持ちます。そのメカニズムの1つとしてタンパク質の構造変化が知られる一方で、リン酸化はタンパク質の特定の構造を取らない領域 (天然変性領域) に起こりやすいことも知られています。天然変性領域でのリン酸化がタンパク質機能に影響を与えるメカニズムには不明な点が多くありました。

近年、特定の構造を取りにくい天然変性領域を持つタンパク質が、細胞内で液-液相分離をすることにより非膜型オルガネラの形成に寄与することが報告されています。これは天然変性領域内のアミノ酸同士がπ-π相互作用やカチオン-π相互作用、静電相互作用することによるものです。このような相互作用をもたらすアミノ酸残基の配置は、タンパク質の液-液相分離の”molecular grammar”として研究されてきました。

本研究では、Ki-67NPM1 という 2 つのタンパク質に着目し、分裂期のタンパク質リン酸化が、液-液相分離の ”molecular grammar” に寄与することを示しました。比較定量質量分析法により同定した細胞分裂期のリン酸化が、Ki-67で は負の電荷ブロックを新たに生じさせ、NPM1 では反対に正の電荷ブロックを消失させることがわかりました。電荷ブロックを変化させた変異型タンパク質を用いた実験により電荷ブロックの増大と減少はそれぞれ、液-液相分離の促進と抑制をすることが明らかになりました(図A)。さらには、Ki-67 をノックアウトした細胞で野生型や変異型タンパク質を発現させることで、電荷ブロックと液-液相分離、タンパク質機能の密接な関連を示すことができました(図B)。これにより、「リン酸化による電荷ブロックの書き換え」という新たな ”molecular grammar” を提示することができました。

 

Ki-67は分裂間期には脱リン酸化状態にあり (左段)、分裂期移行に伴いリン酸化を受ける (右段)。
(A) リン酸化と電荷ブロックとの関係。非リン酸化型Ki-67は正の電荷ブロック(水色)のみを持つが、リン酸化により負の電荷ブロックが出現し、正・負の電荷ブロックが交互に存在するポリマー(上段)となり強い液-液相分離を示す。
(B) Ki-67 の液-液相分離。脱リン酸化型は液滴を形成しないが、CDK1 でリン酸化すると液-液相分離が亢進して液滴を形成する。間期細胞中の Ki-67 は核小体周辺に局在するが、分裂期移行とともに分裂期染色体の辺縁部 (非膜型オルガネラ) を形成する。

解説動画

Q2. 本研究テーマについて、自分なりに工夫したところ、思い入れがあるところを教えてください。

分裂期細胞内で Ki-67 が実際に働く場である染色体表面を試験管内で模倣するために、DNAを付着させたビーズを使用して実験を行いました。DNAを付着させたビーズと一口にいってもその作製方法や顕微鏡観察のための標識方法は様々なものが考えられ、そこが本研究で時間をかけて色々と試行錯誤を重ねたところで思い入れがあります。

Q3. 研究テーマの難しかったところはどこですか?またそれをどのように乗り越えましたか?

アミノ酸配列の電荷分布変化を数値的に示すことに苦労しました。正電荷と負電荷のみを持つ配列の電荷分布の偏りを表す指標はこれまでも存在しましたが、タンパク質のように電荷を持たない残基も多く含まれる配列ではうまく機能しないものでした。そこで電荷分布グラフを基にした方法で、タンパク質配列でも適用可能な数値指標を新しく設定しました。異なる方法を用いた数値指標からも同様な結果が得られたことから、より説得力のある形でタンパク質配列における電荷分布の変化を定量的に示すことができたと考えています。

Q4. 将来は化学とどう関わっていきたいですか?

低分子から高分子まで多種多様な物質で混み合っている反応場である細胞を、時には分子レベルで、また時には細胞レベルや個体レベルで俯瞰し、個々の分子の働きの共通点を明らかにしつつ、それがどのような形質につながっていくのかを解き明かしていきたいです。

Q5. 最後に、読者の皆さんにメッセージをお願いします!

読んでいただいてありがとうございました。このような機会は初めてで、自分の研究成果を知ってもらう嬉しさを感じることができました。これからも生命現象と向き合っていきたいと思います。
このような機会をくださり Chem-Station の皆様には大変感謝しています。また、ご指導いただいた吉村先生をはじめ共著者の皆様にも深く感謝します。

研究者の略歴

名前: 山崎 啓也 (やまざき・ひろや)

所属: 東京大学大学院 理学系研究科 生物科学専攻 塩見研究室 助教
略歴
2015 年 3 月  京都大学総合人間学部 卒業
2017 年 3 月  京都大学大学院生命科学研究科修士課程 修了
2020 年 3 月  京都大学大学院生命科学研究科博士後期課程 修了
2020 年 4 月- 2021 年 5 月 東京大学大学院理学系研究科生物科学専攻 特任研究員
2021 年 5 月より現職

 

山崎先生、吉村先生、ありがとうございました!
それでは、次回のスポットライトリサーチもお楽しみに!

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DAICHAN

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創薬化学者と薬局薬剤師の二足の草鞋を履きこなす、四年制薬学科の生き残り。
薬を「創る」と「使う」の双方からサイエンスに向き合っています。
しかし趣味は魏志倭人伝の解釈と北方民族の古代史という、あからさまな文系人間。
どこへ向かうかはfurther research is needed.

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