[スポンサーリンク]

ケムステニュース

ダイセルによる化学を活用した新規デバイス開発

[スポンサーリンク]

 ダイセルはImmunetune社によるがん及び感染症に対する次世代DNAワクチンの開発に当社の新規投与デバイス「アクトランザ™ラボ」技術を提供いたします。(引用:ダイセルプレスリリース4月25日)

ダイセルは、プラスチックシート内部に熱線を埋め込んだ”曲げられる透明ヒーター”を開発しました。曲げられる透明ヒーターは、通電1分で表面温度が60℃まで上昇し、安定します。表面に付着したインフルエンザは、通電30分後には99%以上が不活性化され、60分後には不検出となりました。今後。新型コロナウイルスに対しても同様の評価を進める予定です。(引用:ダイセルプレスリリース3月30日)

ダイセルより化学技術を活用したデバイスのプレスリリースが2件発表されましたので、詳細を見ていきます。

一件目は、ジェットインジェクター「アクトランザ™ラボ」が次世代DNAワクチンの開発に使われるというニュースです。アクトランザ™ラボは火薬の燃焼エネルギーで駆動するジェットインジェクターで、このデバイスに充填された薬剤は、高速のジェット流となって先端のノズルから射出されます。そしてこのジェット流は瞬時に皮膚表面を通過し、生体のごく浅いところで薬剤が拡散します。

アクトランザ™ラボの実物と内部構造(出典:Development of Pyro-Drive Jet Injector With Controllable Jet Pressure

実際にアクトランザ™ラボを用いてDNAを投与すると、通常の注射針と比べて速やかに細胞内に到達し、より効果的に作用することが動物実験で確認されています。

Ovalbumin (OVA) タンパク質と anti-OVA 抗原の生産量の注射による違い Needle(a)とN(b)が27Gのシリンジを使った時の結果で PJI(a)とP(b)がジェットインジェクターを使った時の結果 (出典:Stable Immune Response Induced by Intradermal DNA Vaccination by a Novel Needleless Pyro-Drive Jet Injector)

Immunetune社は、オランダのバイオ企業でありDNAワクチンに関する研究を行っています。CADVax™と名付けられた独自技術は、20以上の抗原を持つDNAワクチンを最適化することを可能にするバイオインフォマティクスです。また、AmpliVax™は細胞なしで高い純度のDNAを製造プラットフォームです。さらには、DNAワクチンの効果を向上させる補助剤としてPyroVant™と呼ばれるテクノロジーも開発されてきました。

今回、Immunetuneが実施したモデル動物を用いた薬効果薬理試験において通常の針投与と比較して「アクトランザ™ラボ」を使用すると免疫原性の改善が見られたそうです。そのため、DNAワクチンの非臨床試験、臨床試験にこのデバイスを使用することを目指し、両社は評価の継続を決定しました。

ダイセルでは、エアバッグを瞬時に膨らませるインフレータを製造しており、この「アクトランザ™ラボ」における火薬の燃焼機構もインフレータ開発で培った技術を活用して開発されたようです。

さらには、即座に電流を遮断する電流遮断器も同様の技術を活用して手掛けています。

続いて曲げられる透明ヒーターの話題に移ります。曲げられる透明ヒーターには厚み100μm以上の銀配線が組み込まれており、通電1分で60度まで上昇し、電気を切ると1分で表面温度が40℃以下まで低下するように応答性の高いことが特徴です。

この配線にはPicosilと名付けられた銀ナノインクが使用されています。Picosilの特徴は、低温の加熱処理でも電気抵抗を低く抑えることができ、また安定性も高く6か月以上保管後も問題なく使用できることで、すでに配線や電極として様々なデバイスへの実装を可能にしています。

この曲げられる透明ヒーターの応用としては飛沫拡散防止板が挙げられ、消毒液で拭き取る手間の削減が期待されます。また、曇り止めや結露防止、融雪などへの応用も期待されます。

ジェットインジェクターについて、エアバッグは古くからある技術で現在の車にはハンドルだけでなく助手席前、横の窓などいろいろな場所に装備されています。この火薬によってガスを瞬時に放出する技術が、新たな分野で革新的な技術として活躍していることは大変興味深いことです。ある程度の成果が出るまでには、いろいろな苦労やリソースを割く決断の難しさがあったことは容易に想像できます。DNAワクチンの普及とともに、更なる注入技術の進化にも期待します。曲げられる透明ヒーターについて、フレキシブルデバイスに対応する配線技術は広く開発されていますが、熱線として使用する場合には、より高電流を流す必要があり配線も太くなります。そんなフレキシブルに対しては不利な条件でも、配線を形成できさらに、均一に温まるということは、銀ナノペーストの配合に工夫があることが予想されます。フレキシブルで透明なヒーターということで、ヘッドライトや街灯、防犯カメラの融雪などいろいろな応用が考えられ今後の製品への採用に期待します。

関連書籍

[amazonjs asin=”4062578794″ locale=”JP” title=”火薬のはなし (ブルーバックス)”] [amazonjs asin=”4990538846″ locale=”JP” title=”導電性ペースト・インクの新規開発に向けた金属ナノ粒子の表面処理・合成・評価とCu・Ag系素材の課題克服アプローチ”]

関連リンク

Avatar photo

Zeolinite

投稿者の記事一覧

ただの会社員です。某企業で化学製品の商品開発に携わっています。社内でのデータサイエンスの普及とDX促進が個人的な野望です。

関連記事

  1. 酸素ボンベ爆発、男性死亡 
  2. 米FDA立て続けに抗肥満薬承認:Qsymia承認取得
  3. LG化学より発表されたプラスチックに関する研究成果
  4. 秋の褒章2011-化学
  5. モータースポーツで盛り上がるカーボンニュートラル
  6. ヘリウム新供給プロジェクト、米エアプロダクツ&ケミカルズ社
  7. アルツハイマー病の大型新薬「レカネマブ」のはなし
  8. 東海カーボンと三菱化学、カーボンブラックの共同会社を断念

注目情報

ピックアップ記事

  1. ストックホルム市庁舎
  2. ロバート・クラブトリー Robert H. Crabtree
  3. Carl Boschの人生 その6
  4. 第三回ケムステVシンポ「若手化学者、海外経験を語る」開催報告
  5. ロバート・レフコウィッツ Robert J. Lefkowitz
  6. 有機ルイス酸触媒で不斉向山–マイケル反応
  7. ヘルベルト・ワルトマン Herbert Waldmann
  8. アルファリポ酸 /α-lipoic acid
  9. 化学者の単語登録テクニック
  10. むずかしいことば?

関連商品

ケムステYoutube

ケムステSlack

月別アーカイブ

2022年5月
 1
2345678
9101112131415
16171819202122
23242526272829
3031  

注目情報

最新記事

第69回「見えないものを見えるようにする」野々山貴行准教授

第69回目の研究者インタビューです! 今回は第52回ケムステVシンポ「生体関連セラミックス科学が切り…

第68回「表面・界面の科学からバイオセラミックスの未来に輝きを」多賀谷 基博 准教授

第68回目の研究者インタビューです! 今回は第52回ケムステVシンポ「生体関連セラミックス科学が切り…

配座制御が鍵!(–)-Rauvomine Bの全合成

シクロプロパン環をもつインドールアルカロイド(–)-rauvomine Bの初の全合成が達成された。…

岩田浩明 Hiroaki IWATA

岩田浩明(いわたひろあき)は、日本のデータサイエンティスト・計算科学者である。鳥取大学医学部 教授。…

人羅勇気 Yuki HITORA

人羅 勇気(ひとら ゆうき, 1987年5月3日-)は、日本の化学者である。熊本大学大学院生命科学研…

榊原康文 Yasubumi SAKAKIBARA

榊原康文(Yasubumi Sakakibara, 1960年5月13日-)は、日本の生命情報科学者…

遺伝子の転写調節因子LmrRの疎水性ポケットを利用した有機触媒反応

こんにちは,熊葛です!研究の面白さの一つに,異なる分野の研究結果を利用することが挙げられるかと思いま…

新規チオ酢酸カリウム基を利用した高速エポキシ開環反応のはなし

Tshozoです。最近エポキシ系材料を使うことになり色々勉強しておりましたところ、これまで関連記…

第52回ケムステVシンポ「生体関連セラミックス科学が切り拓く次世代型材料機能」を開催します!

続けてのケムステVシンポの会告です! 本記事は、第52回ケムステVシンポジウムの開催告知です!…

2024年ノーベル化学賞ケムステ予想当選者発表!

大変長らくお待たせしました! 2024年ノーベル化学賞予想の結果発表です!2…

実験器具・用品を試してみたシリーズ

スポットライトリサーチムービー

PAGE TOP