[スポンサーリンク]

一般的な話題

2011年ノーベル化学賞予測―トムソン・ロイター版

[スポンサーリンク]

Thomson_Leuter_Nobel2010.gif

さて昨年は日本人受賞で沸きに沸いたノーベル化学賞ですが、今年は2011年10月5日夕刻に発表予定です。2010年度が有機化学でしたから、今年は違った分野からの受賞が期待されます。

そして毎年恒例、トムソン・ロイター社選定によるノーベル賞有力候補者が発表されました!(プレスリリース
化学賞候補として予想に上がったのは一体どんな科学者なのでしょうか?簡単に紹介してみたいと思います。

 

  • 【走査型電気化学顕微鏡(SECM)の開発と応用】

Allen_Bard.gif

Allen J. Bard (米テキサス大学オースティン)

Bard教授は1989年に走査型電気化学顕微鏡(Scanning Electrochemical Microscope,SECM)と呼ばれる分析装置を発明しました。名前の通り走査型顕微鏡の一種ですが、測定しているものが試料表面の「化学反応に対する感受性」であることが特徴です。SECMの登場により、試料表面の局所的反応性を、その場測定することが可能となりました。これにより例えば、金属表面の腐食や酸化還元反応、膜や生体組織の界面で起きている化学現象などの観測ができます。最近では分解能が向上し、単一分子スケールの挙動を見ることも可能になっています。

この業績によりBard教授は、プリーストリーメダル、ウルフ賞化学部門などといったノーベル賞に匹敵する賞を既に受賞しており、分析化学領域ではノーベル賞に最も近い人物の一人と目されています。

  • 【デンドリマーの発見と発明】

nobel2011dendrimer.png

Jean M.Frechet(米カリフォルニア大学バークリー校)
Donald A. Tomalia(米ミシガン中央大学)
Fritz Vögtle (独ボン大学)

Tomalia教授は1985年にデンドリマーという分子を考え、実際に合成しました。デンドリマーとは樹状に枝分かれした構造をもつ球状巨大分子のことです。その名前はギリシャ語で樹木の意味をもつ”デンドロン”に由来しています。Vögtleらも一足先の1978年にカスケードポリマーという概念にてデンドリマーを合成しています。Frechetらはデンドリマー分子をドラッグデリバリーシステムなどへと応用するなど、積極的な機能開拓を模索しています。

デンドリマーは座布型分子や提灯型型分子などと同様に「構造が面白い分子」として紹介されていましたが、超分子としての機能が評価されたことによって、多くの研究者から興味を引き、現在でも盛んに研究が行われています。

余談ですがVögtle教授はVögtle’s Belt(カーボンナノベルト)という芳香環が連なった環状物質群を、カーボンナノチューブが発見される以前から提唱し、また実際に合成研究を行なっていた研究者としても有名です。

  • 【生体高分子の分子力学シミュレーションへの貢献】

Martin_Karplus.jpg

Martin Karplus(米ハーバード大学教授)

筆者のような有機化学者にとってはNMRのカップリング定数を二面角から見積もるKarplusの式で馴染み深い理論化学者ですが、他にも様々な形で化学界に貢献をしています。特にタンパク質・核酸のような生体高分子を分子動力学法(Molecular Dynamics)にて世界で最初にシミュレーションした成果は、高く評価されているもののひとつです。

 

  • 関連リンク

Allen J. Bard Group

Professor J.M.J.Frechet

Autobiography of Martin Karplus(PDF)

 

cosine

投稿者の記事一覧

博士(薬学)。Chem-Station副代表。国立大学教員→国研研究員にクラスチェンジ。専門は有機合成化学、触媒化学、医薬化学、ペプチド/タンパク質化学。
関心ある学問領域は三つ。すなわち、世界を創造する化学、世界を拡張させる情報科学、世界を世界たらしめる認知科学。
素晴らしければ何でも良い。どうでも良いことは心底どうでも良い。興味・趣味は様々だが、そのほとんどがメジャー地位を獲得してなさそうなのは仕様。

関連記事

  1. その化合物、信じて大丈夫ですか? 〜創薬におけるワルいヤツら〜
  2. 核酸医薬の物語1「化学と生物学が交差するとき」
  3. C-CN結合活性化を介したオレフィンへの触媒的不斉付加
  4. マテリアルズ・インフォマティクスの基礎知識とよくある誤解
  5. 芳香族性に関する新概念と近赤外吸収制御への応用
  6. クオラムセンシング阻害活性を有する新規アゾキシアルケン化合物の発…
  7. ハイブリット触媒による不斉C–H官能基化
  8. スポンジシリーズがアップデートされました。

コメント、感想はこちらへ

注目情報

ピックアップ記事

  1. 塩谷光彦 Mitsuhiko Shionoya
  2. 超臨界流体 Supercritical Fluid
  3. 【書籍】10分間ミステリー
  4. フリーラジカルの祖は一体誰か?
  5. パーソナル有機合成装置 EasyMax 402 をデモしてみた
  6. MT-スルホン MT-Sulfone
  7. オンライン講演会に参加してみた~学部生の挑戦記録~
  8. 交響曲第6番「炭素物語」
  9. 化学するアタマ―論理的思考力を鍛える本
  10. アーサー・C・コープ賞・受賞者一覧

関連商品

ケムステYoutube

ケムステSlack

月別アーカイブ

2011年9月
 1234
567891011
12131415161718
19202122232425
2627282930  

注目情報

注目情報

最新記事

SDGsと化学: 元素循環からのアプローチ

概要 元素循環化学は、SDGs の達成に寄与するものとして近年関心が増している。本書では、元…

【技術者・事業担当者向け】 マイクロ波がもたらすプロセス効率化と脱炭素化 〜ケミカルリサイクル、焼成、乾燥、金属製錬など〜

<内容>脱炭素化と省エネに貢献するモノづくり技術の一つとして、昨今注目を集めているマイクロ波。当…

分子糊 モレキュラーグルー (Molecular Glue)

分子糊 (ぶんしのり、Molecular Glue) とは、2個以上のタンパク質…

原子状炭素等価体を利用してα,β-不飽和アミドに一炭素挿入する新反応

第495回のスポットライトリサーチは、大阪大学大学院工学研究科 応用化学専攻 鳶巣研究室の仲保 文太…

【書評】現場で役に立つ!臨床医薬品化学

「現場で役に立つ!臨床医薬品化学」は、2021年3月に化学同人より発行された、医…

環状ペプチドの効率的な化学-酵素ハイブリッド合成法の開発

第494回のスポットライトリサーチは、北海道大学大学院生命科学院 天然物化学研究室(脇本研究室) 博…

薬学会一般シンポジウム『異分野融合で切り込む!膜タンパク質の世界』

3月に入って2022年度も終わりが近づき、いよいよ学会年会シーズンになってきました。コロナ禍も終わり…

【ナード研究所】新卒採用情報(2024年卒)

NARDでの業務は、「研究すること」。入社から、30代・40代・50代…と、…

株式会社ナード研究所ってどんな会社?

株式会社ナード研究所(NARD)は、化学物質の受託合成、受託製造、受託研究を通じ…

マテリアルズ・インフォマティクスを実践するためのベイズ最適化入門 -デモンストレーションで解説-

開催日:2023/04/05 申し込みはこちら■開催概要近年、少子高齢化、働き手の不足の…

Chem-Station Twitter

実験器具・用品を試してみたシリーズ

スポットライトリサーチムービー

PAGE TOP