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化学者のつぶやき

光触媒ラジカル付加を鍵とするスポンギアンジテルペン型天然物の全合成

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2017年、カリフォルニア大学アーヴァイン校・Larry E. Overmanらは、可視光レドックス触媒が促進する3級炭素ラジカルカップリングを鍵とする、6位置換cis-2,8-dioxabicyclo[3.3.0]octan-3-oneユニットの効率的不斉合成法を開発した。また本方法論を用いて、スポンギアンジテルペン天然物3種の短工程不斉全合成を達成した。

“Versatile Construction of 6-Substituted cis-2,8-Dioxabicyclo[3.3.0]octan-3-ones: Short Enantioselective Total Syntheses of Cheloviolenes A and B and Dendrillolide C”
Slutskyy, Y.; Jamison, C. R.; Zhao, P.; Lee, P.; Rhee, Y. H.; Overman, L. E.* J. Am. Chem. Soc. 2017, 139, 7192-7195. DOI: 10.1021/jacs.7b04265

問題設定

cis-2,8-dioxabicyclo[3.3.0]octan-3-one環骨格は100種以上の天然物に見られる。また、転位型スポンギアンジテルペンおよびその関連化合物の全合成は未踏である。生物活性は未知の要素が多いが、ゴルジ体に絡む活性を示すものが多い。

Overmanらは、特に6位置換をもつタイプの骨格を網羅的に合成する戦略を立案した。

技術や手法のキモ

5-アルコキシブテノライドに対する3級炭素ラジカルのカップリングを鍵とすることで、短工程で求める骨格にアクセス出来ると考えた。
3級ラジカル生成に関しては、Overmanらが独自開発したヘミオギザレート塩を基質とする可視光レドックス触媒条件[1]を用いることとした。

主張の有効性検証

①モデル基質を用いた鍵反応の検討

1-メチルシクロヘキサノールを原料として上記の反応検討を行なった。3級アルコールを求める付加体にワンポットで導くことが主眼である。
DME中、1当量のオギザリルクロリドと水/K2HPO4 (3 eq)を混ぜることで、ヘミオギザレートカリウム塩に導ける。これに1当量の5-メトキシブテノライドを加えて可視光レドックス触媒条件に附すと、58%収率で付加体が得られた。
キラル補助基であるメンチルオキシ基を持つ場合には、60%・単一ジアステレオマーで目的の付加体が得られる。
クロロ置換体のほうが反応性が良いという知見を有していた[2]ので、クロロ置換体との反応をBu3N (10 eq)添加条件で行なうと、脱クロロ化も同時に進行し、求める付加体が80%で得られた。付加体は求める6位置換骨格へと4工程で導けた。

②全合成

出発物質:(+)-fenchoneより10グラムスケールで合成可能[3]。

左部フラグメントの合成:Storkのエポキシ-ニトリル環化プロトコル[4]に従った7員環構築を行い、Eschweiler-Clarke還元的メチル化Cope脱離を経る経路で効率的に合成を進めている。

ヘミオギザレートラジカルカップリング(鍵反応):本番の基質では3級ラジカルの還元が競合したため、濃度を0.05Mから0.6M(THF)に向上させてこれを抑えている。76%収率で付加体を得た後は、モデル基質通りの手順でcheloviolene Aの不斉全合成を達成した。

類縁体の全合成:ブテノライド基質のエナンチオマーに対して同様のプロセスを行ない、ジアステレオマー付加体を得る。4工程を経てcheloviolene B(X線で構造決定)を全合成し、構造訂正を果たす。これを脱水してdendrillolide Cにも導いている。

議論すべき点

  • 穏和なIr-phtoredox条件で進行する鍵反応[1]が最大の特徴。入手容易なアルコール原料から、隣接ヘテロ原子やπ電子系などで安定化されていない3級ラジカルが出せる。単純カルボン酸塩からの脱炭酸プロセスよりも穏和である。一方で2級ラジカル生成の場合は、途中のアシルラジカル中間体で止まってしまう例もあるようだ。
  • ゆくゆくはHAT触媒によるC-H活性化で本経路を実現したいところであるが、位置選択性が鬼門となることが予想される(様々な3級C-Hが共存するため)。

参考文献

  1. (a) Nawrat, C. C.; Jamison, C. R.; Slutskyy, Y.; MacMillan, D. W. C.; Overman, L. E. J. Am. Chem. Soc. 2015, 137, 11270. DOI: 10.1021/jacs.5b07678
  2. Schnermann, M. J.; Overman, L. E. Angew. Chem., Int. Ed. 2012, 51, 9576. DOI: 10.1002/anie.201204977
  3.  Kreiser, W.; Below, P. Liebigs Ann. Chem. 1985, 203.
  4. Stork, G.; Cama, L. D.; Coulson, D. R. J. Am. Chem. Soc. 1974, 96, 5268. DOI: 10.1021/ja00823a052
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cosine

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博士(薬学)。Chem-Station副代表。国立大学教員→国研研究員にクラスチェンジ。専門は有機合成化学、触媒化学、医薬化学、ペプチド/タンパク質化学。
関心ある学問領域は三つ。すなわち、世界を創造する化学、世界を拡張させる情報科学、世界を世界たらしめる認知科学。
素晴らしければ何でも良い。どうでも良いことは心底どうでも良い。興味・趣味は様々だが、そのほとんどがメジャー地位を獲得してなさそうなのは仕様。

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