[スポンサーリンク]

化学者のつぶやき

カスケード反応で難関天然物をまとめて攻略!

[スポンサーリンク]

(冒頭画像はMacMillan研ホームページ上の講演資料より抜粋)

先日プリンストン大学・MacMillanグループからNature誌に報告された論文[1]は、合成化学者なら誰しもが驚嘆する内容でした。

ひとつ合成するだけでも非凡な労力を余儀なくされる天然物合成ですが、なんと一挙に6つもつくり上げてしまったのですから(しかも全て不斉合成!)。その中には難関天然物として名高いストリキニーネも含まれており、総工程数はわずかに12工程

余人をして代えがたい成果を現実のものとしてしまったわけですが、その鍵は彼らが独自に開発した新型カスケード反応にあります。

今回報告された新型カスケード反応は、MacMillan触媒を用いるインドールの不斉付加[2]を起点としたものです。比較容易な例としては、ミンフィエンシンの9工程不斉全合成[3]で用いられた反応が挙げられます。この場合には含硫黄基質が用いられています。 一方で今回の論文では含セレン基質が用いられており、全く異なる骨格で生成物が得られることが判明しています。以下に示すとおり、硫黄とセレンの脱離能の差に起因した結果のようです。

cascade_strychinine_2.gif

 

カスケード反応の生成物は冒頭図の通り、数多の難関天然物合成における合理的中間体となり得ます。詳しいスキームは紹介しきれないので論文を読んでいただきたいのですが、これを鍵中間体として不斉合成未達成の2つを含む、6つの天然物を不斉合成しています。

以下に最難関であろうストリキニーネの合成経路だけ紹介しておきます。既存の触媒的不斉合成経路が最短でも25工程ということですから、畏怖を禁じえない成果そのものといえるでしょう。

 

cascade_strychinine_3.gif

 

関連論文

  1.  Jones, S. B.; Simmons, B.; Mastracchio, A.; MacMillan, D. W. C. Nature 2011, 475, 183. doi:10.1038/nature10232
  2.  (a) Paras, N. A.; MacMillan, D. W. C. J. Am. Chem. Soc. 2001, 123, 4370. doi:10.1021/ja015717g (b) Austin, J. F.; MacMillan, D. W. C. J. Am. Chem. Soc. 2002, 124, 1172. doi:10.1021/ja017255c (c) Austin, J. F.; Kim, S. G.; Sinz, C. J.; Xiao, W. J.; MacMillan, D. W. C. Proc. Nat. Acad. Sci. USA 2004, 101, 5482. doi:10.1073/pnas.0308177101 (d) Knowles, R. R. .; Carpenter, J.; Blakey, S. B.; Kayano, A.;Mangion, I. K.; Sinz, C. J.; MacMillan, D. W. C. Chem. Sci. 2011, 2, 308. DOI:10.1039/c0sc00577k
  3.  Jones, S. B.; Simmons, B.; MacMillan, D. W. C. J. Am. Chem. Soc. 2009, 131, 13606. doi:10.1021/ja906472m
Avatar photo

cosine

投稿者の記事一覧

博士(薬学)。Chem-Station副代表。国立大学教員→国研研究員にクラスチェンジ。専門は有機合成化学、触媒化学、医薬化学、ペプチド/タンパク質化学。
関心ある学問領域は三つ。すなわち、世界を創造する化学、世界を拡張させる情報科学、世界を世界たらしめる認知科学。
素晴らしければ何でも良い。どうでも良いことは心底どうでも良い。興味・趣味は様々だが、そのほとんどがメジャー地位を獲得してなさそうなのは仕様。

関連記事

  1. 触媒的不斉交差ピナコールカップリングの開発
  2. 【読者特典】第92回日本化学会付設展示会を楽しもう!PartII…
  3. 日本にあってアメリカにないガラス器具
  4. 続セルロースナノファイバーの真価【対面講座】
  5. 官能基「プロパルギル基」導入の道
  6. 結晶データの登録・検索サービス(Access Structure…
  7. エーテルがDiels–Alder反応?トリチルカチオンでin s…
  8. 生体医用イメージングを志向した第二近赤外光(NIR-II)色素:…

注目情報

ピックアップ記事

  1. 【太陽ホールディングス】新卒採用情報(2025卒)
  2. 危険物データベース:第5類(自己反応性物質)
  3. ヴァレリー・フォキン Valery V. Fokin
  4. 炭素ー炭素結合を切る触媒
  5. 第5回慶應有機化学若手シンポジウム
  6. ODOOSをリニューアル!
  7. 元素検定にチャレンジせよ!
  8. 研究者xビジネス人材の交流イベント 「BRAVE GATE Meetup」 参加申し込み受付中
  9. 日本化学会 第103春季年会 付設展示会ケムステキャンペーン Part2
  10. 2007年秋の褒章

関連商品

ケムステYoutube

ケムステSlack

月別アーカイブ

2011年9月
 1234
567891011
12131415161718
19202122232425
2627282930  

注目情報

最新記事

アクリルアミド類のanti-Michael型付加反応の開発ーPd触媒による反応中間体の安定性が鍵―

第622回のスポットライトリサーチは、東京理科大学大学院理学研究科(松田研究室)修士2年の茂呂 諒太…

エントロピーを表す記号はなぜSなのか

Tshozoです。エントロピーの後日談が8年経っても一向に進んでないのは私が熱力学に向いてないことの…

AI解析プラットフォーム Multi-Sigmaとは?

Multi-Sigmaは少ないデータからAIによる予測、要因分析、最適化まで解析可能なプラットフォー…

【11/20~22】第41回メディシナルケミストリーシンポジウム@京都

概要メディシナルケミストリーシンポジウムは、日本の創薬力の向上或いは関連研究分野…

有機電解合成のはなし ~アンモニア常温常圧合成のキー技術~

(出典:燃料アンモニアサプライチェーンの構築 | NEDO グリーンイノベーション基金)Ts…

光触媒でエステルを多電子還元する

第621回のスポットライトリサーチは、分子科学研究所 生命・錯体分子科学研究領域(魚住グループ)にて…

ケムステSlackが開設5周年を迎えました!

日本初の化学専用オープンコミュニティとして発足した「ケムステSlack」が、めで…

人事・DX推進のご担当者の方へ〜研究開発でDXを進めるには

開催日:2024/07/24 申込みはこちら■開催概要新たな技術が生まれ続けるVUCAな…

酵素を照らす新たな光!アミノ酸の酸化的クロスカップリング

酵素と可視光レドックス触媒を協働させる、アミノ酸の酸化的クロスカップリング反応が開発された。多様な非…

二元貴金属酸化物触媒によるC–H活性化: 分子状酸素を酸化剤とするアレーンとカルボン酸の酸化的カップリング

第620回のスポットライトリサーチは、横浜国立大学大学院工学研究院(本倉研究室)の長谷川 慎吾 助教…

実験器具・用品を試してみたシリーズ

スポットライトリサーチムービー

PAGE TOP