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スポットライトリサーチ

触媒的不斉交差ピナコールカップリングの開発

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第189回目のスポットライトリサーチは、竹田 光孝(たけだ みつたか)さんにお願いしました。

所属する大宮研究室からの成果は以前にもスポットライトリサーチに登場しています(参照:医薬品への新しい合成ルートの開拓 〜協働的な触媒作用を活用〜)。設立2年未満ながら、注目度の高い成果を既に数々と上げている、勢い溢れる研究室です。今回の成果はJ. Am. Chem. Soc.誌原著論文およびプレスリリースの形で公開され、同ジャーナルのSupplementary Coverにも採択されています。

“Reductive Coupling between Aromatic Aldehydes and Ketones or Imines by Copper Catalysis”
Takeda, M.; Mitsui, A.; Nagao, K.; Ohmiya, H. J. Am. Chem. Soc. 2019, 141, 3664–3669. DOI: 10.1021/jacs.8b13309

研究室を主催される大宮寛久 教授より、竹田さんについて以下のコメントを頂いています。まだ修士課程ということで、いっそうの成長が期待されることでしょう。数年後が楽しみな人材です。

大宮研究室1期生の竹田くんは、研究室立ち上げの大変な時期を共に過ごしたこともあり、今やソウルメイトです。この2年、仏頂面は全く変わりませんが、研究の進め方や考え方などの研究能力の向上には目を見張るものがあります。竹田くんは、まだM1です。これから研究を続けていく上で、本研究で乗り越えた壁より、もっともっと高い壁が待ち構えているはずです。楽しんで乗り越えろ!竹田!

Q1. 今回プレスリリースとなったのはどんな研究ですか?簡単にご説明ください。

今回私は、アルデヒドとケトンの銅触媒クロスピナコールカップリングの開発に成功しました。従来のクロスピナコールカップリング反応は二つのカルボニル由来のケチルラジカル種間における炭素–炭素結合形成を経由して反応が進行します(下図A)。そのため二つのカルボニル基質を用いたクロスピナコールカップリングでは、それぞれの基質によるホモカップリングが問題となります。そこで私はこれまで研究してきた、「アルデヒドの還元的極性転換により形成されるα-アルコキシアルキル銅種」を用いて、この問題の解決に挑戦しました(下図B)。つまり、系中において形成されるシリル銅種がアルデヒドに対し選択的に付加します。続く1,2-Brook転位により形成されるα-アルコキシアルキル銅種とケトンとの選択的な反応により、1,2-ジオール生成物を与えます(下図C)。このように銅触媒が二つのカルボニル基質であるアルデヒドとケトンを認識・活性化することで高い化学選択性を実現しました。

Q2. 本研究テーマについて、自分なりに工夫したところ、思い入れがあるところを教えてください。

学部4年生の時に実現した、α-アルコキシアルキル銅触媒種とブロモベンゼンのパラジウム触媒クロスカップリングの研究(Chem. Commun. 2018, 54, 6776)は、合成化学的有用性が十分でなく、多くの方から厳しいお言葉を頂きました。また、その後の展開もなかなか上手くいかず、苦しい期間が続きました。そんな中、初めて本反応が進行した時は、私が世に出したα-アルコキシアルキル銅触媒種にやっと価値を見出すことができたという思いでほっとしたことを覚えています。また、当研究室の藪下絢矢さんは、上記のα-アルコキシアルキル銅触媒種とブロモベンゼンのパラジウム触媒クロスカップリングの不斉化に成功しています(J. Am. Chem. Soc. 2019, 141, 113)。こちらもぜひご覧いただければと思います。

Q3. 研究テーマの難しかったところはどこですか?またそれをどのように乗り越えましたか?

アルデヒドとケトンが化学選択的にカップリングできる反応系を見つけるのにもちろん時間を要しましたが、不斉化を実現するのにも相当苦労しました。本反応は、銅に対する配位子を用いない場合でも進行します。つまり、不斉化の際に、この配位子フリーの銅種が機能してしまうと、エナンチオ選択性の低下に繋がります。つまり、銅からの配位子の解離をいかに防ぐかがポイントです。私は、反応系に存在する他因子の銅中心への配位により、銅からの配位子の解離が起こると考えました。「弱いアルコキシド塩基の使用」と「非配位性溶媒の使用」という二点に焦点を当て、スクリーニングを実施しました。その結果、NaOSiMe3塩基とc-octane溶媒を見いだすことができました。

Q4. 将来は化学とどう関わっていきたいですか?

今は、化学漬けの毎日です。金属触媒はもちろんのこと、有機触媒や光反応、さらには計算科学などの分野への興味が尽きません。今後は金属触媒に限らず、自身の興味のある様々な分野に挑戦し、世界に注目されるような反応の開発を行っていきたいです。

Q5. 最後に、読者の皆さんにメッセージをお願いします。

ケムステのスポットライトリサーチは普段から拝読しています。比較的私と年齢の近い方々が結果を出している姿を見て、日々刺激を頂いています。私の記事でも多少なりとも皆様への刺激となれば光栄です。

最後に、研究指導してくださった大宮さん、さまざまな面からのアドバイスをくださった博士研究員の長尾一哲さん、わずか3カ月間で、本系を「アルデヒドとイミンの還元的カップリング反応」に展開した学部4年の三井惇央くんに深く御礼申し上げます。

研究者の略歴

竹田光孝(左)。共に研究を行った三井くん(右)と一緒に。

名前:竹田 光孝(たけだ みつたか)
所属:金沢大学医薬保健研究域薬学系 大宮研究室 博士前期課程1年
研究テーマ:アルデヒドの還元的極性転換

略歴
2014年3月 長野県長野高等高校 卒業
2018年3月 金沢大学 医薬保健学域創薬科学類 卒業
2018年4月-現在 金沢大学 大学院医薬保健学総合研究科創薬科学専攻博士前期課程

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博士(薬学)。Chem-Station副代表。国立大学教員→国研研究員にクラスチェンジ。専門は有機合成化学、触媒化学、医薬化学、ペプチド/タンパク質化学。
関心ある学問領域は三つ。すなわち、世界を創造する化学、世界を拡張させる情報科学、世界を世界たらしめる認知科学。
素晴らしければ何でも良い。どうでも良いことは心底どうでも良い。興味・趣味は様々だが、そのほとんどがメジャー地位を獲得してなさそうなのは仕様。

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