[スポンサーリンク]

化学者のつぶやき

炭素原子のまわりにベンゼン環をはためかせる

[スポンサーリンク]

 

トリアリールメタンと言えば、炭素原子ひとつのまわりに、ベンゼン環が3枚はたいているかのようなかたちをした分子の総称です。残りひとつの手で中心の炭素原子につく水素原子は外れやすく、トリアリールメタンがカルボカチオン・カルボアニオン・カルボラジカルのいずれにもなりやすいということは、大学で有機化学のかなり早い段階、いわゆる共鳴のお話でよく聞くところだと思います。

さて、このトリアリールメタンですが、画期的な新規合成法が報告[1]されたので紹介します。強みはC-H活性化で3枚目をつけることです。

よし、作り方を確認しよう、という前に、トリアリールメタンにはどのような分子が該当するのか、具体例を少しだけチェックしておきましょう。

最も簡単な構造のトリアリールメタンと言えば、トリフェニルメタン。こちらは四塩化炭素ベンゼンフリーデル・クラフツ反応で化合させたのち、生成した塩化トリフェニルメチルを塩化水素で処理するというステップが、大規模スケールでの合成法らしいです。

 これに加えて、トリアリールメタンと言えば何と言っても、みなさんおなじみ(?)のコレとかコレ。

2015-10-15_03-17-06

酸アルカリ指示薬として懐かしのブロモチモールブルー(bromothymol blue; BTB)とフェノールフタレイン(phenolphthalein)です。小中学校の理科実験を思い出しますね。ちなみに本題とは関係ないのですが「めちゃくちゃ酸性にするとフェノールフタレインって赤橙色になるらしいですよ」と豆知識。

と、ここまで紹介してきた分子は、合成法も洗練されていて、ほとんどが安く作れます。しかし、トリアリールメタンすべてがすべてそうともいきません。ちょっと複雑なものを作ろうとすると、いろいろ準備が必要になってしまいます。たいへーん。

 

トリアリールメタンをC-H活性化で作る

もともと2010年に報告した類似の先行研究[2]では、重金属のクロムがかなりたくさん必要で、反応のスケールを実験室のレベルで不都合ないようにあげることは困難でした。

2015-10-15_03-18-58

2012年の報告ではなんとクロムなしでもトリアリールメタンの合成に成功[1]魔法の触媒はないのかな。そこで、2012年までかけて、あれやこれやと探しあてた不可能を可能に変える組み合わせがこれ[1]。酢酸パラジウムPd(OAc)2に、カリウムビストリメチルシリルアミドKN(SiMe3)2と、さらに4,6-ビスジフェニルホスフィノフェノキサジン(nixantphos)の組み合わせです。この3つを論文に書いてある比率で加えて、反応条件を整えると、目的の反応が進むとのこと。クロムはいりません。報告されているデモンストレーションの場合、収率は71%から99%の間にありました。

ja-2012-047816_0014

塩基のビストリメチルシリルアミドは、カリウム塩でないと駄目なようで、リチウム塩やナトリウム塩などの場合は上手くいかなかったとか。

この論文、ちょっとだけ残念なところをあげるとすれば、ほどよく構造が複雑で、有用なトリアリールメタンが知られていないため、「こんなものも作れました!」というインパクトを持ちあわせていないところでしょうか。しかし、逆に言えば、トリアリールメタンのなかまに、まだ誰も試したことのない未知の機能分子が存在する可能性は、大きく残されているということです。例えば医薬品の場合、イミダゾール系の抗真菌薬であるクロトリマゾールくらいしか該当しないので、ケミカルライブラリーを拡充すれば、かわったものが取れるかもしれませんね。何か役に立つトリアリールメタンが合成されるようになれば、きっと素敵なことでしょう。

あなたはどんな機能を持たせたトリアリールメタンを作りたいですか?

参考論文

  1.  “Palladium-Catalyzed C(sp3) − H Arylation of Diarylmethanes at Room Temperature: Synthesis of Triarylmethanes via Deprotonative-Cross-Coupling Processes.” Jiadi Zhang et al. J. Am. Chem. Soc. 2012 DOI: 10.1021/ja3047816
  2. “Synthesis of Polyarylated Methanes through Cross-Coupling of Tricarbonylchromium-Activated Benzyllithiums.” Genette?I. McGrew et al. Angew. Chem. Int. Ed. 2010 DOI: 10.1002/anie.201000957

 

関連書籍

[amazonjs asin=”4759813659″ locale=”JP” title=”不活性結合・不活性分子の活性化: 革新的な分子変換反応の開拓 (CSJカレントレビュー)”]

 

Avatar photo

Green

投稿者の記事一覧

静岡で化学を教えています。よろしくお願いします。

関連記事

  1. マテリアルズ・インフォマティクスの推進成功事例セミナー-なぜあの…
  2. 死刑囚によるVXガスに関する論文が掲載される
  3. 新規抗生物質となるか。Pleuromutilinsの収束的短工程…
  4. 触媒的炭素–水素結合活性化による含七員環ナノカーボンの合成 〜容…
  5. 水素社会~アンモニアボラン~
  6. Dead Endを回避せよ!「全合成・極限からの一手」⑧(解答編…
  7. 芳香族カルボン酸をHAT触媒に応用する
  8. 648個の誘導体を合成!ペプチド創薬の新手法を開発

注目情報

ピックアップ記事

  1. 偏光依存赤外分光でMOF薄膜の配向を明らかに! ~X線を使わない結晶配向解析
  2. 第6回HOPEミーティングに参加してきました:ノーベル賞受賞者と夢語り合い
  3. 超難溶性ポリマーを水溶化するナノカプセル
  4. MALDI-ToF MSを使用してCOVID-19ウイルスの鼻咽頭拭い液からの検出に成功
  5. フィルム製造プロセスのスキルアップ【終了】
  6. 低分子化合物の新しい合成法 コンビナトリアル生合成 生合成遺伝子の利用法 Total Synthesis vs Total Biosynthesis
  7. アルキンから環状ポリマーをつくる
  8. 【第14回Vシンポ特別企画】講師紹介:宮島 大吾 先生
  9. 第70回「ケイ素はなぜ生体組織に必要なのか?」城﨑由紀准教授
  10. 位置・立体選択的に糖を重水素化するフロー合成法を確立 ― Ru/C触媒カートリッジで150時間以上の連続運転を実証 ―

関連商品

ケムステYoutube

ケムステSlack

月別アーカイブ

2012年10月
1234567
891011121314
15161718192021
22232425262728
293031  

注目情報

最新記事

CIPイノベーション共創プログラム「有機電解合成の今:最新技術動向と化学品製造への応用の可能性」

日本化学会第106春季年会(2026)で開催されるシンポジウムの一つに、CIPセッション「有機電解合…

CIPイノベーション共創プログラム「世界を変えるバイオベンチャーの新たな戦略」

日本化学会第106春季年会(2026)で開催されるシンポジウムの一つに、CIPセッション「世界を変え…

年会特別企画「XAFSと化学:錯体, 触媒からリュウグウまで –放射光ことはじめ」

放射光施設を利用したX線吸収分光法(XAFS)は、物質の電子状態や局所構造を元素選択的に明らかにでき…

超公聴会 2026 で発表します!!【YouTube 配信】

超公聴会は、今年度博士号を取得する大学院生が公聴会の内容を持ち寄ってオンライン上で発表する会です。主…

日本化学会 第104春季年会 付設展示会ケムステキャンペーン Part II

さて、Part Iに引き続きPart II!年会をさらに盛り上げる企画として、2011年より…

凍結乾燥の常識を覆す!マイクロ波導入による乾燥時間短縮と効率化

「凍結乾燥は時間がかかるもの」と諦めていませんか?医薬品や食品、新素材開発において、品質を維…

日本化学会 第104春季年会 付設展示会ケムステキャンペーン Part I

まだ寒い日が続いておりますが、あっという間に3月になりました。今年も日本化学会春季年会の季節です。…

アムホテリシンBのはなし 70年前に開発された奇跡の抗真菌薬

Tshozoです。以前から自身の体調不良を記事にしているのですが、昨今流行りのAIには産み出せな…

反応操作をしなくても、化合物は変化する【プロセス化学者のつぶやき】

前回まで1. 設定温度と系内の実温度のお話2. 温度値をどう判断するか温度を測ること…

ジチオカーバメートラジカル触媒のデザイン〜三重項ビラジカルの新たな触媒機能を発見〜

第698回のスポットライトリサーチは、名古屋大学大学院工学研究科(大井研究室)博士後期課程1年の川口…

実験器具・用品を試してみたシリーズ

スポットライトリサーチムービー

PAGE TOP