[スポンサーリンク]

化学者のつぶやき

タウリン捕まえた!カゴの中の鳥にパイ電子雲がタッチ

[スポンサーリンク]

双性イオンを中性の分子で捕えるにはパイが意外と役に立つ

 

よく考えるとベンゼンはなかなか面白い分子であり、それにも関わらずベンゼン環は生物・無生物を問わずいろいろな場面で登場する構造です。ベンゼン環の性質のいくつかは、芳香環の面と垂直に分布し相互に共鳴したパイ電子の影響を、色濃く受けています。

今回は、芳香環のパイ電子雲に注目して設計したカゴの中に、双性イオンをおさめた報告を紹介します[1] 

パイ-カチオン相互作用 と パイ-アニオン相互作用 の 両方を使ってみた

分子に作用しあう力を考えるとき、芳香環のパイ電子雲は、とても興味深い対象です。例えば、核酸塩基はアデニンもグアニンもチミンもシトシンもみなヘテロ芳香環としての性質を持ち、DNAの安定さにはパイ-パイ相互作用が寄与しています。このような作用は、ホスト分子とゲスト分子を引きつけ、超分子として対象となるを取り扱いたいときにも、活用できます。

Π-π_interaction

今回[1]は、双性イオンを、パイ-カチオン相互作用と、パイ-アニオン相互作用の組み合わせを活用してみようと考えました。両方というところに新規性があるとのことです[1]。カゴの中に捕えられる双性イオンは、栄養ドリンクでおなじみタウリンと呼ばれる物質にしました。ヒトの体内でタウリンは、標準アミノ酸のひとつであるシステインから生合成でき、神経細胞では神経調節物質としてやりとりされ、またミトコンドリアではRNAの修飾[2]に使われます。

125px-Taurine.svg

タウリン

カゴの構造をよく見てみると、ベンゼン環の置換基が、エーテル酸素原子であったり、カルボニル炭素原子であったりと、確かにパイ電子雲の濃淡を操作する設計になっています。核磁気共鳴(NMR)を駆使してその構造を調べたところ、期待通りパイ電子が、ホスト分子とゲスト分子が作る複合体の形成に寄与していました。双性イオンを捕まえるために、パイ-カチオン相互作用に加えて、パイ-アニオン相互作用を効かせたところが、今回の研究のポイントです。

2015-09-14_22-26-27

密度汎関数法から導かれる立体構造は論文[1]より転載

タウリンであるとか、この手の双性イオンは水に溶けやすく、そのため正の電荷も負の電荷も帯びていない中性の分子の中に捕えるという試みは、今まで挑戦的な課題だったとのこと[1]。ドラッグデリバリー等の分野で、超分子化学の発展に貢献できるのか、熱烈なパイ電子のタッチに興奮しながら、ふふんと眺めてみます。

 

参考論文

  1. 双性イオンを認識するためにカチオン-パイ相互作用とアニオン-パイ相互作用を組み合わせた ”Combined Cation–pi and Anion–pi Interactions for Zwitterion Recognition” Olivier Perraud et al. Angew. Chem. Int. Ed. 2012 DOI: 10.1002/anie.201106934
  2. タウリンで修飾されるミトコンドリアの運搬RNA ”Taurine as a constituent of mitochondrial tRNAs: new insights into the functions of taurine and human mitochondrial diseases” Takeo Suzuki et al. Eur. Mol. Biol. Organ. J. 2002 DOI: 10.1093/emboj/cdf656

 

関連書籍

 

Green

投稿者の記事一覧

静岡で化学を教えています。よろしくお願いします。

関連記事

  1. 天然物の全合成研究ーChemical Times特集より
  2. 博士課程と給料
  3. 多孔性材料の動的核偏極化【生体分子の高感度MRI観測への一歩】
  4. 【2分クッキング】シキミ酸エスプレッソ
  5. ドライアイスに御用心
  6. 好奇心の使い方 Whitesides教授のエッセイより
  7. ギ酸ナトリウムでconPETを進化!
  8. ボロールで水素を活性化

コメント、感想はこちらへ

注目情報

ピックアップ記事

  1. 有機反応を俯瞰する ー挿入的 [1,2] 転位
  2. トム・メイヤー Thomas J. Meyer
  3. ヒューマンエラーを防ぐ知恵 増補版: ミスはなくなるか
  4. 「芳香族共役ポリマーに学ぶ」ーブリストル大学Faul研より
  5. PL法 ? ものづくりの担い手として知っておきたい法律
  6. のむ発毛薬で五輪アウトに
  7. メバスタチン /Mevastatin
  8. 加熱✕情熱!マイクロ波合成装置「ミューリアクター」四国計測工業
  9. 化学系ブログのインパクトファクター
  10. コバルト触媒でアリル位C(sp3)–H結合を切断し二酸化炭素を組み込む

関連商品

ケムステYoutube

ケムステSlack

月別アーカイブ

2012年1月
 1
2345678
9101112131415
16171819202122
23242526272829
3031  

注目情報

最新記事

ベテラン研究者 vs マテリアルズ・インフォマティクス!?~ 研究者としてMIとの正しい向き合い方

開催日 2024/04/24 : 申込みはこちら■開催概要近年、少子高齢化、働き手の不足…

第11回 慶應有機化学若手シンポジウム

シンポジウム概要主催:慶應有機化学若手シンポジウム実行委員会共催:慶應義塾大…

薬学部ってどんなところ?

自己紹介Chemstationの新入りスタッフのねこたまと申します。現在は学部の4年生(薬学部)…

光と水で還元的環化反応をリノベーション

第609回のスポットライトリサーチは、北海道大学 大学院薬学研究院(精密合成化学研究室)の中村顕斗 …

ブーゲ-ランベルト-ベールの法則(Bouguer-Lambert-Beer’s law)

概要分子が溶けた溶液に光を通したとき,そこから出てくる光の強さは,入る前の強さと比べて小さくなる…

活性酸素種はどれでしょう? 〜三重項酸素と一重項酸素、そのほか〜

第109回薬剤師国家試験 (2024年実施) にて、以下のような問題が出題されま…

産総研がすごい!〜修士卒研究職の新育成制度を開始〜

2023年より全研究領域で修士卒研究職の採用を開始した産業技術総合研究所(以下 産総研)ですが、20…

有機合成化学協会誌2024年4月号:ミロガバリン・クロロププケアナニン・メロテルペノイド・サリチル酸誘導体・光励起ホウ素アート錯体

有機合成化学協会が発行する有機合成化学協会誌、2024年4月号がオンライン公開されています。…

日本薬学会第144年会 (横浜) に参加してきました

3月28日から31日にかけて開催された,日本薬学会第144年会 (横浜) に参加してきました.筆者自…

キシリトールのはなし

Tshozoです。 35年くらい前、ある食品メーカが「虫歯になりにくい糖分」を使ったお菓子を…

実験器具・用品を試してみたシリーズ

スポットライトリサーチムービー

PAGE TOP