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皆さんは、Organic Process Research & Development (OPRD)という論文を知っていますか?(図:Organic Process Research & Development サイトより)

OPRDはJACSやOrganic Lettersなどと同じ、ACSから発行されている論文であり、プロセス化学研究に焦点をあてている論文誌です。

今回は、このOrganic Process Research & Developmentについて紹介したいと思います。

 

 

実際に読んでみると分かりますが、その内容は「THE・プロセス化学」であり、基本的には合成反応のスケールアップ研究が主です。

(私の個人的なイメージですが)その内容のせいか、基本的な著者、読者層は企業研究者(特にプロセス化学者)が大部分を占めているように感じます。

確かにプロセス化学という言葉からは、一見大学の研究者や大学院生には不向き(興味の対象外?)の論文誌のようにも思えます。

論文の内容もプロセス研究・開発の問題、そしてそれを如何にして解決したかというものであり、「新規性」を求めるアカデミアの研究者からは、何が言いたいんや!っと突っ込みを入れたくなる部分もあるかもしれません。

しかしながら、OPRDをいざしっかり読んでみると、へぇ~っと思う部分も数多く見られます

例えば、OPRDを読む際には、以下のような点に注目して読んでみるとアカデミアの方にも興味深く読んでもらえるのではないでしょうか?

 

1. 実際のプロセス化において、どのような反応が好んで使われているか?どのような部分でつまづくのか?

論文中には、どうしてこの反応を選択したのか、何故他の反応ではダメだったのかという理由が記述されていることも。

このことは、「どのような素反応の開発が工業的により理想的なのか」という目標設定の部分で役に立つのではないのでしょうか。

また、これを知っておくことは、企業に入ってプロセス化学をやりたいと思っている学生さんにはとても良い勉強になると思います。

2. テクニックを”盗む”

kg~トンスケールでの操作を考慮し、プロセス化学の操作はとても簡便である必要があります。

例えば、ラボではカラム精製によって化合物を得るような場面でも、プロセスの現場でそれを実践することが容易ではありません。

しかし、その代わりに濾過・洗浄のみで精製を終らせ、98%の純度の化合物を得ることもあります。

もちろん、そのためには化合物の溶解性などのデータを入念に調べる必要がありますが、似た化合物や反応であれば、日々の実験操作に簡単に応用できることもあると思います。プロセス化学だろうと、ラボスケールの反応であろうと有機化学、合成化学には変わりありません。

盗めそうなテクニックはどんどん盗みましょう!

これができれば普段の実験スピードも更にアップするかも?!

3. 教科書的な合成反応を楽しむ(学ぶ)

プロセス化学という学問柄、これまでに実績のある教科書に載るような反応を用いていることが多く、学部生やマスターコースの学生さんなどには単純に合成の勉強になるのではないでしょうか。

 

このような観点からOPRDを読んでみると、アカデミアの研究者の方々にも十分興味深い論文も多いのではないかと思います。

皆さんも、一読してみてはいかがですか?

今回は、OPRDという論文誌に焦点を当てましたが、色んな論文をそれぞれの立場で読むということは、論文を二倍三倍に楽しむ秘訣なのではないかと思います。

例えば、IFも低く雑誌会などで取り上げると微妙な空気になるような論文誌から面白いと思えるものを探してみたり、新規性の高い論文誌などからは、今後どのように研究が展開されて行くか、自分ならどのように展開するかを妄想してみるなど楽しみ方はタクサンあると思います。

最後は少し話が膨らんでしまいましたが、以上OPRDについての紹介でした。

今後、プロセス化学研究についても少しずつ紹介していきたいと思ってます。

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carbene

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博士見習い。専門は分子触媒化学。化学史や反応や現象の成り立ちに興味がある。夢は化学を熱く語ることができるサイエンスライター。

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