[スポンサーリンク]

一般的な話題

有機反応を俯瞰する ー[1,2] 転位

[スポンサーリンク]

前回、有機反応を俯瞰するということで反応を1つとしてみるだけでなく、遠くから眺めてみようということでシグマトロピー転位について解説しました。今回は転位反応の第 2 弾ということで、アルキル基がすぐ隣の原子に移動するタイプの反応について、横断的に見ていきます。転位の形式で言えば、σ 結合が下の図のように移動するので、 1,2-転位ということになります。

%e3%82%b9%e3%82%af%e3%83%aa%e3%83%bc%e3%83%b3%e3%82%b7%e3%83%a7%e3%83%83%e3%83%88-2016-09-16-23-27-44

具体的には、ピナコール転位、 Beckmann 転位あるいは Baeyer-Villiger 酸化などの反応が鍵段階として 1,2-転位を含んでいるので、それらの共通点を探ろうと思います。

ピナコール転位

今回取り上げる1, 2-転位の共通点はズバリ次の3点です。

  1. 安定な分子の脱離が電子を引き出し
  2. 隣接する電子豊富な原子が電子を押して
  3. アルキル基が隣の原子に滑り込むように転位する。

これについて、ピナコール転位を例に挙げて説明します。

%e3%82%b9%e3%82%af%e3%83%aa%e3%83%bc%e3%83%b3%e3%82%b7%e3%83%a7%e3%83%83%e3%83%88-2016-09-16-23-27-58

この反応機構の巻矢印は次のことを語っています。まず、出発物である1,2-ジオールの一方のヒドロキシ基がプロトン化されることで、そのヒドロキシ基は水という脱離しやすい置換基に変換されます。そして、水が脱離することでカルボカチオンを生じますが、ここでアルキル基の転位が起こると、新しいカルボカチオンは酸素のローンペアによって安定化されます。最後に酸素のプロトンが外れて、生成物のケトンを生じます。

 

引き出して押し出す

さて、上に示した一見すると長ったらしい反応機構を見やすくするために、一連の電子の流れの重要なポイントを、次のように無理やり1つの図にまとめて表してみます。

%e3%82%b9%e3%82%af%e3%83%aa%e3%83%bc%e3%83%b3%e3%82%b7%e3%83%a7%e3%83%83%e3%83%88-2016-09-16-23-27-52

この図は「水の脱離がアルキル基を引き出しつつ、OH 基のローンペアがアルキル基を押し出す」と読みます。もっと手短に言うと、「引き出して、押し出す」です。このように表すと、多段階でややこしそうな反応機構の全体像を把握しやすいと思います。

というわけで、この指針に従って、1,2-転位を鍵段階に含む種々の反応を以下の表にまとめました。鍵段階の図を見れば、それらの個々の反応の類似性を見ることができると思います。

反応名 引き出し 押し出し 鍵段階
 ピナコール転位 H2O の脱離 OH 基のローンペア  %e3%82%b9%e3%82%af%e3%83%aa%e3%83%bc%e3%83%b3%e3%82%b7%e3%83%a7%e3%83%83%e3%83%88-2016-09-16-23-29-00
 %e3%82%b9%e3%82%af%e3%83%aa%e3%83%bc%e3%83%b3%e3%82%b7%e3%83%a7%e3%83%83%e3%83%88-2016-09-16-23-28-09
Baeyer-Villiger 酸化 R3COO の脱離 OH 基のローンペア %e3%82%b9%e3%82%af%e3%83%aa%e3%83%bc%e3%83%b3%e3%82%b7%e3%83%a7%e3%83%83%e3%83%88-2016-09-16-23-28-26
 %e3%82%b9%e3%82%af%e3%83%aa%e3%83%bc%e3%83%b3%e3%82%b7%e3%83%a7%e3%83%83%e3%83%88-2016-09-16-23-26-50
Tiffeneau-Demjanov 転位 N2 の脱離 OH 基のローンペア  %e3%82%b9%e3%82%af%e3%83%aa%e3%83%bc%e3%83%b3%e3%82%b7%e3%83%a7%e3%83%83%e3%83%88-2016-09-16-23-29-58
%e3%82%b9%e3%82%af%e3%83%aa%e3%83%bc%e3%83%b3%e3%82%b7%e3%83%a7%e3%83%83%e3%83%88-2016-09-16-23-29-47
Beckmann 転位 H2O の脱離 N のローンペア %e3%82%b9%e3%82%af%e3%83%aa%e3%83%bc%e3%83%b3%e3%82%b7%e3%83%a7%e3%83%83%e3%83%88-2016-09-16-23-30-17
 %e3%82%b9%e3%82%af%e3%83%aa%e3%83%bc%e3%83%b3%e3%82%b7%e3%83%a7%e3%83%83%e3%83%88-2016-09-16-23-30-06
ベンジル酸転位 カルボニル基 O のローンペア  %e3%82%b9%e3%82%af%e3%83%aa%e3%83%bc%e3%83%b3%e3%82%b7%e3%83%a7%e3%83%83%e3%83%88-2016-09-16-23-40-45
 %e3%82%b9%e3%82%af%e3%83%aa%e3%83%bc%e3%83%b3%e3%82%b7%e3%83%a7%e3%83%83%e3%83%88-2016-09-16-23-40-38

 関連反応

本連載の過去記事はこちら

関連書籍

[amazonjs asin=”4807908723″ locale=”JP” title=”ウォーレン有機化学〈下〉”] [amazonjs asin=”4759810684″ locale=”JP” title=”人名反応に学ぶ有機合成戦略”]
Avatar photo

やぶ

投稿者の記事一覧

PhD候補生として固体材料を研究しています。学部レベルの基礎知識の解説から、最先端の論文の解説まで幅広く頑張ります。高専出身。

関連記事

  1. 水を還元剤とする電気化学的な環境調和型還元反応の開発:化学産業の…
  2. CO2 の排出はどのように削減できるか?【その1: CO2 の排…
  3. 酸素を使った触媒的Dess–Martin型酸化
  4. 金属アルコキシドに新たなファミリー!Naでも切れない絆
  5. 化学パズル・不斉窒素化合物
  6. Reaxys PhD Prize 2016ファイナリスト発表!
  7. アルツハイマー病に対する抗体医薬が米国FDAで承認
  8. ハワイの海洋天然物(+)-Waixenicin Aの不斉全合成

注目情報

ピックアップ記事

  1. 乙卯研究所【急募】 有機合成化学分野(研究テーマは自由)の研究員募集
  2. ステッター反応 Stetter reaction
  3. “結び目”をストッパーに使ったロタキサンの形成
  4. 野崎 一 Hitoshi Nozaki
  5. 酢酸鉄(II):Acetic Acid Iron(II) Salt
  6. 第152回―「PETイメージングに活用可能な高速標識法」Philip Miller講師
  7. 一重項励起子開裂を利用した世界初の有機EL素子
  8. リンと窒素だけから成る芳香環
  9. 【追悼企画】生命現象の鍵を追い求めてー坂神洋次教授
  10. 推進者・企画者のためのマテリアルズ・インフォマティクスの組織推進の進め方 -組織で利活用するための実施例を紹介-

関連商品

ケムステYoutube

ケムステSlack

月別アーカイブ

2016年9月
 1234
567891011
12131415161718
19202122232425
2627282930  

注目情報

最新記事

異方的成長による量子ニードルの合成を実現

第693回のスポットライトリサーチは、東京大学大学院理学系研究科(佃研究室)の髙野慎二郎 助教にお願…

miHub®で叶える、研究開発現場でのデータ活用と人材育成のヒント

参加申し込みする開催概要多くの化学・素材メーカー様でMI導入が進む一…

医薬品容器・包装材市場について調査結果を発表

この程、TPCマーケティングリサーチ株式会社(本社=大阪市西区、代表取締役社長=松本竜馬)は、医…

X 線回折の基礎知識【原理 · 基礎知識編】

X 線回折 (X-ray diffraction) は、原子の配列に関する情報を得るために使われる分…

有機合成化学協会誌2026年1月号:エナミンの極性転換・2-メチル-6-ニトロ安息香酸無水物(MNBA)・細胞内有機化学反応・データ駆動型マルチパラメータスクリーニング・位置選択的重水素化法

有機合成化学協会が発行する有機合成化学協会誌、2026年1月号がオンラインで公開されています。…

偶然と観察と探求の成果:中毒解毒剤から窒素酸化物を窒素分子へ変換する分子へ!

第692回のスポットライトリサーチは、同志社大学大学院理工学研究科(小寺・北岸研究室)博士後期課程3…

嬉野温泉で論文執筆缶詰め旅行をしてみた【化学者が行く温泉巡りの旅】

論文を書かなきゃ!でもせっかくの休暇なのでお出かけしたい! そうだ!人里離れた温泉地で缶詰めして一気…

光の強さで分子集合を巧みに制御!様々な形を持つ非平衡超分子集合体の作り分けを実現

第691回のスポットライトリサーチは、千葉大学大学院 融合理工学府 分子集合体化学研究室(矢貝研究室…

化学系研究職の転職は難しいのか?求人動向と転職を成功させる考え方

化学系研究職の転職の難点は「専門性のニッチさ」と考えられることが多いですが、企業が求めるのは研究プロ…

\課題に対してマイクロ波を試してみたい方へ/オンライン個別相談会

プロセスの脱炭素化及び効率化のキーテクノロジーである”マイクロ波”について、今回は、適用を検討してみ…

実験器具・用品を試してみたシリーズ

スポットライトリサーチムービー

PAGE TOP