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18万匹のトコジラミ大行進 ~誘因フェロモンを求めて①~

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Tshozoです。 タイトルからわかるとおり、今回の案件は体が痒くなりそうです。

以下、ゾワゾワ来る画像を列挙しますので閲覧ご注意願います。一部の方には是非見て頂きたいです。

下の写真に写るキモイ虫は旧称南京虫、日本名「トコジラミ」、英語で「bedbug」と言われる厄介者。明治時代の文豪夏目漱石の小説「抗夫」にも「南京虫」の表記がみられるように、当時からアジアのみならず欧米各国でも大変迷惑な虫として認識されていました。bedbugというのは、寝床に出て被害に遭うことが多いことからこの名称になりました。なお「トコジラミ」というのは戦後になって国や地名を害虫に付けるとよくない、ということで改称された結果のようです。 Tipsついでに英語で”お休みなさい”は”Don’t let (the ) bed bugs bite!”といいます。

bedbug_02

焼き殺したくなるこのカタチ

 大学時代下宿していた際、そこで飼っているネコに憑いたノミによく咬まれていた筆者ですが、幸いにしてトコジラミには未だ咬まれたことはありません。しかし、どうも話をあちこち見てみると死ぬほど痒いそうで、しかもそれが酷い場合には100箇所にも上るような刺し跡が残るのだとか・・・(声優「松宮可奈」さんのブログより)。

bedbug_06

咬まれた(咬まれてる)例
ネバダ州厚生保健省ワークショップによる参考文献”BED BUGS“より引用

 世界中で戦中~戦後に使われた薬剤類(DDTなど)で結構駆除出来ていたようなのですが、また再び結構な耐性が付いてしまった「スーパートコジラミ」が復活し世界のあちらこちらで被害を出していますです。特にニューヨークのような大都市でも発生し、しまいには咬まれた宿泊客が訴訟を起こしたり、それに対する保険商品(「トコジラミ保険」・咬まれた宿泊客が出た場合にその訴訟費の一部を 補償するものなど様々)が出てきたりする始末で、まったく面倒極まりない連中です。

しかもいったん繁殖してしまうと素人が薬剤で燻蒸したりするくらいでは十分に殲滅できず、結局またすぐ増えてしまうことが多々あるようで、完全に駆除するには専門業者殿に相談するしかなさそうです。その他の細かい情報は、大阪市殿によるこちらのページが極めて詳細に扱っていますので参考にされると良いと思います。

bedbug_08
近年のニューヨークでの電話問い合わせ件数経緯・・・右肩上がり
(参考文献:Rutgers大学による米国環境省教育プログラム資料)

 今回そうしたヒドい状況になる&なってしまった後の被害を防ぐため、「恐るべき」実験を繰り返した結果、トコジラミを「誘引・足止め」するフェロモンの分子構造及び組成を解析し特定できたとする論文(Angewandte Chemie International Edition より”Bed Bug Aggregation Pheromone Finally Identified“)が発行されましたので、2回に分けてご紹介します。1回目はトコジラミの生態などから。

トコジラミ(床虱)とは

 トコ”シラミ”と言いますが、実際にはシラミではありません。学名Cimex lectulariusといい、カメムシの仲間「サシガメ “assassin bug”」の一種の「昆虫」です。このサシガメは世界各地にその仲間がおり、そのうち動物や人間から血を吸う種類が多数ありますが、そのうちの1種がトコジラミです。原産国は不明ですが、数千年前からすでにエジプト方面では存在が知られていたようで(参考文献:”Monograph of Cimidae Vol. 7. College Park, Md.: Entomological Society of America; 1966:50”)、日本には江戸時代後期に入ってきたことから考えると大陸発祥の生物と思われます。

 成虫の大きさは平均8mm程度、人間や動物の血しか食べれない偏食ラーです。生態は非常に単純で、腹いっぱいの時にはコロニーのような形で一か所に固まって過ごし、腹が減るとノソノソ出てきて昼夜問わずブスブス刺して吸いまくってまたコロニーに帰るというものです(被害が夜に集中しているケースが多いのは単純に人間が無防備な状態にあるからです)。羽は退化しているので這い回ることしかできませんが、結構動きが早く(下の動画参照)、しかもゴキブリとかと一緒で薄っぺらいその体型でどんな隙間にも滑り込むことができます。卵はだいたい1日に1個産み(参考文献:Scientific American “Top 10 Myth about bed-bugs“)、正確な寿命は1年と言われていますが個体差が激しく、2年以上生きるものも居るようです。

bedbug_05

マットレス下のコロニー オェー シミのように黒いのはトコジラミの「血便」
参考文献はバージニア州保健衛生局による”Bed Bug Control in Multi-unit Facilities

bedbug_01

それぞれの世代の個体 右の卵から反時計まわりに幼生→成虫までのイメージ
卵以外どいつもこいつも血を吸う なお腹が長く膨らむのは血を吸ったあと
(参考文献:”NYC Controlling Bed Bugs inNYC Materials Exchange & Reuse Programs“より引用)

実際の動いているトコジラミは0:20あたりから見れます
非常にキモイので是非ご覧ください

 意外なことにこのトコジラミ、疾病をあまり伝染させず、ペストやその他血液由来の伝染病を媒介しません(注:南米方面のビッグなサシガメは凶悪伝染病「シャーガス病」の媒体であることが判明していますのでご注意を)。HIVのような微弱なウイルスもこのトコジラミの体内では生息できないようで、まぁ南米で滞在する以外では血を吸われても特に痒いほかの問題は今のところ無いようです。その点は安心してください。

bedbug_11

ビッグなサシガメ(引用:米国CDC ホームページ)

 とは言うものの、人によっては数か月も残るような重篤な皮膚アレルギーを残すケースもあり決して見逃すことはできません。日本では未だそれほど多発していない様子ですが、東京都だけでも平成20年~24年で問合せ件数が約60件→約300件と5倍以上になっており(引用はこちら)、また2012年にはNHKでも放映されたこともあるように、国内外の人員の出入りが激しくなっている昨今、いつまでも低いままでいるわけはないことは肝に銘じておくべきだと思います。

今回の論文の意義

 上記のように伝染病をばらまいたりはしないものの、とにかく痒くて仕方がないようなものをこのままにしとくわけにはいかないので、化学のチカラを使って対策しようとするのが化学者の役割です。緒戦(1940年~1970年)はDDTやシアンガス()で優勢だったものの、耐性を身に着けて逆襲に出てきているのは上記のとおり。やたらめったら薬剤をぶちまけては緒戦の轍を踏むことになるので、戦略的に進めなければならないわけです。防御の大枠としては入るのを防ぐ、入ってきたら大部分を殺す、の2点ですが、今回は後者に話を絞ります。

bedbug_09

緒戦で使った薬剤の例(一番左は「除虫菊 Pyrethrum」によるもの)
なお中央下部(通称”Zyklon B”)は
トコジラミどころか人間まで死ぬレベル
(参考文献:”The History of Bed Bug Management“)

 上記に挙げた大部分を殺すための化学的な駆除の方法はおおまかに分けて3つ、

①物理化学的に殺す(潰す・焼く・熱する・凍らす・溺れさせる)
②薬で殺す(殺虫剤)
③真菌類で殺す(生体農薬的なもの)

 のようですが、②③はアレルギーの問題があったりして一般の方がすぐ使えるかというとそういうわけではなさそうです。かと言って①でプチプチ潰してては日が暮れる。どうせなら一網打尽にしてぶち殺したい。

 で、今回の論文のポイントは、そうしたトコジラミを一網打尽にするため「誘い出して」「1か所に留め置く」ことが出来る組成の配合を見つけたことです。上述したようにトコジラミは下図のように人目に付きにくい場所にコロニーのようなものを形成することが多く、②③をふりかけるにしてもかなり難渋なケースが多々あります。それに対し今回の薬剤が完成出来れば、こういうコロニーのクソ共連中すらもおびき出し、一挙に捉えられるかもしれない。そのための道を拓いたのが今回の論文の意義です。

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しつこいようですがコロニーの例 オェー
BASFによる教育資料”Bed Bugs biology and control using IPM“より引用

トコジラミ用の殺虫剤の一覧が載っているなど、化学系の勉強には極めてよい資料です

bedbug_10

こんな狭いところにもトコジラミ

bedbug_04

コロニー近傍でみられる黒いシミはトコジラミの血糞
引用は同上

 ということでまずはトコジラミ概論ということで本件はここまで。次回は本題の論文の内容に入ります(次回リンク)。

Tshozo

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メーカ開発経験者(電気)。56歳。コンピュータを電算機と呼ぶ程度の老人。クラウジウスの論文から化学の世界に入る。ショーペンハウアーが嫌い。

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