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一般的な話題

アメリカの大学院で学ぶ「提案力」

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大学院で身につけるべき力って何でしょう?

研究遂行力、専門知識、プレゼン力、実験テクニック、etc… いろいろあると思います。私は、アメリカのPhD課程で学ぶ中で、提案力(=プロポーザルを書く力)を磨く訓練がとても充実していると感じました。

今回は、この「提案力」を磨く学びについて、私のアメリカでの経験を綴りたいと思います。

1. プロポーザル提出が期末レポートの代わり

日本の大学では、学期の終わりに学生の理解度をはかるため、筆記試験や期末レポートが課されることが一般的だと思います。私が在籍するアメリカの大学の化学科では、多くの授業でレポートの代わりに関連分野のプロポーザル提出が課されます。

実際に、私が受けた高分子化学の授業でのガイドラインは以下の通りです。

  • US letter 10ページ以内
  • フォントはTimes New Roman, 12pt
  • 過去にやられていない、オリジナルのテーマであること
  • 自分や研究室のメンバーが取り組んでいるテーマと直接関連しないテーマであること
  • 数週間で終えられるテーマ、数年かかるプロジェクトなど、規模は問わない

学期末にプロポーザル提出が課されることは、学期の初めのガイダンスで知らされるため、学生は早いうちからアイディアを練りはじめます。毎回の授業で取り上げられるトピックも、アイディアを見つけるヒントになります。

学期の終わりが近づくと、TA(ティーチングアシスタント)による面談の時間が設けられ、プロポーザルの概要についてディスカッションします。その際に、内容に新規性や意義はあるか、アプローチは適切か、目標設定が明確か、などについて議論し、アドバイスをもらいます。さらに、授業内でも他の学生とアイディアを発表し合ったり、授業の教官と個別にアポを取ってディスカッションしたりなど、他人から意見をもらえる機会はたくさんあります。

私は、自分でプロポーザルを書いた経験などほとんど無く、初めは一人で書き上げられるかどうか不安でした。それでも、とりあえずひたすら関連分野の論文を読んでいるとアイディアが思い浮かび、周りの人から適宜アドバイスをもらうことでプロポーザルを書き上げることができました。

教授やTA、他の学生は、他人のアイディアに対していつも肯定的で、ポジティブなコメントや建設的なアドバイスをくれるので、思いつくまま自由にアイディアを述べられるという楽しさもありました。

2.  Candidacy(博士候補生認定試験)やDefenseでの必要要件

授業だけでなく、PhD候補生に上がるためのCandidacy試験や、Defenseにおいてもプロポーザル提出が課されます。むしろ、これらの試験でプロポーザル提出が必要なため、練習として授業でプロポーザル提出が課されているとも言えます。

私は、すでにCandidacyを受け終えましたが、その際に、自分の研究テーマに関するレポートに加え、自分の研究分野内・分野外それぞれ1報ずつのプロポーザル提出が要求されました。各15ページ以内で、自分やラボのメンバーが取り組んでいるテーマに直接関連しない内容であること、という規定がありました。

試験ではあくまで学生が自力でプロポーザルを書く力が試されるので、研究室の教授と内容について話し合うことは一切ありませんでした。自分で論文を読むなどしてアイディアを練り、一通り仕上げた後で、友達や上級生から簡単なフィードバックをもらい、最終版を完成させました。

試験当日は、自分の研究テーマに関して発表・試問を40分ほど行ったのち、プロポーザルに関してさらに20分程度の質疑応答がありました。審査員の教授陣からは、プロポーザルの意義や実現可能性、背景知識などに関して細かく質問を受けました。特に研究手法について、予想される困難やその解決法についてしっかり考えを練っているかどうか試されているようでした。試験後には、プロポーザルの書き方について教授陣から具体的なアドバイスを受けることもでき、今後より良いプロポーザルを書くための参考になりました。

3. おわりに

大学院で専門性を身につけるということは、与えられた課題をこなす力をつけるだけでなく、専門知識を組み合わせて新しいアイディアを打ち出せるようになることだと思います。大学卒業後、企業・アカデミアいずれの進路を選ぶにしても、新規プロジェクトを提案する力はとても重要だと思うので、日本でも大学院のうちに練習できる機会がもっとあれば良いと思います。そうすれば、目先の研究テーマに囚われず、得た知識をもとに何ができるかイメージを膨らませられるようになり、化学がさらに楽しくなるはずです。

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kanako

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アメリカの製薬企業の研究員。抗体をベースにした薬の開発を行なっている。
就職前は、アメリカの大学院にて化学のPhDを取得。専門はタンパク工学・ケミカルバイオロジー・高分子化学。

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