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スポットライトリサーチ

カルシウムイオン濃度をモニターできるゲル状センサー

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第42回のスポットライトリサーチは、東京工業大学 化学技術創成研究院(福島研究室石割文崇 助教にお願いしました。

今回の成果は、紙おむつの吸収剤などに実用されるポリアクリル酸の特性を生かし、新しいカルシウムイオンセンサーを実現した研究です。ご存じの通り、カルシウムイオンは生体内メッセンジャーとして重要な役割を果たしており、そのモニター法は材料化学の枠を超え幅広い需要が見込めます。本成果は、プレスリリースおよび論文の形で先日公表されました。

“Bioinspired design of a polymer gel sensor for the realization of extracellular Ca2+ imaging.”
F. Ishiwari, H. Hasebe, S. Matsumura, F. Hajjaj, N. Horii-Hayashi, M. Nishi, T. Someya, T. Fukushima.  Sci. Rep20166, 24275. DOI:10.1038/srep24275

研究室を主宰される福島孝典 教授は石割先生を以下の様に評しておられます。

「不可能を可能にする男」、石割君のことをそう呼んでいます。「ウルトラフレシキブルデバイスと一体化でき、臓器表面で起こるカルシウムイオン濃度変化を検出するセンサーをなんとか作れないか?」、これが染谷生体調和エレクトロニクスプロジェクト開始時の課題でした。大量の夾雑物存在下、ミリモル濃度のカルシウムイオンを選択的に検出する、しかも臓器に貼り付ける・・・、正直、どこから手を付けて良いか分からないような難題でした。これをセンシングの原理から探って解決したのが石割助教です。石割さんとの巡り合わせがなければ、解決不可能な課題だったと思います。その巡り合わせは偶然やってきました。私が東工大に赴任後間もなく、大岡山の修士課程学生向けのオムニバス講義に行った際、教室のど真ん中で妙に落ち着き払った学生が、講演で取り上げた研究について周りの学生に解説している様子が目に止まりました。とんでもない学生がいるものだと驚き、話をしてみたくなり講義の後コーヒーショップに誘いました。いろいろ話を聞いてみると、高田十志和先生の下で飛び級で学位を取得し、目下JSPSのPD研究員とのこと。大変魅力を感じ、早速高田先生に相談したところお許しを頂き、ERATOプロジェクトの特任助教として研究室に来てもらうことになりました。その半年後には資源研(現 化学生命科学研究所)の助教となり、今回の難題を研究を学生さんと二人三脚で成し遂げてくれました。今回ご紹介頂いた研究に限らず、石割助教は高分子関連のテーマを中心になって進めてくれており、無理難題(?)を成功へと導いてくれる、まさに「不可能を可能にする男」として頑張っています。今後も「えっ、できたの!?」という成果を挙げてくれると心から期待しています。

それではいつも通り、現場のお話を石割先生に伺ってみました。ご覧ください!

Q1. 今回のプレス対象となったのはどんな研究ですか?簡単にご説明ください。

本研究では細胞外のカルシウムイオン濃度の動態を検出し得るゲル状のカルシウムセンサーを開発しました。

古くからセカンドメッセンジャーとしての機能が知られている細胞内のカルシウムイメージングのための蛍光カルシウム指示薬は多数あるものの、近年新たに情報伝達物質として注目されている細胞外のカルシウムイオンの動態をイメージングする手段はありませんでした[1,2](図a、d)。細胞外カルシウムイメージングのためには、細胞外カルシウムイオン濃度であるmMオーダーの解離定数を有し、細胞外領域でも拡散しない仕組みが必要です。我々は、生体系の細胞外カルシウムセンシングタンパク質(CaSR)[3]の「連続するカルボン酸構造によるカルシウムセンシング機構」をヒントに(図a)、カルボン酸を有する最も汎用的な高分子「ポリアクリル酸(PAA)」及びそのゲル(g-PAA)をベースとし、凝集誘起発光色素(テトラフェニルエテン: TPE)と組み合わせたカルシウムイオンセンサー(PAA-TPEx、g-PAA-TPEx、図b、c)を開発しました。

sr_F_Ishiwari_1

 

Q2. 本研究テーマについて、自分なりに工夫したところ、思い入れがあるところを教えてください。

本研究テーマでは、低分子化合物には無い、下記のような高分子化合物の長所を発揮できたと思います。

① 様々な比率で様々なモノマーと共重合可能

=> Ca2+に対する親和性の連続的な変化が可能であった(図d)。

② 化学架橋により溶媒不溶のゲル化が合成可能

=> シート状などに成型加工可能なユニークなセンサーが得られた(図e)。

③ 安価で大量合成が可能

=> 95%がポリアクリル酸であるため大量合成でき(図e)、動物実験を含む様々な応用検討を行うことができた(論文のサポーティングインフォメーションにいくつかのバイオイメージングの例が載っております)。

ポリアクリル酸とカルシウムイオンの相互作用はFlory[4]の時代から検討されている古い知見でしたが、このようなありふれた材料と古くからの知見から、今回新たな材料へと発展させることができたと思っております。

 

Q3. 研究テーマの難しかったところはどこですか?またそれをどのように乗り越えましたか?

溶媒可溶なポリマー(PAA-TPEx)が良好なカルシウムセンシング能を示した一方で、化学架橋剤存在下で合成したゲル(g-PAA-TPEx)は、検討当初はほとんどカルシウム添加に対して応答しませんでした。架橋度が高すぎるのかと思い、架橋材の仕込み量を減らしてもほとんどゲルの性質に変化はありません。そんな時、担当してくれていた学生(長谷部花子さん)が、低いモノマー濃度でゲルの合成を行ったところ、カルシウム添加に対して大きな応答性を示すゲルが得られることを見つけてくれました。高濃度で重合した際には高分子鎖が絡みあい、架橋剤存在下ではその絡みあいの履歴が残り、高分子の運動性が大きく減少してしまうために起こった現象[5]でした。高分子鎖の絡みあいの影響の重大さを身を以て思い知ったと同時に、高分子ならではの面白さを感じた瞬間でした。

 

Q4. 将来は化学とどう関わっていきたいですか?

独創性のある研究と、しっかりとした教育で日本の化学に貢献していきたいです。漫画「キャプテン」(ちばあきお)の谷口キャプテンのような努力のリーダー像に憧れています。

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Q5. 最後に、読者の皆さんにメッセージをお願いします。

日本化学会、高分子学会、基礎有機化学討論会などに参加しております。もしよければ見かけた際には気軽に声をかけてください。お酒のお誘いなども大歓迎です。今後ともご指導ご鞭撻のほど宜しくお願い申し上げます。

 

参考文献

  1. A. M. Hofer, Another dimension to calcium signaling: a look at extracellular calcium. J. Cell Sci. 2005, 118, 855–862.
  2. G. E. Breitwieser, Extracellular calcium as an integrator of tissue function. Int. J. Biochem. Cell Biol. 2008, 40, 1467–1480.
  3. E. M. Brown, et al. Cloning and characterization of an extracellular Ca2+-sensing receptor from bovine parathyroid. Nature 1993, 366, 575–580.
  4. P. J. Flory, & J. E. Osterheld, Intrinsic viscosities of polyelectrolytes. poly-(acrylic acid). J. Phys. Chem. 1954, 58, 653–661.
  5. H. Furukawa, Effect of varying preparing-concentration on the equilibrium swelling of polyacrylamide gels. J. Mol. Struct. 2000, 554, 11–19.

関連リンク

研究者の略歴

sr_F_Ishiwari_2石割 文崇 (いしわり ふみたか)
(写真は妻あゆみ、娘さくらと岩手県盛岡市「石割桜」前で)

所属:東京工業大学科学技術創成研究院 化学生命科学研究所 福島研究室 助教

専門:高分子化学、超分子化学

略歴:

1985年6月 富山県生まれ

2007年3月 東京工業大学工学部高分子工学科卒業(高田十志和研究室)

2008年9月 東京工業大学大学院有機・高分子物質専攻修士課程修了(高田十志和研究室)

2011年9月 東京工業大学大学院有機・高分子物質専攻博士課程修了(高田十志和研究室)

2011年9月 博士(工学)取得(高田十志和研究室)

(この間、JSPS特別研究員DC1。2010年7月~2011年1月 マサチューセッツ工科大学T. M. Swager研究室訪問研究生)

2012年 3月 東京工業大学大学院 有機・高分子物質専攻 JSPS博士研究員(高田十志和研究室)

2012年 4月 東京工業大学資源化学研究所(福島孝典研究室)特任助教

2012年10月 東京工業大学資源化学研究所(福島孝典研究室)助教

2016年 4月 東京工業大学科学技術創成研究院化学生命科学研究所(福島孝典研究室)助教(改組による)

 

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博士(薬学)。Chem-Station副代表。国立大学教員→国研研究員にクラスチェンジ。専門は有機合成化学、触媒化学、医薬化学、ペプチド/タンパク質化学。
関心ある学問領域は三つ。すなわち、世界を創造する化学、世界を拡張させる情報科学、世界を世界たらしめる認知科学。
素晴らしければ何でも良い。どうでも良いことは心底どうでも良い。興味・趣味は様々だが、そのほとんどがメジャー地位を獲得してなさそうなのは仕様。

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