[スポンサーリンク]

化学者のつぶやき

ナノチューブを引き裂け! ~物理的な意味で~

[スポンサーリンク]

 今回は化学的じゃないけど化学していそうな論文を紹介いたします(画像出典:ACS Nano Letters )。

Tshozoです。Ph.D.になりたかったです。

今回、C60の発見者の1人 Richard Smally教授(故人)の母校である、Rice Universiyの研究所から興味深い論文が出ておりましたので紹介致します。

タイトルは”Unzipping Carbon Nanotubes at High Impact.”(論文リンク → )。「カーボンナノチューブを衝撃(マッハ15)で引き裂いてやったぜ!」というものです。ACSのNano Letters誌に掲載された同論文、筆者が非常に好きな「力技」を有効に使っている点に非常に興味を惹かれました。相変わらず物理寄りですがご了承ください。

とりあえず背景から。 C60, CNTやグラフェンはナノカーボン材料と言われ、1990年あたりから急速にその研究領域を広げています。安全性や製造方法/コスト、応用先の観点から真の実用化、例えばシリコンを全て駆逐するようなレベルになるまでは今なお遠いと言われることもありますが、以前ご紹介したサムスンによる研究成果(→ )や、敬愛する有機化学美術館で紹介されたこちらの文献(→ )のように分野としては着実に進化を続けており、まだまだフロンテイアは大きく広がっているという印象を持っております。

 

CNT_HIMP_02.pngカーボンの形態一覧 図はこちら→  より引用

 その中で今回取り上げるナノリボンはグラフェンの1形態。そのまんまですが単層~数層のグラフェンが特定方向にヒラヒラと延びた形をしているのが特徴で、これまた導電材や半導体としての用途が見込まれている物質です。

CNT_HIMP_05.pngナノリボンの形態 ナノチューブと同様、方向により導電性が異なるもよう
図はこちらより引用

 で、今回の話。論文の主な観点としては「CNTをUnzipしたらナノリボンができるんでは? ただし物理的に」ということでした。

CNT_HIMP_04.pngUnzipのイメージ 図はこちら

 

 従来このUnzipのためにはどちらかというと化学的・化学工学的な手法が主でした。例を挙げると、

  ①MWCNTをPMMA(アクリル樹脂)にはっつけてArプラズマで切れ目を入れる(→ 

  ②Pdを担持させたあと酸化剤の入った液中でマイクロ波をあてて焼切る(→ 

 ③鉄線の上にCNTを作った後、電流で焼切る(→ 

  ④酸化剤で切れ目を入れたあと、有機溶媒中で超音波を印加する(→ ) 

 

CNT_HIMP_07.png 従来プロセスの代表例図(左上①、右上②、左下③、右下④) 図は各文献より引用

 などです。なお工業的なことを考えると個人的には④が好きです。ただ、どれも「手段を挙げろ」、と考えると比較的普通のプロセスな気がします、不遜ですが。これに対し、今回の手法はなかなか出てこないと思います。つまりナノレベルのこんなに「軽い」材料を超高速でターゲットにぶっつけて果たして「Unzip」されるのか?というのが著者の主な問いであったように感じました。

 その結論としてはUnzipされたようです。興味深いのは

 「衝突の角度によって、Unzipの形態が変わる」

 ということでした。詳細は論文を読んで頂くとして、重要な結論は「衝突面と平行に衝突したものが綺麗にUnzipされている」ということです。シミュレーションとも一致した傾向のようです。

CNT_HIMP_09.jpg
0°以外の角度で衝突したCNTはメメタァと潰れているが、0°のものは平行にUnzipされる
その際に炭素-炭素結合も切れるのが興味深い

なお図は本論文のものだが、実際に編集されたのはPhysorg.com殿 こちらより借用

 ということで常識的に考えたら「あんな軽いモノ、ぶっつけて切断できるわけがない」なのですが、今回の結果はその考えを見事に打ち破ったといえます。

 ちなみに一体CNTをどうやったら衝突面と平行にそろえたサンプルを得られるのか。実はこれは結構簡単で、たとえば溶媒に分散してメンブレンで濾過すればいいのです。きちんと分散しなければいけませんが、濾過品をSEMなどで見てみるとかなり綺麗に大体のCNTが濾過方向に平行にそろうことがわかります。その他CNTテキスタイルを使うなどやり方は様々ですが、70~80%の収率が得られるのはCNTの方向が揃いやすい性質と都合よくあったからなのでしょう。

 なお今回用いたマッハ15装置、もとい「Light Gas Gun」という装置は本来宇宙工学での惑星衝突シミュレーションやデブリ衝突シミュレーションに使われるもので、こんな形をしてます。JAXA、NASAとかに置いてあるみたいですね。

CNT_HIMP_06.png「Light Gas Gun」の一例 全長35m、体重32ton
ここからターゲットを放出し、30m以上先にある「衝突面」にぶつける
レールガン等よりスピードは上がらないがコスト的には大分お安い こちらより引用

 要は「大砲」です。サンプル(弾)を火薬+スプリングで圧縮したガスにより超音速に加速し、高真空下でターゲットにぶっつける。どこでこんなものを知って何で使おうと思ったのやら、と思ったら、カーボンナノ材料を人工衛星などへ応用できないか検討していてその一環でこうした装置に関わる機会があったのとのこと。著者のOgden氏はナノ材料の世界では有名な方で、化学者というより材料科学がご専門ですがRice大学を拠点にして様々な成果を挙げています。

 同氏は今回の成果の中で、「溶剤も特殊な材料も使わずにナノリボンが出来る、画期的なプロセスだ」と言うていますが確かにそうかもしれません。ただ装置のお値段がアレなのとリボンの方向制御が難しそうなのとで、実際に工業化するのはなかなかシンドいと筆者は思います。

 それよりはやはり化学的手法で、下記のような「高衝撃・高剪断」がかけられる装置で部分Unzip+本格Unzipする、などで低コスト化をしていくのが面白いのではないでしょうか。溶媒に溶かすと方向性がグダグダになって今回の成果を活かせないので、高衝撃ハンマーで一方向からブン殴るとかの方が今回の意図に沿うかもしれませんけど。・・・ますます化学から遠くなりますが・・・

CNT_HIMP_08.png

「高衝撃・高剪断」装置の例 上はスギノマシン殿「スターバースト」
下は常光殿「湿式ジェットミル」 図は各メーカ殿HPより引用

 それでは今回はこんなところで。

参考文献

  • 0.【当該論文】”Unzipping Carbon Nanotubes at High Impact.” → 
  • 1. ”Graphene and Carbon Nanotubes” James Tour, Rice University → 
  • 2. ”Graphene Nanoribbons from Carbon Nanotubes”?Maria da Conceicao Paiva, Minho Univeristy? → 
  • 3. ”Narrow graphene nanoribbons from carbon nanotubes” → 
  • 4. ”Catalytic unzipping of carbon nanotubes to few-layer graphene sheets under microwaves irradiation”? → 
  • 5. ”Graphene Nanoribbons Obtained by Electrically Unwrapping Carbon Nanotube” → 
  • 6. “Facile synthesis of high-quality graphene nanoribbons” → 
  • 7. “Advanced Diagnostics for Impact-Flash Spectroscopy on Light-Gas Guns” Sandia National Laboratory → 
  • 8. スギノマシン殿 「スターバースト」 → 
  • 9. 常光殿 「湿式ジェットミル」 → 

 

関連書籍

Tshozo

Tshozo

投稿者の記事一覧

メーカ開発経験者(電気)。56歳。コンピュータを電算機と呼ぶ程度の老人。クラウジウスの論文から化学の世界に入る。ショーペンハウアーが嫌い。

関連記事

  1. 最後に残ったストリゴラクトン
  2. 【チャンスは春だけ】フランスの博士課程に応募しよう!【給与付き】…
  3. 光触媒水分解材料の水分解反応の活性・不活性点を可視化する新たな分…
  4. 香りの化学1
  5. アンモニアを窒素へ変換する触媒
  6. 周期表の歴史を振り返る【周期表生誕 150 周年特別企画】
  7. エナンチオ選択的α-アルキル-γ-ラクタム合成
  8. アメリカの大学院生だってパーティするっつーの! 【アメリカで P…

コメント、感想はこちらへ

注目情報

ピックアップ記事

  1. 分子があつまる力を利用したオリゴマーのプログラム合成法
  2. 結晶作りの2人の巨匠
  3. 2012年分子生物学会/生化学会 ケムステキャンペーン
  4. 理化学研究所が新元素発見 名前は「リケニウム」?
  5. 標的指向、多様性指向合成を目指した反応
  6. 「文具に凝るといふことを化学者もしてみむとてするなり」シリーズ
  7. 食品添加物はなぜ嫌われるのか: 食品情報を「正しく」読み解くリテラシー
  8. 第47回天然有機化合物討論会
  9. ヘメツバーガー インドール合成 Hemetsberger Indole Synthesis
  10. YADOKARI-XG 2009

関連商品

ケムステYoutube

ケムステSlack

月別アーカイブ

2014年7月
« 6月   8月 »
 123456
78910111213
14151617181920
21222324252627
28293031  

注目情報

注目情報

最新記事

元素手帳2022

毎年これが届くと、ああもう今年も終わりかあと思うようになりました。そう、読者…

ダイセル発、にんにく由来の機能性表示食品「S-アリルシステイン」

株式会社ダイセルは、カラダの疲れを感じている方のための機能性表示食品「S-アリルシステイン」を消費者…

Delta 6.0.0 for Win & Macがリリース!

NMR解析ソフトDeltaの最新版6.0.0がリリースされました!&nb…

こんなのアリ!?ギ酸でヒドロカルボキシル化

可視光レドックス触媒によるギ酸を炭素源としたヒドロカルボキシル化が開発された。チオール触媒を介したラ…

ポンコツ博士研究員の海外奮闘録 ケムステ異色連載記

本稿は,世間一般にほとんど知られていない地方私立大学で学位を修了し,エリートでもなく何も成し遂げてい…

新型コロナの飲み薬モルヌピラビルの合成・生体触媒を用いた短工程化

新型コロナウイルス (SARS-CoV-2) 感染症に対する飲み薬として、Merck…

秋吉一成 Akiyoshi Kazunari

秋吉 一成(あきよしかずなり)は日本の有機化学者である。京都大学大学院 工学研究科 高分子化学専攻 …

NIMS WEEK2021-材料研究の最新成果発表週間- 事前登録スタート

時代を先取りした新材料を発信し続けるNIMS。その最新成果を一挙ご紹介する、年に一度の大イベント「N…

元素記号に例えるなら何タイプ? 高校生向け「起業家タイプ診断」

今回は化学の本質とは少し離れますが、元素をモチーフにしたあるコンテンツをご紹介します。実験の合間…

多価不飽和脂肪酸による光合成の不活性化メカニズムの解明:脂肪酸を活用した光合成活性の制御技術開発の可能性

第346回のスポットライトリサーチは、東京大学 大学院総合文化研究科(和田・神保研究…

Chem-Station Twitter

実験器具・用品を試してみたシリーズ

スポットライトリサーチムービー

PAGE TOP