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導電性ゲル Conducting Gels: 流れない流体に電気を流すお話

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「液体のような」相と「固体のような」相、2つの相を持つゲルは様々な分野で用いられています。今回はその中でもゲルの持つ導電性に着目して、イオン担持ゲル・導電性高分子ゲル・超分子導電性ゲルがそれぞれどのように活躍しているかお話しします。

導電性ゲルの種類

そもそもゲルとは、高分子が形成した三次元ネットワーク構造中に液体が取り込まれた材料のことを指します。身近な例でいうと、こんにゃくやゼリーはゲルの一種です。
ゲルの中でも、三次元網目構造を形成する高分子が共有結合によって結ばれたものを化学ゲル、非共有結合性の相互作用によって結ばれたものを物理ゲルといいます。 化学ゲルは安定な共有結合によって架橋されているため、一般的には物理的に堅固で脆いゲルが形成し、ゲル形成過程は不可逆となります。一方、物理ゲルは非共有結合性相互作用によって架橋されているため、簡単に架橋点が解離でき、ゾル-ゲル間の相転移が可逆的に進行します(図1)。後で説明する超分子導電性ゲルは、物理ゲルに分類されます。

図1 化学ゲルと物理ゲル

ゲルは「液体のような」相と「固体のような」相を持ち合わせていることから様々な場面で応用されています。なかでも導電性を示すゲルのことを導電性ゲルといい、次の3つの特徴があります。
1. 高分子ネットワークゲル中の空洞をイオンや小分子が容易に拡散できる
2. 高分子ネットワークが溶媒などを吸収 (=膨潤) できるため、高分子鎖と溶液に効果的な相互作用を生む
3. 固体のように形を保持できるが、流体のような変形性をもつ
これらの特徴から、導電性ゲルは柔らかく伸縮性を持つ導電性材料として、電極、センサー、さらには電気信号などの入力を物理的な運動に変換する装置であるアクチュエータなどに用いられています。この導電性ゲルは、3種類に分類することが出来ます(図2)。

図2 導電性ゲルの種類

(1)イオン担持ゲル:高分子の三次元網目(架橋)構造中に溶媒としてイオンを含み、そのイオンが移動することによって導電性を示すゲル
(2)導電性高分子ゲル:π共役系高分子自身の電子が移動することによって導電性を示すゲル
(3)超分子導電性ゲル:非共有結合性相互作用によって会合した小分子が絡み合うことによって形成され、豊富に存在する共役系π電子などによって導電性を示すゲル

これらの導電性ゲルは多様な用途に合わせて様々な場面で活躍しています(図3)。そこで、それぞれのゲルの特徴について、詳しくお話ししたいと思います。

図3 3種類の導電性ゲルの活躍の場

(1)イオン担持ゲル

イオン担持ゲルとは、金属イオン、水素イオン、あるいはイオン液体などを大量に含んだゲルのことです。金属イオンや水素イオンとの相溶性が優れた高分子として、ポリアクリルアミド系の高分子や、ポリメタクリレート系の高分子があります。一方、イオン液体などと相溶性の優れた高分子の代表例として、ポリ(フッ化ビニリデン-ヘキサフルオロプロピレン)共重合体( P(VDF-HFP))があります。また、イオン液体には、1-エチル-3-メチルイミダゾリウム系のもの(1-ethyl-3-methylimidazolium: EMIM)があります(図4)。

図4 高分子とイオン液体の構造式

イオン担持ゲルから製造された膜は機械的柔軟性、大きな表面積、化学的安定性、透明性、中程度のイオン伝導性など固有の特性を有し、燃料電池やリチウムイオン電池、アクチュエータなどに用いられています。イオン担持ゲルは、主にブロックコポリマーやイオン液体によって構成され、合成手順が多段階で複雑という欠点があります。また、導電率は中程度であり、金属並みの導電率を必要とする場面には適していません。
ここではアクチュエータとして用いられる場合のイオン担持ゲルの基本駆動原理を紹介します。アクチュエータとして利用されるイオン担持ゲルにはイオン液体ベースのものと、電解質ベースのものがあり、それぞれで駆動原理も異なります(図5)。

図5 イオン担持ゲルの基本駆動原理

 

イオン担持ゲル(イオン液体ベース)のアクチュエータ
3層構造をしており、真ん中は高分子にイオン液体を含浸させた電解質層、その外側に同じ高分子内にカーボンナノチューブが分散した電極層が隣接しています。電圧を加えると電解質層を通して電極層にイオンが移動し、電極層が伸縮して屈曲変形します(図6)。

図6 イオン担持ゲル(イオン液体ベース)のアクチュエータとしての駆動原理

このようなアクチュエータは、それぞれの層を作製後、ホットプレスで3層構造を成形することで作製できます。電極層および電解質層の作製法は用いる高分子に依存しますが、P(VDF-HFP)を用いる場合は、それぞれの成分を有機溶媒に分散し、型に流し込み溶媒を蒸発させる事で作製できます。また、電極層の電極材としては、導電性があり、イオンを貯めるための表面積が大きく、かつ機械的な強度の強いカーボンナノチューブが最適です。さらに、電解質層においては、アクチュエータの変形量がイオン液体のプラスイオンとマイナスイオンの大きさの差に依存することがわかっていることから、大きなカチオンと小さなアニオンのペアである[EMIM][BF4]がイオン液体として最適であると知られています。

イオン担持ゲル(電解質ベース)のアクチュエータ
通常、白金や金などの金属電極の間に、溶媒を含んだアニオン性の導電性高分子が挟まれているような構造をしています。電圧をかけると導電性高分子のカウンターカチオンが移動し、その際に水などの溶媒がイオンに引きずられて移動することで電極層間のゲルが伸縮します(図7)。

図7 イオン担持ゲル(電解質ベース)のアクチュエータとしての駆動原理

アクチュエータの性能は、カウンターイオンの種類に大きく依存し、一般的にはナトリウムやリチウムなどの小さな親水性イオンの場合、応答が速く、変形は小さくなります。一方、テトラアルキルアンモニウムイオンのような大きな疎水性イオンの場合は、応答は遅く、変形が大きくなります。

(2) 導電性高分子ゲル

導電性高分子ゲルは、ポリチオフェン(PTh型)、ポリアニリン(PANI)型、ポリピロール(PPy)型などの種類があり、多くの場合広がったπ共役系を高分子鎖に持ちます(図8)。

図8 導電性高分子の構造式

ここでは、体内で細胞をデリバリーすることが可能な導電性高分子ゲルについてお話しします。アニリン四量体(CS-AT)とジベンズアルデヒド末端のポリ(エチレングリコール)(PEG-DA)を用いて合成されるゲルは、導電性、自己修復性、生体適合性に優れることから心臓を再生するための細胞伝達媒体として有用です(図9)。目的の細胞をゲルに注射すると自己修復性によって注射前の形状へと修復し、さらに注射した細胞は生体適合性によって高い生存率を示します。また、心臓組織と同程度の伝導率を示すことから、心筋梗塞など細胞治療を必要とする場合に心臓組織を再生することができるのです。

図9 CS-ATゲル

(3)超分子導電性ゲル

超分子導電性ゲルは、外部からの刺激応答特性に優れるためpH、温度、電圧などのエレクトロルミネセンス(EL)、センサー、光電子デバイスなどに用いられています。しかし、他の導電性ゲルに比べて導電性、機械的特性が低いため、実用的に用いるにはポリマーまたはカーボンナノ材料を統合させる必要があります。
超分子導電性ゲルは図1で示した通り大まかに4種類に分類できます。
「超分子イオノゲル」は、低分子の会合体と溶媒であるイオン液体が組み合わさったものであり、導電性は純粋なイオン液体のそれと同程度です。「超分子メタロゲル」は、少なくとも1つの金属元素がネットワーク構造中に含まれているゲルであり、導電性は他の超分子ゲルより高くなっています。「πゲル化超分子」は、機能性πゲル化剤の自己組織化によって導電経路(繊維)が形成され、その導電経路に沿ってゲル化剤分子間のπ軌道の重なりが強化されることによって導電率が向上したゲルです。「カーボンナノ材料による超分子ゲル」は、グラフェンやカーボンナノチューブ(CNT)のようなカーボンナノ材料が自己組織化したり、ポリマーや低分子、イオンと物理架橋することによって導電性を示すゲルです。厳密には超分子ゲルではありませんが、ファンデルワールス力、水素結合、π-πスタッキングのような超分子の相互作用によって導電性を示すため、超分子導電ゲルに分類されています。

導電性ゲルのこれから

ここまで導電性ゲルの活躍の場を紹介してきましたが、今後は生体医療工学への応用などに向けて一層注目されています。心臓細胞や神経細胞などの起電性細胞は、生体適合性のある導電性ゲルによって培養することができるのです。したがって、心臓組織や筋肉などの修復材料としてこれから活躍していく姿が期待できるでしょう。

関連記事

参考論文

  • Chakraborty, P.; Das, S.; Nandi, A. K. “Conducting gels: A chronicle of technological advances” Progress in Polymer Science 2019, 88, 189. DOI:10.1016/j.progpolymsci.2018.08.004

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Monica

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高分子材料を合成している修士1年生。
本を読むのが大好きです。サイエンス系から、小説、純文学、歴史系まで色んなテーマに興味があります。個人的おススメはサピエンス全史。科学に興味のある方でも楽しめると思います。
実は運動も大好き。フルマラソンもよく走っていたのですが、今はコロナ禍でほとんど中止になってしまいました。

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