[スポンサーリンク]

一般的な話題

“Wakati Project” 低コストで農作物を保存する技術とは

[スポンサーリンク]

Tshozoです。

2011年からベルギー で継続されているプロジェクトが少し面白いので、ご紹介します。その名も『Wakati Project』。タイトルの”Wakati”はスワヒリ語の「時間」を意味するそうです。日本語の「分かち」じゃないのでご注意を。で、何のプロジェクトかというと、

「サハラ周辺の気候でも簡単なしくみで野菜類・果物類を保存できるようにするプロジェクト」

です。

wakati_01

同プロジェクトのロゴ 引用はWakati.orgより

まさかこんな方法で、と最初思いましたが、実際に保管できてるようなのです。今回はそのお話。

もともとの経緯は、同プロジェクト創始者のArne Pauwels氏がベルギー アントワープにあるArtesis College在学中に産み出したアイデアに基づいたものです。同氏はその後University of Antwerpの製品開発に関わる学科に進学、2011年に本記事のタイトルである”Wakati Project”を推進するNPOを設立。現在エチオピアを中心に活動を進めている途中です。

wakati_06

現地で装置の説明をするArne Pauwels氏 引用は同じくWakati.orgより

同氏の問題意識は要約すると下記3点。

 ●アフリカ農業生産量の約70%が小規模農家によるものだが、その生産品の大半(40%)が消費者に届く前に廃却されること
 ●保管時、流通時、加工時のうち、保管時の腐敗による廃却が極めて多いこと
 ●厳しい気候条件&肥沃でない土地での生産物であることを考慮すると、この40%というのは数字以上のロスを産み出していること

このうち2点目の保管時の廃却を如何に低減するか、が大きな課題です。しかもこの解決策を必要としているのが貧困層農家の方々なので、低投資・低ランニングコスト・わかりやすい技術でなくてはならん。加えて、サハラ近郊の高い温度でも少なくとも1週間は保存できなくてはならんでしょう。

ではこの難しい課題に対し、同氏は具体的に何をしたのか。非常に殺菌スペクトルの広い殺菌剤を合成、開発したのか。はたまた、超高性能な脱酸素剤とか超低コストな真空ラミネータ(ボツリヌス菌が入ったら終わりですが)を開発したのか。超高性能超省力冷蔵庫を開発したのか。そのうち、どれでもありません。

正解は

紙の箱(実際には少し透気性のある樹脂性のシート)で野菜を梱包し、
その中で極少量の水(200ml程度)を入れ、
内部に取り付けた、消費電力数Wくらいのファンを使って②を蒸発させフル加湿しながら保存する

というものです。

wakati_03

“Wakati” 装置のイメージ(”Flanders Today October, 2013“より引用)
白いビニールテントの中には小さなファンと水入れが付いており、太陽電池と小型の電池で常時作動する

そんなもんすぐカビるわい、と思いましたが下図のように効果は明白です。根菜とかは日本でも新聞紙に包んだりしますからまぁ何となく推測できますが、葉物類も良好な状態を保っているのは驚きでした。Pauwelsのインタビューなどを見ると、「86℃で紙に包んでフル加湿して保存できるか試してみたんだ、そしたら結構うまくいったんだよ」などと意味不明なことを供述しており、どこから発案してそういう保存法を思いついたのかは不明です。いずれにせよクソ加湿しててなんでこんなに良い状態を保っているのか、本当に不思議です。現在ルーヴェン大学、アントワープ大学と共同でそのメカニズムも同時に探っており、何が起きているかを是非早く知りたいですね。

wakati_02

根菜類(ニンジン)の例 10日以内ならほぼ冷蔵庫と同じ性能を示す(引用:Phys.org 及びWakati.org)
KU Leuvenはルーヴェン大学のことで、Wakati Projectと共同開発を実施中
残念ながら葉物類の証拠写真は新サイトに移行した(2015.1.22)際の不具合で見れなくなっています

Wakatiシステムの紹介動画

この成果により、Pauwels氏は「例の掃除機」で有名なDyson社の若手デザイン賞などの各賞(こちら)を受賞し、現在エチオピアを中心に200件近くのユニットを置いてどこまで保存が効くか、のフィールドワークを継続しており、今後もその裾野は広がっていくものと思われます。

あと、カビは本当に対策出来ているのか・・・と思ったらちゃんと対応しており、殺菌(カビ)のため低コストオゾン(O3)発生器を盛り込んだものでもフィールド検証を進めていました。多少コストや消費電力は上がるでしょうが、小さい閉鎖空間ですから装置の能力が低くても大丈夫でしょう。ピーナッツ等に広範に発生するカビ類による猛毒アフラトキシン(こちら)の生成等が保管中に起きてはエライことになりますからね。色々問題は今後も出てくると思いますが、このプロジェクトが広範に普及し廃棄食料が減っていくことを願っておる次第です。

で、今回なんでこの話を持ち出したかですが、この”Wakati project”を引っ張るArne Pauwelsのインタビュー中での発言に表現されています。

 wakati_04

文章の引用はdevex社”What it will take to end food waste“より

 つまり「イノベーションとは最高の新技術を創ることだけでなく、現状のニーズやプロセスに対し、現有技術を最低限の労力でどう合わせこみ得るかを示すことも含まれる(一部意訳)」という実例を示してくれているからです。同Projectではこの考えを基本として、既存のシンプルな技術の組み合わせで今回の簡単なシステムが出来上がったということで、故・横井軍平氏の「枯れた技術の水平思考」と通じるものがあります。

実際企業などの組織体に入ると、ムチャクチャな低予算でムチャクチャな目標のプロジェクトが降ってくることが多々あります。そういう場合には、今巷で話題の「高性能ウンタラ電池」とかのように徒に「ハイテク」を振り回すのではなく、まず起きている問題を体験・把握した上で「限られた物資」でなんとか出来ないか考える・発案することが第一歩である必要があります。そうすれば今回のWakati Projectのケースのように、未だ試されていない領域のフォルダを自分なりに作って拓いていくことができ、実質的な解決に繋がるかもしれません・・・まぁ大概うまくいかないのですがそれは筆者のアイデアを生み出す能力が低いためですきっと。

wakati_07

G. Whitesides教授による”Paper Diagnostics:  Simple and low-cost Systems”(リンク)より引用
原理的には血液が1滴あれば各種の診断を行うことが可能
安い、廃棄物が出ない(焼くだけ)、遠隔地でも診断できるという総合的な発想に基づく解決策

ともかく、Whitesides教授がこちらのプレゼンテーション資料で述べられているように、特に食料や水といった人間の根本に関係する問題が頻発する途上国では「安い解決策」が必要とされているケースがほとんどです。上図のようなWhitesides教授の「ペーパー診断ツール」は、今回のWakati Projectと共通する視点に基づき作られたものでしょう。「高価な物資やお金が無いから問題が解決しないのではなく、自らのアイデアやトライアルが足らないのかもしれない」—精神論はあまり好きではないですが、たまにはそうした基本的なとこに立ち返ることが必要だとこれらの事例を見て深く恥じ入った次第です。

少々短いですが、今回はこんなところで。

Avatar photo

Tshozo

投稿者の記事一覧

メーカ開発経験者(電気)。56歳。コンピュータを電算機と呼ぶ程度の老人。クラウジウスの論文から化学の世界に入る。ショーペンハウアーが嫌い。

関連記事

  1. ペプチド模倣体としてのオキセタニルアミノ酸
  2. 第32回光学活性化合物シンポジウム
  3. 第18回次世代を担う有機化学シンポジウム
  4. 私がケムステスタッフになったワケ(3)
  5. 化学系企業の採用活動 ~現場の研究員視点で見ると~
  6. エステルをアルデヒドに変換する新手法
  7. 化学コミュニケーション賞2025、候補者募集開始!
  8. Appel反応を用いるホスフィンの不斉酸化

注目情報

ピックアップ記事

  1. 第55回「タンパク質を有機化学で操る」中村 浩之 教授
  2. Thieme-IUPAC Prize in Synthetic Organic Chemistry ―受賞者一覧
  3. カリウム Potassium 細胞内に多量に含まれる元素
  4. アルデヒドを分液操作で取り除く!
  5. Actinophyllic Acidの全合成
  6. 超難関天然物 Palau’amine・ついに陥落
  7. 「富士フイルム和光純薬」として新たにスタート
  8. 革新的なオンライン会場!「第53回若手ペプチド夏の勉強会」参加体験記
  9. 大久野島毒ガス資料館
  10. タングトリンの触媒的不斉全合成

関連商品

ケムステYoutube

ケムステSlack

月別アーカイブ

2015年2月
 1
2345678
9101112131415
16171819202122
232425262728  

注目情報

最新記事

フィーゼルマン チオフェン合成/Fiesselmann Thiophene Synthesis

概要フィーゼルマン チオフェン合成(Fiesselmann Thiophene Synthesi…

“とび跳ねる水滴”に潜む物理 〜接触時間とエネルギー源で読む撥水・防氷のテク〜

熱したフライパンに落ちた水滴が、玉になってコロコロと走り回り、冷えた面では、結露水が合体した瞬間に跳…

AI時代に研究者がすでに持っている力・これから伸ばしたい力

論文要約や文献検索など、研究現場でもAI活用が日常化する一方、「自分の仕事の先行き」に漠然とした不安…

miHub®を活用した探索的データ解析の実践

開催概要研究開発においてデータ活用が進む中、機械学習モデルの構築や予測解析に…

“ある特効薬”のはなし ~本田宗一郎氏の回想から

Tshozoです。最近実家に戻っては色々と廃棄するなどの店じまいを少しずつ進めているのですが、中…

高分子鎖を束ねた新しい共重合体「束状共重合体」が誕生

第715回のスポットライトリサーチは、東京大学大学院 工学系研究科(植村研究室)に所属されていた亀谷…

2026年「有機溶媒危機」へのアンサー。北大発・メカノクロスが挑む、溶媒に依存しない新たな合成法 = “メカノケミカル有機合成”の社会実装

株式会社メカノクロスは、メカノケミカル有機合成技術の社会実装に挑む北海道大学発の…

“壊れないよう” に作ってきた半導体ポリマーを、あえて “壊れるよう” に作る化学

半導体ポリマーは長いあいだ、「いかに壊れにくく、長持ちさせるか」といったような安定性を競って進歩して…

有機合成化学協会誌2026年7月号:固体高分子電解質・電子ドナー・アクセプター錯体・機械学習法・trichodermamide類・エナンチオ選択的スキップジエン合成法

有機合成化学協会が発行する有機合成化学協会誌、2026年7月号がオンラインで公開されています。…

第62回Vシンポ「見えない空気を科学する~センサによる室内環境・臭気の見える化と快適空間デザインの最前線~」を開催します!

こんにちは、Macyです。第62回Vシンポのご案内をさせていただきます。今回は、前回同様…

実験器具・用品を試してみたシリーズ

スポットライトリサーチムービー

PAGE TOP