[スポンサーリンク]

海外化学者インタビュー

第164回―「光・熱エネルギーを変換するスマート材料の開発」Panče Naumov教授

[スポンサーリンク]

第164回の海外化学者インタビューは、パンチェ・ナウモフ教授です。大阪大学大学院工学研究科 生命先端工学専攻(訳注・現在はニューヨーク大学アブダビ校)に在籍し、マケドニアのシリル&メトディウス大学の外部スタッフとして、固体化学と光化学、特に、不安定で「エキゾチック」な分子種に興味をもって研究しています。それではインタビューをどうぞ。

Q. あなたが化学者になった理由は?

私を化学に導いたのは、何よりも純粋でシンプルな好奇心でした。オタクの子供だった私は、物事を知りたいという生々しい欲求に駆られて、自宅の倉庫に作った仮設の実験室で数え切れないほどの時間を過ごしました。そして、キャリア全体を通して、好奇心が衰えることはありませんでした。それは、学生時代により強くなり、学生として実験をしている時も、現在自分の研究室過ごしてる時にも、同じように強まっています。「好奇心には、存在する理由がある」というE・アインシュタインの言葉が、心にいつも響いています。私はこう付け加えたいと思います―「そして、それは決して消えることはない」。

Q. もし化学者でなかったら、何になりたいですか?またその理由は?

おそらく天文学者になるでしょう。生物学、化学、物理学の分野は非常に幅広いですが、私たちが探求できるのは無限世界の一面に過ぎません。私たちは、生物、細胞、組織、分子、原子、クォーク、さらにはより小さな「粒子」を調べることをします。しかし、同じぐらい刺激的ながら技術的にもチャレンジングな、全く別の世界もあるのです。もし天文学者だったら、惑星、星、銀河、銀河団、さらにその先まで、研究しただろうものは、文字通り無限にあるでしょう。

Q. 現在取り組んでいることは何ですか?そしてそれをどう展開させたいですか?

歴史を振り返ると、私たちの世界が直面してきた問題は多岐にわたります。しかし、現代社会が直面しているのは、安全保障、環境、エネルギーという3つの大きな問題であることが明らかになってきました。私の研究グループでは、固体中の光・化学・熱・機械エネルギー変換プロセスの分子機構に興味を持っています。これらの機構的詳細を明らかにすることで、エネルギー変換を支配する構造的要因をより深く理解し、将来的にはその効率を高めることを目指しています。

Q.あなたがもし、歴史上の人物と夕食を共にすることができたら誰と?またその理由は?

実は、食事をしたい歴史上の人物は2人います。アレクサンダー大王ニコラ・テスラの2人と囲むディナーは、最高に刺激的で楽しい夜になるでしょう。

アレクサンダー大王はその先見性から、わずか30歳にして、当時の世界の大半を統一することに成功しました。彼が年齢や時代を超えて発揮した知恵は、我がマケドニア国の誇りとなっています。私の考えでは、「分割と征服」ではなく「征服と統一」に即したアレキサンダー大王の戦略は、米国や欧州連合などの現代的連合に見られるものとは異なり、実に先進的な概念でした。

ニコラ・テスラも、トーマス・エジソンと並んで、ノーベル賞を受賞すべきだった人物かも知れません。1893年にテスラが無線エネルギー伝送を実証していたならば、今日の社会的取り組み、さらにはテレポーテーションなどの未来的事業にとっても多大な貢献となったことは間違いないでしょう。想像するとおりに私たちの世界を変えてくれたかもしれません。その方法をぜひ聞いてみたいものです。

Q. あなたが最後に研究室で実験を行ったのはいつですか?また、その内容は?

数ヶ月前、重要な抗ウイルス化合物の結晶化を試みていました。グループリーダーを務めていることもあり、後の実験に直接関わる時間を割くことは残念ながらできませんでした。

Q.もしあなたが砂漠の島に取り残されたら、どんな本や音楽が必要ですか?1つだけ答えてください。

間違いなく『星の王子さま』を選ぶでしょうね。今でこそ大好きな本ですが、昔はそれほど高く評価していたわけではありません。7歳の時は大嫌いでした。14歳のときも、とても退屈な本だと思っていました。しかし、21歳のとき、何かのきっかけから大好きな本になりました。最終的に28歳のときには、友人のほとんどがこの本を持っているまでになりました。まだお持ちでない方には、ぜひお勧めしたい一冊です。

[amazonjs asin=”B06VWT2MYX” locale=”JP” title=”星の王子さま (新潮文庫)”]

音楽に関しては、心を癒してくれるものが必要です。『ベスト・オブ・ニーナ・シモン』は、”青い “空の下で “青い “時間を過ごすのにぴったりだと思います。ただ、無人島ではどうやって再生すればいいのでしょう?このアルバムは、扇子やプレースマットとしても使えるんじゃないでしょうか!?

[amazonjs asin=”B00006BGN2″ locale=”JP” title=”ベスト・オブ・ニーナ・シモン”]

Q.「Reactions」でインタビューしてほしい化学者と、その理由を教えてください。

ニューヨーク大学のBart E. Kahr氏です。固体化学や超分子化学の知識を深めるために革新的な手法を用いており、素晴らしいチョイスだと思います。彼の仕事は啓発的で、時代を超越していると思います。

原文:Reactions – Panče Naumov

※このインタビューは2011年7月14日に公開されました。

関連動画

Avatar photo

cosine

投稿者の記事一覧

博士(薬学)。Chem-Station副代表。国立大学教員→国研研究員にクラスチェンジ。専門は有機合成化学、触媒化学、医薬化学、ペプチド/タンパク質化学。
関心ある学問領域は三つ。すなわち、世界を創造する化学、世界を拡張させる情報科学、世界を世界たらしめる認知科学。
素晴らしければ何でも良い。どうでも良いことは心底どうでも良い。興味・趣味は様々だが、そのほとんどがメジャー地位を獲得してなさそうなのは仕様。

関連記事

  1. 第32回 液晶材料の新たな側面を開拓する― Duncan Bru…
  2. 第九回 タンパク質に新たな付加価値を-Tom Muir教授
  3. 第149回―「ガスの貯蔵・分離・触媒変換に役立つ金属-有機構造体…
  4. 第85回―「オープン・サイエンス潮流の推進」Cameron Ne…
  5. 第73回―「Nature Chemistryの編集者として」Ga…
  6. 第二回 伊丹健一郎教授ー合成化学はひとつである
  7. 第172回―「小分子変換を指向した固体触媒化学およびナノ材料化学…
  8. 第48回―「周期表の歴史と哲学」Eric Scerri博士

注目情報

ピックアップ記事

  1. 光で動くモーター 世界初、東工大教授ら開発
  2. Brevianamide Aの全合成:長年未解明の生合成経路の謎に終止符
  3. 高知和夫 J. K. Kochi
  4. 実験と機械学習の融合!ホウ素触媒反応の新展開と新理解
  5. ローカル環境でPDFを作成する(Windows版)
  6. 合成手法に焦点を当てて全合成研究を見る「テトロドトキシン~その1~」
  7. 第11回ケムステVシンポジウム「最先端精密高分子合成」を開催します!
  8. 1,3-ビス(2,4,6-トリメチルフェニル)イミダゾリニウムクロリド:1,3-Bis(2,4,6-trimethylphenyl)imidazolinium Chloride
  9. 構造生物学
  10. 2005年4月分の気になる化学関連ニュース投票結果

関連商品

ケムステYoutube

ケムステSlack

月別アーカイブ

2021年9月
 12345
6789101112
13141516171819
20212223242526
27282930  

注目情報

最新記事

アクリルアミド類のanti-Michael型付加反応の開発ーPd触媒による反応中間体の安定性が鍵―

第622回のスポットライトリサーチは、東京理科大学大学院理学研究科(松田研究室)修士2年の茂呂 諒太…

エントロピーを表す記号はなぜSなのか

Tshozoです。エントロピーの後日談が8年経っても一向に進んでないのは私が熱力学に向いてないことの…

AI解析プラットフォーム Multi-Sigmaとは?

Multi-Sigmaは少ないデータからAIによる予測、要因分析、最適化まで解析可能なプラットフォー…

【11/20~22】第41回メディシナルケミストリーシンポジウム@京都

概要メディシナルケミストリーシンポジウムは、日本の創薬力の向上或いは関連研究分野…

有機電解合成のはなし ~アンモニア常温常圧合成のキー技術~

(出典:燃料アンモニアサプライチェーンの構築 | NEDO グリーンイノベーション基金)Ts…

光触媒でエステルを多電子還元する

第621回のスポットライトリサーチは、分子科学研究所 生命・錯体分子科学研究領域(魚住グループ)にて…

ケムステSlackが開設5周年を迎えました!

日本初の化学専用オープンコミュニティとして発足した「ケムステSlack」が、めで…

人事・DX推進のご担当者の方へ〜研究開発でDXを進めるには

開催日:2024/07/24 申込みはこちら■開催概要新たな技術が生まれ続けるVUCAな…

酵素を照らす新たな光!アミノ酸の酸化的クロスカップリング

酵素と可視光レドックス触媒を協働させる、アミノ酸の酸化的クロスカップリング反応が開発された。多様な非…

二元貴金属酸化物触媒によるC–H活性化: 分子状酸素を酸化剤とするアレーンとカルボン酸の酸化的カップリング

第620回のスポットライトリサーチは、横浜国立大学大学院工学研究院(本倉研究室)の長谷川 慎吾 助教…

実験器具・用品を試してみたシリーズ

スポットライトリサーチムービー

PAGE TOP