[スポンサーリンク]

スポットライトリサーチ

がん細胞をマルチカラーに光らせる

[スポンサーリンク]

第28回のスポットライトリサーチは、東京大学大学院 医学系研究科 博士課程3年 ・岩立竜さんにお願いしました。

岩立さんの所属する浦野研究室では、薬学部・医学部に横断した研究室を運営しつつ化学の力量をフル活用した研究、すなわちスイッチ機能を持つ小分子蛍光ブローブの創製を基軸に、医療の革新を目指した研究を行っています。ケムステでも過去幾度も関連研究を紹介させて頂いております()が、岩立さんはなかでも「がんを光らせる」ことに特化した研究に取り組まれています。

研究室を主宰される浦野泰照教授は、岩立さんをこう評しておられます。

岩立君は、私がPIとして医学部に立ち上げた研究室の一期生である。工学部出身、生物・医学の授業を受けたことがない、化学合成の経験無し、まだ実験設備が調っていない先の見えない研究室での研究を志望、という一見無謀な選択をしたが、無謀の向こう側の人跡未踏の地を目指す勇気を持ったものだけが味わえる、苦労や喜びを経験してきた。多くの臨床医と毎日ディスカッションしながら、化学と医学の接点研究を展開する機会はなかなか得がたいものである。こう考えると、無謀に見えて実は全て岩立君の計算通りなのかもしれない。次にどんな計算尽くの無謀な選択をしてくれるのか、とても楽しみにしている。

まったく新たなフィールドに飛び込み、Pacifichem2015の学生ポスター賞受賞という成果を見事上げられた岩立さんに、いつもどおりお話を伺ってみました。それではご覧ください!

Q1. 今回の受賞対象となったのはどんな研究ですか?簡単にご説明ください。

「がん蛍光イメージングの多色展開」です。

“Asymmetric Rhodamine-Based Fluorescent Probe for Multicolour In Vivo Imaging”

Iwatate, R. J.; Kamiya, M.; Urano, Y. Chem. Eur. J. 201622, 1696. DOI: 10.1002/chem.201503426

当研究室では、activatableな小分子蛍光プローブを用いた手術中の微小がんの検出を目指し、がんで活性が上昇している酵素に対する蛍光プローブを開発してきました[1–3]。これらのプローブは微小がんを感度良く検出することができますが、がんは不均質性を持っているため一つの特徴で全てのがんを描出することはできず、複数のプローブを同時投与する必要があります。

そこで私は、プローブを多色化することでがんを検出すると同時にがんの性質を診断することができるのではないかと考え、非対称ローダミンを設計・合成しました。長波長化した新規母核に基づき開発した赤色プローブと従来の緑色プローブを用い、異なるプロテアーゼ活性上昇パターンを持つ二種類の卵巣がんを見分けることに成功しました(図)。生体内においてがんの性質によって微小がんを分別した例は世界初です。

sr_R_Iwatate_1

Q2. 本研究テーマについて、自分なりに工夫したところ、思い入れがあるところを教えてください。

細胞の蛍光イメージングは生物学領域において既にスタンダードとなっており、画像の取得方法の知見も多くあり、また画像処理に関しても指針が定められています。しかし、個体レベルでの蛍光イメージングに関しては指針がまだほとんどなく、画像の取得方法から解析まで研究者個人の裁量が大きい分、どのようなモデル動物を作り、どのように画像を取得すればより臨床に近い状況が作り出せるか、かなり試行錯誤を重ねました。

 

Q3. 研究テーマの難しかったところはどこですか?またそれをどのように乗り越えましたか?

合成全般です(笑)。学部では化学とはまったく関係のない学科で、学生実験でははんだ付けをしたりプログラムを書いたりしていたので、もちろん合成経験はゼロ。修士で浦野研に入った時にはTLCが何かも知らず、自分が何をわかっていないかもよくわからない状態でした。そんな僕にも根気強く指導してくださった研究室の先生方、先輩方には頭が上がりません。

 

Q4. 将来は化学とどう関わっていきたいですか?

僕は今でも「化学」をやっているという意識はあまりありません。しかし、「化学」は全ての科学の根底となっている領域であり、どのような研究をしていても科学に携わっている限り、時折立ち返る必要があるものだと思っています。

 

Q5. 最後に、読者の皆さんにメッセージをお願いします。

ぜひ「化学」や「物理」などと言った枠に囚われないscienceをして欲しいと思います。学問の専門化・細分化が著しい今こそ、異なる分野の研究者とディスカッションし共同研究を行うことはもちろん、自分が面白いと思うことがあれば躊躇せず自ら手を動かして様々な実験をしてみることが大切だと思います。

 

関連文献

  1. Y. Urano, M. Sakabe, N. Kosaka, M. Ogawa, M. Mitsunaga, D. Asanuma, M. Kamiya, M. R. Young, T. Nagano, P. L. Choyke, et al., Sci. Transl. Med. 2011, 3, 110-119.
  2. M. Sakabe, D. Asanuma, M. Kamiya, R. J. Iwatate, K. Hanaoka, T. Terai, T. Nagano, Y. Urano, J. Am. Chem. Soc. 2013, 135, 409–14.
  3. T. Fujii, M. Kamiya, Y. Urano, Bioconjug. Chem. 2014, 25, 1838–46.

関連リンク

研究者の略歴

岩立 竜(いわたて りゅう)

所属:東京大学大学院 医学系研究科 生体物理医学専攻 医用生体工学講座 生体情報学分野 医学博士課程3年 (日本学術振興会特別研究員DC1)

テーマ:がん蛍光プローブの開発とその臨床応用

経歴:1988年東京都生まれ。2011年3月東京大学工学部システム創成学科卒業。同年4月同大学大学院医学系研究科医科学専攻修士課程に進学、2013年4月同大学院医学博士課程に進学。2012年4月より博士課程教育リーディングプログラム・東京大学「ライフイノベーションを先導するリーダー養成プログラム」コース生。2014年7月〜9月スイス連邦工科大学ローザンヌ校短期留学(Melody Swartz研究室)。2010年 4th International Symposium on Nanomedicine, The Best Poster Award 受賞、2011年 工学部システム創成学科 優秀卒業論文賞受賞、2013年 BIO UT 2013, ポスター賞受賞、2015年 Pacifichem 2015, Student Poster Competition Award 受賞。

 

cosine

cosine

投稿者の記事一覧

博士(薬学)。Chem-Station副代表。現在国立大学教員として勤務中。専門は有機合成化学、主に触媒開発研究。
関心ある学問領域は三つ。すなわち、世界を創造する化学、世界を拡張させる情報科学、世界を世界たらしめる認知科学。
素晴らしければ何でも良い。どうでも良いことは心底どうでも良い。興味・趣味は様々だが、そのほとんどがメジャー地位を獲得してなさそうなのは仕様。

関連記事

  1. NMR化学シフト予測機能も!化学徒の便利モバイルアプリ
  2. 【速報】2017年のノーベル生理学・医学賞は「概日リズムを制御す…
  3. 【解ければ化学者】オリーブオイルの主成分の素はどれ?【脂肪の素っ…
  4. ボロン酸エステルをモノ・ジフルオロメチル基に変える
  5. 「銅触媒を用いた不斉ヒドロアミノ化反応の開発」-MIT Buch…
  6. 有機の王冠
  7. Nitrogen Enriched Gasoline・・・って何…
  8. 多置換ケトンエノラートを立体選択的につくる

コメント、感想はこちらへ

注目情報

ピックアップ記事

  1. 理想のフェノール合成を目指して~ベンゼンからフェノールへの直接変換
  2. 化学に魅せられて
  3. ウルマンカップリング Ullmann Coupling
  4. クリスチャン・ハートウィッグ Christian Hertweck
  5. 脱離反応 Elimination Reaction
  6. 教養としての化学入門: 未来の課題を解決するために
  7. 光有機触媒で開環メタセシス重合
  8. 3.11 14:46 ③ 復興へ、震災を教訓として
  9. ヘテロ ディールス・アルダー反応 Hetero Diels-Alder Reaction
  10. 有機合成のための遷移金属触媒反応

関連商品

ケムステYoutube

ケムステSlack

注目情報

注目情報

最新記事

化学系必見!博物館特集 野辺山天文台編~HC11Nってどんな分子?~

bergです。突然ですが今回から「化学系必見!博物館特集」と銘打って、私が実際に訪れたいちおしの博物…

有機合成化学協会誌2021年1月号:コロナウイルス・脱ニトロ型カップリング・炭素環・ヘテロ環合成法・環状γ-ケトエステル・サキシトキシン

有機合成化学協会が発行する有機合成化学協会誌、2021年1月号がオンライン公開されました。あ…

第137回―「リンや硫黄を含む化合物の不斉合成法を開発する」Stuart Warren教授

第137回の海外化学者インタビューはスチュアート・ウォーレン教授です。ケンブリッジ大学化学科に所属し…

吉岡里帆さん演じる「化学大好きDIC岡里帆(ディーアイシーおか・りほ)」シリーズ、第2弾公開!

印刷インキや有機顔料世界トップシェアのDIC株式会社は、2021年1月より、数々のヒット作に出演し、…

第14回ケムステVシンポ「スーパー超分子ワールド」を開催します!

ケムステーションをご覧の方々、あけましておめでとうございます。本年もどうぞよろしくお願い申し上げます…

【日産化学】新卒採用情報(2022卒)

―ぶれずに価値創造。私たちは、生み出し続ける新たな価値で、ライフサイエンス・情報通信・環境エ…

高分子鎖デザインがもたらすポリマーサイエンスの再創造|オンライン R2

詳細・お申込みはこちら日時令和3年 2月18日、25日(木) 基礎編        …

化学者のためのエレクトロニクス講座~電解で起こる現象編~

化学者のためのエレクトロニクス講座では半導体やその配線技術、フォトレジストやOLEDなど、エレクトロ…

Chem-Station Twitter

PAGE TOP